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第十二章
降灰の片付け作業と同時に、この地で生き絶えたルブルムモンス軍は手厚く葬られた。
ロニエールの元兵士の中にはルブルムモンス時代に共に兵士だった者もいるという事で、 皆、深い悲しみにくれた。 ロナウハイドはというと、嘗てオルケルトの遺跡が残ると言われた地に、長男ヴァイ スベア、次男アントニウス、そしてこの三十年間苦楽を共にしてきたラケルタを埋葬 した。葬儀が終っても、ロナウハイドは思うところがあるのかその場から動かない。 「ヴァイスベア・・・よく国を守ってくれた。ありがとう。だが、俺に言わせれば まだまだなところは沢山あった。色々な事を教えてやりたかった。こんな我儘な俺の 言う事をよく聞いてくれたな・・・。アントニウス。お前の行動力には負けたな。短気で 世間知らずで、俺に刃を向ける結果にはなったが、その野心は評価してやりたい。その 根底にあった正義感で、完全に刃を向けることは出来なかった。俺を越えたいと言って いたが、その心意気があったならおとなしかった兄さんより、お前の方が王に向いて いたのかもしれんな。 ラケルタ殿には随分と世話になった。俺が王として君臨できたのもあなたのお陰。 あなたが生きている間にあなたの無念を晴らしたかったが、叶える事は出来なかった。 だが、俺はそれを『重い』などど少しも感じてはいない。見ていてくれ。」 ルブルムモンスの侵攻を食い止めることが出来たのは、サントヴルカーン山の噴火 活動もあったという事で、この山に対して信仰心を抱くようになっていった。そんな時 いい機会かもしれないと、ロナウハイドは時々見る不思議な夢について皆に話した。 「サント・マルス神か、ロニエールの守護神。」 「まさに、これは大陸神が王に与えた守護神。我が国の守り神と言えよう。」 国の軍旗にサント・マルスが国の象徴として描かれる事になった。 「守護神サマねえ。」エルンテベルグが言う。 「お前は現実主義だからな。神など信じないのだろう。だが、伝説だけを頼りに目指した この地がまさに母が信仰していたオルケルト信仰の基になっていたのは事実だ。様々な 運命に導かれて結果的にこの体内に流れる血がここを目指させた。そう思っている。」 「あれだけの兵を送ったにも拘らず、殆どがロナウハイドの首どころか、国すら 取れなかったとはどういうことだ?。七人衆も一緒に出撃させたはずだが・・・腰を 抜かしてのこのこ帰ってくるとは厚かましいにも程がある。」 国を滅ぼす事を見込んで大量の兵士をロニエールに投入したにも拘らず、大部分が、 降灰による健康被害の為命を落とした。特殊部隊である七人衆も命からがら逃げて 来たと言っても過言ではなかった。 「しかし、王、我々は王子に致命傷を・・・。」 「言い訳など見苦しい。」 プテロプースはそう捨て台詞を吐くと、自室に閉じこもってしまった。 その姿を、複雑な思いで見ている者がいた。 ラケルタから王位を奪い早三十年。周囲の国々から残酷さを噂され、時には非難すら 浴びせられていた。だが、逆にそれを恐れて列強諸国も手を出せないのも事実であった。 しかし、今回のロニエールへの遠征で多くの兵を失った。一時期この界隈最強と呼ばれた ケルベルも黒騎士もいない今、虎視眈々と侵攻を狙ってくる国もいるという噂が絶えな かった。それが、プテロプースのプライドを深く傷つけていた。なんとしてもあの ロナウハイドに一泡吹かせてやりたい。自分の申し出を拒んだ事を後悔させてやりたい。 そんな思いに駆られる日々を過ごしていた。 「父上は、ルブルムモンスを奪還するのですか?。」ある日、ユニオルが尋ねてきた。 「最初はそのつもりだった。だが、あれから三十年。今無理に奪還したところでその国の 人々の生活は大きく変わる。不幸な道を歩むのも多いだろう。ルブルムモンス奪還が ラケルタ殿の願いだったが、今はそれも叶わぬ。ならばプテロプースの首だけでも 墓前に供えたい。」 「そこで考えたのですが・・・。ルブルムモンスに侵攻するのであれば今のうちかも、 そう思いまして、というのは、あれだけの数の兵士を失って、ルブルムモンスの国自体 防衛能力は落ちているのではなかと。つまり、攻め込むのは・・・。」 「今しかない、か。」 「はい。・・・それで、今回は私にもお供させて下さい。」 「何だと・・・?。だめだ。お前を巻き込むわけにはいかない。」 「大丈夫です。私とて父上の子。この地に名を轟かせたロナウハイドの正当なる後継者の 一人です。ご安心下さい。決して父上に後悔はさせません。」 「そうか・・・信じてよいのだな。」 いつまでも小さいとばかり思っていたユニオルのりんとした言葉に頼もしさを感じる ロナウハイドだった。 「レーガトゥス様。レーガトゥス様もロナウハイド王とルブルムモンスへ?。」 ローザントの将軍シュピッテルが訊ねた。 「ああ、遂に王があの男と決着をつける。その場に私が居なくてどうする?。今の ルブルムモンス王プテロプースは私の両親の敵でもある。我が両親、ウルスス王子、 アントニウス王子が受けた無念の死を晴らす為、奴が首を落とすところを見届けねば。 そしてラケルタ殿の墓前にその始終を手向ける為だ。」 「私が思うに、ロナウハイド王は何かお覚悟を決めて居られるような気がしてなりません。 ロニエールだけではない。この国にも必要なお方。決して、早まる事をお考えにならぬ ように祈るだけです。」 「そなたもそう思うか。私も今回の事で奴と差し違えても敵討ちをやり遂げるのではと 考えていた。ただ、私は王がそれを望み、それが王の本望であれば、その望みを 叶えたい。そしてその全てをこの目に焼き付けておく。そなたが王の生還を望む なら祈り続けて頂きたい。だが私は王の意志に任せ、そして自分が見た事実を克明に 伝えよう。それに、ルブルムモンスの統治国だったアドヴェルサも今はどうなって いるか。それをも知る為に行くのだ。」 出発の日、運河の桟橋にはレーガトゥスの息子二クラスが見送りに来ていた。 「では父上。お気をつけて。」 「ニクラス、私にもしもの事があったら、次の提督は国民投票で決めてくれ。これは ロナウハイド王の願い、いや、ラケルタ殿の意思でもある。」 「分かりました。では御無事で。健闘を祈ります。」 こうして出発したレーガトゥス。運河の途中でロナウハイドと合流し、ルブルムモンスへ と向かった。 「聞きました。出撃なさるそうですね。」 ベルリーナが声を掛ける。「ああ。今回の遠征は、当分帰られないかもしれない。」 「寂しくなりますわ。」「兵士の元妻が、何を言う。」 「兵士の未亡人と言う肩書きも、もう飽きました。」「そうか。」 相手の男は寂しそうに笑った。「そうだ・・・こいつをやろう。」 男はお守り代わりに身に着けていた指環を外しベルリーナに渡した。「これ・・・。」 「俺が帰るまで、持っていてくれ。」「ええ・・・どうか御無事で。」 「分かっている。」 「待っています。エルンテベルグ様。きっと生きて帰ってらして。」 「こんな人数で・・・大丈夫なのか?。」レーガトゥスが訊ねる。 「我々は国攻めに行くのではない。分かっているな。」 運河を昇り、再び北を目指す。見えてきたサントヴルカーン山にロナウハイドは 深い祈りを捧げる。嘗てオルケルトの巫女だった母が使徒ゲルマンに祈りを捧げた。 それに倣い、ロナウハイドもまた自らが信じる守護神サント・マルスに祈りを捧げる。 「我が願い、聴き届けたまえ。」 側でその姿を見いたユニオルもそれに倣い祈った。 「サント・マルスの神は今度も我々に味方してくれるでしょうか。」 「ああ、だが実際に戦うのは我等の意思だ。サント・マルスを信じ、自分を奮い立た せる。それで真の力以上のものを奴らに見せ付けてやる。」 「サント・マルス神・・・か。」 レーガトゥスはサントヴルカーン山から立ち上る噴煙を見上げる。あの時の噴火活動が 今はまるで嘘のように静まり返っている。 船は北へ向かって滑るように進む。前回ここを通った時はアントニウスの事で頭が 一杯だったロナウハイドたが、今回は違う。心なしか体内の血がふつふつと煮えたぎって いるような感覚さえ覚えた。 「武者震いか?。」「馬鹿な事を言うな。」 エルンテベルグとのこういったやり取りももう六十年近くなる。思えばずっと一緒に 過ごしてきた。ロナウハイドがイーリスに淡い恋心を抱いた時も、二度家族を持った 時も苦笑いしながら側に居てくれた。「お前についていけば、なんか良い事がある気が して。奴隷から抜け出せたのはお前のお陰だと思っている。」そんな風に言っていたな。 ロナウハイドは昔を省みる。だが、当の本人はいい事などあったのだろうか。この歳に なっても未だ独身で、身よりも無い。結婚を勧めたことも何度かあったが、家族を 持つ事に興味は無い、の一点張りだった。「歳をとっても面倒など見てやらんからな。」 そう言って喧嘩した事もあった。 「どうした・・・?。俺の顔に何か不満でもあるのか?。」 「なんでもないさ。ただ、お前とこうして出陣するのも何度目かと思ってな。」 「数えてないな。もう気が遠くなるくらいの数であることは間違いない。」 「そうだな。」 そう言いながら、ふと空を見上げた。 「エル、お前は昔、俺についてくれば『なんか良い事がある気がして。』と言っていた のを覚えているか?。」 「忘れたな・・・そんな昔の事。」 「で、何かいい事はあったのか?。」 すると、エルンテベルグは少年のように微笑んで答えた。 「国へ戻ったら、思い出すかもな。」 そんな父とエルンテベルグの、少年のような会話を羨ましく思えたユニオルだった。 ルブルムモンスの国境付近で、ロナウハイド達はまるで傭兵のような格好に着替えた。 人数が少ないので、真正面から侵攻するのでは分が悪い。少しずつ街に入り、一気に 城を取り囲む。ユニオルの作戦だ。 「確か・・・こっちに・・・。」レーガトゥスが昔の記憶を頼りに描いてくれた街と 城の見取り図を頼りに攻めやすい場所を選ぶ。夜陰にまぎれての行動は苦労したが、 プテロプースの首がそこにあると信じ、何とか近づく事に成功した。 夜が明けた。城の門番が城門を空けた隙を狙って城内に入り込む。「何者だ!?」 当然の如くルブルムモンス兵が追いかけてくる。二手に別れ、ロナウハイドは馬場に、 エルンテベルグは武器庫を目指す。 「や・・・奴ら、何故馬や武器がある場所がわかる・・・?。」 いきなりの進入で驚いているルブルムモンス兵を尻目に、プテロプースを探して城内を 駆け巡る。いきなり、一人の若者と数人の兵士が前を塞いだ。 「遂に来ましたね。ロニエールの王ロナウハイド。この国を攻めるおつもりか?。」 「攻める・・・?。我々は国を盗りに来たのではない。首を取りに来たのだ。今ここで 我等を討ち取らんとすればこのルブルムモンスが滅びる事になるが、よいかな。」 「何っ・・・」「王の首だ・・・それ以外には何も望まぬ。」 「国民に手を出さぬと言えるのか。」「国などいらぬ。国民にも手は出さぬ。」 「その言葉に違える事は無いと誓えるか?。」 「約束はする。このサント・マルスの軍旗に賭けて。」 ロナウハイドは軍旗を翻した。 「あ・・・あの時の怪物・・・。」 「何だそれは。」若者は側に居た兵士に尋ねた。 兵士はロニエールに攻め入った時に見た上空を覆う雲の話をした。 「怪物だと・・・馬鹿馬鹿しい。」 だが、そうは思っても、軍旗に描かれたサント・マルスの国章に威圧感を感じた。 「本当に誓えるのなら、父に対面するがよかろう。」 「父だと・・・。するとそなたはこの国の王子か・・・?。」 「申し遅れた。私の名はこのルブルムモンス王子リーベリィ。父はあなたが思って いるほど一筋縄ではいかない。お覚悟なされよ。」 「ご忠告、ありがたく行け取って置く。」 意外な事に王子リーベリィが道を開けたのでロナウハイドは進んでいった。 「この先が中庭です。」 ユニオルが説明する。すると大勢の兵士に囲まれたその中にプテロプースは鎮座して いる。 「突然の進撃で、恐れをなしたと思っていたが・・・。」 「見縊るなよ。こう見えても私は一国の王。兵士上がりが何を言う。」 「口が達者なのは変わらぬな。」 ロナウハイドは馬を降りた。「覚悟いたせよ。プテロプース。」 「敵討ちか・・・。」 ロナウハイドは剣を構えた。するとプテロプースは不適な笑を見せた。 「私の首を盗る前にこの七人衆を討ち取って見せよ。それからだ。」 「この俺一人倒すのに七人も必要とは・・・。ルブルムモンスの兵は腰抜けしか 居らんのか。」 するとプテロプースは不満な表情を露にした。 「ちいっ・・・。ならばもう一人味方をつけることを許す。ならいいだろう。」 するとユニオルが立ち上がった。「私が・・・。」 だが、エルンテベルグがそれを止めた。「お前はおとなしく見ていろ。」「しかし。」 「いいから、ここでお前には男の本気の戦い方を見せてやる。」 男の本気の戦い。そう言われユニオルはぐっと息を飲み、座った。 背中合わせに武器を構えるロナウハイドとエルンテベルグ。迫り来る屈強な男達を 物ともせず、寧ろ戦いを楽しんでいるように見えた。 「や・・・奴ら、化け物か・・・これだけやってもびくともしねえ。」 「なんて強さだ・・・。こんな年寄りにこの俺達が苦戦してるなんて。」 「これが・・・男の本気の戦い・・・なのか。」 ユニオルもこの戦いの流れから目を離せない。遂に最後の一人が倒れた。 「信じられぬ・・・。あれだけの戦い方をしても息一つ切れてない。」 「さあ、約束だ。この七人は倒したぞ。次は貴様の番だ。」 七人衆がロナウハイド達を疲弊させれば多少は自分が有利に立てる。そう読んでいた プテロプースだが、七人衆の効果は全く通用しない事に焦りを感じた。自分が有利に 立てるための巧い手立ては無いかと考えたが、何も思い浮かばない。せめてあの時、 ケレベルを生かしておけばよかったと後悔したが、遅い。 エルンテベルグがプテロプースに近づいた。すると兵士が数人プテロプースを庇うように 立ち塞がった。 「約束を違えるつもりか。俺達の強さは知っておろう。余計な事をしないのが身の為だ。」 エルンテベルグは剣を二、三度振るう。プテロプースを庇っていた兵士はそれだけで弾き 飛ばされる。「くっ・・・。」 エルンテベルグがプテロプースの首元を掴もうとした。その時プテロプースは短剣を 突き刺した、と思いきや、エルンテベルグの手の方が早く、短剣を叩き落した。 「小癪な!!。」首元を掴んだまま、エルンテベルグはプテロプースを投げ飛ばした。 プテロプースが転がった先にはロナウハイドがいた。 「私を殺しても、私の息子が貴様を倒す。」 その言葉にはっとするリーベリィ王子。それに気づいたのはユニオルだけだった。 プテロプースは構えていた剣を振りかざし、二人に迫って来た。いとも簡単に交わす 二人だが、逆に攻撃が効かない。 「あの全身鎧のせいか・・・?。」 長く戦い続けたせいかロナウハイドとエルンテベルグもかなり体力を消耗し、肩で息を し始めた。「そろそろ決着をつけんといかんな。」「ああ。」 エルンテベルグは力を振り絞り、プテロプースを羽交い絞めにした。「な・・・。」 「ロニー!!。喉を突け。」「エル!!、しかし。」 「全身鎧で固めているこいつには刃は役にたたん。唯一露出している喉を突けば絶命 する。早く・・・!!。」「しかし、そんな事をしたらお前も・・・。」 「いいから、やれ!!。」 ロナウハイドは覚悟を決め、プテロプースの喉に剣を突き刺した。エルンテベルグに 当たらないように。「うっぐぐぐ・・・。」 「ロニー、何生ぬるい事をやっている!!。」 エルンテベルグは片手を離し、剣の刃先を掴んで深く突き刺した。「ううっ・・・。」 当然のことながら剣はエルンテベルグの喉も貫く。 プテロプースは苦しさの余り、遂にその場に倒れた。同時にエルンテベルグも倒れた。 「・・・俺が・・・ラケ、ルタ殿の・・・代わり、にこい・・・つの首を・・・持って 逝く。」 「エ・・・エル、しっかりしろ!!。逝くんじゃない!!。一生俺について来るんじゃ なかったのか・・・。」「・・・す、ま、な、い。・・・。」 エルンテベルグは遂に剣を落とし、事切れた。だが、もう片手で抑えていたプテロ プースの頭は離さなかった。「エルーッッ!!・・・。」 一瞬、時が止まったかに見えた。皆はっと気を取り直す。中庭の中央には二人の男の
遺体が転がっている。敵として討たれたこの国の王プテロプース。そしてロナウハイドが 必死に抱きかかえているエルンテベルグ。この現実の有様をユニオルは自分の脳裏に 焼き付けようとしていた。 エルンテベルグを抱きかかえ、ロナウハイドは悲しみを振り切るように立ち上がった。 そして、ユニオルの前に近づいて来る。一歩一歩がエルンテベルグとの六十年に亘る 人生を物語っているようだ。 エルンテベルグの遺体をユニオルに託したロナウハイド。「エルを頼むぞ。」 そして再び庭の中央に行き、叫んだ。 「この国ルブルムモンスの王子はいるか!!。リーベリィ王子はどこだ?。」 すると兵士に囲まれたリーベリィ王子が現れた。 「私は逃げも隠れもいたしません。」覚悟を決めた強い瞳には恐れや恐怖などは 感じられない。ロナウハイドはリーベリィ王子の瞳をじっと見つめた。すると リーベリィ王子は一呼吸し、「お前達は下がっていろ。」そう言って兵を引かせ、 ロナウハイドと対面した。 するとロナウハイドはそこに胡坐を掻いて座り込んだ。「やれ。」「えっ?。」 「俺はお前にとって父親の敵だ。遠慮なく討て。」 そう言って持っていた剣を地面に突き刺した。 見守っていた兵士達がざわめき始める。その様子を、ユニオルは黙って見ている。 地面に剣を突き刺したと言う事は、戦いを放棄した事を意味する。ユニオルは父の 覚悟を決めた姿を忘れまいと心に焼き付けようとしていた。 リーベリィ王子は剣を取り、剣先をロナウハイドの背後から首元に近づけた。 「・・・出来ない・・・。」リーベリィ王子は剣を落とした。 「どうした、この界隈に名を轟かせたロナウハイドの首を討ち取ればお前の名声は 上がる。王の肩書きを名乗る者は皆この首を欲しがっているのは知っておろう。その 名誉をお前にやるといってるのだぞ。」 だが、リーベリィ王子は剣を取ることはなかった。 「確かに、あなたは我が父の敵。父の無念を晴らす為、敵を討つのが筋だろう。だが、 討てない。自ら差し出された首を討ったところでそれを誰が名声と呼ぶだろうか。」 その言葉にはっとするロナウハイド。ユニオルもまたその言葉の持つ意味を噛み締めて いた。 リーベリィ王子は更に続ける。 「父の蛮行は嘗てウルスス王子の婚約者だった母から聞いていた。周囲の国々からも 聞こえてきた。敵も多かった。だが家族だった。父の敵は私が討つべきなのだろう。だが、 あなたを討つことはできない。もし討ったとしたら、今度はそこに居るあなたの息子が 今度は私を敵として討とうとするだろう。そしてそれは永遠に続く殺し合いを助長する だけだ。父の蛮行に終止符を打つ意味で私は父の仇は撃たぬ。父の・・・、蛮行で汚れた 血を継ぐ私が、父を裏切る事でこの無益な仇討ちの連鎖を断ち切る。」 暫く沈黙が流れた。最初に口を開いたのはロナウハイドだった。 「敵に情けをかけられるとは・・・。」 「勘違いなされるな。あなたの為ではない。あなたの息子の為だ。そして自分には 敵討ちなど荷が重過ぎる。それはあなたの息子も同じだろう。やっとの事で掴んだ平和を こんな事で失いたくない。腰抜けだろうが何だろうが言われても構わぬ。自分が生まれ 育った国を憎しみで汚したくない。ただそれだけだ。」 リーベリィ王子はそういうと兵士達に命じた。 「父を埋葬します。手伝いなさい。」 そして去り際にロナウハイドに向かって言った。 「先王、ラケルタ様にお伝え下さい。あなたに代わってこの国の平和と安寧を守って いくと。」 「分かった。それを聞いて安心した。」 一部始終を見ていたレーガトゥスが呟いた。 「・・・シュピッテルよ。そなたの祈り、通じたな・・・。」 そう言って見上げた青空に浮かんだ雲は、まるで軍旗に描かれた守護神サント・ マルス神の姿のように見えた。 |
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2018年01月11日
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