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その日の経営会議では売上げ減少に対する戦略の見直しが取り上げられていた。
「この上半期における売上げは目標の13億5千万にかなりショートしている。営業部長、これをどうリ
カバーするのか説明してくれたまえ。」と白川が会議を始めた。
「はい、前月末までの売り上げは10億970万円です。あと20日の営業日がありますが、これを3億
4千万円の予算まで持っていくのはかなり苦しく、2億3千万が限界とみております。特に得意先の北側
産業が倒産した影響が大きく尾を引いており、売上げを維持するには新たな取引先を増やすしかありませ
ん。」
「わかった。それで新規開拓はどうなっているんだ。黒瀬君が紹介した会社はその後どうなおった。担当
課長。」
「はい。」と営業の担当課長が答えた。「社長からは何件か紹介いただいておりますが、現在までのとこ
ろ芳しい結果がでておりません。」
「新連合はどうなった。」と黒瀬が言った。
「はい、まだ仕事を頂いてはおりません。」
「そうか。これまでの交渉の内容を聞かせてくれ。彼は権限を持っているはずだから。できれば今夜会っ
てみよう。」
会議が終わると早速、新連合東京事務局長の清水に電話を入れ、赤坂で夜会う約束を取り付けた。
黒瀬は群馬の田舎に生まれた。実家は公務員だったが小さな田圃と畑があり、米や麦、野菜などを作
り、食べ物は自給自足していた。彼が仕事を他人任せにできないのは彼の性分にもよるが、小さいときに
養われた農作業の手伝いによることも多かった。彼は田舎の小さな小中学校を過ごしたが、当時は農繁休
業が一週間程あった。その地域で一斉に田植えが行われ、子供たちも親を手伝うのが一般的であった。彼
も手伝ったが、級友のほとんどが農家だったのに比べ、公務員だった彼の実家は機械化が遅れていた。牛
を使っての農耕や手作業での田植えは小さな彼にとってかなりつらく、面白くない仕事だった。しかし、
その農作業を通じ、どんなつらい仕事でも自分でやり通さなくては納得しない性分を体得していった。
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