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(五) 出逢い
「今日はいい天気で良かったわ。雨でも降っていたらどうしようかと思っていたの。急に寒波がやってきたん
ですもの。」
「冬は嫌いかい。そういえば君は寒がりだったよな。」
「どちらかと言えば、夏の方が好きよ。太陽がカアーッと照るのって魅力的でしょう。春や秋はそれなり
に風情があっていいけれど、微温的というのか、そういうのはピンとこないのよ。メリハリがあるって言
葉があるでしょう。そう、その言葉がぴったりなんだな。それが夏だわ。」
「僕は春が好きだ。冬の間厚く積もった雪が融けて道はぬかるけれど、雪の上には草花の芽がすでに顔を
輝かせている。雪国の者にとって春は本当に待ち遠しい季節なんだ。」
「そう云えば、あなたの生まれた田舎、ドカッと雪が降ってしまったら東京に戻れないからってこの正月
にも帰らなかったわね。でも、あなたの話を聞いていたら雪の降り積もった真っ白な田舎も見たい気がす
るな。」
「雪の少ない季節には行けるさ。婚約してからまだ初めての冬だ、あわてることはない。」
「来年は行けるかしら。今年のように雪が降らなければいいけれど。」
「そうだな。」
神宮外苑の銀杏並木は熱い太陽を遮るように鬱そうと生い茂げらせていた夏の緑葉をすっかり忘れたの
だろうか。絡んだ梢を寒風に晒しながら、冬の日差しを受けてかすかな影を落としていた。黒木は濃い灰
色のコートに分厚いマフラーを首にぐるぐると巻いていた。前田は紺色のコートと、その下に薄緑のマフ
ラーを僅かに覗かせていた。
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