小説「パリは夜露に濡れて」

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「きっとその人です。私の知り合いなんです。パリにいるのは知っていたんですが、住所が分からなくて

困っていたんです。どうしたら連絡が取れますか。」


「まあ、お知り合いでしたか。それは奇縁でございますねえ。その方が初めて来たのはもう随分前のこと

ですが、最近では三ヶ月くらい前だと思います。初めの頃はあどけなさが残っていましたが、今では立派

な女性になりました。連絡を取るには、アランに聞けば分かるでしょうが、あなたが直接とおっしゃるな

ら、協会の住所と電話番号は分かります。」


「私が協会に電話してみます。本当に今日はおじゃまして良かった。本当に助かりました。」


 黒木は教えてもらった協会の住所と電話番号をメモした。心の中に灯がともったような心持ちだった。

顔の表情が自然と喜びに満ちた顔になっているのが自分でも分かった。


「まあー、うっかりしておりました。何の飲み物も出しませんで。」と言いながら母親は立ち上がろうと

したので彼はそれを止めた。


「いいえ、お構いなく。突然おじゃまして、こちらこそ失礼いたしました。アランさんにはお会いできな

いと思いますので、よろしくお伝えください。」と言いながら立ち上がり、軽く会釈した。母親は彼を無

理に引き留める素振りは見せず、「その方に会えるといいですね。」と言いながら家の前まで出て彼を見

送った。
 


 黒木の足取りは軽かった。なぜそうなるのか分からなかった。


―なぜだろう。喜んでも仕方ないではないか。自分が味わった苦しみをもう忘れたというのか。しかも彼

女が自発的に現れた訳ではないんだ。それに協会の一員であるのと僕がアランに助けられたこととがどう

結びつくのかはっきりしない。麻薬に関係していないとも限らない。しかも、協会の実体は一体何なのだ

ろうか。



 ホテルに戻ると伝言があり、石川が二時半にホテルに来るという。彼は腕時計を見た。十二時半だっ

た。昼食をとってから駅へ迎えに行くことにした。


―残すところ3日しかないが、どうすればいいだろうか。帰国を遅らせるしかないかな。しかし、パリコ

ミューンの壁の写真は失ったが、他の撮影したフィルムを出版社に届けるにはそれほど遅らせるわけには

いかない。しかも真理子の件はここまで分かってきたから最後まではっきりさせなくては。だが、協会に

直接問い合わせるのはまずいな。結局は会えないことにもなりかねない。ここは思案のしどころだ。


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