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第六章
母との記憶が何か手がかりにならないか。そんな思いから何度も幼い頃の事を思い
出そうとしていた。あの塔の窓から見える風景。その風景を確かめるべく風景と塔に ついて心当たりを捜し歩いていた。 「この乱世の世、そんな塔なんて残っていないんじゃないか?。こんなに歩いても 手がかり一つない。もしかしたらとっくに滅ぼされたんじゃあないか?。」 エルンテベルグが尋ねる。しかし、そういったところでロナウハイドの決心が揺るぐ 事はない。その事は分かっていたが。 「母の故郷は、大地が豊かで作物もよく育ち、食料に欠く事はなかったそうだ。」 「じゃあ、南の方か?。南にある都市について少し尋ねてみよう。」 二人は南へと足を伸ばす事にした。 だが、荒野を当てもなく歩き続け、次の街へ辿りつく前に二人は意識を失い、倒れて しまった。 「ここまで来たのに・・・。」 枯れた大地に僅かに生えた雑草を掴み呟いた。 「・・・して・・・しなさい。」 声がする・・・何だろう。自分はもう死んだのか?。 朦朧とした意識の中、女性が自分に話し掛ける。「生きてるのね。」 女性は持っていた水筒をロナウハイドの口に含ませた。「・・・ぅうっぷ。」 意識が戻ってきた。「あ・・・あり、がとう。」「よかったわ。」 「あ・・・エルは・・・?。」「一緒の方?。」「ああ。」 女性は側で倒れていたエルンテベルグを見つけ、すぐさま水を飲ませた。しかし、 エルンテベルグは意識が戻らない。 「このまま夜になるとこの辺りは凄く冷えてくるの。このままだと凍え死んでしまう。 手伝って。」「ああ・・・。」 女性は側にいたロバにエルンテベルグを乗せようと提案した。ロナイハイドがエルンテ ベルグを持ち上げ、ロバに括り付けた。「無事だといいけど。」「すまない。」 「私の家、この近くなの。」「恩にきる・・・。」 女性の家があるという街はそう遠くはなかった。「こんなに近かったのか・・・。」 体力が消耗していて近くのものすら見つけられなかったらしい。 「どうぞ。・・・狭いけど入って・・・。」 ロナウハイドはエルンテベルグを抱え、女性の家の中へ入っていった。 エルンテベルグをベッドに寝かせ、口の中に水を含ませた。が、意識が戻る気配は ない。やがて、「う・・・ううっ・・・。」「エル!!。気がついたのか?。」 エルンテベルグは意識を取り戻したようで、ロナウハイドは安堵した。 その夜は女性の家に泊まる事になった。聞けば、女性は一人暮らし。夫と子供を 戦争で亡くし、以来一人なのだそう。 「・・・あなた方、お名前は・・・?。」 「俺はエルンテベルグ、こいつはロナウハイド。」「ロナウ・・・ハイド、そう。」 女性の意味ありげな言葉に疑問を感じたロナウハイドは女性に尋ねた。 「・・・ごめんなさい。私の兄に瓜二つだったから、つい・・・。」 「お兄さんに?。それで俺達を助けてくれたのか?。」「それもあるけど。」 「詳しく聞かせて貰えないか・・・。」 女性は少し考えて話し始めた。 「私の兄は私達が生まれ育った国、ヴァルトロ帝国の兵士だったの。才能のある戦士 として隣国であるこのフォーンスにも名声が届く位有能な将軍だったのそうよ。けど、 最果ての地プロフォンドゥムで命を落としたと。信じられなかったわ。あの『無敗の 兵士』と名高かった兄がそんな偏狭の地で、しかも相手の兵士が僅かな数しかいなかった にも関わらず・・・。」 ロナウハイドは胸の鼓動が早まりつつあるのを感じた。彼女の話には心当たりが ある物ばかりだ。「もしかして・・・この人?。」 彼女の兄、と言う人物の名を訊ねようとした。しかし、それを知ったところで何になる。 そう思い、ぐっと堪えた。「そうだわ・・・。」 彼女は席を立った。そして奥から木箱を持ってきた。 「兄は、私にはよく手紙をくれたの。よかったら読んでみて。」「いいのか?。」 「ええ、兄はもうこの世の人間じゃないし、亡くなってもう二十年以上になるから。」 ロナイハイドは震える手で手紙の一枚を取った。 「・・・と、恋に落ちたといっても過言ではない。しかし、相手は皇帝の側室。こんな 事はいつか気付かれ、いずれ殺される。それは分かっている。しかし、彼女を愛さず にはいられない。人目を忍んでも会わずにはいられない・・・。」 相手・・・これって、もしかして・・・。ロナウハイドは疑惑が確信になる予感がした。 「・・・の話によると、彼女の故郷はマルス火山の麓、オルケルトという少数民族が 暮らす集落だった。しかし、私は皇帝の命令でその地を滅ぼしてしまった。そんな事は 口が裂けても彼女には言えない・・・。」 そこまで読んだロナハイドは衝撃の余りもう読むことが出来なかった。 その夜、彼女の子供達が使っていたと言うベッドを借り、横になった。あの手紙の事が 蘇ってくる。もし、もしも、彼女の兄と言う人物が、自分の実父アントニウスだとしたら、 父は母の故郷を滅ぼした事になる。母は・・・知っていたのだろうか?。知らずに父親を 愛してのだろうか。それとも・・・。ロナウハイドはその事でなかなか寝付けなかった。 結局、核心に触れることは出来ないまま二人は女性に礼を述べ、南を目指した。 自分の父親かもしれない人物の手紙によると、オルケルト族が暮らしていたという地は マルス火山の麓という事だ。そこを手がかりに、その地を目指す事にした。 オルケルト族の故郷を見つからぬまま、資金も底を付いた二人は、偶然辿り付いた この国へやって来た。空腹を堪えきれず、街道の側にあった木の下で少し休む事にした。 近づくにつれいい匂いがする。「これ・・・梨の木じゃないか。」 思わず見上げるが、実の成る季節ではなかったらしく、沢山着いた花に蜂が周りを ぶんぶん飛んでいるだけだ。「ちぇっ・・・。」 がっかりし、力尽きた二人はそこで少し休む事にした。 いつの間にか眠ってしまったらしく、誰かが呼びかける声で目を覚ました。 「あなた達、旅の人?。」 綺麗な女性だな、と思ったが、今はそれどころじゃない。答えようとした時、腹が 鳴った。 「・・・おなか、空いてるの?。」もう声にもならず、こくりと頷く。 「・・・じゃあ。」女性はかごに入った無花果の実を取り出し、小刀で切った。 「半分腐っていて、売り物にならなかったの。売れ残りでよければ食べて。」 女性は腐った部分を丁寧に切り取った無花果の実をロナウハイドに渡した。 「・・・ありがとう。」と言ったつもりだったが、聞こえていたのかどうか分からない。 それを更に半分に分け、エルンテベルグに渡した。 熟れ過ぎて甘くなっていた無花果は僅かだが二人の胃袋を満たす。 「助かったよ。」「どういたしまして。」 「ねえ、この街初めて?。」 「ああ。俺達ここで仕事を探しているんだ。どこか雇ってくれるトコあるか?。」 「うーん。確か、大きな商人の家で用心棒を募集しているって聞いたけど。」 「そうか、ありがとう。行ってみるよ。」 ロナウハイドは何とか立ち上がった。「エル、行くぞ・・・。」「うん。」 「あなた、エルって云うの?。」 女性はエルンテベルグに尋ねた。 「いや、俺はエルンテベルグ、だ。ちなみにこいつはロニー。」「そうなの。」 「いや、俺はロナウハイドって云うちゃんとした名前がある。嘘教えるなよ。」 「嘘じゃない。ニックネームじゃないか。。」 「そう呼んでるのはお前だけだ。大体にしてなんで『エル』が『エルンテベルグ』に なるんだよ。」 「なんか、かっこいいから。」「それだけ!?。ちなみに俺のは母さんがつけて くれた名前だ。一緒にするなよ。」 二人の会話を聞いて女性は余程おかしかったのか少し笑った。口元にあるほくろが 可愛らしい。 「私はフィオラ。街外れに住んでいるの。宜しくね。仕事、巧くいくといいね。」 「うん。ありがとう。」 フィオラが去っていく後姿を見ながら、早速その商人の家を探した。 「お願いします。」「うーん、悪いが身元がはっきりしない者は雇えないね。うちも 信用第一の仕事なものでね。そういった者は断っているんだ。」 「けど、用心棒だったら関係ないと思うけど。」 「例え用心棒でもだめなものはだめだ。例外は認められない。」 もう返す言葉が無い二人。「どうする。」「仕方が無い、他を当たるか。」 仕方なく二人はその場を立ち去った。 さっきの無花果はとうに消化してしまい、再び空腹を堪える事になった。 日も暮れ掛かり、当てもなく歩いていると、大きな屋敷が目の前に飛び込んできた。 「大きな屋敷だな。さっきの家とは比べ物にならない。まるで城みたいだ。」 「意外と城だったりして。」「まさか。」 二人の声に気づいたのか、兵士のような格好をした人物が現れた。 「お前達何者だ!?。こんな所で何をしている?。」 「何をって、俺達はただの通りすがりの旅の者だ。けど、仕事を探していて・・・。」 「旅の者!?。仕事?。・・・ちょっと待っていろ。」 そう言うと建物の中に引っ込んでいった。間もなくもう一人男を連れてきた。 「このもの達ですが・・・。」「うーむ。」 もう一人の男は二人を吟味するように上から下まで見た。「まあいい、中に入れ。」 二人は建物の中に入った。「ここは?。」 「ここは我がマルモル王国の城。」「えっ・・・。」「やっぱり城だったのか。」 二人が通された部屋には兵士と思われる者が数人いた。どうやらここは兵士の詰め所 らしいのだが、宿舎の部屋と間違えそうになる程狭い。 「よし、二人共服を脱いで見せろ。」「え・・・?。」 「この城では兵士を募集していてな。もしお前達に兵士になる気があるなら・・・。」 「兵士か・・・。」 二人が上半身を晒すと、最初は胡散臭そうに見ていた兵士達皆感嘆の声を上げた。 「お、お前達・・・それ本物か?。」「えっ。」「その筋肉、触ってみていいか?。」 「あ・・・ああ。」「凄いぞ、とんでもなく硬いぞ。」「兵士の経験とかあるのか?。」 「一応・・・。」「どこの兵士だったんだ?。」「まあ、色々。」 「剣や槍、馬は乗れるのか?。」「まあ、普通に・・・。」 二人の筋肉を見た途端、兵士達はこぞって二人を質問攻めにした。 「よし、その腕前を試させてくれ。」「いや・・・。」「何故だ?。」 「食事まだなんだ。何か食わせてくれ。それからだ。」 久し振りの食事にありついた二人。だが、腹いっぱいになる程は食べず、腕試しと やらに備えた。 「よし、武器を取れ、何でもいいぞ。」二人は無造作に置いてある武器を見繕った。 が、どれも錆付いているようで役に立ちそうも無い。 「素手でいい。」ロナウハイドは言った。「ほ、本当なのか、怪我しても知らないぞ。」 腕試しが始まった。兵士の一人がロナウハイドに斬りかかって来る。 「悪いな、仕事が掛かっているんで・・・。手加減はしないぞ。」 そう言いつつ、兵士をいとも軽く投げ飛ばし、剣を奪った。 「・・・い、一発で・・・・!?。嘘だろ・・・。」 「さて、と。次は?。」 二番手の兵士が襲い掛かってくる。今度の兵士は盾を持ち、防御しながら攻撃してくる。 ロナウハイドは盾を蹴り上げ、兵士に迫った。 「もっと強そうな、・・・例えば精鋭部隊とか居ないのか?。」 エルンテベルグが側で見ていて訊ねる。しかし、その質問には誰も答えない。 「居ないのかよ・・・。」 城に居る兵士の全てを余裕で倒してしまった二人。もう遅い時間だと言うことで、 王との謁見は翌日になった。 翌朝、食事もそこそこに王に謁見する事になった。昨日の兵士が二人の強さについて 王に報告する。 「そんなに凄い方々なのですか。」 王の側に居た若い男が目を丸くする。恐らくこの国の王子か何かだろう。 「これは期待できそうだな。」王は目を細めて微笑んだ。 「その腕とやらを私もこの目で見てみたいものです。私もこの者達と剣を交えてみたい。 父上、お願いします。」 「よし分かった。良いかな、その方達。」 断る理由がなかった二人は順番にこの国の王子、ヴィリディタースと腕試しをする。 流石に時期王位後継者だけあって兵士達とは腕前が違う。だが、二人はこの国の 兵士には無い手応えに満足するのであった。 兵士に採用され、初めて街の中を見物に出かけた二人。先日生き倒れになりそう だった二人に無花果をくれたあのフィオラという女性に礼を言いたい。 「確か街外れに住んでいるって言ってたよな。」「ああ。」 「エル、覚えているか?。確か口元にほくろがあったよな。」 「えっ・・・気づかなかったな。そうか、お前は好みの女性をほくろのあるなしで、 決めるんだったな。」「・・・まてよ、そういう訳じゃない。」 そんな他愛も無い会話を繰り返しながら街外れを探して回った。人づてに尋ね歩き、 今にも壊れそうな一軒の家を見つけた。「なんか、崩れてきそうだけど・・・。」 エルンテベルグが呟く。ノックをすると応答が無い。だが、中には誰か居るようで ごとごとと音がする。暫くして、やせた中年の男が現れた。「・・・どちらさんかね。」 人違い・・・?。いや、気を取り直して尋ねた。 「・・・ここにフィオラと言う女性が住んでいるはずなんだが・・・。」 「娘に何か用かね。」 娘!?。って事は彼女の父親なのか?。 「用があって尋ねたが・・・。」 「今娘は留守にしている。近所の畑の手伝いで、夕方にならないと帰って来ん。」 留守なのか。ならば出直してくるより他に無い。「また来る。」そう告げて、立ち去った。 「お父さんと二人暮らし、と見た。」「そのまま、じゃないか。」 「足を引きずっていたけど、怪我か何かしてるのかな。」「えっ、俺気づかなかった。」 「どこを見てたんだよ。エルは。」「お前、変な時に変な注意力が働くなあ。」 「変な注意力って何だよ。」「言ったままだよ。」 夕方まで時間を潰し、もう一度彼女の家を訪ねた。「あら・・・あなた達は。」 中に入れて貰い、二人はまず礼を述べた。 「で、どうなったの?。仕事。雇ってくれたの?。」 「いや、そこは断られたんだ。俺達身元がはっきりしないから。」「そうだったの。」 「そしうたら、お城で兵士を募集していて、そこで兵士になる事にした。」 「え・・・、そっか・・・。兵士になっちゃったんだ。」 予想に反して少し悲しそうな顔をした。「どうしたんだ?。」 フィオラはすぐ側のベッドに腰掛けている父親の方に目をやり、もう一度ロナウハイドの 方を見た。 「私の父は以前この国の城の兵士だったんだけど、大怪我をして、それが元で軍を 退役したの。だからあなた達には兵士になって欲しくなかったの。兵士を募集して 居たのは知っていたけど。だから教えたくなかったんだ。だからせめて用心棒になって 居てくれたらと思っていたの。」 暫く沈黙が続いた。「そうだったのか・・・。足の怪我はその時の?。」「ええ。」 ロナウハイドは気を取り直して、彼女の目を見つめた。 「俺はね、君が思っているより強いつもりだ。だから怪我なんてしない。」 「そうなの・・・でも。」「大丈夫だ。約束する。」「本当に?。」「ああ、勿論。」 その日をきっかけに、ロナウハイドは暇を見つけては彼女の元へ会いにいった。 と、言ってもいつも遊んでいたわけではなく、彼女の仕事である近所の畑の手伝いや、 市場へ売りに行く果物を森に取りに行ったりしていた。 そのロナウハイドの事をエルンテベルグは苦笑いしながら見守っていた。 マルモルは一見小さい国である為、周囲の国から相手にもされないかと思われていた。
しかし、そんな小さな国が存在する事に、国として存在できるのかと言った批判も 多かった。故に周囲の国々から狙われていた。 「そうなのか。言いがかりもいいところだよな。ただ単に他の国は自分の領土を少しでも 広げたいだけなんだろうな。」 エルンテベルグが考える。ロナウハイドもこの国が兵士を募集していたのが何故だかも 理解できた。 エーウォメンスとの国境付近になにやら怪しい動きがある。どうも砦が建設されて いるようだとの報告を受けた。兵士になって最初の仕事だ。 「出来れば、一網打尽にしたいとこだな。」 エルンテベルグの冗談もマルモルの兵士には通用しないらしく、かなり神経質に 様子を見ている。その様子にロナウハイドは余り大勢でいるとこちらが見張っているのを 気づかれるから、兵士の半分は離れたところで待機していた方がいいと助言した。 しかし、新参者の言うことなど誰も聞いてはくれない。案の定、すぐに見つかり、敵軍は 兵を引き連れて侵攻してきた。「来たな!!。」 兵が近づいて来る。しかしロナウハイドとエルンテベルグはまだ出撃しない。 「ど、どうした!!。敵軍が迫ってきているのだぞ!!。」 「もっと引き付けてからでも遅くない。」「だが・・・。」 やがて、敵軍の数が見て分かるぐら今で近づいた。「行くか。」「ああ。」 ロナウハイドとエルンテベルグは出撃した。一人、二人・・・気づけば数え切れない 程の兵士をいとも簡単に倒し、あっという間に退却させた。「す・・・凄い。」 凱旋を出迎えたのはヴィリディタース王子だった。 「余りにも早いお帰りで・・・驚きましたが、どうだったんですか?。」 他の兵士が興奮しながらその様子を説明した。 「そうだったのですか。では急いで父にに報告をお願いします。」 王に報告すると、王は驚きの余り声も出なかった。 「この二人の活躍のお陰で、あっという間に退却させることが出来ました。」 上等兵がロナウハイドとエルンテベルグの活躍を伝える。 「・・・この国にそこまで凄い兵士が来てくれた。これからもよろしく頼むぞ。」 以来、二人は王からの厚い信用を得るようになった。 「この国を狙っているのは、何もエーウォメンスだけではない。他にも幾つかの国が この国を狙っているのだ。今後の君達の活躍に期待したい。」 王の言うとおり、エーウォメンス軍を退却させて間もなく今度はフランマース王国が 国境のすぐ側まで近づいてきていると言う。今度はロナウハイド達が指揮を執るように 指示される。 また今度も勝利を収め、凱旋するロナウハイドとエルンテベルグ。王の喜びようは 未だ嘗て無いとまで絶賛された。王デュポーンは二人を高く評価し、様々な権利を 与えた。ロナウハイドが受け取ったのは小さな土地と家。やっと安定した生活が 出来る見込みが付いた。 「家が欲しかったのか?。」 「家と言うよりも、安定した生活というのに憧れていたのかもしれない。」 「そういうものか。まあ、お前らしいな。」 家庭の温かさにどこか安定した憧れを抱いていたのか。それとも幼い頃母と過ごした 日々をもう一度取り戻したかったのか。或いは両方なのか。自宅のベットで横になり ながらそんな事を考えていた。 新居にはフィオラも訪ねて来てくれた。時々ロナウハイドの為に食事の用意を してくれたりして、彼女の優しさに感謝した。 その一方で、兵士としては二人はすぐに頭角を現し、この近辺で彼等の名を 知らぬものはいない程になった。 あるときからぷっつりとフィオラが来なくなってしまった。忙しさの余り、会えない 日々が続いたからだろうか。気になって仕方がなかったロナウハイドは凱旋を祝う 宴を抜け出し、彼女の家に行った。 フィオラの家の周りには数人の人が集まっていた。「どうした・・・?。」 「あ・・・あんた、知らなかったのか!?。」 大きな板の上に布を被った物を二人の男が運び出していた。 「・・・とうとう、逝っちまったってさ。」「えっ・・・。」 人を掻き分け、家の中に入った。「あ・・・。」 「ロナウハイド!!。」「フィオラ・・・もしかして・・・親父さん・・・。」 真っ赤に晴らした瞳でロナウハイドを見つめるフィオラ。父と娘、親子二人だけで 暮らしていたフィオラだったが、今唯一の家族を失った。悲しくないわけが無い。 母が亡くなった時の事が脳裏に浮かぶ。「フィオラ・・・。」 名前を呼ぶ。すると堰を切ったように再び彼女の瞳から涙が流れた。 「・・・ごめん、気づかなくて。」 父親の葬儀を終え、やっと落ち着きを取り戻したフィオラ。 「ごめん・・・気づいてやれなかった。親父さんだいぶ前から良くなかったそうだな。」 「・・・いいの、あなたに迷惑かけたくなかったから、黙っていただけ。」 彼女はそうは言うが、一人で辛い思いをさせていたと思うとロナウハイドはやり きれない思いで一杯だった。 彼女が悲しい顔をするのはロナウハイドにとっても辛い事だ。出陣の待機中でも そんな事を考えてしまう。すると他の兵士から、「恋人の事でも考えているのか。」 とからかわれてしまう。「恋人か・・・。」 急にコルリスの兵士だったミレスの事を思い出した。そしてある事を心に決めた。 「寂しいのか?。」「何でそんな事を聞くの?。」
「独りぼっちになったんじゃないかって、そう思ったから。」 「そうね。一人ぼっちかな・・・。」フィオラは涙を見せまいと、上を見上げている。 「俺が一緒にいたら、一人ぼっちじゃないよな・・・。」「えっ・・・今何って?。」 「・・・だから、俺が居たらいいのかな、って。それとも、俺じゃだめなのか?。」 「あ・・・。ううん。・・・。」暫く黙ってしまった。「ありがとう。」 間もなくフィオラは今まで住んでいた家を出て、ロナウハイドの家に越してきた。 城勤めを終え、家に帰ってくると暖かい夕食と彼女の笑顔が待っている。それだけで もうロナウハイドは嬉しかった。。コルリスで初恋に身を焦がしていた あの頃以来の 幸せを取り戻した気がしていた。 家の裏に畑を作り、野菜を育てていた。それを街の市場で売り、生活費の足しに していた。ロナウハイドも時々畑仕事をしてフィオラといる時間を大切にしていた。 母の故郷を探すのを諦めたわけではないが、今の生活もただ大切に守りたい、そう 思っていた。やがてフィオラは女の子を産んだ。ロナウハイドは初めて父親という ものになり、家族というものの温かさを改めて認識した。リーリウムと名付けた娘は すくすくと成長していった。 家を構え、家族を持ったロナウハイドに対し、気軽な独身のエルンテベルグとは 当然のことながら付き合いは疎遠になっていった。喧嘩した訳ではないが、話を する事は勿論、会う機会も余りなくなってきた。寂しいなとは思いつつも、二人目、 三人目と誕生する子供達との日々の生活に追われ、元気でいるかなどの事さえも気に かけられなくなってしまった。それに加え、兵士である自分はいつ戦場に駆り出され、 命を落とすかもしれない。だから、妻のフィオラと三人の子供達とは家にいる間は いつも一緒にいる事にしていた。 隣国バルースとの火蓋が軌って落とされた。エーウォメンスやフランマース王国
だけでなく、この地を狙って様々な国が思惑を抱いていた。この界隈でも列強と 謳われたバルースに対抗し、周囲の国々に国力と強さを見せつけ、攻めようなど 思わせないようにする為だ。ロナウハイドは沢山の部下を引き連れ、バルース戦に 乗り込んだ。結果はいうまでもなかった。ロナウハイドの活躍で圧倒されたバルースの 王は遂に降伏した。その勢いに乗って、ロナウハイドは周囲の国々を降伏させていった。 その功績が認められ、ロナウハイドは遂に将軍の地位までに登りつめた。 その頃からだろうか。王の様子がなんとなくおかしい。今まで労を尽くした自分を 高く評価してくれたはずなのに、最近そういった様子を見せなくなった。そんな時 北方のラクスという国の討伐を命じられた。だが、部下の半分の人数も連れて行けない。 城に残る兵士が必要だと言う事で許可が下りなかった。 「この人数で討伐とは・・・どういうことだ?。」 ロナウハイドは疑問に思ったが、王が決めた事。従うしかなかった。 だが、ロナウハイドの采配と作戦でなんとか少人数で勝利を収めた。それを手土産に 愛しい妻フィオラと子供達のいる我が家へと戻ってきた。王デュポーンから賞賛を浴び、 些か旨い酒にほろ酔い気分になりながら。 しかし、家へ近づくと近隣の家の者達は皆位顔をして彼を見つめた。 「なんだ?。」 「お・・・お前さん・・・か、帰ってきたのか。」 近所に住む老人が青ざめた顔で尋ねた。「どうした?。」 しかし老人は黙って首を横に振る。そんな様子に疑問を持ちながらも家へと 足取り早く向かった。「な・・・!!。一体どういう事だ!!。」 大切な我が家は真っ黒焦げに燃え尽きていた。慌てて妻と子供達を捜すが見当たら ない。先の老人に問い質すが首を横に振るばかりだ。「ま・・・まさか。」 見かねた近所の人が詳しく話してくれた。 「火事が起こったので慌てて来て見たが、誰も逃げてくる様子はなかった。焼け焦げ 跡から奥さんと、子供達の焼死体が見つかったんだ。」 「何故・・・逃げなかったんだ・・・。」 「役人の話じゃ、家に火の手が上がった時は既に皆殺されていたらしいって話だ。」 「・・・そんな、そんな話、信じられん。嘘だ!!。嘘だって言ってくれ!!。」 ロナウハイドは黒焦げの土壁を思い切り叩いた。脆くなった土壁はさらさらと地面に 零れ落ちた。大粒の涙と共に。そしてあの時の、首筋にある火傷の跡を押さえた。 「・・・これ。」 役人の一人がある者を差し出した。「これは・・・。」 下級の兵士達が身につけていた軍服のボタンだ。 「フィオラはずっとそいつを掴んでいたらしい。もしかして自分達を殺した犯人の 手がかりを残そうとしたんじゃないか。」 「下級兵士の誰かが犯人!?。一体誰が・・・。何の為に!?。」 「あんた、凄い速さで出世したんだろ。妬みとかあったんじゃないか?。」 「俺もフィオラもそいつの妬みを買ったと言うわけか。そんな事って・・・。」 自分が留守の間、大切な家族が殺された。一体誰が・・・。絶望の淵に立たされる ロナウハイドだが、仕えし王はそんな事は待ってはくれない。犯人も分からぬまま、 そして悲しみと怒りの癒えぬまま王の呼び出しには応えない訳にはいかなかった。 しかし、登城したロナウハイドを待っていたのは意外な出来事だった。 デュポーン王は 「誰かが私の命を狙っているらしい。ロナウハイドよ。そなた、心当たりはないか?。」 王を暗殺?。信じられない。温厚で誰からも信頼されている王を、誰が・・・。 しかし、その疑いの矛先が自分に向いていたのに気付いた。 自分が疑われているのか。家族を殺され、今度は自分が反逆の濡れ衣を着せられるのか。 ロナウハイドは何とかして身の潔白を証明しようとした。しかし、どういう訳か王は 間もなくこの世を去った。 ロナウハイドはますます立場が不利になる。王からは一目置かれていたロナウハイド だったが、自分を信頼してくれているはずの王が亡くなるなんて。つい先日まで 元気でいた王が、一体どうして急逝したのか。 やがて、次の王に即位したのが王の長男のヴィリディタース。新しい王に忠誠を 誓い、なんとか反逆の汚名を払拭しようとした。 ヴィリディタースもロナウハイドを高く評価してくれる人物だ。彼にその事を伝え、 何とか無実を訴えた。ヴィリディタース王は 「あなたの事は私も良く知っている。あなたはそんな人物ではないという事を。ただ、 それを証明できるものがない事が厄介だな。」 ヴィリディタースが自分を信用してくれるだけでロナウハイドは少し安心できた。 後は、自分が無実であるという証拠さえ見つけられれば、と思っていた。 しかし、あろうことかそのヴィリディタース新王も、即位から僅か一月で 亡くなってしまった。自分に掛けられた反逆の汚名はいつになったら払拭できるのか それも叶わないまま次の王が即位した。先々デュポーン王との側室の子デーンスス。 この王とは認識はあるものの、ヴィリディタース程親しいわけではなかった。 ロナウハイドは脅威を感じていた。自分を信頼してくれる者がいなくなり、 反逆者の汚名は消えるどころかますます疑いは深くなった。 自分を庇ってくれる者がいなくなり、遂には反逆罪で牢に監禁されてしまった。 「・・・何故だ、何故俺が・・・。」 家族を失い、自分は反逆者の汚名を着せられた。それに加え、反逆罪で公開処刑 される事が決まった。 ロナウハイドはもう絶望しか感じられなかった。このまま無実の罪を着せられ、 処刑されるのは無念だ。だが、愛する家族を失ない、生きる希望さえも無かった。 これ以上生きていても夢も希望も無い。いっそのことこのまま殺されてしまっても。 そんな事が脳裏に浮かんだ。 「おい・・・生きているか・・・?。」 自分に声を掛ける者がいる。重い足取りで鉄格子のほうへ近づいた。「エル!!。」 ロナウハイドとは別に、遠征に行っていたエルンテベルグだった。 「お前・・・確かデュハンベルク討伐戦に参加してたはず。無事だったのか。」 「ああ、何とか無事に帰って来れた。だが、お前が投獄されたと聞いて・・・。」 ロナウハイドはエルンテベルグなら自分の事実を信じてくれると思い、全てを 話した。 「その話は聞いている。だがな、お前はここで死んではいけない。生きろ。俺と 一緒に・・・。約束したはず。何があっても生き抜くと。」 「・・・しかし、そうは言っても・・・。」 「俺に任せろ。お前をこんな所で死なせはしない。ここで死んだら無駄死にだ。」 しかし、この状況をどう経って覆す?。ロナウハイドには疑問だけが残った。 やがて、ロナウハイドの処刑の日がやって来た。あれからエルンテベルグからは 何の音沙汰も無い。家族を殺され、絶望した自分はこのまま処刑台で人生を終えるのか。 やがて、処刑場へ連れて来られたロナウハイド。新王デーンススが見守る中、 一歩一歩処刑台へ登りつめていく。「な・・・何だ!?。」 辺りがざわめき始める。ロナウハイドも何事かと思い、そちらを見た。なんと、物凄い 数の軍隊がこちらへ向かってくる。「あれは・・・。」 忘れもしない、ルブルムモンス王国の軍隊。ここを攻めてくるというのか。 突然の奇襲で慌てふためるデーンスス王。兵に命じ反撃をみせるが、軍隊の要で ある将軍ロナウハイドとエルンテベルグの二人を欠いているのだから勝ち目はなかった。 「ロナウハイド!!。間に合ったようだな。」 ルブルムモンス王国のラケルタ王の声だ。アドウェルサのクーデターでの指導者 サルワートルもいる。やがて、ルブルムモンスの軍隊によりデーンススは討ち取られ、 マルモル王国は滅亡した。 |
第二幕 第六章
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