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サント・マルスと混沌の邪神
逆らえない運命なら、その運命を受け容れ、自分らしく生きる

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第十一章
 ローザントにほど近い小さな街。クヴェーレ。小さなオアシスがあるので旅の商人
達がよく集まる場所だ。特に大都市と化したロニエールは商人達にとっては格好の
市場で、そこへ向かう為の最後の休憩ポイントにもなっていた。
 その中で商人達とは少し様子が違うキャラバンがいた。と言っても彼らは商売をする
わけでもなく何週間とこの地に留まっていた。ここを馴染みとする商人達が話し掛けても
特に何と言った話もしない。最初は不思議がっていた商人達だが、段々には話もしなく
なっていった。
 ある日、一人の商人がやって来た。そして例のキャラバン達と合流している。不思議な
事もあるものだと他の商人達はその様子を眺めていた。
「よし・・・わかった。」
キャラバンが出発した。商人達は不思議なこともあるものだとまた呟いていた。

 ローザントの国境警備兵が慌てて城に駆け込んできた。
「た、大変です。物凄い数の軍隊が国境を破って!!・・・。」
「なんだと!!。」
アントニウスは急いで軍隊を出撃させた。「一体、どこの兵だ。」
そういいながら、自らも出陣の準備をしている。
「本国に援軍を要請しますか?。」
レーガトゥスはアントニウスに尋ねた。
「そんな必要はない。父上や兄上の手を煩わせる程のものでもなかろう。」
 ローザントは今まで他国からの攻撃を受けたことはなかった訳ではなかった。自分が
統治してからも何度か争いはあった。その度に優秀な軍隊たちと共にローザントを
守ってきた。そしてここでまた手柄を立てれば自分の名声は一気に上がる。そして
いつかはロニエールと同等、いや、ロニエールを越える国にし、祖国ロニエールを自らの
手中に収めたいと思っていた。ローザントの提督に甘んじているつもりは無い。いつかは
兄を差し置いてロニエールとローザント、両方の王になってみせる。そんな意気込みを
抱いていた。
 しかし、軍隊は思ったより強靭で、その侵攻を食い止めることは出来ない。
「何故食い止められぬ!!。我が軍の兵士は腰抜けばかりか!!。」
アントニウスは自ら馬を駆り、出陣した。
 驚く事に、相手の軍隊は思ったより城に近づいていた。遂に、敵軍と対面する。
「・・・ほほう・・・確かによく似ている。」「貴様・・・何者!?。」
「我が名はケレベル、嘗てアドウェルサ一の兵士と言えばわかるはず。」
「・・・知らんな。」
「貴様は知らなくても、貴様の父は俺を知っているだろう。今は王を名乗っている
ようだが、俺は、貴様の父親ロナウハイドを倒すことだけの為にここへ来た。」
「残念だが父上はここにはいない。何か勘違いされているようだが。」
「王と名乗っている以上、直接乗り込んだところで相手にはしないだろう。奴は
そういう男だ。だがな、貴様を盾にすれば俺との勝負に応じる。そうだろう。」
「折角だが、そんな心配は無用。貴様はこの私が今ここで倒してみせる!!。」
アントニウスは自らケレベルの懐に乗り込んでいった。
 激しい打ち合いが続く。若さを武器に戦うアントニウスに熟練の腕をもつケレベルが
襲い掛かる。「さすがはロナウハイドの息子。手応えはあるようだな。」
「父上と一緒にするな!!。私はいずれ父を越える者。そうやすやすととは倒されぬ。」
 アントニウスとケレベルの一騎打ちは続く。しかし、しかし不思議な事に他の兵士は
一歩も動かない。
「我が国ローザントを攻めてきたのではないのか!?。」
「俺が用があるのはロナウハイドのみ。奴さえ倒せればそれ以外には興味は無い。」
「ならば父上に辿りつく前に、私が貴様を倒すまで!!。」
「若造が。小癪な。」
 戦いは既に長期戦に縺れ込んでゆく。アントニウスは有利に動けるように長期戦に
持ち込む作戦に出ていた為だ。戦いが長引けば、体力があるアントニウスには有利だが、
壮年であるケレベルにはかなり不利な戦いだ。やがて、体力に限界をきたしたのか
ケレベル片膝を着いた。「遂に限界が来たようだな。御老体。」
アントニウスが近づいたその時、不意に彼が持っていた剣の刃をケレベルは掴んだ。
「な・・・何を。」
そう言い終わらないうちにケレベルはアントニウスの腹を蹴った。
「く・・・っ、卑怯な。」
「残念だが、この手は貴様の父親が俺に使った手だ。そっくりそのまま返してやる。」
 「な・・・なんだ、と・・・。」
苦痛を堪え、果敢に攻撃を仕掛けるアントニウス。しかし、もう既に限界を超えている
はずのケレベルの攻撃は衰えない。
「こんな体力が・・・どこに。」
「甘かったな若造。自分の弱点である老体を補うには体力を温存しておく。それが功を
奏したようだな。」
 次の瞬間からケレベルは俄然猛攻撃を仕掛けてきた。「こっ・・・この私が・・・。」
有利になったケレベルの攻撃はアントニウスを翻弄する。
「し・・・信じられぬ。この男、執念だけでここまで戦えるのか・・・。だが・・・
負けるわけにはいかぬ・・・。」
遠のきつつある意識をなんとか繋ぎとめ、立ち上がろうとするアントニウス。すると、
ケレベルは目配せをした。「もういいだろう。」
 するとケレベルの兵士達は何故かアントニウスを捕らえ、縄で動けないように縛った。
「な・・・何の、真似だ?。」
「恩義ある方への手土産だ。殺すつもりはないから安心しろ。」

 長旅の末アントニウスが連れて来られたのは見たこともない城だった。玉座に一人の
男がいる。この国の王なのか?。歳は父親位か、それに一体・・・。
「王、お約束の手土産です。お受け取り下さい。」
アントニウスは王と呼ばれた者の前へ差し出された。手足は勿論、指先まで縛られて
いたアントニウスは身動きも取れないまま王を睨みつけた。
「確かにあの男にそっくりだ。それに聞けばあの伯父上もまだ生きているというでは
ないか。だが、ここまで。奴の一族は根絶やしにしてしまわぬと気がすまぬ。伯父上と
同じようにな。」
王は腰に下げていた剣の刃先をアントニウスの顎の下に差し込んだ。
「私の事は聞き及んでいるか?。嘗てこの国の王だった我が伯父ラケルタの事と。」
「・・・お、爺様のことを・・・知っているのか。」
「ほほう・・・生きていて、しかもあのロナウハイドを王に祀り上げたのか。隅に
置けぬな。」
「何が言いたい。そしてこの私を生かしておいて何をするつもりだ。」
「そうだな。」
王は少し考えた。
「聞けば貴様、あのロナウハイドの息子という事もあってかなりの腕前を持つと聞く。
どうだ、この私の元で働かぬか?。優遇はするぞ。」
働く?。一体どんな働きをしろというのか。この男も領土を広げる為の働きを自分に
課せようと言うのか。
「貴様も父親同様私の誘いを断るつもりなのか。あの時、後悔はすると忠告したはず
だが、恐らく今頃はその事で後悔しているとは思うがな。」
アントニウスは少し考えた。そして口を開いた。
「一つ聞く、我が祖国に、ロニエールに侵攻する事はあるのか?。」
「無いとは言わん。」
「もし、侵攻に成功した場合は、ロニエールを私にくれるというのであれば・・・。」
「ほう、つまり父親を裏切るというのか。面白い。ロナウハイドもこう正直者であれば
後悔はしなかったはずなのにな。」
 裏切りか・・・。アントニウスは心の中で葛藤を繰り返していた。確かに祖国に刃を
向けるのは気が引ける。しかし、このままだとローザントの提督の地位だけで生涯を
終える事になる。兄が王に即位しても自分はその兄の下から一生逃れられないのなら、
いっそ、兄と刺し違えても一国の王として晩年を飾りたい。兄を差し置いて自分が国を
取る。ローザントを奪おうとしたゲロルトの気持ちがわかるような気がした。
「いや、私はあいつと同じにはならない!!。あいつの上を行く。」
決意を固めたアントニウスの心の中に、消したはずの野心の火が再び灯り始めた。

 「何という事だ・・・。」
報告を受け、ローザントに駆けつけたロナウハイド。ただ、国が無事なのにアント
ニウスが拉致された。これは一体どういうことなのだろうか。「王。」
上等兵の二クラス。レーガトゥスの息子で父親同様アントニウスの側近として彼に
仕えていた人物だ。
「何でも・・・どこかのキャラバンのような格好をした軍隊がローザントに攻め入って
きて、何もしないまま王子だけを散れ去って行ったらしいのです。申し訳ありませぬ。
私目がついていながら・・・。」
「構わぬ、だが、アントニウスを連れ去ったと言うのは・・・。どこの誰で、目的は
一体何なのだ。」
ロナウハイドが考え込むと、ニクラスは答えた。
「王・・・王はケレベルという男を御存知ですか?。王子の一騎打ちの相手がそう
名乗ったとか。」
「一騎打ちか・・・確かどこかでその名を・・・。」
「相手は王を御存知だったらしく、それに『アド・・・なんとか一の兵士』とか・・・。」
その時、ロナウハイドの顔色が変わった。
「・・・そうか、あいつが・・・。生きていたのか。しかし、何ゆえこんな真似を。」
 その夜、ローザント城では極秘の会議が執り行われていた。
「我が息子の失態。何と詫びを申し上げたらよいやら。」
「レーガトゥス、案ずるな。お前やニクラスの責任ではない。」
「しかし、王子にもしもの事があったら。」
「俺は、我が子といえどそんな事に屈するような者に育てた覚えは無い。大丈夫だ。
少なくても俺はアントニウスを信じている。」
二クラスは黙って聞いていた。暫く考えて、
「私が王子を助けに行きます。こうしている間にも王子にもしもの事があったらと
思うと一刻も早くお助けせねば。確かにこんな事に屈するアントニウス王子でない事は
十分承知しています。けど、どんなに屈強な者でも助けが必要なときは必ずあります。
お願いします。出陣を許可して下さい。。」
腕組みをし、暫く考えていたロナウハイド。
「よし、俺も行く。」
「・・・行くのか、罠かもしれんと解かっていてもか。」エルンテベルグが言った。
「そうだ。これは王の心情をかき乱す作戦かもしれぬぞ。」
レーガトゥスも引き止めようとしている。
「ニクラス。お前が指揮を執れ。俺はお前についていく」
「お・・・王が、私に!?。」
「そうだ、アントニウスを救出する。それにケレベル。あいつが生きて俺に挑戦状を
叩きつけてきたのなら、それを受けとるのが礼儀。それに、大陸広しといえどあいつと
まともに戦える者はこの俺しかいない。」

ケレベルがアントニウスをどこに連れ去ったか皆目見当がつかない。ローザントの
兵士達の情報で、兵士の何人かは腕に刺青があった事を目撃しているという。
「刺青だと!?。もしかして天空の使者を模した図案の・・・?。」
ニクラスは驚いて訊ねなおした。「知っているのか?。」
「はい、幼い頃父と共に沐浴をしていた時に見つけ、尋ねた事があります。父が
ルブルムモンスの王だったラケルタ様にお仕えしていた時の名残だそうです。
ルブルムモンスの兵士達は未だにこの刺青を彫ってるのであれば、ケレベルという
男、ルブルムモンスの兵、或いは王と関わりがあるのかと。」
「・・・ルブルムモンスか。遠いな。」
 クーダム城に戻ったロナウハイド。ラケルタの枕元で彼の様子を窺う。
「出撃か。ロナウハイド。」「ああ。」
「暫くは帰れぬかも知れぬ。それまではこの世に留まっていただかないとな。」
「私があの世に逝く時は、プテロプースの首を引き下げて逝かねばならんがな。」
ロナウハイドははっとした。もしかして今回の一連の出来事に気づいていたのか?。
年齢的なこともある為話さないでいたが、どうやら薄々気づいたいたようだ。
ラケルタはかすかに微笑んだように見えた。去りゆくロナウハイドの後姿に、
「生きて帰れよ。」と呟いた。その声が聞こえたのか、ロナウハイドは後ろ向きのまま
手を上げた。

 「ここは一体・・・。」
アントニウスは尋ねた。
「アドウェルサ・コロッセウム。嘗てこの地が一つの国だった頃、ここ一番の娯楽場
だった場所。貴様の父親ロナウハイドはここで『アドウェルサ・コロッセウムの英雄』
として名を売っていた。俺は当時の王の命により、捕虜の身となったあいつをこの
コロッセウムの戦士としてずっと見ていた。再び剣を交わすことを夢見て。」
 父にそんな過去が・・・?。アントニウスは違和感を覚えた。
「父上は、昔の話は一切しなかった。だからそんな話をされても実感が湧かなくて。」
「ここに来たのは今の王であるプテロプース王からの命令で、お前の力量を知りたい
そうで、ルブルムモンス兵と戦って力試しをさせろと言う事だ。」
そう言われ、アントニウスはコロッセウムを見渡した。
「私の強さは、あなたが証明してくれるのではないのか?。」
「王は、戦い振りを見たいと仰っている。その期待に応えるんだな。それに、この
コロッセウムはロナウハイドが戦い続け、名を売った場所。その息子である貴様の
力量を試すのには相応しい場所ではないか?。」
「そういうことか。・・・だが勘違いするなよ。私は父上とは違う。父を越える存在
なのだと言う事を見せ付けてやる。」
 結局、ルブルムモンス兵の殆どを倒してしまったアントニウス。観客席でこの様子を
観ていたプテロプース王も関心を寄せている。
「ほほう、言うだけの事はあるな。本来であればわが国最強の要である『七人衆』とも
対決させたかったがな。まあいい、これだけでもたいしたものだ。」
「当然だ。私のこの名は伊達じゃない。嘗てヴァルトロ帝国という国で『無敗の兵士』の
異名を持つ男の名だからな。」
「ヴァルトロ帝国・・・。ただの伝説かと思っていたが・・・。『無敗の兵士』か。
これは実に面白いな。」
 以来、アントニウスはケレベルの元で兵士としての地位を認められる事になった。
王子の位で誰かの下で働くのは不本意だったが、ここは異国。本来であれば捕虜の
立場でかなり制限された暮らしを強いられるはずなのだが、それに比べればまだ待遇は
いいのかもしれない。そう考え、従うのが身の為だ、と自分を納得させた。
 日が経つにつれ、アントニウスは少しずつ冷静になり、祖国の事を思い出すように
なってきた。この世に生を受けて二十と二年間、遠征でもこんなに長く祖国を離れた
ことはなかった。父と母、懐かしい友人、兄と姉と弟、そして妹達、戦い方を伝授して
くれたエルンテベルグ。そして自分をとても可愛がってくれたラケルタ爺様。
「・・・そう言えばここは・・・爺様の故郷だった。そして今のこの国の王は、爺様
からこの国を奪ったんだな・・・。」
 ここは嘗て、爺様であるラケルタが王政を取り仕切っていた国。今の王プテロ
プースは力ずくでこの国を奪ったと聞いている。一瞬、アントニウスに心の迷いの
ようなものが生じた。だが、首を横に振り、その迷いを打ち消した。
「これだけの戦乱の世。父と子が敵同士になる事もありえなくない。」
アントニウスはそう考える事にして、自分の決めた事を正当化しようとしていた。
 アントニウスの強さは近隣の国々でも噂になり、「ルブルムモンスの黒騎士」。
そう呼ばれるまでには、時間は掛からなかった。
「あまり浮かれるのも程々にしておけ。そのような行為、王は認めはせぬぞ。」
ケレベルの口煩さには毎度の事ながら腹が立つ。だが、これも自分が祖国ロニエールを
手中に収めるまでの事。その暁には自分の足元に虐げてやる。それまでの辛抱だと言い
聞かせ、おとなしくしていた。
 だが、そんなアントニウスの行動を冷静に見ていた者がいた。
「いざと言う時は・・・。」

 ダッハ運河を船で昇り、北を目指す。この日の為に建設した、と言っても過言ではない、
この運河はロニエールを南北に分断し、国内最大の流通の拠点となっていた。途中、
サントヴルカーン山が目に飛び込んでくる。いつぞや見た夢を思い出し、心の中で
「我が聖なる火山の守護神、サント・マルスよ。その力われに授け給え。」そう願った。
 船は帆に風を受け、滑るようにダッハ運河を昇っていく。途中幾つもの支流を分岐し、
北を目指す。ロナウハイドの脳裏にまだ小さかった子供達の姿が過ぎる。優しくそして
頼もしいヴァイスベア、しっかり者のイルメラ、細かいところまでよく気がつく次女
ロザーネ、頭の回転が速く、賢い三男ユニオル、嘗て、火事で失った娘リーリウムに
瓜二つのクラリツァーナ。そして次男のアントニウス。短気で融通が利かないところも
あるが、その根底にある正義感の強さだけは人一倍強いはず。子供達が成人しても尚、
やはり父親として子供達を守ってやりたい。何かあったら助けてやりたい。今度こそ
家族を失う不幸は背負いたくない。そんな思いがロナウハイドの心を埋めていた。

 船を下り、一路アドウェルサを目指す。目的地であるルブルムモンスはアドウェルサの
隣国なのでアドウェルサで体制を整え、ルブルムモンスに乗り込む。そのニクラスの
作戦に則ってロナウハイド達は侵攻を進めた。
「アドウェルサはたしか一つの国でしたが、クーデターで王政は崩れ、今は統治国に
なっていると聞きます。ラケルタ様が王の時代にルブルムモンスと同盟国となり、
サルワートルという人物が代表として提督の地位に着いたとか。だが、王権はルブルム
モンスを奪ったプテロプースに移った今、どうなっているかと。」
二クラスも父親から祖国の事は聞いているらしい。確かに、ルブルムモンスで迫害を
受け、大陸内を彷徨った。あれからもう二十年以上もの歳月が流れた。一緒にクー
デターに参加した仲間達も、アドウェルサ兵達もどうなっているのだろうか。そして
何ゆえわが子アントニウスを連れ去ったのか。
「もうすぐ全てが分かる。」そう信じてアドウェルサ領地内へ入っていった。
 
 不穏な音がロナウハイドの耳元に響く。長年戦場を経験していて初めて分かる音だ。
「やっと到着か・・・。ロナウハイド。久し振りだな。」
「ケレベルか。貴様の為にのこのこやって来てやった。ありがたく思え。」
「そう言えるのも今のうちだ。」
「王子は・・・アントニウス王子は無事なのか?。」
ニクラスが訊ねた。
「その答えは、ロナイハイド、俺と戦って勝ったら教えてやろう。」
ケレベルは剣を抜いた。ロナウハイドも剣を抜き、構えた。
「待て!!。」
ケレベルについてきた一人の兵士がそれを阻止した。
「この一騎打ちの前に、この男と勝負しろ。」
すると兵士の後ろから現れたのは黒い仮面の騎士風の男だ。
「なんだと!!。」ケレベルは驚いたように叫んだ。「この男は・・・。」
そう言い掛けたが、ついてきた兵士全員が槍の先をケレベルに向けた。
「王からの命令だ。もし拒否すればどうなるか・・・、分かっているな。」
「これが、・・・これが王のやり方なのか!?。」
「貴様の行動次第では、貴様だけではなく、この騎士の身の上も保障しかねるがな。」
その会話に附に落ちないものを感じるロナウハイド。
「この者は一体・・・?。」「ケレベルの部下だ。」
「ケレベルの部下?・・・。」
ケレベルが自分との一騎打ちの勝負に何故こんな回りくどい事をしてくるのか
理解できなかった。王の命令とも言っていたが、やはり父親としてアントニウスの
身の上が気になる。蟠りを捨て、相手をする事にした。
 鋭い金属音が響き、勝負が始まった。二、三度剣を交わす。ところがロナウハイドは
剣を反対向きに持ち替え、防御だけ徹した。
「王は・・・何故攻撃しないのか?。」
二クラスは戦い方に疑問を持つ。これまで何度も父や王について戦場を巡ってきたが、
王がこんな戦い方をするのは始めてだった。
ロナウハイドは、相手の騎士に何か呟いている。ニクラスには「何が不満だ!?。」
そう言っているように聞こえた。「・・・ま、まさか、もしや。」
そこで騎士に隙が出来たようだ。ロナウハイドは騎士の仮面を剥ぎ取った。「あ!!。」
そこにはまぎれも無い、アントニウスの姿が。
「・・・お、王子が何故、こんな事を・・・。」
「来るなニクラス。今のお前と私は敵同士。父上に勝って、父上を越えてやる。」
 祖国を裏切ったという罪悪感があるのか、アントニウスはケルベルと共に兵士として
出陣するときは必ず黒い仮面を被って出撃していた。
「馬鹿者が!!。あれだけ自分の力に自惚れるなと言っていたはず・・・なのに。」
アントニウスは再びロナウハイドに襲い掛かってきた。それを意図も簡単に体術で
交わした。腹を突かれて酷く咳き込むアントニウス。よろける身体を無理に起こし、
ロナウハイドに襲い掛かろうとした。
それをもう何度繰り返しただろうか。遂に堪えきれなくなったニクラスが叫んだ。
「王子!!。もうおやめ下さい。・・・これ以上王を悲しませないで下さい!!。」
ニクラスが叫んだ。震える体を抑え、アントニウスはニクラスの方を見た。
「・・・父上が・・・悲しむ、だと・・・?。」
そしてもう一度、父親の方を見た。「ち、父上・・・が。」
 アントニウスは自分の愚かさに気づき、そのショックでもう立ち上がることさえ
出来ない。
「・・・王は・・・プテロプース王は、俺にこんな場面を味合わせる為に俺を探し
出したというのか・・・!?。」
ケレベルが嘆く。
 「貴様・・・こんなことの為に王子を連れ去ったのか!?。」
ニクラスがケレベルを睨みつけた。
「・・・ち、違う、俺は、俺はこの手でロナウハイドを倒したかった。しかし、こうでも
しないと奴は本気を出さない。それは皆分かっているはず。家族を持ち、王として祀り
上げられ、戦う事を忘れている奴に、本気の戦いを思い出させたかった。純粋に戦い
だけを望んだだけだ。」
「よく言う。王子を人質に使い、こんな戦い方を強いた貴様が何を言う。」
ニクラスはケレベルに食って掛かろうとしていた。「よせ、ニクラス。」「王、しかし。」
「こいつは俺の獲物だ。お前は下がっていろ。」
ニクラスはケレベルから離れた。
「これでいいだろう。貴様が望む純粋な戦いというのをしてやろうじゃないか。」
ロナウハイドは再び剣を抜いた。
「さあ、どこからでも掛かって来い。」
再び、ロナウハイドの戦いが始まった。
 金属音が何度も宙を舞う。戦いは五分五分に見える。
「三十年以上か。腕は衰えていないようだな。」「お互い様だ。」
 父が・・・自分の為に戦っている。自分が犯した過ちの為、この男と剣を交えている。
アントニウスは父の愛と、父が生きてきた軌跡と、父に課せられた運命というものを
見せ付けられた気がした。自分の知らなかった父の過去。どんな日々があったのか
想像もつかなかった。
 自分が生まれた時、父ロナウハイドはもう既に四十歳に近かった。その四十年の
歳月にどれだけの葛藤があったのだろうか。ケレベルに拉致され、初めて父の軌跡を
垣間見た。だがそれもほんの一部だろう。知りたい。もっと知りたい。父が歩んできた
過去を。そして自分達家族に対する愛情の深さを。
 気づけばもう二人とも肩で息をしている。
「ここまで戦えるのか。何ゆえ・・・。」
ケレベルが訊ねる。
「貴様には到底分からぬ事だ。」「何だと。」
 どれ位時間が経った事だろう。ケレベルは勿論、ロナウハイドも立ち上がるので
精一杯だ。
「そろそろ負けを認めたらどうだ。」「それはこちらの台詞。」
誰の目にももう二人共戦う気力は残っていないはず。だが、何とか立ち上がり、剣を
交わそうとする。
「も・・・もう終わりに・・・終わりにして・・・くれ。このままだと二人共・・・。」
アントニウスが涙を見せた。「男の癖に・・・。」
ロナウハイドは呟いた。しかし、その言葉が彼を奮い立たせる。
「どこにそんな力が・・・?。」
流石のケレベルもロナウハイドの気迫に圧倒されている。遂に、ケレベルは片膝を
落とした。「くっ・・・。」
「敗北を認めるのか?。」
暫く沈黙が流れる、ケレベルは両手の拳を地面に叩きつけた。
「・・・ああ、無念だが、貴様に勝つことは出来なかった・・・。」
それを聞いて、ロナウハイドは剣を鞘に収めた。
「何故・・・俺は貴様に勝つことが出来ない?。貴様の強さは一体何なのだ?、
アドウェルサでのクーデター以来、俺は貴様に勝つ事だけを夢見てきた。プテロプース
王に拾われ、以来ずっと剣術は勿論、体術も鍛え抜いたつもりだ。なのに何故?。」
「それは・・・俺にも分からん。けれど俺と貴様の違いは何なのか。そう考えたら
俺には守るべきものがある。だからかもしれない。国、家族、仲間、そして生き抜くと
言う意思。まだまだやらねばならない事は沢山ある。」
そう言って立ち上がろうとした。が、戦いでの疲れが出たのかその場で倒れかけた。
「王!!。」
ニクラスが駆けつけロナウハイドを抱き起こす。「ああ、すまん。」
 そのときだった。天地を切り裂く悲鳴が響いた。「・・・な、何っ・・・。」
アントニウスがフードを目深に被った者に喉元を切りつけられた。
「アントニウス!!。」「王子!!。」
「何者!?。」ニクラスはフードを剥ぎ取った。「プテロプース王!!。」
ふらつく身体を何とか起こし、息子の下へ駆け寄るロナウハイド。
「・・・ち、父、上を、こ、越えた、かった・・・。。けど、できな、かった・・・。
・・・ち、父上・・・。申し訳・・・ありません。親、不幸な、この私・・・を
お許し・・・くだ・・・さい。」
アントニウスはそう言って事切れた。
「あ、・・・アントニウス・・・し、しっかりしろ!!。」
「プテロプース王、何ゆえこんな事を!!。」
ケレベルが食って掛かる。
「使えぬ駒には用は無い。あの時さっさと処刑してしまえばよかったな。」
「なんて事を!!。幾らなんでも・・・。」
「ケレベルがこの私を裏切るのではないかと案じて極秘について来たが、まさか、こんな
見応えのある場面に出くわすとは思わなかった。来て正解だった。それに、ケレベル。
貴様の事はこのロナウハイドと互角に戦えると聞いたからわざわざ探し出してやった
まで。だが、今の事で奴に勝てぬのなら貴様も用済みだ。」「な、何だと!?。」
疲弊している身体を奮い立たせ、果敢にもプテロプース王に斬りかかっていた。
が、何度も斬りつけているのに傷一つつけられない。
「そろそろ限界のようだな。」
その言葉に反応したのか、いつの間にか密かに配備されていた兵士達がケレベルを
取り囲んだ。
「往生際の悪い。」
プテロプースは懐に隠し持っていた短剣でケレベルの喉元を斬りつけた。
「こんな事もあろうかと軍服の下に鎖帷子を着込んできたが正解だったようだな。」
喉元を斬りつけられたケレベル。のた打ち回り、遂には事切れた。
プテロプースはロナウハイドの方を見た。
「何と言う親子愛、感動ものだったな。だがそこまで。嘗て『私の元で働かぬか?。
優遇はするぞ。』そう言った事があったが、あの時貴様は私の申し出を断ったな。
その時きっと後悔するだろう、とも言ったな。ロナウハイド、あの時私の申し出を
断らなければ今ここで後悔する事にはならなかったはず。違うか?。」
「貴様・・・自分がした事を分かっているのか?。それに俺は後悔などしておらん。」
「何とでもほざくがいい。だが、その後悔はまだ終らないはずだ。貴様は一生、あの時の
事を後悔し続ける運命になるだろう。」
プテロプースはそう言って高笑いした。その光景がウルスス王子を目の前で殺された
ラケルタと重なった。
「兵を引け。いまのロナウハイドは戦う気等無いようだ。いずれ貴様の国は今頃は
我が軍の別働隊に落とされているであろう。」
「・・・何、なんだと!!。」

 アドウェルサの嘗て城下街だった場所。そこを見下ろせる小高い丘に、ロナウ
ハイドはケレベルを埋葬する事にした。その場所は、ロナウハイドがコロッセウムの
戦士だった時代、与えられた部屋から見ていた風景でもあった。
「奴の父親は名のある兵士だったそうだが、敵前逃亡し、娼婦と駆け落ちまでしたと
いう。その為、奴の一家は世間から疎まれ、それを払拭するために奴は剣の腕を磨いた。
そして王の側近にまで登りつめた。あのクーデター以来、この国から姿を消したと
聞いていたが、恐らく捕虜としてどこかで強制労働でもさせられていたのだろう。俺と
戦う事を夢見ていた、と言っていたが、自分の故郷にに帰りたかったという事もあったと
思う。ならばせめて故郷で眠りにつかせてやりたい。」
 ケレベルを埋葬し、アントニウスの亡骸を布で繰るんだ。せめてわが子には祖国で
その骨を埋めてやりたい。
 気が遠くなるほどの戦場を経験し、死体など飽きるほど見慣れているロナウハイド
だったが、我が子となるとまた別の想いが込み上げてくる。悲しいというよりも、
守れなかったと言う無念さが心を貫く。親である自分を、そして祖国を裏切った。
反逆者であるはずの者。しかし、二十二年間愛した我が子だ。憎むなど出来る訳がない。
最初の妻との間に授かった三人の子供達を失ったときの悲しみが蘇る。
 ロナウハイドは帰国を急いだ。勿論、ロニエールにルブルムモンスが侵攻しているかも
しれないという事もある。「無事でいてくれよ。」
ロニエール本国には家族と、そしてエルンテベルグを残してきた。ローザントには
アントニウスの代理であるレーガトゥスがいる。
「守りは大丈夫だ、と思うが・・・。」
船は運河の流れに沿って勢いよく進む。嘗てこの地を放浪した時には考えられない
早さだが、一刻も早く帰国しなければならないロナウハイド達にとってはもどかしくて
仕方が無かった。
「皆無事だといいが。」
誰もがそう思う中、ロナウハイドは心の中で祈った。守護神サント・マルスに。

 大きな竜の形をした影がサントヴルカーン山を覆い尽くす。影は火山の如く火を噴き、
あたり一面を黒い煙で覆っている。人々の逃げ惑う姿と悲鳴が辺りに木霊する。そこで
ロナウハイドは何故か叫んでいる。
「大陸より与った神の力。その身に叩き込んでみせる!!。」
人々の顔はよく判らなかったが、何故か腕に黒い物を身につけている。それはルブルム
モンス兵が腕に彫っている刺青である天空の使者の絵柄に見えた。
 ふっと気づいた、どうやらアントニウスの遺体を抱いたまま転寝をしていたようだ。
「夢を・・・見ていたのか?。」
船の上で辺りを見回す。「王、間もなくシュトットガルドに到着します。」
「な・・・なんだ!?。」
見るとロニエール上空に黒い煙が舞い上がっているのが見えた。「何があった!?。」

 遠征の間留守を任されたヴァイスベアは弟のユニオルを伴い、王政の執務をこなして
いた。突然床がぐらぐらと揺れる。
「ん・・・何だ?。」「また地震でしょうか。」
「最近、やたらと多いな。」
「噂ではサントヴルカーン山での火山活動が活発になっているとか・・・。」
「・・・神の怒り、とか言うなよな・・・。」
確かに、父ロナウハイドがアントニウスを奪還する為に旅立ってからやたらと地震が
多い。
「地元に古くからいる人の話では、大昔サントヴルカーン山が噴火を起越す前触れと
して地震がやたらと多かったとか聞いています。火山の爆発があるのでしょうか。」
「こちらに被害がなければいいがな。」
「被害もですが、火山の起きた年は必ずと言ってもいい程飢饉に見舞われたそうです。
そうならない為にも。」
「食料を備蓄して置け、という事だな。」「はい。」
この辺りでは、飢饉に強いとされ、しかも保存が利く食料として昔から食べていた食材が
あった。北の地域では毒性のある食べ物として敬遠されていたが、改良を重ね、食料と
して広く栽培されるようになった。それはカトゥフェルと呼ばれる芋の一種で、これは
ユニオルの提案でロニエール国内に推奨され、いざという時の為に備蓄しておく食べ物で
あった。
「飢饉か・・・あったとしてどれ位持つのか。」「それは分かりませんが。」
 そんな会話をしていた時だった。
「大変です。物凄い数の軍隊が攻めてきて・・・国境線をあっという間に破壊し、
凄い勢いで近づいてきています。」「何!?。」「どこの軍隊ですか?。」
「それが・・・全く見当もつかなくて・・・。」
「国境線が破られたのか・・・。解かった。」
ヴァイスベアは立ち上がり、出陣の準備を始めた。
「よりによって父上の留守の時に・・・。いや、父上が不在の時でもこの国は私が
守って見せる。」
「出陣なさるのですか。兄上。」「勿論だ。国境線が破壊されたとなるとこれは・・・。」
ヴァイスベアは少し考えた。
「よりによってアントニウス父上も不在の時にか。・・・。この私にローザントまで
面倒を見ろというのか。」
「二人が不在の時を狙っていた、という事でしょうか?。」「多分な。」
「という事は、兄上を拉致した者達と、攻めて来た軍隊は関係あるという事ですか?。」
「そんな気がする。」
そう呟いて、ユニオルの方を見た。
「お前は万が一の時に備えて一般市民を率いてクーダムの旧市街地へ皆を避難させろ。
分かったか?。」
「それって・・・軍隊が市街地へ攻めてくるという事ですか。」
「その前には食い止めて見せる。しかし、万が一の為だ。あと火山の噴火活動も気に
なる。どちらにせよ避難しておいたほうがいいだろう。」
「分かりました。けど兄上。余り御無理をなされないように。御無事で。」
「分かっている。」ヴァイスベアはユニオルに軽くウインクして見せた。
こうしてヴァイスベアは出陣し、ユニオルは市民の避難を開始した。
 「王子、敵兵は北の方から攻め行ってきているようです。」
「どこの軍隊か分からぬと言うのも、厄介だな。」
「ヴァイスベア王子!!。」
自分を呼ぶ声がする。「レーガトゥスか、ローザントは無事なのか?。」
「今のところは。ですがアントニウス王子の留守の間に攻撃してくるとは・・・。」
「まさか・・・アントニウスをさらった者達と関係があるのだろうか。」
「関係があるとすれば、ルブルムモンスの軍隊。遂にここまでやって来たというのか。」
「ルブルムモンス・・・・爺様が王サマだった国か・・・。」
ローザントの軍隊と合流したロニエール軍。ヴァイスベアの指揮の下、敵の侵攻を
食い止める為、北への侵攻を急ぐ。
 「爺様・・・急いで避難します。ささ、私に掴まって・・・。」
ユニオルがラケルタの避難を急ぐ。
「私はもういい。ここで最後を迎えても悔いは無いつもりだ。だが、我が祖国ルブルム
モンスの繁栄とプテロプースの首を取り損ねた事だけが心残りだ。ユニオル、いいか、
お前の父親に、ロナウハイドに伝えてくれ。重きものを背負わせてすまなかったと、
だがそれが私の最後の望みだと、いいな。」
「爺様・・・。」
「ユニオル王子!!。急いで避難なさった下さい!!。」「しかし、爺様を。」
再び地震が起き、床が揺れた。 

 一方、 前線を守ってきたヴァイスベアだったが、連続して襲い掛かってくるルブルム
モンス兵の数には圧倒される。「ほう、なかなかやるようだな。」
兵の後ろの方から屈強な体つきの兵士が二、三・・・七人か。
肩で息をしながら見上げる。「こいつら・・・一体。」
ヴァイスベアは気を取り直し剣を構えた。
「これだけの数で兵を倒したというのか。少しは手ごたえがありそうだな。だが、我等
七人衆に勝てるかな。」
「七人衆だと・・・。いわゆる特殊部隊という事か。」
七人衆と名乗った男達は様々な武器を駆使し、ヴァイスベアに襲い掛かってくる。僅かに
残った兵士達もヴァイスベアを庇いながら戦う。だが、流石にそういった別名を名乗る
だけあって強さも半端ではない。「王子・・・大丈夫ですか?。」
「私の力を見縊るなよ。」
「・・・ほほう、そうか、貴様、ロニエールの王子か。こいつはいい。こいつは俺が
討ち取って名を上げて見せる。」
「そいつは俺の台詞だろう。」「いや、俺だ。」
そう言って七人達は他の兵士には目もくれずヴァイスベアを集中攻撃する。
「王子をお守りしろ!!。」
兵士は疲弊した身体に鞭打ってヴァイスベアを守ろうとするが、七人衆の相手には
ならなかった。「くそっ・・・。」
ヴァイスベアも自ら剣を振るうが、一筋縄ではいかない。
 再び大地の震動が感じる。「王子、ここは一旦引き下がりましょう。」
「しかし。」「火山の噴火活動が活発になっていると聞きます。降灰に巻き込まれ
ないようにここは避難すべきです。」「・・・そうか・・・。」
兵を引き、一旦避難しようとしたその時、一人の男が放った分銅付きの鎌がヴァイス
ベアの肩から首にかけて大きな傷をつけた。「ううあああっ・・・。」
ヴァイスベアの体から勢いよく血が噴出す。「王子を・・・急げ!!。」
一人の兵士がヴァイスベアを馬に乗せ、走り出した。
「我々も避難しよう。」「相手の兵が追ってくるのでは?。」
「いや、向こうは何が起きているか分かっていないはず。ここは避難できた者の方が
助かるはずだ。逆に国の中心地まで攻め込んできた時に降灰が始まれば場合によっては
一網打尽に出来るかもしれない。」
「一か八か、か。」
ロニエール兵は国内の中心地めざし後退を始めた。
「奴ら逃げるぞ!!追え!!。」
案の定、怒涛の如く敵兵が追いかけてくる。街の中心地へ戻ったロニエール兵はあち
こちに散らばっては降灰を逃れるため、大きな建物の中に隠れた。
「くそう・・・怖気づきやがって、どこだ・・・?。」
「まあ、ここまでくれば袋のねずみだな。街ごと破壊してやる。」
その時だった。空があっという間に暗くなり、昼間だというのに真っ暗になった。
「な・・・何が起きた?。」「うっ・・・ごほっ・・・ごほ。」
「何故だ・・・い、息が出来ん。」
鼻や目、口に至るまで灰が体の中に入り、敵兵は身動きが取れなくなってきた。
「け・・・煙が・・・」
「た・・・松明を、明かりを持っていないのか?。」「昼間にそんなものは・・・。」
煙の形はまるで竜の形の如くロニエール上空を覆っている。
「・・・ば、化け物!?。」
数え切れぬ兵士を引き連れたはずの敵軍は降灰による健康被害の為、次々と倒れていく。
「あ、新しい兵器、なのか?。」「い、いや、神の怒りなのか・・・。」
「こっ、ここは一旦兵を引くしかない。」「しかし、」
敵兵は後退はおろか、身体を動かすこともできない。「くっそう・・・。」
 こうしてサントヴルカーン山の噴火活動は丸一日続いた。溶岩の流出こそなかった
もののシュトットガルドを中心に、クーダム、ローザント、そしてハンストヴェルグの
一部に至るまでの街に灰が広がった。
「・・・ま、街は・・・無事か・・・?。」
出血多量の為、会話もままならぬヴァイスベア。
「喋ってはなりませぬ王子、大丈夫です。ですからゆっくりお休み下さい。」
やがて、避難が解除された。人々は街の様子を見て愕然とした。もうそこは死体の山
だった。嘗て兵士だった老人がその死体を見て言った。
「こいつら、ルブルムモンスの兵士に間違いない。あやつ・・・プテロプースめ。
遂に動き出したか。」

 ロニエールの国内に尋常ではない事が起きている。急いで駆けつけたロナウハイドは
街の様子に強い衝撃を受けた。「何という事だ・・・。」
「王!!。」
衛兵がロナウハイドの帰国に気づき駆け寄ってきた。「いえ、街は壊滅状態ですが、
国民は皆無事です。」「そうか・・・。よかった・・・。」「王!!。」
別の兵士がロナウハイドを呼ぶ。「急いでお願いします。」
「何事だ。」
ロナウハイドが呼ばれた場所に行くと、避難していたヴァイスベアがもう虫の息で
横たわっていた。「ヴァイスベア!!・・・お、お前まで・・・。」
「父上・・・最期に・・・父上の、お、お顔を・・・見れて、う・・・嬉しい。お世話に
なりました。親孝行・・・できなく、てもうしわ、けありま、せんで・・・した。」
「・・・ヴァ、ヴァイス、ベア・・・お、お前まで・・・。」
 アントニウスだけでなく、ヴァイスベアも守れなかった。二人の息子を一度に失い
思わず流れる涙を人知れずぬぐった。アントニウスの時もそうだったが、誕生した時に
初めて抱いたあのときの事が昨日の事のように蘇ってくる。両手を並べた位しかなかった
体格が今は両腕でも抱えきれなくなるほど成長していた。だが、今の気持ちはあのまま
なんら変わりはない。最初の子供達は遺体に手を触れることも出来なかったが、ぬく
もりが消えてゆくヴァイスベアの遺体を肌で感じ、身を切られるような感覚に胸が強く
痛んだ。
 流れ落ちる涙を気づかれまいと空を見上げる。そんなロナウハイドの悲しみとは裏腹に
空は晴れ渡っていた。

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Duke Friedrich Ronniele
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