小説 「欧州周遊旅日記」

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 2月21日(木)パリのオーストリッツ駅から電車で一路スペインへ向かった。

電車内のピッザ・ロソという売店で2フラン30サンチームのサンドイッチと3フラン90サンチームの

ビールを買った。深夜、国境で列車を乗り換え、翌日9時、マドリードのチャマリテン駅に到着。途中知

り合った南北大学の理工学部の二人と四人で黒に黄色の線が入ったタクシーに相乗りして市の中心部へ向

かった。モンテロ47番地のホテル・メトロポールに投宿した。朝食付きで545ペセタ。昼食後、市内

を散策した。マイヨール広場から王宮、サバティーニ公園、スペイン広場、レティロ公園へと歩いた。ス

ペイン広場のドンキホーテとセルバンティスの銅像には懐かしさを感じた。七時に夕食を取った。生ハム

が安くて旨かった。その日の深夜12時頃、フラメンコを見学した。洞窟のような店だった。ビールが付

いて300ペセタ。踊りが終わりホテルに戻ったが、入り口が閉まっていた。そこであらかじめ言われて

いたようにパチパチと柏手を打つと鍵を持った管理人がどこからともなく現れて開けてくれた。


 

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「肉体労働することに憧れた時代がありましたよね。早く卒業して、仕事をしたいって。今考えれば軽す

ぎました。現実を知らない年代なんですね。でも、僕はそれで良かったと考えます。学生は学生の考えで

十分なんだって。理想を追求できるのはあの世代しかないんですよ。五木寛之ではないですがデラシネの

世代しかないんです。」


「そうだよな。誰も自分が理想としたことなんて全うできないことを、現実が邪魔することを知ってる。

政治的に無関心で、一流企業に入ることや、弁護士試験を目指していた奴だって、ほとんどが自分の描い

た道を歩めなかった。僕たちの多くがマスコミを目指し、自分の主張を世の中に反映させるんだ、なんて

夢を持っていたこともあったよな。でも、多くは現実を知ってその夢を捨てた。しかも、四十も過ぎれ

ば、自分の社内での行く末の道筋ができていて、つまりは定年先が見えてくる。早期退職制度に引っかか

る奴だっている。それが現実なんだよ。夢は破れる。其れが人生であって、旅なんだ。」


「僕も、人生を振り返る年になりました。実は、そんなことは絶対にないと思っていたんです。人生は絶

対に振り返らないって。なぜなら、振り返るって事は後悔することです。僕は後悔しない人生を歩んでき

た、と自信を持っていたかったんです。」

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 黒瀬が清水を知ったのは大学1年の時だった。清水は大学3年で、文化団体を束ねる文化団体協会(文

協)の委員長だった。黒瀬はマスコミ研究会に入会していた。それ以来、大学時代を除いてはほとんど会

うこともなく、時を重ねていった。その二人がたまたま再会したのは大学時代の学園祭に関係した仲間が

忘年会に集うことになって以来である。大学時代の黒瀬の世代がほとんど横の連絡を持たないのに対し、

2年上の世代は何かと集まる機会が多かった。


 取り留めのない話をした後、お礼の宴を終え、清水と二人だけで改めて席を持った。


「清水さん。本当に有り難うございました。」


「いいや、さっきも言ったように資本主義での競争に勝ったんだから。そう、礼を言われても困るんだ

よ。この社会は競争社会なんだ。本当は違うんだろうが、僕らのところでは本物だ。その競争に後輩の会

社が勝ったというのを率直に喜んでるよ。」


「エントリーできたことの結果ですから。」


「しかし、世の中も変わったものだ。新社民党の政権ができたと思えば、突然消えてしまい、しかもバブ

ルがあのタイミングで弾けるとも思わなかった。失われた10年なんて云われる時代に生きようとはね。

しかも構造改革なんて、まるで昔のどこかの政党が主張していたスローガンが亡霊のように蘇るとは、こ

れこそが時代錯誤だ。」

「その結果が失業者の増加、中小企業の大量倒産と自殺者の増加なんですから。資本主義経済下での構造

改革の現実なのでしょうか。あるいは明るい未来への序章ですかね。」

「それは分からん。僕だって新連合で働くなんて思いもしなかった。労働貴族なんて批判していたことも

あったのに、今となっては対立していた連中に何も言い返せないな。」

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 清水の口添えで新連合の仕事を受注できた。その内容は機密を要するためにごく限られた担当者と翻訳

者のみしか知ることはなかった。機密文書の存在は会社の人間関係に外部からは分からない負の要因もた

らした。


 黒瀬は早速、お礼のための宴を赤坂の料亭で催した。黒瀬にしてみればそうした、いかにも見返り然と

した行為は気が進まなかったが、それでも一般的な社会的常識に沿ってと割り切ることにした。


 宴会には清水と担当者がやってきた。黒瀬は担当者と秘書を伴って出かけた。


「どうも、清水さん、このたびはご尽力を頂きまして大変有り難うございました。おかげさまで、新連合

さんの仕事を得ることができました。一生懸命がんばりますので宜しく,ご贔屓のほどお願い申し上げま

す。」と黒瀬が型通りの挨拶をした。


「まあ、まあ、黒瀬君、君のところは競争入札で勝ったんだから。自分の力で勝ち取ったんだ。」と清水

は言った。


「では、まずは乾杯を。」と黒瀬はビールの入ったグラスを掲げて、「新連合のますますの発展を祈念致

しまして、乾杯。」と述べ、清水のグラスにチンと触れた。

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 2月19日(火)朝10時、近くの郵便局で手紙を投函し、ブローニュの森に向かった。葉を落として

はいるが、美しい大きな人工の森だった。近くのカフェでビエールを飲んだ。昼間から眠くなるのには困

った。午後2時、地下鉄シャトレの駅頭から休館中のノートルダム寺院の前を通り(ドアが開かなかっ

た)、セーヌ川を覗いた。次いでサマリテン百貨店に寄り、この日記帳などを買った。再びセーヌに向か

い、ポンヌフを渡り、カルチェ・ラタンのカフェに入った。パリ大学ソルボンヌ校の学舎を抜けながらル

クセンブルグ公園に行き、ホテルへ戻った。


 2月20日(水)曇り。宿探しにオデオンからカルチェラタンまで歩き、イデアル・ホテルに落ち着

く。夕食を買っていると芸術学校に通うという女性と出会い、彼女の住むホテルへ行く。月極のホテルと

いうのを初めて知った。彼女のパリ生活の話を聞き、色々と考えさせられた。何が彼女をパリに引き寄せ

るのだろうか。いよいよ、明日からヨオロッパ回遊の旅が始まる。

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