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サント・マルスと混沌の邪神
逆らえない運命なら、その運命を受け容れ、自分らしく生きる

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家の事も、トミコに任せきり、なのかと思えばそうでもなかった。
仕事が遅くなって帰ると、夕食に出来合いの弁当が用意してあった。
そして一言、「遅くなるのは仕方がないが、夕飯に何を作るかぐらい
行って欲しかったな。」といって、それ以上は何も言わなかった。
怒っているのか?。そうも考えたが、翌朝になると何も言わずいつもの
ように朝食を摂り、出勤していった。
 それがトミコには悲しかった。喜怒哀楽を素直に表現するケンジと違い、
タカシはいつも難しい顔しか見せない。
 家族としてどうして欲しいのか。妻として何を望んでいるのか?。その
事について何度か話し合っては見たものの、答えはいつも「自分で考えて
くれ。」それしか言わなかった。
 この家庭に「愛」があるとはどうしても思えなかった。今のトミコに
とってタカシはただの同居人。養ってくれる人と開き直る事が出来れば
どんなに楽だろう。
 一緒になるべきではなかったのか。結婚する相手ではなかったのか。
タカシが何も言わない分、トミコの頭の中にそんな考えが浮かんでは
消え、それを繰り返していた。
 そのせいなのか、ケンジとの思い出は今も色褪せる事はないまま、
トミコの心の中で美しく輝き続けていた。
 久しぶりに逢うケンジはあの頃のまま大人になり、父親になっていた。
とは言え、今はあの頃のような笑い声は聞こえない。それは仕方のない
事だが・・・。
 家の中に戻ってきたケンジは、祭壇の前にいた息子のすぐ後ろに座った。
廊下越しに台所から二人の様子を見る。あの頃と違い、トミコとケンジの
間には時間という壁が出来上がっている。暫く妻の遺影を見つめていた
ケンジ。「トミちゃん。」
はっとした。自分がケンジを見ていたのに気づいていたようだ。
「はい?。」
トミコは喪服のポケットに入れっぱなしの数珠を掴み、返事をした。
「・・・いろいろ、ありがとう。」
ケンジは遺影の方に顔を向けたまま少し上を見上げた。
泣いている?、そんな気がした。男の子は泣いちゃいけない。そんな信条を
持っていたケンジだったが、今日だけは違うようだ。けど、トミコの方を振り向く事はない。泣き顔を見られたくはないのだろう。いかにもケンジ
らしい素振りなのだが、その分、トミコの事は、泣き顏を見せる程、
心許せる相手ではなかったという事なのか。
ケンジは相変わらず、妻の遺影から目を離さない。その姿が、涙で妻を
見送るケンジの家族としての役割のような気がした。
「家族」・・・。そう考えてトミコは思った。
遺影に写る人は、ケンジの家族なのだ。愛してもいるだろう。ふと、
スズエの遺影に、トミコは自分を重ねてみた。
急に我が家が恋しく感じた。無口で何を考えているのか分からない夫の待つ
家に帰るのも億劫だったときさえあるのに、今日は家が恋しくてならな
かった。
娘のユナの事も気がかりだったが、タカシの顔も思い浮かんだ。
 葬式の前に一度家に帰る事にしたトミコ。家路を急ぐトミコの頭の中では
ケンジに会えた懐かしさより、今の生活に戻らねば、という思いでいっぱい
だった。「ただいま。」「あ、ママ・・・お帰り。」
ユナがトミコに抱き着く。「お帰り。」なんと、タカシが玄関まで迎えに
出てきた。
「ごめんなさい。留守にしっぱなしで・・・。」
「いいよ、仕方ないじゃないか。」
怒っているのかどうかわからない返事にトミコは戸惑う。思い切って
訊ねてみた。「怒ってる?。」
「そんな事ないじゃないか。」
その答えに、トミコは何かが吹っ切れた気がした。そして気が付いた。
 この人は、自分の気持ちを表すのが得意じゃないだけなんだ。何を考えて
いるのか分からない時は、こう訊ねたっていいんだ。
トミコはこの八年分の蟠りが解けた気がした。
「家族」ならば、きっと心が開ける。そんな手応えを感じたトミコだった。

                   

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Duke Friedrich Ronniele
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