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『フィッシュストーリー』(新潮社/伊坂幸太郎)


今から思えば、伊坂幸太郎という作家に対しての過度の傲慢な期待のあまり、
このサイドストーリー集『フィッシュストーリー』を見くびっていたのだろう。
もともとサイドストーリーというものに対し「ファンサービス」的な側面を見てしまう私としては、
正直なところ伊坂にこういった作品を書くよりも純粋な新作を書いて欲しいと思っていた。
とりわけ今、あの『死神の精度』から『終末のフール』へと進化していく小説の流れの中で、
ミステリ作家として売り出された作者が「文芸作家」として評価されつつある時に。

だから一度目を読んだ時にはさほど良いとは思わなかったのだ。
さすがに収録されている作品が全て『ラッシュライフ』と関連していることには気づいたが、
何故『ラッシュライフ』ばかりなのかという疑問をそれ以上深く掘り下げようとはせず流してしまった。
そして全てを読み終わってみてどうも居心地の悪い自分がおり、
一旦『ラッシュライフ』を再読しもう一度本作に戻ってみることにしたのだ。

今はもう有名であるが、伊坂の小説には作品間に渡る「リンク」が多数ある。
当然ながら初期作品を読んでいた頃はさほど意識することは無く後期作品になるほど発見があるのだが、
久しぶりに『ラッシュライフ』を読んでこの作品が伊坂ワールドど真ん中に位置していることに驚いた。
これは世間に名を知られるきっかけとなった作品でもあり、作者の思い入れも強いのかもしれないが、
ほとんどの作品がリンクしているのではないかというほどに繋がっていく。
だからサイドストーリーを書くならば、ここから物語が派生していくのは当然といえば当然なのかもしれない。

そうして『フィッシュストーリー』を再読してみる。
収録されているのは4つの中短編集で、うち表題作が比較的独立していて、
他3作は主に『ラッシュライフ』とのリンクだ。
各作品の紹介を少しだけする。


「動物園のエンジン」
巻頭を飾る本作は40ページ弱のミステリ小品。
夜の動物園とそこに集まる人々により小さな秘密が明かされる。
途中ほんの少しだけ仕掛けがあるものの基本的には単純で悪く言えば物足りないはずなのだが、
伊坂と動物園というのはどうも相性が良いようで、何となく好感を持って終わった。
この作品のみ『ラッシュライフ』発売前のデビュー直後に書かれている。

「サクリファイス」
伊坂作品おなじみの本業は泥棒・副業は探偵という「彼」の、副業の方で活躍する物語。
人探しの依頼を受けて東北地方の山の中の辺鄙な村に入り込んだものの、目撃情報が出てこない。
調査を進めていくと、その村には昔から伝わる「こもり様」という生贄の風習があったが・・・・。
うーん、何が悪いというわけではないのだがどうも好きになれない。
この作品集の中でもこれだけ浮いている感じがするのは私だけか。
ミステリ方面で伊坂を好きな人には良いのかもしれないが。

「フィッシュストーリー」
現在・過去・未来に渡って語られる希望と青春の物語。
キーになるのは、マニアにしか知られずに終わったあるロックバンドが解散前に出したアルバムで、
その最後の1曲には1分間無音の部分が録音されているという。
その無音部分が生み出された経緯が明かされるとき、そこに込められた強い想いが未来へとつながっていく。
非常に「らしい」作品であり、短いページの中で時間と視点がめくるめくように変化していく。
一度目は構成を考えながら読み、二度目になって初めてストーリーを味わえた。
こういうタイプの小説を読むと、この人はやっぱり上手いなあと実感させられる。
一応リンクはあるものの、この作品集の中で唯一の独立した作品。

「ポテチ」
例のごとく本業泥棒男の「彼」も登場するが今回は脇役。
主人公は泥棒仲間の男とその恋人で、彼らが空き巣に入った家で余計なことに首を突っ込み
トラブルに巻き込まれる。
その家の主は現役プロ野球選手で、実は主人公と同郷で同い年だったのだが・・・。
あちこちに伏線が散りばめられていて物語がどう収束していくかは大体予想が付くのだが、
それでも登場人物たちの描写が抜群に素晴らしく、引き込まれて読まされる。
最後まで読んでもう一度読み直し、二度目はあちらこちらでグッと来てしまった。
ラストの吸い込まれるような夜空も美しいが、個人的にはもう少し前の涙のシーンが印象に残った。
本作品集の中でダントツに好きな作品。


それにしても久しぶりに続けて二度読んだ小説だった。
一度目はイマイチだったので、まさかここまで印象が変わるとは思わなかった。
きちんと全力で読んでいるつもりだったのだが、少々反省。
時間を置いて三度目を読んでみた時、また新しい発見があることを楽しみにしている。

ところで『オーデュボンの祈り』『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『グラスホッパー』
へのリンクは読んでいて気づいたのだが、他にも実は隠されたリンクがあっただろうか?

閉じる コメント(32)

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たまらんがなさん、決してそんなことはないと思います。もちろん期待しすぎは良くないにしろ、マイナスのイメージを持って読んで欲しくは無いです。作品によって差はあるかもしれないですね。

2007/2/7(水) 午前 2:27 こたろう

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ウィクスさん、私も「ラッシュライフ」好きです。初期作品の中では多分一番です。ただ個人的に伊坂への期待としては、ミステリではない方向へ進んで欲しいとおもっっているのです。今ちょっと時間内の出改めてそちら遊びに行きますね!

2007/2/7(水) 午前 2:30 こたろう

「ラッシュライフ」は確か人物をメモで書き出したような…。でも見当たらないので再読ですね(^^;手元に「フィッシュストーリー」はあるのに読めませ〜ん!

2007/2/8(木) 午後 11:53 紅子

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登場人物がかなり多かったですよね。五つくらいのパートに分かれていたような気がします。全貌を把握するまでは大変ですが、収束していく過程は伊坂作品の醍醐味が味わえますね!

2007/2/10(土) 午前 0:57 こたろう

読み終えて、私も「ラッシュライフ」を再読し始めました^^; リンクは曲者ですね。後を引きます。

2007/2/12(月) 午後 7:31 メロディ

お久しぶりです!!僕もフィッシュストーリー読みました。ラッシュライフも一度読んだんですけど、もう一度見返すと自分なりに新しい発見ありそうなので熟読してみたいと思います☆

2007/2/13(火) 午前 1:10 YUKKY

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メロディさん、読み返したくなっちゃいますよね。自分では気づかなかったものがあるかもとか、気になります!

2007/2/13(火) 午前 1:12 こたろう

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ユッキーさん、お久しぶりです〜。私は基本的に同じ本を何度も読み返すことはしないのですが、伊坂の本は新しい発見があったりするので時たま読み直します。本作はぜひ二度読んでほしいです!

2007/2/13(火) 午前 1:15 こたろう

え〜今まさに『オーデュボンの祈り』『ラッシュライフ』『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』と読み漁っている最中でございます〜んなかなかに目が離せない作家さんですな・・・

2007/2/14(水) 午後 1:28 goleiro

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とするとその勢いで『フィッシュストーリー』に向かうしかありませんね!もちろん他のどの作品もオススメなのですけれど、『ラッシュライフ』が特にリンクしているので続けて読むとなお良いかもしれないです。

2007/2/16(金) 午前 0:45 こたろう

読みました!「ラッシュ〜」「オーデュボン〜」の内容をすっかり忘れていた私は、普通の短編集として読んでしまいました^^;ほんとは本書の前に再読したかったのですが。「フィッシュ〜」と「ポテチ」が好きでした。TBさせて下さい。

2007/2/16(金) 午前 1:06 べる

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やっと読みました。「ラッシュライフ」はややおいて置かれた感の残った作品だったのですが、この本を読むとちょっと読み返したくなります。個人的には「ポテチ」が一番好きですねえ。『アヒルと鴨のコインロッカー』との繋がり分かりませんでした^^;;;

2007/2/17(土) 午前 7:02 たいりょう

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はじめまして。ぞうの耳さんのサイトからうかがいました。今回も伊坂さんらしい小気味よい会話が楽しめました。。「ラッシュライフ」とのリンクが多く、懐かしかったです。こちらの記事にトラバさせていただきました。コメントやトラバ返しなどいただけたらうれしいです。お気軽にどうぞ。

2007/2/18(日) 午後 1:17 [ 藍色 ]

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べるさん、やはり印象に残るのはその2作になりますね。「オーデュボン」はともかく「ラッシュ」ファンのためのストーリー集という感じでしたね。

2007/2/19(月) 午前 0:08 こたろう

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たいりょうさん、1作選ぶのなら私も「ポテチ」ですよ。「フィッシュ」も良いですけどね。『アヒルと鴨』はリンクというには弱いかもしれないのですが、「本屋で辞書」云々というセリフが登場したので一応書いてみました。

2007/2/19(月) 午前 0:10 こたろう

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藍色さんはじめまして!TBありがとうございました。こちらからもTBしますね。伊坂作品の会話は独特のセンスがありますね。

2007/2/19(月) 午前 0:12 こたろう

実家の本棚を家捜しした「ラッシュライフ」を再読しての読了です。やっぱり「ポテチ」がいいですねー。爽やかな読後感が素晴らしい。涙のシーンが格別でした。はじめ「動物園のエンジン」を読んだときには、どうしようかと思いましたが(笑)、表題作と「ポテチ」で、ああ、やっぱり伊坂さんが好きだ〜と改めて思いました。感想記事をアップしたらトラバさせていただきまーす。

2007/2/19(月) 午後 11:24 zo_no_mimi

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やはり「ラッシュ」は読んでおくとより「ポテチ」を楽しめますよね。「サクリファイス」の方は単独でも読めるとは思いますが。「動物園のエンジン」の発表はデビュー直後、「ラッシュ」の前ですからそのあたりは斟酌しなければいけませんよね。

2007/2/20(火) 午前 0:00 こたろう

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伊坂さんの新作っていうだけで、図書館に予約をして…まっている間に、「オーデュボン」「ラッシュ」「アヒル」は読むことができたんですが…
珍しく購入しているww「重力ピエロ」はまだ未読。
「グラスホッパー」も未読だったので…
伊坂さんを制覇してから再読したいですね♪TBさせていただきます♪

2007/5/25(金) 午後 9:14 チュウ

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その2作はあんまり関係ないのです。ちょこっと名前がリンクしているとかその程度なので、未読でも影響はないかと思いますよ。

2007/5/25(金) 午後 11:58 こたろう

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