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「そうね、大学の単位はもうほとんど取ったからいつでもいいのよ。この夏でもいいけど、観光客ばかりで
しょう。それにヴァカンスでパリジャンはいなくなるっていうから、もう少し前にしたいの。ネルヴァル
の最後が発見された前の晩は雪が降っていたと言うから、今の季節あたりがピッタリかも。でも、私は寒
がり屋だから三、四月ってところかな。」
「それでもすぐだな。パリだけでなくて近郊にも良いところが随分ある。ヴェルサイユは知られている
が、バルビゾン辺りもいいよ。」
「そうね。パリって全くフランス的でないと云うから近郊の方がいいかも知れないわね。でも、東京の近
郊を思い浮かべると、大して違わないんじゃあないかって云う気もしないではないけれど、実際はどうな
のかしら。」
「農業国だから、自然が豊富さ。日本の倍以上の国土に半分の人口と聞いただけで、ある程度想像できる
だろう。猥雑さがない。」
「オレンジがおいしいって言ってたわね。しかも安いって。」
「農産物は安くて新鮮だよ。パリでは至る所に朝市が立つから、それを見るだけでも楽しいんだ。山盛り
になった果物が色の配列を考えて並べられている。アレ アレー、ムッシューなんて大きなかけ声で売っ
てるんだけど、どこの国もあの活気というのは同じなんだな。」
「記念物よりもそんな方を見たいわね。フランス人の生活感あふれるところを。裏町に入らなくてはだめ
なのかしら。」
「裏町にもよるけれど、大きな通りをちょっと入れば、たいていは庶民の生活する場だ。とにかく観光
ルートを離れればいい。」
二人はオリンピック・スタジアムの方に曲がった。
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