ここから本文です
サント・マルスと混沌の邪神
逆らえない運命なら、その運命を受け容れ、自分らしく生きる

書庫第一幕 第 四章

記事検索
検索

全1ページ

[1]

第四章
「噂を聞いたか?。何でも、隣国クラーテールが堕ちたってよ。」
「本当か?。あの国を落とせるなんて余程強い軍隊を持ってなきゃ出来ねえぜ。
で、一体どこの国だい。そんな軍隊を抱えているのは?。」
「コ、コル・・・何だったかコル、リスとかいっていたな。」
馬車の外からそんな話が聞こえてきた。自分には関係の無い話だと分かっていても、
なんとなくその話が気になる。しかし、振り向こうにも首につけられた鉄の首輪が
邪魔してそちらに顔を向けられない。大体そんな話を聞いてたとしても自分には
縁の無い話だ。ロナウハイドはすぐに忘れる事にした。
 やがて馬車は今日の仕事場である大理石の採掘所へ着いた。今日は、と言うものの
実際はもう何ヶ月もその採掘所が仕事場だった。
 丁寧に大理石を切り出し、磨く。そんな仕事が続いていた。
 石を切り出すのは容易ではなかった。鑿を打つ位置や角度を間違えると割れてしまう。
そうなれば商品にならない為、こっ酷く叱られ、鞭で打たれる。ヘタすれば食事にも
ありつけない。ロナウハイドは今日は失敗しませんように、と祈るだけだ。
 「ロニー、元気出せよ。」
そう言えば今日は親友のエルも一緒だ。「ああ。」
ロナウハイドはなんとか笑って見せた。
 太陽が照りつける真下での作業は過酷だった。朝、出かける前に与えられた食事など
とうに消化しきっていて空腹を抑えるのに精一杯だ。空腹を誤魔化す為、水を沢山飲んだ。
 しかし、そんな事をしても空腹は抑えられない。分かってはいたが。
 ふと、辺りを見渡すと、何やら遠くの方に土煙が上がっている。
「おいっ!!。いつまで飲んでる。さっさと持ち場について仕事を続けろ!!。」
言うが早いが鞭のうなる音がし、慌てて持ち場に戻った。「振動?。」
他の誰かも気付いたようだ。振動は大きくなり、土煙と共に大勢の軍隊が現れた。
「へ・・・兵隊だ・・・。」「こ、殺されるのか。」
奴隷達は勿論、見張りの役人も大慌てだ。しかし、あっという間に軍隊に取り囲まれて
しまった。
「た・・・たっ、助けてくれ!!。おっ、俺達は何もしやしねえ・・・。お願いだ。」
すると軍隊はきょとんとし、少し間を空けて笑い出した。
「安心しろ。何もしはしない。だがなよく聞け。本日よりこの地はわが主プーニ
ケウス王が統治する事になった。であるからして貴様達は本日を持ってコルリス王国の
者となるのだ。」
「な、なんだって!!。」

 「お前達・・・。」
コルリス兵の一人がロナウハイドを見ている。
「怖くないのか?。俺達が・・・?。」「・・・怖い・・・?。」
ロナウハイドは逆に尋ねた。兵士はロナウハイドをじっと見つめている。
ロナウハイドはなんとなく目をそらしてはいけない気がして、兵士を見つめた。
「・・・・フッ・・・・フッハッハッハッハハハハハ・・・。負けたよ。」
それを聞いてロナウハイドは何が起こったのかと思った。
「随分度胸が据わっているじゃないか。気に入った。お前、俺達と一緒に来るか?。」
「・・・どういう事だ?。」
「兵士に推薦するってことさ。これだけ度胸が据わっている者を奴隷で終らせるなんて
勿体無いからな。どうする?。少なくてもここよりはまともなメシは食えると思うぜ。」
兵士か・・・。ロナウハイドは考えた。兵士となれば当然殺し合いに参加する事になる。
自分に出来るだろうか。そんな不安が頭を過ぎった。しかし、ここままだと本当に一生
奴隷のままだ。「・・・分かった、行くよ。」
「ロニー!!。」それを聞いてエルが飛び出してきた。
「お前、兵士になるのか・・・本気なのか?。」
「ああ。」「怖くないのか?。死ぬかもしれないんだぞ。」
「ここにいたって結局はは働きすぎで死ぬんだ。どっちにしても死ぬのには変わらない。
けど、兵士になればここよりはきっとまともな暮らしが出来る。」
そう言われて、エルは少し考えた。「・・・分かった。」
「そうか・・・。」「俺も一緒に行く。」「えっ・・・。」
兵士は目を丸くして尋ねた。「お前も一緒か、これはいいや。よし、着いて来い。」
 兵士は下っ端の兵士らしき人物を呼んだ。「こいつら、今すぐ連れて行くぞ。」
「はい。」そう言って二人を馬に乗せた。

「俺の名はミレス。孤児だった俺に兵長が付けてくれた名前だ。ところで、お前達の名は
なんて云う?。」
「俺は・・・ロニー・・・いや、ロナウハイドだ。」
「ロナウ、ハイド?。凄いな、まるで貴族みたいな名前だな。ようし、その名に負け
ないよう。立派に働いてくれよ。で、そっちのお前、名前は?。」
「俺はエル・・・。うーんと、エル・・・ンテ、ベルグだ。」
その名を聞いて、ロナウハイドはえっ、と思った。「いつの間に・・・。」
ロナウハイドはエルには何か云おうかと思ったが、やめた。
「ここの兵長の名はヘーロス。さっきお前達を誘った男だ。兵長は勇敢で正義感が強い
男だ。孤児だった俺を一人前の兵士として育ててくれた恩人だ。お前達も兵長の下で
立派な兵士になってこの国を守ってくれ。」
笑顔でそう言うミレスは強く頼もしく見えた。ロナウハイドはこれから新たな人生が
始まる。自分の未来に少し希望が見えてきたような気がした。

 兵士としての訓練は厳しいものだった。ヘーロス兵長が直々に手解きを示すが、
ロナウハイドも、エル・・・いやエルンテベルグも付いていくのがやっとだった。
確かに判断を誤ると戦場では即、死に繋がる。息を抜いている暇はなかった。だが、
乗馬も槍の使い方も巧くいくと兵長は褒めてくれた。褒め上手なヘーロス兵長の教えも
あって、ロナウハイドもエルンテベルグも兵士として少しずつ腕を上げていった。
 ロナウハイドが十四歳になった頃、コルリスの隣国アドウェルサの王が死に、新しく
次の王シルールスが誕生した。平和を望む先王に対し、新王は貪欲に満ちた王であると
言う噂だった。その為か、即位後間もなくコルリスとの国境沿いの街に火の手が上がった。
 「宣戦布告のつもりか!!。」
いつもは冷静なヘーロス兵長が怒りを露にしている。遂にロナウハイドとエルンテベルグの
初陣が決まった。
 「行くぞ!!。」
ロナウハイドは覚悟を決めた。次々と襲ってくるアドウェルサ兵を目にも留まらぬ速さで
叩き返す。同じ時期に兵士になった仲間の中には恐れをなして逃げ出すものもいた。
しかし、怯んで入られない。ここで逃げたら奴隷に逆戻りのような気がして必死で
戦った。
 幸いな事に、討伐に成功したロナウハイド達コルリス兵。凱旋で多くの賞賛を浴びる
事ができた。それを褒め称える為、王プーニケウスが宴を開いてくれる事になった。
そこで初陣ながら勇敢にも戦ったロナウハイドとエルンテベルグは王に謁見する事を
許された。
「その者達か。初陣ながら果敢にも戦い抜いたという者は。」
「はい。」
ヘーロス兵長と共にロナウハイドとエルンテベルグは王の前で跪き、敬意を払った。
「でかした。褒めてつかわす。また今後もこの国の為、力を貸してくれるな。期待
しているぞ。」
 二人の目の前に別の衛兵が現れた。「褒美だ。受け取れ。」
衛兵は二人の目の前にそれぞれ剣を差し出した。ロナウハイドはそれを受け取ると
そっと鞘から出してみた。鏡のように光る剣だ。「これを・・・。」
ずっしりと重みのあるその剣をしまおうとした時、剣に人物が映った。「え・・・。」
思わず振り返ると後ろの方の席に美しい少女が座っていた。煌びやかな装飾品を身に
纏っていたので高貴な身分の少女である事が分かった。

 アドウェルサが再び奇襲を図ってくるかもしれない。ただ、今のところそういった
動きもないのでロナウハイド達は鍛錬と訓練に一日を費やしていた。その様子を見た
ヘーロス兵長とエクウス将軍は剣術大会を開催する事にした。ロナウハイドもエルンテ
ベルグも勿論、他にも何人かが名乗りを挙げた。その顔ぶれを見て、兵長は
「これは見物だな。」と笑顔になった。
 やがて剣術大会の日がやってきた。日ごろの鍛錬の成果なのか、ロナウハイドも
エルンテベルグも順調に勝ち進んでいく。
「あ・・・。」
ロナウハイドの次の対戦相手はなんとミレスだった。ミレスは剣先をロナウハイドの
鼻先に突きつけた。
「言っておくが、お前が相手だとしても容赦はしないからな。」
ロナウハイドにとって兄貴のような存在のミレスだけに、彼の言葉は心に響く。
「望むところだ。」
二人の戦いはなかなか決着を見せない。そのせいか、見物人達は手に汗握る戦いに、
目が離せない。ふと油断した隙にロナウハイドは剣を持っている利き手をミレスに
取られてしまう。「くっ・・・。」
「どうした、ロナウハイド。降参か?。」
ミレスの前で格好悪いところは見せられない。丸腰ながらも果敢に立ち向かう。逆に
ミレスの剣を取って見せるさ、そんな勢いで攻めまくった。
「なんと、武術で掛かってきたか。残念ながら武術は俺も得意なんでね。」
「そんな事、百も承知だ。」
なんとかミレスの隙を覗う。しかし、ミレスも言うだけの事はあるらしく、なかなか隙を
見せない。そんなロナウハイドの目に飛び込んできたのは、王の隣にいたあの少女だ。
 「おっりゃあああああっ・・・。」
ロナウハイドは大声を上げてミレスに迫った。その迫力にミレスは思わず隙を見せて
しまった。剣を持ったミレスの利き腕にロナウハイドは蹴りを入れた。剣はその勢いで
ミレスの腕から離れ、飛んでいった。「あ・・・しまった。」
叫んだのはミレス、ではなくロナウハイドだった。ロナウハイドは急いで剣が飛んだ
方向へ走った。剣は勢いに乗って客席にいる王の側に向かっていた。ロナウハイドは
手を伸ばし、剣を止めた。剣はロナウハイドの腕を傷つけ、その場に落ちた。その瞬間
ロナウハイドは安心したのか倒れこんでしまった。
「王・・・お怪我は・・・?。」「私は大丈夫だ。それより、この者を・・・。」
薄れてゆく意識の中、そんな会話がロナウハイドの耳に入ってきた。

「・・・気がついたか。」
そこにいたのはミレスだった。気を失ったロナウハイドは部屋に連れて来られ、介抱
されていた。「おい、ロニー、大丈夫なのか?。」
エルンテベルグもそこにいた。
「試合は・・・どうなった?。」
「残念ながら優勝は俺が戴いた。だがな、王がお前の事とても関心されていたようだぞ。
気が付いたら王の部屋へ来るようにってさ。」
ミレスは兄貴ぶってロナウハイドの頭を撫でる。「何するんだよ・・・。」
ロナウハイドが不貞腐れ、その手を払い除けるとミレスはまるでいたずらっ子の
ように微笑んだ。

 王の部屋では王の他、お付きの者達や、下男達が数人いた。そしてロナウハイドの
目を引いたのはあの美しい少女だ。
「ロナウハイド、様ですね。」
少女はロナウハイドに微笑みかけてきた。様、なんて未だ嘗て呼ばれた事などなかった
ロナウハイドは完全に舞い上がってしまい、言葉も出ない。
「・・・そう硬くならずとも良い。」
王はそう言ってにっこりと微笑んだ。
「・・・それにしても、見事な戦い振りだったな。聞けばこの城に来るまで剣など
持った事がないというではないか。それをよくあそこまで戦えたものだ。それに
先日のアドウェルサの攻防戦でも手柄を収めたとも聞く。若いのに感心なものだ。」
王に褒め称えられ、ロナウハイドはますます緊張が高まる。それと、側に居る少女の
事も気になって、何を言われても「はぁ。」としか答えられない。
「お父様。私にもお話させてください。」
少女は王に言った。「ああ、すまんかった。」そしてロナウハイドのほうを見た。
「わが娘、イーリスがそなたに礼を申したいと言ってな。わざわざ足を運んでもらった
次第。よいかな。」
「あ・・・は、はあ。」
何だろう、礼を述べられるって何かしたかなあ、と思いつつ話を聞く事にした。それに
王女様だったのか。ロナウハイドの頭の中にそんな言葉が過ぎった。
「あの時・・・ミレス様の剣が私に向かって落ちてきて・・・もしロナウハイド様が
あそこで飛び出してこなければ、私は大怪我をしていたかもしれなかったのです。
貴方のお陰で私は怪我をしなくて済みました。けどロナウハイド様が怪我をされて
しまって・・・本当になんとお詫びとお礼をしたら良いかと・・・。」
イーリス王女が申し訳なさそうな顔をしている。そんな彼女を見ているロナウハイドも
少し困ってしまった。こんな時、気の効いた言葉の一つでも出れば丸く収まりそうなの
だが。
 暫く沈黙が流れた。王女は左眼の端を薬指で擦っている。
「あ・・・いや、おっ・・・俺はべっ、別に・・・、ただあそこで、あのままだったら
誰か怪我するなあと思って、つい。」
「・・・そうでしたか、そう言えばお怪我の具合は?。」
「別に・・・大した事じゃないし・・・。」「けど・・・。」
再び沈黙が流れた。ロナウハイドは場の空気を変える為思い切って自分から話した。
「色々心配させてしまって、悪かった・・・です。謝るのは、俺の方かも・・・。」
「そんな・・・ロナウハイド様はお気遣いされなくても・・・。」
「あ、その、『様』って言うのはやめてくれないかなあ。なんか恥ずかしいし。」
「えっ・・・。ではなんとお呼びすればよいのですか?。」
イーリス王女は困った顔をして尋ねた。それを見てロナウハイドも困ってしまった。
「い、いや、普通に・・・ロナウハイド、でいいけど。」
「そうなのですか。ではそうさせて頂きます。その代わり、私の事も『イーリス』と
呼んで下さいね。」
イーリス王女はやっと笑顔になったので、ロナウハイドも安心した。
 「あの・・・ところで、ロナウハイドというお名前はどなたがお付けになったの
ですか?。あっ、突然ごめんなさい。なんか変わったお名前だなと思って。」
「変わった名前・・・なんだ。」「あ、お気に障ったらごめんなさい。」
「いや、いいけど・・・そうかあ、どっから話そうか・・・。」
ロナウハイドは少し考えた。
「俺の母さんはオルケルトっていう一族の巫女だったんだそうだ。そのオルケルトが
信仰していた大地の神・・・大陸神の使徒に仕えていた勇者の名前だったんだって。」
「・・・オルケルト・・・その名確かどこかで・・・。」
側で聞いていた王が呟いた。
「何でも聞くところによると、その昔どこかの国に滅ぼされたと聞いているが、
ただの伝説かと思っていたが・・・。」
 ロナウハイドはその話をもっと聞きたかった。母が、どんな所で生まれ、そして
暮らしていたのか。幸せだったと言うその時間をどこで過ごしたのか知りたいと
思った。けど、相手は王。どんな風に話を切り出そうか・・・。
「王・・・そろそろお時間かと・・・。」
側近が王に話し掛けた。「おお、そうであった。」
 その雰囲気にもうこれ以上は話は出来ないと感じたロナウハイドは
「じゃ、俺はここで・・・。」と、席を立った。「ロナウハイド・・・。」
イーリス王女はロナウハイドに、「またお話を聞かせてくださいね。」
そう声を掛けた。

 あの少女は王女様。本来であれは対等に話など出来ない相手だ。けど、今の自分は
それが可能だ。奴隷の頃とは大違いだ。そんな思いがロナウハイドに優越感を与えて
いた。食堂で食事を摂り、部屋へ向かう途中の事。同じ年代位の兵士数人とすれ違った。
「・・・気になるんじゃねえよ・・・卑しい身分のくせに・・・。」
そんな事を言われた気がして振り向いた。だが、その兵士達は何事もなかったかの
ように行ってしまった。何だったのだろうか。ロナウハイドにそんな疑問が残った。
 次の日、ロナウハイドはミレスから、「大事な話がある」と言われて彼の相部屋へ
行った。部屋にはミレス一人だ。「・・・大事な話って?。」
「ここに座れ。」「うん。」
ロナウハイドは彼のベッドに腰掛けた。
「俺、今回の事が認められて、妻を娶る事が許されたんだ。」
「どういう事?。」「結婚する、って事だ。」「誰と・・・?。」「知ってるだろ。」
ミレスに恋人がいたのは皆知っていた。相手は貴族の姫。嘗て浮浪児だったミレスは
彼女の両親に結婚を反対されていたが、今回の活躍で王から、二人の仲を認めて欲しい
と言われたそうだ。王からの薦めで遂には彼女の父親も二人を認め、結婚するに至った
という。
「嬉しいのは嬉しいのだが、周りからの僻み等も多い。『いい気になるな』なんて事も
言われた。まあ、俺はそんな事じゃ挫けないけどな。そこでだ。お前も気をつけろ、
昨日、王や王女と話をしたそうじゃないか。余り変な僻みを受けないように、有頂天に
なるのもほどほどにしておいた方もいいぞ。」
「う、うん。」
と、返事はしたものの、どうすればいいか正直分からない。ミレスの話もぴんと来ないし
話だけは留めておこう、その時はその程度だった。

 何日かして、ロナウハイドはイーリス王女にお茶に誘われた。鍛錬の空き時間に、と
言う事だったが、なんとなく気恥ずかしい気がして、その時は「用事がある」と言って
断った。また何日か経ったある日。兵士の訓練場にある草むらに寝転がっていると、誰
かが、自分を呼んでいる。「あ・・・。」イーリス王女付きの下女だった。
「こちらにいらしたのですね。王女がどうしてもロナウハイド様とお話がしたいそうで。」
なんと、向こうから来るとは。流石に今回だけは断れないな、と思った。
 下女が草の上に敷物を敷き、王女はその上に座った。
「ロナウハイドもここに座って。」「あ・・・うん。」
ロナウハイドは王女の隣に腰を降ろした。「あの、話って・・・?。」
と言い掛けてロナウハイドは少し戸惑った。王女の顔がこんなに近くにある。それだけで
何故か胸がどきどきしてきた。「あ・・・そうだったわ。」
振り向いた王女と目が合った。驚いて目を反らし、俯いた。
「えーと・・・え・・・あの・・・。ごっ、ごめんなさい、・・・。その、話したい事は
沢山あったけど・・・えっと、何から話せばいいかしら・・・。」
王女は左眼の端を薬指で擦っている。痒いのかな、そう思って見ていると、泣きぼくろが
三個並んでいる。どうやらそこを擦っているようだ。「痒いの?。」
「あ・・・これ、ごめんなさい。癖なの。それでよく乳母に叱られるんだけど、
はしたないって。」「どうして?。」
「王女としての品位を落とすのだと。王家の者は皆の手本になるようにそういう癖
なんかはあってはいけないんだって。」
そう言えば、先日王と話をした時もそんな仕草をしていた事を思い出した。
「どうして、そんな癖が付いたのかなあ。」
「わたし、ここにほくろがあるのがどうしても嫌で・・・。擦ったら取れないかと
思ってるうちについ癖になってしまって・・・。」
「嫌なの?。」「ええ、だって・・・。」
「どうして気にするのかなあ。俺は別に・・・似合っていると思うよ。」
「え・・・そうなの?。」「ああ、だから気にすることはないよ。」
「そう、ありがとう。ロナウハイドがそう言うなら・・・。」
王女は笑顔になった。

 兵士達が寝泊りする宿舎に戻ったロナウハイド。ここではロナウハイドの他、二歳
年上のキュヌクス、一つ年下のセーピアと同じ部屋だった。一日の鍛錬を終え、部屋に
戻ってくると、キュヌクスが怖い顔をしてドアの前に立っていた。「ロナウハイド。」
「なんだ・・・いきなりどうした。」「こいつを見ろ。」
キュクヌスは部屋を親指で指した。「な・・・。」
部屋の中は荒らされ、ベッドのシーツは切り刻まれていた。「どういう事?。」
「お前は知らないのか?。」ロナウハイドは首を横に振った。
「そうか。セーピアも知らないといっている。」
 その夜、キュヌクスとセーピアの話し声が聞こえてきた。
「・・・ああ、それは俺も思っていた。ただ、とばっちりを食らうのはごめんだよな。」
「ロナウハイド、自分が何されているのか気づいていないのか?。」「さあ・・・?。」
「・・・確かに、いい気になってるトコはあるよな。」「俺もそう思う。」
「俺さ、兵長に言って部屋を変えてもらおうかと。」「俺も。」
 二人の会話に衝撃を覚えるロナウハイド。自分の身に何が起きているというのか。
その時は分からなかった。

 「あ・・・居た居た。」
ロナウハイドを見つけ、そう声を掛けたのはイーリス王女付きの下女だ。
「王女が・・・俺に何か?。」
「いい事、ロナウハイド様は王女様のお気に入りなんだから。今日は兵長にも許可を
取ってあるからたまには王女様のお話し相手をして欲しいの。」「あ・・・あ、うん。」
お気に入り、か。イーリス王女の話し相手という事で気に入られているのか。まあ、
特に何の話をするわけでなくても、イーリスの笑顔を見るだけで何故か幸せな気分に
なる。確か誰かが言っていた。「これだけ王女様に気に入られたら、いずれは王女様の
婿に、なんて話もあるんじゃないか。」とからかわれたりもした。婿なんて間違っても
無いと思うが、皆が自分を羨ましがっていると思うとちょっと優越感を感じていた。
 他愛もない話をしてその場は終ったが、ロナウハイドの中では王女の笑顔が強く
印象に残った。確かに、美しく、眩しい位の存在だ。が、あのほくろで少しあどけな
さもある。またいつかもっと話ができるかな、そんな風に思った。廊下を歩いていると
不意に後ろから羽交い絞めにされた。「・・・な・・・何を・・・。」
「する。」までに言わないうちに後ろ手に縛られた。何とか振り解こうとして抵抗
すると、そこにいたのはあの時自分に「・・・卑しい身分の癖に・・・。」
そう言っていた兵士だった。「貴様・・・何いい気になってる!?。」
「離せ!!。」「無駄だ、こんなところで叫んだって誰も来やしない。」
一、二・・・三人か・・・。何とかこの場から逃げ出さなければ。しかし、抵抗も
出来ないままロナウハイドは兵士宿舎の陰に連れて来られた。首元を掴まれ、勢いよく
壁に叩きつけられる。「な・・・何をする。」
「部屋の事じゃ、懲りてなかったようだな。」
なんだって!!。あの時部屋を荒らしたのはこいつらだったって事か。
「何故そんな事をする!?。俺が何をしたって・・・。」
言い終わらないうちに腹に膝蹴りを加えられた。顔も拳を加えられ、口の中が切れた。
痛む口元を押さえ、よろよろと立ち上がった。「まだ元気があるようだな。」
一人がもう一発殴りかかろうとした。かろうじて拳を受け止めるロナウハイド。
「くそう、離せ!!。」「やばい・・・誰か来る。」
その言葉に皆その場から逃げていった。
 悔しさと、理不尽さの余りロナウハイドは絶望した。確かに奴隷時代は理不尽なことは
沢山あったが、ここではそんな事などないと思っていた。
「俺が・・・何したって言うのか。」納まらない怒りがこみ上げてきて、壁に拳を
食らわす。頭の中にあのときのミレスの言葉が浮かんでくる。『変な僻み』ってこう
いうことなのか?。

 王女と話をしている間は、何故か幸せな気分になっていた。何の会話をするわけでも
なかったのに、側に居ただけで何か心が癒された気がしていた。王との話ももっと
聞きたかった。母のルーツについて何か分かる事があるのかもしれない。その話も
聞きたかったのに。自分が王や王女と話しをするのが気にくわないと言う事か。
怖い思いをしたわけではなかったが、もう二度とあんな目に会うのは嫌だった。彼等に
恐怖を抱いたわけではない。ただ、僻まれているのが凄くいやでたまらなかった。自分は
そんなつもりはないのに、周囲からは有頂天になっていると思われているのか。その
事はロナウハイドの頭から暫く消えなかった。
 口数が少なくなり、暗い顔をしているロナウハイドを最初に気付いたのはエルンテ
ベルグだった。けど、彼には何も言えない。「何でもない。」そう押し通していたが、
何かあったとは感じているようだ。王女にもまた話をしたいとも言われたが、理由を
つけて断っていた。ミレスもヘーロス兵長も心配して尋ねてくるが、やはり「何でも
ない」で押し通していた。

 夕方、食事を終え、部屋に戻ろうとしていたロナウハイド。いきなり廊下の角から
麻袋を被せられ、無理矢理引っ張って連れて来られた。「は、離せ!!。」
もがき、暴れようとするが相手が見えないのだから抵抗すら出来ない。暫く歩かされ、
やっと麻袋を外された。以前ロナウハイドに暴力を振るった連中だった。そこで 
薄暗い日影でもう一人、焚き火をしているその兵士の仲間が待ち構えていた。焚き火の
中を焼き鏝でかき混ぜている。「連れて来たか。」
「ああ、」「しっかり押さえつけていろよ。」
もう一人の仲間は高温で真っ赤になっている焼き鏝をロナウハイドの目の前に見せた。
「あれ程忠告したのにな・・・。」
そう呟くと、焼き鏝の先をロナウハイドの首筋に押し当てた。
「あうううっ・・・・。」
熱さの為、のたうち回ろうとするが、三人に押さえつけられ、身動きが取れない。
「もういいだろう。離していいぜ。」
一人がロナウハイドを蹴り飛ばした。ロナウハイドはそのまま倒れこんだ。首元から
しゅうしゅうと音を立てて焼け跡から湯気が出ている。辺りに焦げ臭い匂いが漂った。
苦しさの余り、立ち上がることは出来ない。
「自分だけいい思いしようと思うなよ。次はもっと痛い目にあって貰うからな。」
 それだけを言うと、四人は立ち去っていった。
それを物陰から見ていた人物が居た。

 ある日、ロナウハイドはヘーロス兵長に呼び出された。
「お前、何か嫌がらせを受けているそうだな。」「いえ、別に。」
「正直に答えてくれ。お前が暴力を受けているところを見た者がいるんだ。」
「・・・身に覚えはない。」
するとヘーロス兵長はロナウハイドの首筋の火傷の跡を指差した。
「これは一体どうした?。」「転んで怪我をした。」
「怪我でこんな傷はつかないぞ。」
それを聞いてロナウハイドはぎゅっと唇を噛み締めた。
「いいか、よく聞けよ。今この国はアドウェルサが狙っている。そんな大事な時に
統率が乱れるようなことは起きてはいけない。勿論起こしてもいけない。仲良くしろ
とは言わんが、お互いの信頼を乱すことがあってはならない状態だ。お前は言いたく
無いかもしれんが俺もエクウス将軍も皆お見通しだ。余り心配かけるな。もし、今度
何かあったら必ず報告しろ。分かったな。」

 またある日、ロナウハイドはエルンテベルグを呼び出した。
「お前だろ。ヘーロス兵長に告げ口したのは。」「何の事だ?。」
「分かっているだろう。俺があの連中に何か嫌がらせを受けているって。」
「だから何だ?。」「余計な事・・・するなよ。」
するとエルンテベルグは怒ったようにロナウハイドの首元を掴んだ。
「馬鹿野郎。お人よしもいい加減にしろよ。あんなトコ見てたら放って置けないだろう。」
それを聞いて、ロナウハイドははっとした。
「考えても見ろよ、俺達は互いに助け合って生きてきた。一緒に生きていこうって、
俺はそれだけを信じてきたんだぞ。なのに、勝手に、カッコつけてるんじゃないよ。」
「エル・・・。ごめん・・・。」
「約束だぞ・・・いいな。」
自分を信じてくれる。エルンテベルグの友情に何かが吹っ切れた。
 
 そんな時だった。イーリス王女に縁談が舞い込んだ。と言っても南隣の国コンワル
リスのアングイス王子との政略結婚だ。いつ攻めてくるとも分からないアドウェルサ
からの攻撃に備え、コンワルリスと同盟を結び、国の防御を強化しようと言うのが
狙いだ。その話を聞いたロナウハイドは意味もなく悲しくなった。何故だか分からない。
しかしこれで国は守られる。そう自分を納得させた。
 「残念だったな。これでお婿さんの望みはなくなったわけだ。」
そう言って他の兵士仲間はロナウハイドをからかった。
「大体無理だろう。身分が違いすぎるよ。」
「ってコトは、多少は考えていたわけか。隅に置けないよな。」
「そんなんじゃないって。大体、好き、だから結婚、なんてそう巧くなんていかないさ。」
「無理してないか?。ロナウハイド。」「してないって。」

 「可愛そうなロナウハイドさん・・・。結婚まで考えていたのにねえ。」
そう呼び止められ、振り向くとあの連中が居た。
「お前、俺達の事兵長に告げ口したよな。そんな卑怯なことするのかよ。」
連中は自分達の事を棚に上げて言いたい放題だ。
「俺は告げ口なんかしていない。お前達の行動に許しがたいものがあるから、告げ口
されるんじゃないのか?。」
「何だと!!。」
連中の一人がロナウハイドに食って掛かった。
「言っておく。俺が王女と話が出来るようになったのは、俺の実力だ。手柄を立て、
皆の信頼を受けてきたからだ。もう一度言う。俺は自分の実力だけでここまでの
地位を得た。お前達には到底分かりはしないだろう。」
その言葉に圧倒される連中を他所に、ロナウハイドはその場から立ち去った。
 それから、例の連中はおとなしくなった気がした。笑顔が戻ったロナウハイドに
エルンテベルグは勿論、ミレスや兵長もほっとした様子だ。そんなある日、イーリスに
またお茶に呼ばれる事になった。ロナウハイドは思い切って、
「他の仲間達も誘っていいか?。」と訊ねた。意外にも「ならば皆さんで。」
という事になり、エルンテベルグや他の親しい兵士仲間を誘った。
王女様の前、という事もあってか、最初の頃は皆緊張し、何も喋らなかった。だが、
ロナウハイドがうっかり馬の後ろに居た時、そのまま馬が座ってしまって下敷きに
なった話、をするとイーリスは大笑いをして喜んだ。それをきっかけに、皆イーリスを
楽しませようと色々な話をした。そのときのイーリスはとても楽しそうで、実は彼女は
寂しかったんだな、そう感じた。

 街に旅芸人の一座がやってきたという話を聞きつけ、鍛錬の合間に皆で観にいく事に
なった。前評判でイーリスは興味があったらしく、何とか父王からの許しを得て、観に
いける事になったととても喜んでいた。お忍びとはいえ、王女様には護衛が必要。と
いう事でロナウハイドとエルンテベルグは真っ先に御指名が挙がった。「あとは。」
ロナウハイドはヘーロス兵長に意外なことを願い出た。「いいのか?。」
「信頼関係を結べ、って言ったのは兵長の方だろ。」「まあ、そうだけどな。」
なんと、ロナウハイドは自分に暴力を振るったあの四人組みに王女護衛隊の仲間に引き
入れようとしていた。「お前が一緒なのか!?。」四人組みは驚いていたようだが、
「俺からの宣戦布告だ。王女を守れるか否か、俺がその実力を試してやる。」
「・・・。」四人組みは返す言葉がなかった。
 芝居の内容はありがちな恋愛モノで、貴族の若君と、敵対しているこれまた貴族の
姫の命がけの愛の物語だった。生まれて初めて観る芝居というものに少し感動し、王女の
護衛だと言う事を危うく忘れそうになる。涙腺が潤んできそうになるのを堪え、なんとか
王女の護衛の責務を果たした。
 その夜。ロナウハイドは四人組の一人、トラゴに呼び出された。「一人か?。」
「そうだ。」「俺に何の用だ?。」
「その前に・・・いるんだろ、エルンテベルグ。俺がこいつに何かするって思ってる
ようだが、そんな事じゃない。」
「・・・エル、いたのか・・・。」ロナウハイドはため息をついた。
「まあいい、本題に入ってくれ。」
そう言いながら、エルンテベルグは二人の前に出てきた。
「俺・・・兵士をやめようと思って。もう兵長には話してきた。」
「兵士を辞めるのか。」「ああ。」「やめてどうする?。」
「昼間、芝居観てて思ったんだが、芸人になろうと思って。」「えっ・・・?。」
「・・・いや、何で俺達にそんな話を!?。」
「・・・ロナウハイドには、謝んなきゃなんねーな、と思ったから。」
「ああ、その事か。」「怒ってないのか?。」「今更?。」
「あの時は後先考えずにただ生意気な奴だなって思っていたけど、なんて言うか、懐が
でかいって言うのか判んないけど、今日の事でお前って結構凄い奴なんだなって
分かった。そう思ったら、俺達が間違っていたって事が分かった。だから、ここを出て
行く前にお前に謝ろうと思った。すまん。」
「さっきから聞いてりゃ、随分勝手な事をいうな。お前達がロニーに付けた首の火傷は
一生消えないんだぞ。それを『すまん。』の一言で済ませる気なのか?。一生消えない
傷を作ったくせに、『すまん』の一言でなかった事にする気なのか?。」
エルンテベルグは冷静に話した。その言葉にトラゴははっとした。その時初めて自分が
犯した罪の重さに気付き、しゃがみ込んだ。
「・・・じゃ、じゃあ、お、俺はど、どうすれば・・・?。」
ロナウハイドは暫く考え、答えた。
「それを罪と認めるなら、お前は一生その罪を背負って生きて行け。俺のこの傷が一生
消えないのと同じように、お前の罪も一生消える事はないだろう。」
 トラゴはもう何も言えなかった。そんなトラゴを残し、ロナウハイドはエルンテベルグ
と共に立ち去った。
 宿舎に戻る途中、ロナウハイドは尋ねた。「いつの間に来てたんだ?。」
「俺、お前の事となると熱くなるらしい。」「腐れ縁かよ。」
だが、ロナウハイドはそんなエルンテベルグの友情に嬉しさを感じていた。

 鍛錬ばかりが一日の日課ではない。戦場を共に戦う軍馬の手入れも大切な仕事の
ひとつだった。ある日、ロナウハイドはエルンテベルグやキュヌクス、ミレスら数人と
共に馬に水浴びをさせに行った。馬自体、排泄物等で体が汚れたり、ダニなどの
寄生虫がつくと病気になり易い。それを防ぐためなのだそう。
 川の水を汲み、一頭一頭丁寧に洗ってやると馬は気持ちがいいのか目を細めている。
なんとなく羨ましいなと、思って見ていると、「隙ありっ!!。」後ろから水を掛け
られた。「キュヌクス!!。」とは言え、今日は日差しもあって冷たい水が気持ちいい。
「よしっ!!。早く終わった者は水に浸かっていい事にする。」
ミレスがそう言ったので、皆大大騒ぎだ。「手を抜くなよ。」「分かっている!!。」
皆急いで仕事を片付けて服を脱ぎ、裸になった。ロナウハイドも裸になり、川の水で
遊び始めた。暫く水遊びを満喫したロナウハイドはふと、ミレスだけが水浴びして
いないのに気づく。
「ミレス・・・なんで泳がないんだ?。」
「一応、俺達の事見張らなきゃ無いからじゃない?。」「そうなのかあ。」
また、暫くすると今度はミレスの姿が見えない。気になったロナウハイドはエルンテ
ベルグを伴いミレスを探した。「あ・・・いた。」
なんと、ミレスはかなり離れた場所で水浴びをしていた。そのミレスの左腕には金の
腕輪が嵌めてある。「ミレスって・・・。」
なんとなく見てはいけないような気がしてその場をこっそり去ろうとした。
「なんだ、お前達。」見つかってしまった。「・・・。」
ミレスは腕輪の上を右手で抑えている。「見たんだな。お前達。」
ばつが悪く返事も出来ない二人。
「まあ、お前達も同じ立場だから言うけど・・・俺、子供の頃奴隷として売られたんだ。
実はどっかの貴族の御落胤らしくてさ、嫉妬に狂ったそこの奥様が俺を売り飛ばした。
けど、そんな事を皆に知られたくなくて、ずっと孤児で通していた。俺が奴隷
だったってことを知っているのは兵長だけだ。それで、お前達に頼みがある。」
「言うな・・・って事?。」「ああ。」
「言わないさ。そんなこと言いふらしても何の特にもなんないし。」
「そうか、ありがとう。」
そのときのミレスの瞳が少し寂しそうに見えた。

 アドウェルサに動きがあるかもしれない、との事でロナウハイド達は前線に配備
される事になった。出陣の前に王女に一目合いたかったが、そんな勝手は許されない
だろう。そう思うと、気持ちを偽り、出陣するしかなかった。
 二、三日が過ぎた。しかし、アドウェルサ軍が攻めてくる気配はない。
「嫌な予感がするな・・・。」
ヘーロス兵長が砦の上から辺りを見回し言った。ロナウハイドもそれが気になっていた。
城へ残っていたイーリスに事が気になる。彼女は元気だろうか。自分の知らない
ところで彼女の結婚話が進んでいる。結婚なんて、お互いに好意を寄せて
なければならない。ミレスの結婚を見て、そんな風に思っていたロナウハイドは、
イーリスが、結婚相手であるアングイス王子の事を好きなのか、それとも、好きでも
ないのに結婚しなければいけないのか。今のロナウハイドの頭の中にはそんな事が
思い巡っていた。
 「た・・・大変だ!!。」
静寂を打ち破るように伝令兵の声が辺りに木霊した。
「あ・・・アドウェルサ軍が、ほっ・・・本国に攻めてきて・・・。」
「何だって!!。一体どうやって!?。」
ヘーロス兵長は信じられないと言うような顔をしていた。皆ざわめき始める。
「・・・いつの間に・・・。」「まさか・・・山越えで迂回してきたのか・・・?。」
こうしてはいられないと、皆本国へ戻る事にした。
「イーリス・・・無事でいてくれよ・・・。」
ロナウハイドはそう言って自分を奮い立たせた。

 「な・・・なんてこった・・・。」
「『動きがある』その情報は、我々の防御力を欠く為の作戦だったと言うわけか。」
しかし、時は既に遅く城下町はもう壊滅状態だ。
「おい!!。ロナウハイド・・・どこへ行く!!。」
兵長の命令も聞かず、ロナウハイドは城へ向かった。「な、、何て事だ・・・。」
城には溢れんばかりのアドウェルサ軍が城壁を破壊し、今まさに城の中心部に攻め
入ろうとしていた。
「イーリス!!。」
ロナウハイドは攻めてくるアドウェルサ兵を蹴散らし、イーリスを探した。
「ロニー!!。」
その声に振り向くと、エルンテベルグが追いかけてきていた。「お前・・・。」
「兵長の命令だ。お前に協力しろと。」
「よし、急いで王と王女を助け出す!!。」
「お前の場合『王女を・・・』だろ。」
 イーリスが居る場所は分かっていた。万が一城が攻められた時に脱出できる隠し
扉のある裏口だ。しかし、ここにもアドウェルサ兵が入り込んでいるらしく、誰かと
戦っている。「ミレス!!。」
「俺はいい。王女を・・・頼むぞ。」
しかし、ロナウハイドの目の前にアドウェルサ兵が立ちはだかる。「くそっ・・・。」
相手の兵士はなかなか腕の立つ切れ者とみて隙がない。
「俺の名はケレベル。貴様、名はなんと言う?。」
「アドウェルサの者に、名乗る名はない!!。」「小癪な!!。」
再び剣を構える。その時、アドウェルサ兵が怒涛の如く押し寄せてきた。「うあああっ。」
ミレスが止めを刺された。「ミレス!!。」
「ろ、ロナウハイド・・・おっ、王女を・・・王女はお前を信頼している。王女を
連れて同盟国であるコンワルリスへ行って保護を求めてくれ・・・。そうすれば・・・。」
「ミレス!!。しっかりしろ!!。」
新婚のミレスを死なせるわけには行かない。ロナウハイドは叫ぶが、ミレスは虫の息だ。
「ミレス!!・・・。くそっ・・・。」
ロナウハイドはミレスの遺体をその場に置き、アドウェルサ兵を振り切った。目指すは
王女がいると思われる裏口だ。
「イーリス!!。」「あっ、ロナウハイド!!。」
イーリスは無事だったようだ。「よし、誰もいない。ここから脱出するぞ。」
エルンテベルグが出口を確保している。「いや・・・このままじゃまずい。」
ロナウハイドは少し考え、自分が着ていた甲冑をイーリスに着せた。
「ごめんよ、我慢してくれ。」「はい・・・。」
裏口を出て、裏側の跳ね橋を目指す。
「王女をひっ捕らえろとの命!!。捕らえられえた者には褒美を取らす!!。」
アドウェルサ兵と思われる声が城中に響いている。
 跳ね橋の途中にある軍馬舎から馬を二頭拝借する事にした。しかし、軍馬は殆ど
戦闘に駆り出されていて、年老いた僅かな馬しかない。しかし、贅沢は言ってられない。
なんとかイーリスをコンワルリス王国へ送り届けねば。
 幸い、イーリスの変装には誰も気付いておらず、アドウェルサ兵は王女がまだ城内に
いると思っているらしく、家捜ししている声が響く。
 裏の跳ね橋は今落とされんとしているようだ。やがて大きな音と共に跳ね橋が降り、
アドウェルサ兵が突入してきた。陰に隠れ、兵達をやり過ごしたロナウハイドとエルンテ
ベルグ。王女を連れて、城の外へ脱出する事に成功した。

 「コンワルリス王国はコルリスの東南の方角、幼い頃父が王子だった時に一度訪れた
事があります。」
「アングイス王子とは、会った事があるって事だな。」
「ええ、けど、その時に一度会っただけなので私の事を覚えているかどうか、それに
・・・。」
イーリスはロナウハイドをちらりと見た。ロナウハイドは気付かなかったが、エルンテ
ベルグはその様子に何か言いたげだったが、何も言わなかった。
 途中、馬を取替え、国境を目指す。国境を越え、もう安心だと言う事で、ロナウハイド
とイーリスは着替えた。
「アドウェルサがコルリスに攻めてくるのは時間の問題だと父も感じていたようです。
それに備え、コンワリス王への書状と金貨を持たせてくれました。けど、アドウェルサの
到着が余りにも早かった為、これだけしか持ち出す事ができませんでした。」
申し訳なげに話すイーリス。確かにコンワリスの城にたどり着くまでに持参した金貨が
間に合うのか。ロナウハイドは野宿も覚悟しなければならないと、イーリスに伝えた。
「分かりました。」
素直に従うイーリスにロナウハイドは戸惑う。王女様、と言う身分柄、苦労を負わせて
しまうのは気が引けるが、城を出て以来、ただの一度も我儘も言わない。その事が
かえってロナウハイドに心を痛めてしまう事になっていた。イーリスは笑顔で答えて
くれるが、あの癖の回数が増えた。それを見て、彼女も心痛めていることが痛い程
分かった。

全1ページ

[1]

Duke Friedrich Ronniele
Duke Friedrich Ronniele
男性 / B型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
友だち(9)
  • soratomi
  • corona
  • 大本柏分苑
  • ダルビッシュゆうや
  • マニマニ
友だち一覧

過去の記事一覧

1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

Yahoo!からのお知らせ

最新のコメント最新のコメント

すべて表示

よしもとブログランキング

もっと見る
本文はここまでですこのページの先頭へ

[PR]お得情報

いまならもらえる!ウィスパーWガード
薄いしモレを防ぐパンティライナー
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!
数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!
いまならもらえる!ウィスパーうすさら
薄いしモレを防ぐ尿ケアパッド
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
お肉、魚介、お米、おせちまで
おすすめ特産品がランキングで選べる
ふるさと納税サイト『さとふる』

その他のキャンペーン

みんなの更新記事