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第七章(下)
またある日、足首が届く位の川に皆で川底を探っていた。ラケルタ王は着ていた
シャツを脱いで木の枝で器用に固定したもので川底を探っている。 「やれやれ・・・腰にくるな・・・。」 皆時折体制を変え、大きく背伸びをする。「何か見つかったか・・・?。」 「小さいのなら幾つか・・・。」「もうちょっと頑張るか・・・。」 「おっ・・・!!。」エルンテベルグが大きな声を上げた。「見ろよ。」 側に居たレーガトゥスに見つけたものを見せる。「おっ・・・凄いな。」 それは小指の先程の大きさの金の粒だった。 「これで、どのくらいの価値があるんだ?。」「分からん。」 「そうなのか?。昔砂金取りをしてた事があるって言ってたじゃないか?。」 「そりゃ子供の頃の話だ。それに、取れたとして俺達には何の利益もなかったからな。」 「そうか・・・そうだったな。」 「ロナウハイドも一緒だったのか?。」 「いや、あいつと知り合う前の話だから。あいつは砂金取りまではやった事無いんじゃ ないの?。」 エルンテベルグは再び川底を探り始めた。 暫くそんな事を続けていた。「もうそろそろ終わりにしよう。」 ラケルタが声を掛けたので、皆作業を終わらせる事にし、川からあがった。 「どれだけ集まった?。」「これ位・・・かな。」 砂金と思われる粒を皆合わせた。大人の握り拳位の量がある。 「結構取れたな。」「これでどれ位になるんだろうか。」 皆で覗き込むので手元が暗くなる。「見えない!!。」 その声に驚き、皆少し引いた。 「ええと、傷薬と非常食の向日葵の種、後はと・・・。」 「干し肉を、買える分だけ。」 大きな街に近づいた。先日採取した砂金を換金し、食べ物を交換するつもりだった。 「今回の買い物は・・・。ロナウハイドと、レーガトゥス、か。」 「じゃあ、行って来る。」「巧く交渉してきてくれよ。」「解かっているって。」 皆、街に入った。買い物を頼まれたロナウハイドとレーガトゥスは別行動で換金屋へ 向かった。 途中街道の端の方で二人の子供が棒切れを振り回し打ち合いごっこをしているのが 見えた。ロナウハイドは自分の子供達の事を思い出し、目頭が熱くなった。もしも 生きていればあの位の年頃なのか。幸せだったあの五年間が頭の中に蘇ってくる。 「見ろよ。」 我に返り、レーガトゥスのほうを見ると、同じ方向に視線を向けていたようだ。 「私の家は代々王家に仕えていた。特に私の父の妹、つまり叔母はウルスス王子の乳母 だった。その縁で私は王子の遊び相手として小さい時から城にあがり、王子と共に 育った。剣術の稽古も学問もいつも一緒だった。だからああいう子供達を見てると、 子供の頃の自分と王子の姿が重なってつい昔を思い出してしまう。」 二人の男達は少し感傷に浸っていた。それから再び歩き始めた。 「ウルスス王子って、どんな人だったんだ?。」 「・・・そうだな。おとなしいくせに負けず嫌いで、優しいかと思えば頑固で、 だが正義感が強く思いやりもあった。王としての素質は備わっていたと思う。 だが、私は王子というより幼馴染としての思い出の方が大きかった。だから助けて やれなかったのが心残りだ。」「そうなんだな。」 換金屋を見つけ、店に入った。店主は差し出された砂金を丁寧に吟味し、秤に載せ たりを繰り替えす。暫くして金貨を数枚だし、「これ位だな。」 「こっ・・・これだけ?。もう少し良く見てくれよ。」 「無理だな。余り質のいい金じゃないし、それに、砂も混じっている。居るんだよな。 砂を混ぜて量を誤魔化してくる連中も。」 「我々が誤魔化していると言うのか?。」レーガトゥスが食って掛かるのをロナウ ハイドが止める。 「とにかく、これでもかなり多く見積もってやったんだ。もうこれ以上は出せない。 それが嫌なら、他の街にある店を回るんだな。」 店主は頑として意志を曲げないようだ。「仕方が無い、わかったよ。」 無造作に金貨を掴むと、ふて腐れながら店を出た。 「ったく、あんなに苦労して集めたのにな。」 「まあ、金貨になっただけでも良しとするか。後は買い物だ。」 二人は今度は買い物の為の店を探した。「ん?。」「どうした?。」 「あれって、何だ?。」レーガトゥスが聞いてくる。「手配書か。」 「ええっと、詐欺師か・・・。賞金までついているんだ。」 暫く手配書を眺めていた二人だったが、「おっといけない、買い物、買い物。」 市場で買い物を済ませ、皆と合流した。二人が帰ってくるのを皆期待して待って いたようだったが、換金の額を知ると皆がっかりした様子だ。 「誰だよ、あの川に砂金がたくさん落ちてるっていったのは。」 皆、誰とも言わず文句を言う。ロナウハイドはもっと交渉のしようもあったのかと 思い、少し胸が痛んだ。 次の街の近くで野営を行う事になった。夕方には少し早いが、次の街に行くとなると 到着予定が夜中になってしまう。夕食当番が食事の支度をしている間、身体が鈍らない ように剣術や武術の鍛錬をしていた。 「お前さあ、すぐに右に動く癖があるみたいだよな。気付いてたか?。」 「えっ・・・そうなのか?。気付かなかったな。」 若い兵士にこうしてロナウハイドが直接剣術の手解きを教える。剣だけでなく、槍なども 使いこなせるロナウハイドに皆どうやったら勝てるだろうかと思案する。そんな中、 レーガトゥスがロナウハイドに一本取った時は皆絶賛した事もあった。 そこへ、馬車が一台通りがかった。御者がこちらをちらっと見て通り過ぎ街の方へ 向かって行ってしまった。 「街が近くにあるのに、こんなトコで野営してるのが珍しいんだろう。」 確かに、街で宿を取ればかなり楽だろう。、だがこの人数を収容仕切れるとは思わないし 第一に莫大な金が掛かる。そういう事は始めから予想がついていたので、病気や怪我 以外では宿泊などした事がなかった。 翌朝、街中にある街道を通り抜け、次の街へ向かった。 そこで皆手分けして買い物や、水等の確保に余念が無い。ロナウハイドは今回、そう いった当番からは外れていたが、オルケルトやマルス火山についての情報を集めていて 別行動を取っていた。「お供する。」一緒についてきてのはレーガトゥスだ。そんな訳で エルンテベルグを加えた三人で情報集めに回った。しかし、これと言った手がかりはなく 「もっと南へ行かなければならないのか。」そう思いながら馬車へ戻った。 戻ってみると、馬車の中の雰囲気がおかしい。何があったのだろうか。 「・・・。」「私から話そう。」 「いいえ、私達が直接・・・。」 雰囲気の原因が自分にあるのでは、と直感で感じたロナウハイドはそこに座った。 「何が言いたい。言ってみろ。」すると兵士の一人アッペンディクスが最初に口を 開いた。 「我々の中に、不幸を招くものがいる。あなたが言う新天地を目指すのにこれだけ 進んでも新天地が見つからないのはそういった者がいるからだ。確かに我等にはもう 帰る場所はない。だが、我々とて一刻も早く落ち着ける地を見つけたいが、それを 阻害しているのが、何を隠そう、ロナウハイド、あなただと。」 「俺が・・・不幸を招いてるって?。・・・だからどうした?。」 「我々は色々考えた。あなたには私達の前から消えて欲しい。つまり、ここから出て 行って頂きたい。我々は我々で自分達の新天地を目指す。あなたはあなたなりにその 何とかという地を目指して頂こう。そういう結果になった。」 「よそ者は排除しろって事か。」 「おい、待ってくれ、我々はここに来るまで共に様々な困難を乗り越えてきた仲じゃ ないか。それを・・・。」 「レーガトゥス。お前は、よそ者であるロナウハイドに味方するのか?。」 「味方とかそんな事じゃない。私は自分の目で確かめ、自分の目で見極めたからこそ ロナウハイドについていくんだ。よそ者とかそんな事は関係ない。」 「だが、いつまで経ってもその新展地とやらは見つからないじゃないか。見つから ないのではなく、見つけないようにしているんじゃないか?。」 「馬鹿なことを言うな。そんな事をしてロナウハイドに何の得がある?。今までだって 彼の力があったからここまで来れたんじゃないか。もし、彼がいなかったら、我々は ここまでさえも来られなかったと思う。」 アッペンディクスは暫く考えた。 「そうか、お前がそこまで言うんだったら彼についていけばいい。我々はもう沢山だ。 こんな呪われた奴と共に行動するは。」 「・・・呪われた?。どういう事だ?。」 「この街に来ていた旅の占い師に、あなたが目指す新展地に事について尋ねてみた。 結果はそういうことだった。道理で新天地が見つからない訳だ。」 「・・・占い師!?。」ロナウハイドはため息をついた。ラケルタ王は一呼吸して 言った。 「一言私から言わせて貰おう。ロナウハイドは私が認めた男だ。彼の人柄は皆もよく 知っているはず。苦楽を共にし、ずっと旅を続けてきた同士だ。私は、彼を信じる。」 王の言葉にうなだれる。しかし、アッペンディクスは納得出来ていないようだ。 「ここに来るまで随分と仲間を失った。それでも信じてついていけというのか。私は ごめんだ。明日の朝一番でお互い身の振り方を考えようじゃないか。」 そう捨て台詞を吐いて、別の馬車へ戻った。 「政は占いなんかでやるものじゃない、人を見てやるものだ。それが通じぬとはな。」 ラケルタは嘆いた。 その日の明け方、ロナウハイドは早くに目が覚め、用を足しに外へ出た。野営の 当番のエルンテベルグに一声賭け、街の近くの草むらへ向かった。 誰かいる。「なんだ、レーガトゥスか。」 「なんだ、は、あんまりでしょ。こんなに朝早くって事は・・・。歳、か?。」 「ほっとけ。大体お前とは二歳しか違わないじゃないか。」 用を足し終わったロナウハイドは街中から逃げるように出てくる馬車を見かけた。 「なんなんだ、こんな朝早くに・・・。」 余程慌てていたのか、カーブを曲がりきれずに馬車は転んでしまった。二人は手助けが 必要かと思い、その馬車へ向かった。「大丈夫か?。」「あああ、た、助かる。」 振り落とされた男の顔を見て二人は驚いた。「あーっ!!。手配書の・・・。」 その声にまずいと思ったのか男は慌てて逃げようとした。 「ここは俺に任せろ。お前は誰か呼んできてくれ。」「了解。」 ロナウハイドは男を捕まえた。紐がなかったので男のズボン吊りで男を縛った。 馬車の中には二、三人の男がいた。転んだ時に強く身体を打ったらしく、まだ動け ないようだ。その男達もあっという間に捕まえた。もう一人、奇妙な衣装を着た 女がいた。「お前も仲間か。」 女を丁度捕らえた時にレーガトゥスが何人かを連れて来た。 「なんだ、もう倒したのか。まさかとは思っていたが・・・。」 「こいつら、一体。」「この辺りを荒らしていた詐欺師らしい。」「あっ・・・。」 馬車の中の女をロナウハイドは後ろ手にしてつれて来ると兵士の一人が声を上げた。 「昨日の占い師!!。」「詐欺師と仲間だったのか!?。」 男達と占い師を役人に引き渡すと、役人はとても嬉しそうに頭を下げた。 「ありがとうございます。この占い師はかなり頭の切れる女でして、かなり悪さをして いたそうで皆頭悩ませていたんですよ。それにこの男達が用心棒で腕っ節が強く、 なかなか手も出せなくて・・・本当に助かりました。」 賞金を手にし、馬車に戻った。 「・・・申し訳ない。私が間違っていた。あんな占い如きに心揺るがされるなんて、 なんと侘びをしたら良いものか・・・。」 アッペンディクスは土下座してロナウハイドに詫びを入れていた。 「おいおい、大袈裟だな。」「しかし・・・。」 「で、どうする?。」「は・・・?。」 「お互いの身の降り方を考えようって言ったのはお前の方だろう。」「あ・・・。」 皆シーンと静まった。 「俺はこのまま南を目指す。エルもそうだよな。」「いわずと知れた事。」 「私も勿論着いていきます。なんなら一生お供しようと。」 レーガトゥスは力強く答える。「そうか。」 「ロナウハイドは私が心底惚れ込んだ男の中の漢。ついて行かぬわけが無い。」 そこまでか・・・。まあいいか。ロナウハイドは苦笑いをした。「私も。」「俺も。」 皆口々に答えた。ラケルタ王は、 「自分が一度決めた事。職業柄自分の意志を変える訳には行かない。自分がコロコロ 変わる事で自分を信じてついてくるものが路頭に迷う事になる。私の気持ちは 変わらん。」と言ってにっこりと笑った。 結局未だ答えがでていないのはアッペンディクスと何人かだ。 「ついていかない理由はなくなった。けど、ここまで啖呵を斬ってしまって今更 ロナウハイドについて行こうだなんて虫が良すぎるのかもしれない。」 暫く間があった。ロナウハイドがその静寂を打ち破り、訊ねた。 「お前は、それでいいのか?。どこを目指すか分からんがこれからその仲間だけで 旅を続けられるのか?。」「・・・えっ。」 「俺が思うに、これだけの仲間がいたからここまで来られた。そしてあの時失った 仲間がいればもっと楽できたかもしれない。今ここにいる仲間達は誰一人として 欠けて欲しくない大切な仲間だ。お前は啖呵を切った手前、ここに居づらい気持ちも 分かるが、じゃあ、別れても生きていく術はあるのか?。そこまでの覚悟は あるのか?。」「覚悟・・・。」アッペンディクスは言葉に詰まった。 「俺は細かい事に拘るつもりは無い。だが、それに納得できないのであれば好きに すればいい。」 アッペンディクスは暫く考えた。 「こんなことを言うのはずうずうしいとか、恥を晒すとか思われるかもしれない。だが、 やはりあなたの言う通りかもしれない。いや、その通りだ。それでもこんな私を許して くれるなら、お供をさせて欲しい。この通りだ。」 アッペンディクスは再び土下座し、頭を下げた。 「もう頭を上げろよ。」ロナウハイドは笑顔で話し掛けた。 「じゃ、一緒に行くんだな。しっかりついて来い。」「は、はいっ。」 「よし、じゃあ出発するか。」 手綱を引こうとするロナウハイドにラケルタ王は 「人を見る目がある、というのも人の上に立つ者の条件だからな。」 とウインクして見せた。 ある夜、ロナウハイド、ラケルタ王、レーガトゥスの三人は野営の見張りをしていた。 ラケルタ王がロナウハイドを相手にチェスをしている。「ちょ、ちょっ、とっと待て。」 「待ったなし。そう言ったのはラケルタ王の方だぞ。」「い、いや、前言撤回。」 「だめだ。」「往生際が悪いですよ、王。」 「・・・はあ、悔しいな。チェスを教えたのは私の方なのに・・・。」 「けど、負けは負けだな。」 「これが戦場だったら、やり直しも効かないって、そうも仰ってましたよね。」 「うーん・・・レーガトゥス、頼む、敵を討ってくれ。」 「分かりました。」「俺は容赦しないぞ。」「望むところだ。」 ラケルタはレーガトゥスに席を譲る。 駒を配備し、盤上での戦いが静かに始まった。 「・・・そう言えば、ロナウハイド。以前から聞こうと思っていたが、お前とエルンテ ベルグの腕輪は奴隷の印といわれているものだよな。」 王が、二人の対戦を見守りながら訊ねた。「・・・。」 「言いたくなければ、言わなくてもいい」「いや・・・。その通りだ。」 「やはり奴隷だったのか・・・でも何故?。」 「俺は八つの時奴隷にされた。というか生まれる前から決まっていた。母がとある 男の側室で、その男が死んだ後、母は敵国の捕虜になったという。その時母の胎内に いた俺は母が亡くなったら奴隷になることを約束されていたそうだ。エルは物心ついた 時にはもう既に奴隷だったと聞いている。後はこの前話したとおりだ。」 「あの時、奴隷の話は伏せていたようだな。」「ああ、聞かれたくなかったから。」 「・・・捕虜の子供か。よく殺されなかったな。」 「・・・奴隷ともなれば過酷な労働条件から寿命はせいぜい十五年から二十年ぐらい。 子孫を継承する前に命は尽きるから、その男とやらの血は継承されないと踏んだん だろう。」 「母を側室にした男はとある国の王だったが、俺がその王と血の繋がりは無い事を 告げ、何とか俺を生かしてくれるように訴えたのだそうだ。」 「そうなのか・・・。」「まあ、どこまで本当かは分からんがな。」 「その腕輪って・・・外すことはできないのか?。」「分からん。」「そうか。」 「・・・ん?。」「何か?。」「おい。見ろ、明かりが見えるぞ。」 ラケルタが指差す方向にぼんやりと明かりが見える。しかもこちらに近づいて くるようだ。「山賊か・・・?。」 三人は剣に手を掛けた。馬の蹄の音と共にがたごとと馬車が走るような音も近づいて 来ている。 「馬車か・・・山賊じゃないのか?。」「いや、何とも。」 「レーガトゥス。お前はここで待機していてくれ。」「はっ。」 ロナウハイドとラケルタ王は近づいて来る馬車に剣を構える。やがて明かりが馬車に 取り付けられたランプの灯りである事が分かった。「どおーっ、」 馬車が止まった。 「お、おおお待ち下さい。わ、私は怪しいものではありません、私達は旅の役者で、 道に迷ってしまっているうちに暗くなってしまって・・・。」 「役者・・・?。芝居か何かでもやるのか?。」「ええ、まあ。」 「へーえ、演目はなんだ?。」 「今、一番人気の演目が勇者が邪神を倒す『勇者ロナウハイドと邪神ヴァルタヴルカン』 という芝居でして、なんでもこの辺りに伝わる神話を元に私が脚本を書きまして。」 ロナウハイドは思わず頭を抱えた。いや、そんな場合ではない。ロナウハイドは恐る恐る 訊ねた。 「それって・・・オルケルト神話の・・・?。」 「えっ・・・オルケルト神話を御存知なんですか。そんなに有名なんですか。」 「俺達はその神話の出所を捜して旅をしている。場所を教えてくれないか?。」 「出所・・・ですか?。」「ああ。」 「確か・・・サントヴルカーン山の麓の・・・モーアって街だったかな。」 「サントヴルカーン山!?。マルス火山とは違うのか?。」 「マルス、火山・・・?。いいえ・・・。」 「・・・どういう事だ?。」 「まあ・・・サントヴルカーン山の麓といっても、モーアだけでなく幾つか街や国が ありますから、土地によってはそんな風に呼んでいる可能性もありますからね。」 「サントヴルカーン山か。ここから遠いのか?。」 「遠いか・・・うーん。旅慣れた者に言わせれば遠いうちには入らないですけどね。 ここから南西に行った辺りかな。大きな街道に当たればそこから行けると思いますよ。 ちなみに私達もモーアの街を目指している最中でしてね。」 「オルケルト神話の、オルケルトという一族がいた場所は判るか?。」 「オルケルト族ですか。随分前に滅びたって話は聞いたことがある位で、詳しい事 までは判らないですねえ。それこそ、モーアやその周辺の街か国に行けば何か 判るんじゃないですか。」 「行ってみる価値はありそうだな。」「よし、明日の朝一で話をしよう。」 翌朝、皆にその話をするロナウハイド。「じゃあ、その南西の街を目指すのか。」 「・・・初めてだな、オルケルトの手がかりらしい話を聞けたのは。」「そうだな。」 ほんの僅かだが希望の光が見えた気がしてきた。 前の晩に野営の見張りをした者は、昼間の移動中に馬車の中で寝て良い決まりが あった。ロナウハイドも馬車の中で横になってかけ布を被るが、移動の振動と、夕べの 話の内容で暫くは寝付けなかった。 「なんだ、寝てないのか?。気持ちは分かるが、寝てないと後がきついぞ。」 「判っているけど・・・。さ。」 が、やはり疲れが出たのかいつの間にか眠ってしまった。 「ここは一体・・・?。」 辺りは暗く重苦しい空気が流れる。この世のものとも思えぬ雄叫びが頭の中に響く。 「あれは一体・・・?。」何か分からないものを何故か倒さなければならない。 そんな衝動に駆られる。剣を振るうがまるで煙のように消えていく。側に人の気配が 感じる。ラケルタ王?。いや、違う。どういうわけか自分がこの者を守らなければ ならない気がして必死に戦う。その時、地の底から現れた光の帯がその周囲を包み 込む。意外にもその光は柔らかく、暖かい。光が徐々に消えていくと重苦しい雰囲気は 消え、真っ白な空間が広がる。ふと目の前に黒い玉のようなものが落ちているのが 見えた。それを手にした瞬間、身体の中に何か恐ろしいものが入り込んだ気がした。 そこで目が覚めた。酷く寝汗をかいていたようだ。「あ、起きたか。もう昼だぞ。」 そんなに眠っていたのか、そう思いつつ汗を拭いた。聞けばもう間もなくモーアの 街に近づくらしい。 モーアの街はそこそこ大きく、色々な市が立ち人々で賑わっていた。ロナウハイドは 街の住民にマルス火山、オルケルト、サントヴルカーン山について質問していた。 マルス火山については知る者が誰もいない。オルケルトについては神話でなら 知っているが、場所までは判らない、という事だった。 「サントヴルカーン山か。確か・・・ここから南の方、あそに二つ並んで見える山の 間にある。天気がよければもっとよく見えるんだが。」 あれが・・・あの山の向こうの山が、母の故郷なのか?。「おーい。」 エルンテベルグが自分を呼びに来た。 「ラケルタ王が、ここに巡業に来ている芝居を観ようってさ。」「あっ、ああ。」 山の方が気になりつつも、芝居の内容も気になる。ロナウハイドは逸る気持ちを抑え、 芝居を観る事にした。 芝居の内容は、というと、勇者と邪神の直接対決で、勇者が光の神の力を借りて、 邪神を倒すと言う在り来たりな内容だった。「そんな物語なのか?。」内容はともかく 役者の中に演技力に問題がある者がいたらしく、いまいち迫力に欠ける。ま、こんな もんかとその時は思って観ていた。ふと気がつくと、兵士の一人、アクトルの姿が 見えない。 「あれだってさ、『興味がある。』とかいってステージの設置から何から何まで 手伝ってたみたい。飛び入りで出てみないかって誘われたらしく、出演していた ようなんだ。さっき。」 「そうなのかあ?。あの演技力が今一つな奴がいたが、まさか・・・?。」 「いや、そうじゃなかったらしい。」「ふうん。」 その夜。 「予感はしていたが。やはりそうか。」ラケルタが呟く。 「勝手な話で申し訳なく思っています。ですが、自分の天職なのだと思い、覚悟を 決めました。自分には兵士ではなく、役者の方が向いてるのだと痛感しました。」 聞くと、兵士の一人アクトルは若い頃役者志望だったが両親に反対され、泣く泣く 兵士になったという。 「・・・いるんだよな。そういう奴。確かコルリスにもいたよな。」 エルンテベルグが言う。「ああ、あいつね。」ロナウハイドも相槌を打った。 「そこまで覚悟が出来ているならもう何も言わないが、俺達は多分この地に足を 踏み入れる事はないだろう。この仲間達とも二度と会うことは無いが、いいんだな。」 ロナウハイドは念を押して訊ねた。 「ああ、今までありがとう。君達が足を踏み入れなくても僕が君達の元を訪れるさ。 その時は一人前の役者になってな。」 こうして、また一人仲間が去っていった。 「さあ、出発するか。」馬車は再び南を目指し、進んでいった。 |
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2016年12月21日
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第七章(上)
処刑を逃れたロナウハイドは久し振りにアドウェルサへと戻る。
「例の王女様はどうなった?。」そう尋ねる者もいたが、「今は話す時じゃない。」 そう言って、その話には口を閉ざした。 「今のアドウェルサはルブルムモンス王国の統治下にあるものの、提督サルワートルの 元、皆が自由を取り戻し、平和な暮らしをしているそうだ。」 エルンテベルグが話してくれた。「そうか、それはよかった。」 戦乱に明け暮れ、生と死の間を幾つも垣間見てきたロナウハイドにとって、やはり平和で あることは何よりの喜びだった。「平和か・・・。」 母がオルケルトで暮らしていた間はきっと平和で豊かな暮らしをしていたに違いない。 そんな中で、どんな事を考え、どんな事を夢見ていたのだろうか。自分が妻子と暮らして いた時のように、この平和がいつまでも続くと信じていたに違いない。 「ロナウハイド。」 いきなり声を掛けられ、振り向くとラケルタ王が側にいた。「・・・な、何か?。」 「そんなに緊張せんでもよい。・・・私は、あのアドウェルサのクーデター以来、 お前の事に非常に興味があってな。会ってじっくり話がしたいと思っていた。」 ロナウハイドは突然の事で驚いている。 「まあ、そんな時、エルンテベルグがやって来て、お前さんが無実の罪で処刑台に 昇らされると聞いていても経ってもいられずここまで来た。勿論サルワートルからも 恩人であるから是非にと言われてもいたがな。」「そうか。」 やがて、アドウェルサの国境を越え、旧アドウェルサ城が見えてきた。 「嘗てアドウェルサ城があった建物は今やサルワートル提督が執務を行い、ラケルタ王が 別荘として使っているそうだ。」 ルブルムモンス兵の一人が教えてくれた。 「王はあなたに提督の右腕となって、このアドウェルサを守っていただきたいとの事。 多忙な身である王に代わってあなた方にアドウェルサをお任せしたいのだそうだ。」 自分がアドウェルサの・・・。一瞬母の事が過ぎり、すぐには返事が出来なかった。 城に近づくにつれ、様子が何かおかしい。「何だ?。・・・この雰囲気は」 ラケルタ王の顔が曇り始めた。「待て・・・。」 王は、皆の歩みを止めた。そして王とサルワートルの二人がゆっくりと城に近づいた。 次の瞬間、いきなりおびただしい数の矢か飛んできた。「な・・・。」 一瞬で殺気を感じたのか、王に怪我はなかった。「王!!。」 「馬鹿な・・・ここを出るときは何もなかったはずなのに・・・。」 サルワートル提督も信じられない、と言う顔をしている。 「城門を開けろ!!。一体どういうことだ!!。」 王は叫んだ。すると城門が開いた。だが、剣や槍を構えたルブルムモンス兵が大勢 門を塞いでいる。「何の真似だ?。」すると城の中から高貴な身分の者と思われる 若者が歩いてきた。 「お帰りなさいませ。伯父上。」「プテロプース・・・一体どういうことだ?。」 「見ての通りですよ。」「何だと!?。」 王は辺りを見回す。見ればそれまでアドウェルサ兵が守ってきた場所にはルブルム モンスの兵が立っている。 「まさか・・・お前、この国を・・・。お前にはルブルムモンスの東の領地を与えると 約束したはず。なのに・・・。」 「お忘れですか伯父上。私の欲望が貪欲である事を・・・。あんな痩せた土地を押し 付けておいて、それは無いじゃありませんか。私とて、いつまでもおとなしくして いると思ったら大間違いですよ。まず伯父上の監視の目が届かないこのアドウェルサを 先に戴き、そこを足懸かりに・・・。」 「ふざけるな!!。このアドウェルサはアドウェルサ国民のもの。我々が手出ししては ならん。いいか、よく聞け!!。他民族が争いもなく暮らしていく為にはお互いを受け 入れる必用があるのだ。それを・・・。」 「だから伯父上は甘いんですよ。多分今頃は本国ルブルムモンスにも火の手が上がる 頃でしょう。」「何だと!!。」 ラケルタ王の怒りが頂点に達した。サルワートルは王に近づき、耳元で囁いた。 「王。ここは私なんとかします。まずは御自分の国を優先なさって下さい。」 「しかし・・・。」「私一人なら、奴らは手出ししないでしょう。さあ、早く。」 「ロナウハイド。王を・・・ルブルムモンス王国を守ってくれ。」 サルワートルは強い瞳でロナウハイドを見つめた。 「恩にきる。」 ラケルタ王は兵を率いて本国を目指した。ロナウハイドとエルンテベルグも王の後に ついた。 何日かかけてルブルムモンスに到着した。だが、時既に遅く、城は壊滅状態だ。
最後まで城に残った、ラケルタ王の一人息子で時期王位後継者のウルスス王子も、虫の 息のまま、国を守れなかった不甲斐なさを詫びた。 「・・・プテロプース。生かしておくものか・・・。」王の怒りはロナウハイドにも 痛いほどに分かった。 王は兵を率いて城と王国を奪還せんと動き出した。しかし、多くの兵がプテロプースに 寝返っていた為、思ったより兵を集める事ができなかった。恐らく、前々から手を回して おき、機会を覗っていたに違いない。そうなれば多分、王が城を奪還しようとする事は 既に予想済みかもしれない。王は悩んでいる。確かに時間をかければ兵士は集まって くるかもしれない。しかし、アドウェルサに残してきたサルワートルとアドウェルサ国民 達が心配だ。兵の数が揃わないまま、王は反撃を開始する事にした。しかし、ラケルタ王 率いる兵はその数に圧倒され、城を奪還することは勿論、プテロプースに近づく事すら 出来なかった。これ以上の犠牲は出せない。王は苦渋の決断の末、敗北を認めた。 囚われの身となった王、ロナウハイド、エルンテベルグ、そして王に仕えたルブルム モンス兵士。それらを目の前にしてプテロプースは不敵な笑みを浮かべる。 「どうやら伯父上は私の事を恐れていたようだ。だからわざとあのような偏狭の地へ 追いやる必用があったのだな。」 「何を言う。あの地は決して偏狭の地などではない。私の身内だからこそだいぶ優遇して やったつもりなのだぞ。」 「本心とは思えぬがな。厄介者である私を追い出したくていたくせに。」 「何!!。身の丈以上の物を与えた事を、そんな風に思っていたのか。情けない。」 それを聞いたプテロプースは王を鼻で笑い、今度はロナウハイドの方を見た。 「・・・そなたが噂に名高い『アドウェルサ・コロッセウムの英雄』ロナウハイドか。 どうだ。私の元で働かぬか?。優遇はするぞ。」 ロナウハイドはプテロプースを睨みつけた。「断る。」 「そうか、この私に楯突くつもりか・・・。残念だな。悪い話ではなかったのにな。 惜しい事をしたと後悔するだろうが、やむを得ぬな。」 「ラケルタ王には恩義がある。そして王の人柄も。後悔するのは貴様の方だ。」 「小癪な・・・。」 プテロプースはロナウハイドに殴りかかろうとして、手を止めた。 「こいつらは捕虜として東の偏狭の地の開拓地へ送る。伯父上が私に押し付けた領地で 私が受けた苦渋を自らも受けるがよい。」 ラケルタ王を始め、ロナウハイド、エルンテベルグ、そして僅かに残った兵士は 馬車で東に移送される事になった。王は頭を下げた。 「済まぬ・・・私が不甲斐ないばかりに・・・。」 「王、頭をお上げ下さい。私は王に着いて行くと決めたのですから、こんな事ぐらいで 挫けたりしません。寧ろ王に死ぬまでお使えする事が私の希望でしたから。」 ラケルタ派の兵士の一人が言った。その言葉に王はもう何も言えないでいた。 「ロナウハイド・・・。」 ロナウハイドもエルンテベルグも大きく頷いた。 「これまでの事に拘っている場合じゃない。これからの事を考える。今生きていく為の 指標はプテロプースを倒し、国を奪還する事だ。」 王は少し考えた。「そうだな。」 馬車が止まった。越えなければならないはずのリーヴァ川に架かる橋が壊れている。 「参ったな、こりゃ・・・。」 プテロプース派の兵士が文句を言っている声が聞こえる。当然、馬車の中にいる ラケルタ王派の兵士だった捕虜達がざわめき始める。ふと、自分の側でなにやら音が するのに気付いた。見ると、エルンテベルグが他の兵士の縄を解き、後ろ手を動ける 様にしているところだった。「おい、大丈夫なのか?。」 「見ろよ、奴ら橋に気を取られてこっちの監視が手薄だ。しかもこちらはこの人数だし 何とか行けないかと。」 確かに、エルンテベルグが居る場所には小窓があり、外の様子が伺える。「なるほど。」 「待てよ。こちらの兵士全ての縄を解くにはかなり時間が掛かる。全員を解き終える までに気付かれたらどうする。」 「全員のを解く必要はないだろう。とにかく、気付かれた時点で動ける者は一人でも 多くの兵士を倒す。」 「そういうことか。」 まず、一人の兵の縄が解けた。兵士は王の縄を解こうとした。 「いや、私よりロナウハイドが先だ。こういう時は確実に複数の相手を倒せる者が 先のほうがいいだろう。」「分かりました。」 一人、そして更に一人と縄を解いていく。中には短剣を隠し持っていた者もいて プテロプース派の兵士を倒せるだけの人数を確保できそうだ。 しかし、プテロプース派の兵士は思ったより早く戻ってきた。兵士は剣を抜き、 怪しい事をしている者はいないか確認していた。ロナウハイドは辺りを伺い、兵士が 一人だけなのを確認した。そして自分に近づいて来た時、すっと脚を伸ばした。 当然の如く兵士は転んだ。「な・・・何を・・・す。」 反対側に座っていた味方の兵士が敵の兵士の後頭部を殴り、気絶させた。そして 彼が持っていた剣を拝借した。「よし。」 馬車の中がおかしいと気付いた敵兵はすぐに様子を見に来た。今度は二人だ。 二人が中に入ったのを見計らい、後ろから二人を羽交い絞めにし、剣を奪った。 「よし、こいつら縛っておこう。」 解いた縄を使い、三人を動けないように縛った。そして、馬車の幌をそっと捲り、 辺りを伺った。「な・・・。」「どうした?。」 「気付かれた・・・。この馬車を兵士が取り囲んでいる。」「何だって!?。」 もはやこれまで・・・誰もがそう思った。 「おい、外の兵士は何人位いる?。」「えーと・・・十二、三人程・・・。」 「俺に任せろ。」 ロナウハイドは奪った剣を掴み、馬車の外へ出た。「強行突破か。」 なんとか縄を外して貰ったエルンテベルグも同じように馬車の外へ出た。 「逃げ出そうなんて、そうはいかんぞ!!。」 敵の兵士達は数人でロナウハイドを取り囲んでいる。しかし、ロナウハイドは余裕で 剣を構えている。 「俺の強さは知っているはずだ。怪我をしたくなければ言う事を聞け。」 「何だとっ!!。」 敵兵は次々にロナウハイドに向かってくる。しかし、ロナウハイドはあっという間に 敵兵を倒してしまった。 「こ・・・こんな失態・・・プテロプース様に申し訳が・・・ぐふっ・・・。」 そのうちに別の敵兵も集まってきた。 「ロナウハイドか。厄介な奴が・・・。」 「王と同じ馬車にしたのがまずかったようだな。」 しかし、集まってきた敵兵も彼の相手にはならなかった。 「なんだよ、俺の分け前は無いのか?。」 エルンテベルグが冗談交じりで加わってくる。「ま、そういうことだ。」 馬車は一台ではなく、数台が連なっていた。同じようにプテロプース派の兵士を 倒し、自由を取り戻した。しかし、喜んでばかりもいられない。今後どうするかを 話し合う事にした。 「ルブルムモンスにはもう帰る事は出来ない。再び剣を取ろうにもまた同じ事になる。 かと言ってアドウェルサも同じだろう。サルワートルの身の上が心配だが、今は彼を 助ける事は不可能だ。」 皆暫く悩んでしまった。ロナウハイドはふと思いつき、訊ねた。 「マルス火山、と言う場所を知っているか?。」 しかし、誰もが何も言わない。つまり、知らないと言う事だろう。「あ、もしかして。」 一人の兵士が声を上げた。「知っているのか?。」 「いえ、御伽噺として聞いた話ですが・・・。それによると大陸の南の方に、火を噴く 竜がいて、神話に出てくる『ヴァルタヴルカン』という邪神の体の一部が火山になり、 それがマルス火山だと言うのですが、自分はそこまでしか知らなくて・・・。」 「そうか・・・大陸の南にあるのは確かなんだな。」「はい。」 そこまで聞くとロナウハイドは立ち上がった。 「俺は行く。ついて来てくれとは言わない。そこに何があるかは分からんが、どう してもその地をこの目で見てみたい。」 「俺も行く。お前がそう言うんなら。」エルンテベルグだった。 「お前も着いてきてくれるのか?。」 「決まっているじゃないか。俺は一生お前についていくと決めたんだ。世界の果て だろうが何だろうが一緒に行く。」 「私も行こう。」 ラケルタ王も立ち上がった。 「とにかく、落ち着ける場所に落ち着き、今後の事を考えたい。我が故郷であるルブル ムモンスを奪還するまではこんな場所で死ぬわけにはいかんからな。」 すると兵スが次々と名乗りを挙げた。「私も行きます。」「王が行くなら、私も。」 「・・・こんなに、いいのか?。そこがどこにあるのかも分からんのだぞ。」 ロナイハイドは念を押す。「それでも、構いません。」 兵士達の瞳に自分を信じてくれる意思を、ロナウハイドは感じ取っていた。 「馬車は・・・。」「持っていく。雨風だけでも凌げるだろう。それにいつまで 続くか判らない旅だ。馬も財産にはなるだろう。」 「財産か・・・。」 「ところで、南ってとっちだ?。」「太陽の方角を見れば分かるだろう。」 ロナウハイド、エルンテベルグ、そしてラケルタ王とルブルムモンス兵。その大所帯が 南を目指す旅を始めた。当てもなく、ただひたすら南を目指した。 旅を始めて何日かした頃、街が見えてきた。そこで一台の馬車から幌を外し、馬車と 馬一頭を、山羊とアヒルに交換した。そして馬車の中で育てる事にした。それはこの 大所帯を支える為の食料を確保する為だ。途中で森を見つけたら、食料になる木の実や 水などを補充しながら旅を続けた。運命なんて信じるつもりなどなかったが、やはり 自分は母の故郷に帰らなければならない運命だったのだろうか?。 旅は思った以上に困難を極めた。過酷さに耐え切れず旅の途中で命を落とす者もいた。 その度にロナウハイドはこの旅を諦めようかと悩んだ。しかし、自分を信じて付いてきた 者達の為にも、マルス火山を目指すしかなかった。 兵士の一人が語った。 「嘗て聞いた伝説によると、とある一族が住んでいたといわれる地があり、そこでは 大陸神を祀っていたといわれています。それがオルケルト族かどうかは分かりませんが、 行ってみる価値はあるのではと。」その言葉に全てを賭け、皆旅を続けた。 ある日、滝が流れ込んでいる小さな滝つぼを通りかかった。何日も歩き続けていたので 飲み水を確保しながら休憩する事にした。兵士の一人が服を脱ぎ、滝つぼで泳ぎ始めた。 「全く、子供みたいだな。」ラケルタが呆れるが、全員に水浴びの許可を出した。 すると皆喜んで水に浸かった。「ひゃーっ、気持ち良い。」「冷てー。」 当然の如くロナウハイドもエルンテベルグも服を脱ぎ、水に浸かった。 「あれ・・・。」いつの間にか腕輪の上に巻いた布が切れていた。 どこに落としたんだろう。気になって探すが、見当たらない。仕方が無い、そう 思い、腕輪が見つからないように隠すようにして水浴びを楽しんだ。 兵士の腕に皆絵が描いてある。「これ・・・何だ?。」ロナウハイドは訊ねた。 「ああ、これか、天空の使者を模した刺青だ。ルブルムモンスの兵士はこれを腕に 彫って兵士の証とするんだ。」「兵士の証・・・か。」 今まで自分達が居た国の兵士にはそんな決まり事はなかったので、不思議に思った。 「ところで君らの腕についている腕輪って、ロナウハイドもエルンテベルグもお揃い だけど・・・何か意味でもあるのか?。」 えっ・・・見られてたのか。しかもエルンテベルグにもあると気づいているし。ロナウ ハイドは焦ったが、今はどうにも出来ない。 「あ・・・いや、これ・・・。」慌てて右手で隠す。「・・・まあ、色々とあって・・・。」 「なんだよ。人の物は聞いてくるくせに、自分達のは話せないって事か、なんか フェアじゃないよな。」 そう言われても、奴隷の印だなんて余り人には言いたくない。なんとなく誤魔化そうと したが、納得できていないようだ。「おいおい、人にはそれぞれ事情というものがある。 あまり根堀り葉掘り聞くのは失礼じゃないか?。」 ラケルタが助け舟を出した。 「そ・・・そうなのですか。」そして兵士は二人の方を見た。 「俺達はこの刺青にルブルムモンス兵としての誇りを感じている。だから君らのも てっきり・・・。」「いや・・・そんなんじゃない。」「そうなのか。」 側で見ていた兵士レーガトゥスが横から口を出した。 「君達・・・色々苦労したんだな。」 別に同情してくれなくても・・・二人はそんな風に思った。 ある日、大きな市場があるというこの街にやって来たロナウハイド達。交代で馬車を 見張りながら街で必需品を購入する。この日は市が立つ日だという事もあり、街中は人で 溢れかえっていた。兵士の一人、ピスキスが何かを見つけたらしく、集団から少し 離れた。皆そちらを見ると小さな子供がたった一人で泣きじゃくっていた。 「迷子かな。」ロナウハイドも人助けと思い、近づいた。他に何人かの兵士もついて きた。 「どうしたの?。迷子?。お父さんやお母さんとはぐれたのかな。」 ピスキスがガラにもなく高い声で話し掛けていたので、皆笑いを堪えるのに必死だ。 しかし、子供の方は大きな大人に取り囲まれた恐怖で更に泣き出した。 見てられないな、と思ったロナウハイドはひざを曲げてしゃがみ込み、目線を子供の 方に合わせた。「どうした、一人か?。」しゃくり上げながらこくりと頷く子供。 「一緒に探してやるよ。」そう言って子供を肩車した。「どうだ?。居るか?。」 「ううん・・・。」その姿を見た兵士達は少し驚いていた。 「ロナウハイド・・・子守、巧いのか?。」 無事に迷子の子を探していた親元へ返し、街の探索を続けた。 「・・・えっ、じゃあロナウハイドって、家族持ちだったのか?。」 「まあ、昔な。」 ロナウハイドはそれ以上の事は言わなかった。兵士達も最近はロナウハイドが余り 自分の事を話さないと思っていたのでそれ以上は聞かなかった。 別の兵士が、「じゃ、エルンテベルグも?。」 「いや、エルは家族というものに興味が無い奴だから。」 「えーっ、勿体無い。俺なんか家族というものに憧れてるのになあ。新天地へ行ったら 絶対に嫁を見つけてやる。」「あ、俺も・・・。」 「私も、結婚というものに憧れてはいるが・・・。」兵士の一人、ブランデンが言った。 「南には美人が沢山いるといいがな。」「確かに・・・そりゃそうだ。」 「レーガトゥスは?。」「私は・・・。」 「そう言えば、お前は面食いだったもんな。」 しかし、そんな会話を冷めた目で見ている兵士が何人かいた。その夜、何人かの 兵士がラケルタ王にどうしても伝えたい事があると話をしていた。ロナウハイドも 呼び出され、その兵士達の話を聞く事になった。 「確かに・・・王についていくと一度は決めました。ですが、やはり我々は国に 大切な家族を残してきている。最初は新天地へ着いたら家族を呼び寄せるつもりで はいた。しかし、その地が本当にあるのかどうか分からない。ロナウハイドには悪いが、 私はここでルブルムモンスに帰る事にしたい。」 「ルブルムモンスにはプテロプースがいる。のこのこ帰ったら殺されるかもしれん。 それでも行くのか。」 「構いません。殺されようが何されようが、その地が自分の生まれ育った祖国ならば そこで命が尽きても、その運命を受け入れるつもりです。」 皆暫く黙っていた。ラケルタは、 「それがお前の意志ならば、最期まで意志を貫き通せ。死ぬかもしれぬと分かっていて 行かせるのは身を斬られる思い出はあるが、覚悟が出来ているのであるならば、 止めはしない。」 すると兵士は今度はロナウハイドの方を見た。 「俺もラケルタ王の言うとおりだと思う。ただ、お前達を助ける為、プテロプースの 前で敗北を認めた王の気持ちも分かって欲しい。」 「王には感謝の気持ちで一杯なのは事実です。だが、私の・・・最初で最後の我儘を お許し下さい。」 ラケルタ王もロナウハイドももう何も言わなかった。そして翌朝早く、数人の兵士達は 自分達の前から姿を消した。 小さな川が流れていた。水がきれいだったのでこれで飲み水を確保しようと言う事に なった。水を汲んでいる最中、水の中に何かキラキラ光るものがある。「これは。」 ロナウハイドとエルンテベルグは切れた幌の切れ端を持ってきて川に渡した。 「何を始める気だ?。」兵士の一人、ブランデンが訊ねる。 「丁度いい。そっちを引っ張ってくれ。」「こうか?。」「ああ。」 「他の者は上流で石を叩いてくれ。」「これでいいのか?。」 他の兵士が数人、石を叩き始めた。すると物凄い数の魚が勢いよく飛び跳ねている。 「凄いぞ!!。」 大量の魚を捕まえ、火を熾した。ここ二、三日ろくなものを食べていなかったので皆 夢中で食べた。残った魚はきれいに内臓を取り、保存食にした。 いつの間にか夕方になった。天気も良かったこともあり、今夜はここで野宿をする事に なった。 久し振りの満腹感で皆満足したらしい。焚き火を囲い、皆様々な談義に盛り上がった。 「ところで。聞いた事なかったけど、ロナウハイドとエルンテベルグって、元々どこの 国の生まれなんだ?。やっぱりアドヴェルサか?。」 「馬鹿だなあ、ロナウハイドはお袋さんの故郷が南なんだからそんなはず無いだろう。」 「あっ・・・そうか。」 皆笑った。エルンテベルグが少し考えて話し出した。 「俺達は孤児だったんだ。父親も母親も分からない。十二、三歳の頃コルリスと言う国の 兵長に拾われてそこで兵士になった。例の王女様はそこの王女だったんだが、俺達が アドヴェルサの捕虜になった時、王女とも離れ離れになって、あのクーデターの後彼女と は再会できたんだが、結局助けられなかった。その後ロニーが『お袋さんの故郷を探す』 って言ってたんで俺も着いていく事にした。俺は故郷も行く当てもなかったから。ただ ロニーについていけば何かいい事あるんじゃないかと思ってついてきただけだ。」 「へーえ。じゃ、ロナウハイドはどうなんだ?。」「俺は・・・。」 ロナウハイドは少し黙った。するとエルンテベルグは代わりに答えた。 「こいつは昔っから秘密主義で自分の事は話さないからな。」 するとロナウハイドはむっとして答えた。 「・・・余り自分の事を話すのは好きじゃない。それだけだ。」 するとエルンテベルグは突っかかるように言った。 「本当かあ?。」「・・・なんで疑う?。」「怪しい、皆にいえない秘密を隠している。」 「そんなわけ無いだろう。馬鹿馬鹿しい。」 「けど、言わないという事は、そうだろう?。」 するとロナウハイドは少し考えた。 「じゃあ、話すよ。・・・俺の名前は元々オルケルトの神話に出てくる勇者の名前 だったそうだ。」 「オルケルトの勇者か!!。凄い肩書きだな。」 ロナウハイドが話し始めたので、エルンテベルグは 「こうしないと、あいつ、喋らないから。」とラケルタに耳打ちした。 ラケルタは「成る程な。」と苦笑いした。 |
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第六章
母との記憶が何か手がかりにならないか。そんな思いから何度も幼い頃の事を思い
出そうとしていた。あの塔の窓から見える風景。その風景を確かめるべく風景と塔に ついて心当たりを捜し歩いていた。 「この乱世の世、そんな塔なんて残っていないんじゃないか?。こんなに歩いても 手がかり一つない。もしかしたらとっくに滅ぼされたんじゃあないか?。」 エルンテベルグが尋ねる。しかし、そういったところでロナウハイドの決心が揺るぐ 事はない。その事は分かっていたが。 「母の故郷は、大地が豊かで作物もよく育ち、食料に欠く事はなかったそうだ。」 「じゃあ、南の方か?。南にある都市について少し尋ねてみよう。」 二人は南へと足を伸ばす事にした。 だが、荒野を当てもなく歩き続け、次の街へ辿りつく前に二人は意識を失い、倒れて しまった。 「ここまで来たのに・・・。」 枯れた大地に僅かに生えた雑草を掴み呟いた。 「・・・して・・・しなさい。」 声がする・・・何だろう。自分はもう死んだのか?。 朦朧とした意識の中、女性が自分に話し掛ける。「生きてるのね。」 女性は持っていた水筒をロナウハイドの口に含ませた。「・・・ぅうっぷ。」 意識が戻ってきた。「あ・・・あり、がとう。」「よかったわ。」 「あ・・・エルは・・・?。」「一緒の方?。」「ああ。」 女性は側で倒れていたエルンテベルグを見つけ、すぐさま水を飲ませた。しかし、 エルンテベルグは意識が戻らない。 「このまま夜になるとこの辺りは凄く冷えてくるの。このままだと凍え死んでしまう。 手伝って。」「ああ・・・。」 女性は側にいたロバにエルンテベルグを乗せようと提案した。ロナイハイドがエルンテ ベルグを持ち上げ、ロバに括り付けた。「無事だといいけど。」「すまない。」 「私の家、この近くなの。」「恩にきる・・・。」 女性の家があるという街はそう遠くはなかった。「こんなに近かったのか・・・。」 体力が消耗していて近くのものすら見つけられなかったらしい。 「どうぞ。・・・狭いけど入って・・・。」 ロナウハイドはエルンテベルグを抱え、女性の家の中へ入っていった。 エルンテベルグをベッドに寝かせ、口の中に水を含ませた。が、意識が戻る気配は ない。やがて、「う・・・ううっ・・・。」「エル!!。気がついたのか?。」 エルンテベルグは意識を取り戻したようで、ロナウハイドは安堵した。 その夜は女性の家に泊まる事になった。聞けば、女性は一人暮らし。夫と子供を 戦争で亡くし、以来一人なのだそう。 「・・・あなた方、お名前は・・・?。」 「俺はエルンテベルグ、こいつはロナウハイド。」「ロナウ・・・ハイド、そう。」 女性の意味ありげな言葉に疑問を感じたロナウハイドは女性に尋ねた。 「・・・ごめんなさい。私の兄に瓜二つだったから、つい・・・。」 「お兄さんに?。それで俺達を助けてくれたのか?。」「それもあるけど。」 「詳しく聞かせて貰えないか・・・。」 女性は少し考えて話し始めた。 「私の兄は私達が生まれ育った国、ヴァルトロ帝国の兵士だったの。才能のある戦士 として隣国であるこのフォーンスにも名声が届く位有能な将軍だったのそうよ。けど、 最果ての地プロフォンドゥムで命を落としたと。信じられなかったわ。あの『無敗の 兵士』と名高かった兄がそんな偏狭の地で、しかも相手の兵士が僅かな数しかいなかった にも関わらず・・・。」 ロナウハイドは胸の鼓動が早まりつつあるのを感じた。彼女の話には心当たりが ある物ばかりだ。「もしかして・・・この人?。」 彼女の兄、と言う人物の名を訊ねようとした。しかし、それを知ったところで何になる。 そう思い、ぐっと堪えた。「そうだわ・・・。」 彼女は席を立った。そして奥から木箱を持ってきた。 「兄は、私にはよく手紙をくれたの。よかったら読んでみて。」「いいのか?。」 「ええ、兄はもうこの世の人間じゃないし、亡くなってもう二十年以上になるから。」 ロナイハイドは震える手で手紙の一枚を取った。 「・・・と、恋に落ちたといっても過言ではない。しかし、相手は皇帝の側室。こんな 事はいつか気付かれ、いずれ殺される。それは分かっている。しかし、彼女を愛さず にはいられない。人目を忍んでも会わずにはいられない・・・。」 相手・・・これって、もしかして・・・。ロナウハイドは疑惑が確信になる予感がした。 「・・・の話によると、彼女の故郷はマルス火山の麓、オルケルトという少数民族が 暮らす集落だった。しかし、私は皇帝の命令でその地を滅ぼしてしまった。そんな事は 口が裂けても彼女には言えない・・・。」 そこまで読んだロナハイドは衝撃の余りもう読むことが出来なかった。 その夜、彼女の子供達が使っていたと言うベッドを借り、横になった。あの手紙の事が 蘇ってくる。もし、もしも、彼女の兄と言う人物が、自分の実父アントニウスだとしたら、 父は母の故郷を滅ぼした事になる。母は・・・知っていたのだろうか?。知らずに父親を 愛してのだろうか。それとも・・・。ロナウハイドはその事でなかなか寝付けなかった。 結局、核心に触れることは出来ないまま二人は女性に礼を述べ、南を目指した。 自分の父親かもしれない人物の手紙によると、オルケルト族が暮らしていたという地は マルス火山の麓という事だ。そこを手がかりに、その地を目指す事にした。 オルケルト族の故郷を見つからぬまま、資金も底を付いた二人は、偶然辿り付いた この国へやって来た。空腹を堪えきれず、街道の側にあった木の下で少し休む事にした。 近づくにつれいい匂いがする。「これ・・・梨の木じゃないか。」 思わず見上げるが、実の成る季節ではなかったらしく、沢山着いた花に蜂が周りを ぶんぶん飛んでいるだけだ。「ちぇっ・・・。」 がっかりし、力尽きた二人はそこで少し休む事にした。 いつの間にか眠ってしまったらしく、誰かが呼びかける声で目を覚ました。 「あなた達、旅の人?。」 綺麗な女性だな、と思ったが、今はそれどころじゃない。答えようとした時、腹が 鳴った。 「・・・おなか、空いてるの?。」もう声にもならず、こくりと頷く。 「・・・じゃあ。」女性はかごに入った無花果の実を取り出し、小刀で切った。 「半分腐っていて、売り物にならなかったの。売れ残りでよければ食べて。」 女性は腐った部分を丁寧に切り取った無花果の実をロナウハイドに渡した。 「・・・ありがとう。」と言ったつもりだったが、聞こえていたのかどうか分からない。 それを更に半分に分け、エルンテベルグに渡した。 熟れ過ぎて甘くなっていた無花果は僅かだが二人の胃袋を満たす。 「助かったよ。」「どういたしまして。」 「ねえ、この街初めて?。」 「ああ。俺達ここで仕事を探しているんだ。どこか雇ってくれるトコあるか?。」 「うーん。確か、大きな商人の家で用心棒を募集しているって聞いたけど。」 「そうか、ありがとう。行ってみるよ。」 ロナウハイドは何とか立ち上がった。「エル、行くぞ・・・。」「うん。」 「あなた、エルって云うの?。」 女性はエルンテベルグに尋ねた。 「いや、俺はエルンテベルグ、だ。ちなみにこいつはロニー。」「そうなの。」 「いや、俺はロナウハイドって云うちゃんとした名前がある。嘘教えるなよ。」 「嘘じゃない。ニックネームじゃないか。。」 「そう呼んでるのはお前だけだ。大体にしてなんで『エル』が『エルンテベルグ』に なるんだよ。」 「なんか、かっこいいから。」「それだけ!?。ちなみに俺のは母さんがつけて くれた名前だ。一緒にするなよ。」 二人の会話を聞いて女性は余程おかしかったのか少し笑った。口元にあるほくろが 可愛らしい。 「私はフィオラ。街外れに住んでいるの。宜しくね。仕事、巧くいくといいね。」 「うん。ありがとう。」 フィオラが去っていく後姿を見ながら、早速その商人の家を探した。 「お願いします。」「うーん、悪いが身元がはっきりしない者は雇えないね。うちも 信用第一の仕事なものでね。そういった者は断っているんだ。」 「けど、用心棒だったら関係ないと思うけど。」 「例え用心棒でもだめなものはだめだ。例外は認められない。」 もう返す言葉が無い二人。「どうする。」「仕方が無い、他を当たるか。」 仕方なく二人はその場を立ち去った。 さっきの無花果はとうに消化してしまい、再び空腹を堪える事になった。 日も暮れ掛かり、当てもなく歩いていると、大きな屋敷が目の前に飛び込んできた。 「大きな屋敷だな。さっきの家とは比べ物にならない。まるで城みたいだ。」 「意外と城だったりして。」「まさか。」 二人の声に気づいたのか、兵士のような格好をした人物が現れた。 「お前達何者だ!?。こんな所で何をしている?。」 「何をって、俺達はただの通りすがりの旅の者だ。けど、仕事を探していて・・・。」 「旅の者!?。仕事?。・・・ちょっと待っていろ。」 そう言うと建物の中に引っ込んでいった。間もなくもう一人男を連れてきた。 「このもの達ですが・・・。」「うーむ。」 もう一人の男は二人を吟味するように上から下まで見た。「まあいい、中に入れ。」 二人は建物の中に入った。「ここは?。」 「ここは我がマルモル王国の城。」「えっ・・・。」「やっぱり城だったのか。」 二人が通された部屋には兵士と思われる者が数人いた。どうやらここは兵士の詰め所 らしいのだが、宿舎の部屋と間違えそうになる程狭い。 「よし、二人共服を脱いで見せろ。」「え・・・?。」 「この城では兵士を募集していてな。もしお前達に兵士になる気があるなら・・・。」 「兵士か・・・。」 二人が上半身を晒すと、最初は胡散臭そうに見ていた兵士達皆感嘆の声を上げた。 「お、お前達・・・それ本物か?。」「えっ。」「その筋肉、触ってみていいか?。」 「あ・・・ああ。」「凄いぞ、とんでもなく硬いぞ。」「兵士の経験とかあるのか?。」 「一応・・・。」「どこの兵士だったんだ?。」「まあ、色々。」 「剣や槍、馬は乗れるのか?。」「まあ、普通に・・・。」 二人の筋肉を見た途端、兵士達はこぞって二人を質問攻めにした。 「よし、その腕前を試させてくれ。」「いや・・・。」「何故だ?。」 「食事まだなんだ。何か食わせてくれ。それからだ。」 久し振りの食事にありついた二人。だが、腹いっぱいになる程は食べず、腕試しと やらに備えた。 「よし、武器を取れ、何でもいいぞ。」二人は無造作に置いてある武器を見繕った。 が、どれも錆付いているようで役に立ちそうも無い。 「素手でいい。」ロナウハイドは言った。「ほ、本当なのか、怪我しても知らないぞ。」 腕試しが始まった。兵士の一人がロナウハイドに斬りかかって来る。 「悪いな、仕事が掛かっているんで・・・。手加減はしないぞ。」 そう言いつつ、兵士をいとも軽く投げ飛ばし、剣を奪った。 「・・・い、一発で・・・・!?。嘘だろ・・・。」 「さて、と。次は?。」 二番手の兵士が襲い掛かってくる。今度の兵士は盾を持ち、防御しながら攻撃してくる。 ロナウハイドは盾を蹴り上げ、兵士に迫った。 「もっと強そうな、・・・例えば精鋭部隊とか居ないのか?。」 エルンテベルグが側で見ていて訊ねる。しかし、その質問には誰も答えない。 「居ないのかよ・・・。」 城に居る兵士の全てを余裕で倒してしまった二人。もう遅い時間だと言うことで、 王との謁見は翌日になった。 翌朝、食事もそこそこに王に謁見する事になった。昨日の兵士が二人の強さについて 王に報告する。 「そんなに凄い方々なのですか。」 王の側に居た若い男が目を丸くする。恐らくこの国の王子か何かだろう。 「これは期待できそうだな。」王は目を細めて微笑んだ。 「その腕とやらを私もこの目で見てみたいものです。私もこの者達と剣を交えてみたい。 父上、お願いします。」 「よし分かった。良いかな、その方達。」 断る理由がなかった二人は順番にこの国の王子、ヴィリディタースと腕試しをする。 流石に時期王位後継者だけあって兵士達とは腕前が違う。だが、二人はこの国の 兵士には無い手応えに満足するのであった。 兵士に採用され、初めて街の中を見物に出かけた二人。先日生き倒れになりそう だった二人に無花果をくれたあのフィオラという女性に礼を言いたい。 「確か街外れに住んでいるって言ってたよな。」「ああ。」 「エル、覚えているか?。確か口元にほくろがあったよな。」 「えっ・・・気づかなかったな。そうか、お前は好みの女性をほくろのあるなしで、 決めるんだったな。」「・・・まてよ、そういう訳じゃない。」 そんな他愛も無い会話を繰り返しながら街外れを探して回った。人づてに尋ね歩き、 今にも壊れそうな一軒の家を見つけた。「なんか、崩れてきそうだけど・・・。」 エルンテベルグが呟く。ノックをすると応答が無い。だが、中には誰か居るようで ごとごとと音がする。暫くして、やせた中年の男が現れた。「・・・どちらさんかね。」 人違い・・・?。いや、気を取り直して尋ねた。 「・・・ここにフィオラと言う女性が住んでいるはずなんだが・・・。」 「娘に何か用かね。」 娘!?。って事は彼女の父親なのか?。 「用があって尋ねたが・・・。」 「今娘は留守にしている。近所の畑の手伝いで、夕方にならないと帰って来ん。」 留守なのか。ならば出直してくるより他に無い。「また来る。」そう告げて、立ち去った。 「お父さんと二人暮らし、と見た。」「そのまま、じゃないか。」 「足を引きずっていたけど、怪我か何かしてるのかな。」「えっ、俺気づかなかった。」 「どこを見てたんだよ。エルは。」「お前、変な時に変な注意力が働くなあ。」 「変な注意力って何だよ。」「言ったままだよ。」 夕方まで時間を潰し、もう一度彼女の家を訪ねた。「あら・・・あなた達は。」 中に入れて貰い、二人はまず礼を述べた。 「で、どうなったの?。仕事。雇ってくれたの?。」 「いや、そこは断られたんだ。俺達身元がはっきりしないから。」「そうだったの。」 「そしうたら、お城で兵士を募集していて、そこで兵士になる事にした。」 「え・・・、そっか・・・。兵士になっちゃったんだ。」 予想に反して少し悲しそうな顔をした。「どうしたんだ?。」 フィオラはすぐ側のベッドに腰掛けている父親の方に目をやり、もう一度ロナウハイドの 方を見た。 「私の父は以前この国の城の兵士だったんだけど、大怪我をして、それが元で軍を 退役したの。だからあなた達には兵士になって欲しくなかったの。兵士を募集して 居たのは知っていたけど。だから教えたくなかったんだ。だからせめて用心棒になって 居てくれたらと思っていたの。」 暫く沈黙が続いた。「そうだったのか・・・。足の怪我はその時の?。」「ええ。」 ロナウハイドは気を取り直して、彼女の目を見つめた。 「俺はね、君が思っているより強いつもりだ。だから怪我なんてしない。」 「そうなの・・・でも。」「大丈夫だ。約束する。」「本当に?。」「ああ、勿論。」 その日をきっかけに、ロナウハイドは暇を見つけては彼女の元へ会いにいった。 と、言ってもいつも遊んでいたわけではなく、彼女の仕事である近所の畑の手伝いや、 市場へ売りに行く果物を森に取りに行ったりしていた。 そのロナウハイドの事をエルンテベルグは苦笑いしながら見守っていた。 マルモルは一見小さい国である為、周囲の国から相手にもされないかと思われていた。
しかし、そんな小さな国が存在する事に、国として存在できるのかと言った批判も 多かった。故に周囲の国々から狙われていた。 「そうなのか。言いがかりもいいところだよな。ただ単に他の国は自分の領土を少しでも 広げたいだけなんだろうな。」 エルンテベルグが考える。ロナウハイドもこの国が兵士を募集していたのが何故だかも 理解できた。 エーウォメンスとの国境付近になにやら怪しい動きがある。どうも砦が建設されて いるようだとの報告を受けた。兵士になって最初の仕事だ。 「出来れば、一網打尽にしたいとこだな。」 エルンテベルグの冗談もマルモルの兵士には通用しないらしく、かなり神経質に 様子を見ている。その様子にロナウハイドは余り大勢でいるとこちらが見張っているのを 気づかれるから、兵士の半分は離れたところで待機していた方がいいと助言した。 しかし、新参者の言うことなど誰も聞いてはくれない。案の定、すぐに見つかり、敵軍は 兵を引き連れて侵攻してきた。「来たな!!。」 兵が近づいて来る。しかしロナウハイドとエルンテベルグはまだ出撃しない。 「ど、どうした!!。敵軍が迫ってきているのだぞ!!。」 「もっと引き付けてからでも遅くない。」「だが・・・。」 やがて、敵軍の数が見て分かるぐら今で近づいた。「行くか。」「ああ。」 ロナウハイドとエルンテベルグは出撃した。一人、二人・・・気づけば数え切れない 程の兵士をいとも簡単に倒し、あっという間に退却させた。「す・・・凄い。」 凱旋を出迎えたのはヴィリディタース王子だった。 「余りにも早いお帰りで・・・驚きましたが、どうだったんですか?。」 他の兵士が興奮しながらその様子を説明した。 「そうだったのですか。では急いで父にに報告をお願いします。」 王に報告すると、王は驚きの余り声も出なかった。 「この二人の活躍のお陰で、あっという間に退却させることが出来ました。」 上等兵がロナウハイドとエルンテベルグの活躍を伝える。 「・・・この国にそこまで凄い兵士が来てくれた。これからもよろしく頼むぞ。」 以来、二人は王からの厚い信用を得るようになった。 「この国を狙っているのは、何もエーウォメンスだけではない。他にも幾つかの国が この国を狙っているのだ。今後の君達の活躍に期待したい。」 王の言うとおり、エーウォメンス軍を退却させて間もなく今度はフランマース王国が 国境のすぐ側まで近づいてきていると言う。今度はロナウハイド達が指揮を執るように 指示される。 また今度も勝利を収め、凱旋するロナウハイドとエルンテベルグ。王の喜びようは 未だ嘗て無いとまで絶賛された。王デュポーンは二人を高く評価し、様々な権利を 与えた。ロナウハイドが受け取ったのは小さな土地と家。やっと安定した生活が 出来る見込みが付いた。 「家が欲しかったのか?。」 「家と言うよりも、安定した生活というのに憧れていたのかもしれない。」 「そういうものか。まあ、お前らしいな。」 家庭の温かさにどこか安定した憧れを抱いていたのか。それとも幼い頃母と過ごした 日々をもう一度取り戻したかったのか。或いは両方なのか。自宅のベットで横になり ながらそんな事を考えていた。 新居にはフィオラも訪ねて来てくれた。時々ロナウハイドの為に食事の用意を してくれたりして、彼女の優しさに感謝した。 その一方で、兵士としては二人はすぐに頭角を現し、この近辺で彼等の名を 知らぬものはいない程になった。 あるときからぷっつりとフィオラが来なくなってしまった。忙しさの余り、会えない 日々が続いたからだろうか。気になって仕方がなかったロナウハイドは凱旋を祝う 宴を抜け出し、彼女の家に行った。 フィオラの家の周りには数人の人が集まっていた。「どうした・・・?。」 「あ・・・あんた、知らなかったのか!?。」 大きな板の上に布を被った物を二人の男が運び出していた。 「・・・とうとう、逝っちまったってさ。」「えっ・・・。」 人を掻き分け、家の中に入った。「あ・・・。」 「ロナウハイド!!。」「フィオラ・・・もしかして・・・親父さん・・・。」 真っ赤に晴らした瞳でロナウハイドを見つめるフィオラ。父と娘、親子二人だけで 暮らしていたフィオラだったが、今唯一の家族を失った。悲しくないわけが無い。 母が亡くなった時の事が脳裏に浮かぶ。「フィオラ・・・。」 名前を呼ぶ。すると堰を切ったように再び彼女の瞳から涙が流れた。 「・・・ごめん、気づかなくて。」 父親の葬儀を終え、やっと落ち着きを取り戻したフィオラ。 「ごめん・・・気づいてやれなかった。親父さんだいぶ前から良くなかったそうだな。」 「・・・いいの、あなたに迷惑かけたくなかったから、黙っていただけ。」 彼女はそうは言うが、一人で辛い思いをさせていたと思うとロナウハイドはやり きれない思いで一杯だった。 彼女が悲しい顔をするのはロナウハイドにとっても辛い事だ。出陣の待機中でも そんな事を考えてしまう。すると他の兵士から、「恋人の事でも考えているのか。」 とからかわれてしまう。「恋人か・・・。」 急にコルリスの兵士だったミレスの事を思い出した。そしてある事を心に決めた。 「寂しいのか?。」「何でそんな事を聞くの?。」
「独りぼっちになったんじゃないかって、そう思ったから。」 「そうね。一人ぼっちかな・・・。」フィオラは涙を見せまいと、上を見上げている。 「俺が一緒にいたら、一人ぼっちじゃないよな・・・。」「えっ・・・今何って?。」 「・・・だから、俺が居たらいいのかな、って。それとも、俺じゃだめなのか?。」 「あ・・・。ううん。・・・。」暫く黙ってしまった。「ありがとう。」 間もなくフィオラは今まで住んでいた家を出て、ロナウハイドの家に越してきた。 城勤めを終え、家に帰ってくると暖かい夕食と彼女の笑顔が待っている。それだけで もうロナウハイドは嬉しかった。。コルリスで初恋に身を焦がしていた あの頃以来の 幸せを取り戻した気がしていた。 家の裏に畑を作り、野菜を育てていた。それを街の市場で売り、生活費の足しに していた。ロナウハイドも時々畑仕事をしてフィオラといる時間を大切にしていた。 母の故郷を探すのを諦めたわけではないが、今の生活もただ大切に守りたい、そう 思っていた。やがてフィオラは女の子を産んだ。ロナウハイドは初めて父親という ものになり、家族というものの温かさを改めて認識した。リーリウムと名付けた娘は すくすくと成長していった。 家を構え、家族を持ったロナウハイドに対し、気軽な独身のエルンテベルグとは 当然のことながら付き合いは疎遠になっていった。喧嘩した訳ではないが、話を する事は勿論、会う機会も余りなくなってきた。寂しいなとは思いつつも、二人目、 三人目と誕生する子供達との日々の生活に追われ、元気でいるかなどの事さえも気に かけられなくなってしまった。それに加え、兵士である自分はいつ戦場に駆り出され、 命を落とすかもしれない。だから、妻のフィオラと三人の子供達とは家にいる間は いつも一緒にいる事にしていた。 隣国バルースとの火蓋が軌って落とされた。エーウォメンスやフランマース王国
だけでなく、この地を狙って様々な国が思惑を抱いていた。この界隈でも列強と 謳われたバルースに対抗し、周囲の国々に国力と強さを見せつけ、攻めようなど 思わせないようにする為だ。ロナウハイドは沢山の部下を引き連れ、バルース戦に 乗り込んだ。結果はいうまでもなかった。ロナウハイドの活躍で圧倒されたバルースの 王は遂に降伏した。その勢いに乗って、ロナウハイドは周囲の国々を降伏させていった。 その功績が認められ、ロナウハイドは遂に将軍の地位までに登りつめた。 その頃からだろうか。王の様子がなんとなくおかしい。今まで労を尽くした自分を 高く評価してくれたはずなのに、最近そういった様子を見せなくなった。そんな時 北方のラクスという国の討伐を命じられた。だが、部下の半分の人数も連れて行けない。 城に残る兵士が必要だと言う事で許可が下りなかった。 「この人数で討伐とは・・・どういうことだ?。」 ロナウハイドは疑問に思ったが、王が決めた事。従うしかなかった。 だが、ロナウハイドの采配と作戦でなんとか少人数で勝利を収めた。それを手土産に 愛しい妻フィオラと子供達のいる我が家へと戻ってきた。王デュポーンから賞賛を浴び、 些か旨い酒にほろ酔い気分になりながら。 しかし、家へ近づくと近隣の家の者達は皆位顔をして彼を見つめた。 「なんだ?。」 「お・・・お前さん・・・か、帰ってきたのか。」 近所に住む老人が青ざめた顔で尋ねた。「どうした?。」 しかし老人は黙って首を横に振る。そんな様子に疑問を持ちながらも家へと 足取り早く向かった。「な・・・!!。一体どういう事だ!!。」 大切な我が家は真っ黒焦げに燃え尽きていた。慌てて妻と子供達を捜すが見当たら ない。先の老人に問い質すが首を横に振るばかりだ。「ま・・・まさか。」 見かねた近所の人が詳しく話してくれた。 「火事が起こったので慌てて来て見たが、誰も逃げてくる様子はなかった。焼け焦げ 跡から奥さんと、子供達の焼死体が見つかったんだ。」 「何故・・・逃げなかったんだ・・・。」 「役人の話じゃ、家に火の手が上がった時は既に皆殺されていたらしいって話だ。」 「・・・そんな、そんな話、信じられん。嘘だ!!。嘘だって言ってくれ!!。」 ロナウハイドは黒焦げの土壁を思い切り叩いた。脆くなった土壁はさらさらと地面に 零れ落ちた。大粒の涙と共に。そしてあの時の、首筋にある火傷の跡を押さえた。 「・・・これ。」 役人の一人がある者を差し出した。「これは・・・。」 下級の兵士達が身につけていた軍服のボタンだ。 「フィオラはずっとそいつを掴んでいたらしい。もしかして自分達を殺した犯人の 手がかりを残そうとしたんじゃないか。」 「下級兵士の誰かが犯人!?。一体誰が・・・。何の為に!?。」 「あんた、凄い速さで出世したんだろ。妬みとかあったんじゃないか?。」 「俺もフィオラもそいつの妬みを買ったと言うわけか。そんな事って・・・。」 自分が留守の間、大切な家族が殺された。一体誰が・・・。絶望の淵に立たされる ロナウハイドだが、仕えし王はそんな事は待ってはくれない。犯人も分からぬまま、 そして悲しみと怒りの癒えぬまま王の呼び出しには応えない訳にはいかなかった。 しかし、登城したロナウハイドを待っていたのは意外な出来事だった。 デュポーン王は 「誰かが私の命を狙っているらしい。ロナウハイドよ。そなた、心当たりはないか?。」 王を暗殺?。信じられない。温厚で誰からも信頼されている王を、誰が・・・。 しかし、その疑いの矛先が自分に向いていたのに気付いた。 自分が疑われているのか。家族を殺され、今度は自分が反逆の濡れ衣を着せられるのか。 ロナウハイドは何とかして身の潔白を証明しようとした。しかし、どういう訳か王は 間もなくこの世を去った。 ロナウハイドはますます立場が不利になる。王からは一目置かれていたロナウハイド だったが、自分を信頼してくれているはずの王が亡くなるなんて。つい先日まで 元気でいた王が、一体どうして急逝したのか。 やがて、次の王に即位したのが王の長男のヴィリディタース。新しい王に忠誠を 誓い、なんとか反逆の汚名を払拭しようとした。 ヴィリディタースもロナウハイドを高く評価してくれる人物だ。彼にその事を伝え、 何とか無実を訴えた。ヴィリディタース王は 「あなたの事は私も良く知っている。あなたはそんな人物ではないという事を。ただ、 それを証明できるものがない事が厄介だな。」 ヴィリディタースが自分を信用してくれるだけでロナウハイドは少し安心できた。 後は、自分が無実であるという証拠さえ見つけられれば、と思っていた。 しかし、あろうことかそのヴィリディタース新王も、即位から僅か一月で 亡くなってしまった。自分に掛けられた反逆の汚名はいつになったら払拭できるのか それも叶わないまま次の王が即位した。先々デュポーン王との側室の子デーンスス。 この王とは認識はあるものの、ヴィリディタース程親しいわけではなかった。 ロナウハイドは脅威を感じていた。自分を信頼してくれる者がいなくなり、 反逆者の汚名は消えるどころかますます疑いは深くなった。 自分を庇ってくれる者がいなくなり、遂には反逆罪で牢に監禁されてしまった。 「・・・何故だ、何故俺が・・・。」 家族を失い、自分は反逆者の汚名を着せられた。それに加え、反逆罪で公開処刑 される事が決まった。 ロナウハイドはもう絶望しか感じられなかった。このまま無実の罪を着せられ、 処刑されるのは無念だ。だが、愛する家族を失ない、生きる希望さえも無かった。 これ以上生きていても夢も希望も無い。いっそのことこのまま殺されてしまっても。 そんな事が脳裏に浮かんだ。 「おい・・・生きているか・・・?。」 自分に声を掛ける者がいる。重い足取りで鉄格子のほうへ近づいた。「エル!!。」 ロナウハイドとは別に、遠征に行っていたエルンテベルグだった。 「お前・・・確かデュハンベルク討伐戦に参加してたはず。無事だったのか。」 「ああ、何とか無事に帰って来れた。だが、お前が投獄されたと聞いて・・・。」 ロナウハイドはエルンテベルグなら自分の事実を信じてくれると思い、全てを 話した。 「その話は聞いている。だがな、お前はここで死んではいけない。生きろ。俺と 一緒に・・・。約束したはず。何があっても生き抜くと。」 「・・・しかし、そうは言っても・・・。」 「俺に任せろ。お前をこんな所で死なせはしない。ここで死んだら無駄死にだ。」 しかし、この状況をどう経って覆す?。ロナウハイドには疑問だけが残った。 やがて、ロナウハイドの処刑の日がやって来た。あれからエルンテベルグからは 何の音沙汰も無い。家族を殺され、絶望した自分はこのまま処刑台で人生を終えるのか。 やがて、処刑場へ連れて来られたロナウハイド。新王デーンススが見守る中、 一歩一歩処刑台へ登りつめていく。「な・・・何だ!?。」 辺りがざわめき始める。ロナウハイドも何事かと思い、そちらを見た。なんと、物凄い 数の軍隊がこちらへ向かってくる。「あれは・・・。」 忘れもしない、ルブルムモンス王国の軍隊。ここを攻めてくるというのか。 突然の奇襲で慌てふためるデーンスス王。兵に命じ反撃をみせるが、軍隊の要で ある将軍ロナウハイドとエルンテベルグの二人を欠いているのだから勝ち目はなかった。 「ロナウハイド!!。間に合ったようだな。」 ルブルムモンス王国のラケルタ王の声だ。アドウェルサのクーデターでの指導者 サルワートルもいる。やがて、ルブルムモンスの軍隊によりデーンススは討ち取られ、 マルモル王国は滅亡した。 |
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