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「帰ってくれ!!。」
窓の外から従兄のケンジの罵声が聞こえた。トミコは思わず声のする方に
目をやる。門の外側にいる誰かを怒鳴り付けているようだ。
「トミちゃん。ちょっと。」
一番下の叔母が読んでいる。その声にはっと我に返り、台所へと戻った。
「・・・レンちゃん・・・どうだった?。」叔母が訊ねてくる。
ケンジの一人息子、レンは真新しい学ランに身を包んだまま、真新しい
母親の位牌と遺骨の前に座ったまま動かない。その事を叔母達に伝えた。
「・・・もう、気の毒としか言いようがないわねえ、突然だったもの。」
すると上の叔母が台所に入ってきた。
「ねえ、今の人、例の運送会社の社長でしょ。ケンちゃん怒鳴っていた
ようだけど。」
「無理もないわよ。運転手のよそ見運転だったんだから。スズエさんには
落ち度はなかったらしいから、百パーセント向こうの過失だって。」
そんな叔母たちの会話を、トミコは黙って聞いている。そして、昔の頃を
思い出していた。
ケンジの父親とトミコの父親は兄弟で会社を経営していた。ケンジの
父親が事業を起こし、トミコの父親も共に運営に携わっていた。そんな
理由からか、物心つく以前から共に近所さんとして付き合う仲だった。
遊ぶのも勿論、幼稚園も小学校も一緒。お泊りさえもする仲だった。
が、小学三年の時、ケンジの家が隣町に家を建てて引っ越していった。
それから間もなくトミコの家も引っ越していった為、お互い行き来する
事は殆どなくなった。
やがて、中学、高校を卒業し、父達の会社があるすぐ側の印刷会社に
就職した。そこに就職すれば、またケンジを顔を合わせられる日々が
訪れるかもしれない、そう思ったからだった。一方、ケンジは大学に
進学し、親の会社を継ぐつもりで経営学を専攻していたと聞いた。
ケンジが会社を継げば、通勤や帰り道で当然この印刷会社の側を通るに
違いない。またいつか一緒に会える、懐かしい甘い日々がまた訪れる、
そんな事を夢見ていた。
ところが、ケンジは大学時代から付き合っていたという女性と結婚が
決まったという。同じ経営学を学んでいたというズズエだった。
その話を聞いた時、甘い夢から現実に突き落とされた気がした。無理も
ない。結局は従兄妹同士。世間も親戚も認めてくれるはずもない。
それ以前に、ケンジにとってトミコはただの従妹でしかなかったと
いう事だった。
それが悲しかった。けど、どうにか出来るものではなかった。
それから、親の勧めでトミコは見合いをし、夫であるタカシと結婚した。
トミコは、このタカジがケンジの事を忘れさせてくれるに違いない、そう
信じて結婚生活をスタートさせた。
ケンジと違って無口なタカシは必要な用事以外は余り喋らず、家にいる
間はまるでお通夜のような時間を過ごしていた。明るくて暖かく、笑いの
絶えない過程を夢見ていたトミコだったが、結婚して八年、夫の顔色だけを
窺う日々に限界さえ感じていた。そんな日々に耐え切れず、娘のユナが
小学校に入学したのを機に、パート勤めを始めた。
パートに出る時、タカシは何も言わなかった。相談も何もせず、仕事を
始めると宣言したトミコに反対も賛成もせず、ただ一言「そうか。」
そういっただけだった。
反対なら反対と言ってくれれば、考え直す事もしたかもしれない。けど
怒っているのかどうなのか、何年経ってもタカシの表情からは何一つ
読み取る事が出来なかった。
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短編小説





こんにちは〜^^
八年も共に暮らしてて子供もいる状況で、相手の気持ちが掴めないというのは、なかなか深い闇を抱えてる印象がありますね。現代の夫婦像って、こういうものかなとも感じました。続きが楽しみです☆
ポチっとな^^
2018/8/28(火) 午前 11:25
> 半兵衛さん
コメありがとうございます。
元々は長編のつもりで書き始めた小説でしたが、
だらだらとした内容になりそうだったので短く纏め、
こういう形に仕上がりました。
トミコという女性は夢見る少女がそのまま大人に
なったイメージで、理想とうまくいかない現実との
間で揺れ動く心中を描いたつもりでしたが、
うまく伝わったでしょうか?。
[ Duke Friedrich Ronniele ]
2018/8/28(火) 午後 2:30