河信基の深読み

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山崎訪朝を読む(下)

 12日から中東を訪問するライス国務長官が電撃的に訪朝するとの情報が浮上し、山崎・自民党安全保障調査会長訪朝との関連が注目される。
 ピョンヤンに滞在している山崎氏の動静は現時点では伝えられていないが、今日、何らかの動きがあったようだ。
 北朝鮮は、山崎氏の求めに応じてピョンヤン宣言が有効であることを確認し、小泉訪朝受け入れに原則合意する可能性がある。日本政府与党内の対話派とのパイプを復活させることで、制裁派の安倍首相を牽制、孤立させることができるからだ。

 事実、山崎訪朝は、拉致問題偏重・制裁偏重の安倍外交に事実上、「ノー」を突きつけたも同然である。
 それについて日本のマスコミには「スタンドプレー」との見方が多いが、ブッシュ政権内で起きている対北朝鮮政策の変化との連関性が十分に見えていないきらいがある。

 米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIShttp://www.csis.org/index.php) のテーラー上級顧問が、「ブッシュ政権はイラク、イラン問題に忙殺され、北朝鮮に対しては現実主義で対応するしかない。ピョンヤンへの特使派遣を考えている」と述べ、ライス国務長官が12日からの中東訪問後、もしくは、イラク報告書をまとめたベーカー元国務長官が電撃的に訪朝する可能性があると指摘した。
 http://www.yonhapnews.co.kr/politics/2007/01/12/0504000000AKR20070112009100071.HTML

 イラクでの失敗を公式に認め、今後、議会などでの責任追及が必至のブッシュ大統領には、対北朝鮮政策でも、もはやそれほど選択肢は残されていない。対話と妥協の現実主義路線に転換するのは避けられないだろう。
 ブッシュ政権の北朝鮮封じ込め政策の一翼を担ってきた日本も、遅かれ早かれ政策転換は不可避である。
 山崎訪朝はそれを先取りしている側面があり、その点で、明らかに安倍首相の先を行っているのである。

 今回の山崎訪朝は、従来の朝鮮労働党対外連絡部や統一戦線部のルートではなく、米国を舞台に労働党国際部のラインに沿って実現したとみられる。
 すなわち、北朝鮮に深いコネクションを有する統一教会系の米紙・ワシントン・タイムズの朱東文(チュ・ドンムン)社長を介した昨年7月の訪朝招請状に端を発し、その後、ホワイトハウス筋の関与で実現したと見られる。
 つまり、米国の何らかの意思が働いていると考えられるのである。

 北朝鮮との核問題解決を急ぐブッシュ政権は、これ以上安倍政権が拉致問題を持ち出して北朝鮮を怒らせ、6か国協議進展に障害をもたらすことを望んでいない。
 また、安倍政権の閣僚や与党幹部が公然と核武装論議をしたことに、警戒感を抱いたと思われる。現に、ネグロポンテ国家情報長官が11日、上院情報特別委員会に送った、世界のテロ組織・国家による脅威の現状をまとめた「年次脅威調査報告書」で、「北朝鮮の核に刺激され、他の北東アジア諸国は核兵器を追求する決定を下すかもしれない」と日本を暗に牽制した。
 それを直ちに“安倍外し”とするのは性急だが、全ては今後の展開次第である。
 
 そうした複雑な背景を帯びた山崎訪朝を単純に「二元外交」と批判するのは、いかにも安易な、日本的な画一主義的情緒であり、国際基準から外れた奇妙な現象である。
 米国では与野党議員がしばしば訪朝し、ブッシュ政権を批判して外交の幅を広げてきた。山崎訪朝は、遅ればせながら日本でも、議員外交が芽吹きはじめた健全な兆候と見るべきものなのである。
 本来ならば野党議員がもっと積極的になってもよさそうなものだが、「拉致問題」のために封じ込められ、動きが取れなくなっているのは、日本の外交にとって不幸なことであると言わねばならない。

 安倍外交における拉致問題は、いわば小泉外交における靖国参拝と同じである。対北朝鮮外交の硬直化はそこに起因する。
 小泉氏は日本遺族会への公約を律儀に守ろうとしたが、安倍氏も家族会や「救う会」に「拉致問題が安倍政権の最大の課題」と公約したことで自縄自縛されている。
 靖国参拝問題を「曖昧化」し、訪韓、訪中で一定の評価を勝ち得たが、家族会や「救う会」は安倍政権誕生の最大の功労者、コア勢力であるだけに呪縛を解くのは容易ではない。

 安倍首相が制裁に偏るのは、合理的な政策判断というよりも、多分に家族会や「救う会」の報復的な被害者感情に影響されているからである。さらに言えば、反北朝鮮感情を煽って政権浮揚力とし、教育基本法や憲法改定など右傾化路線に利用するところにある。 
 そのために、北朝鮮との対話で拉致問題を解決しようとするよりも、圧力・制裁を前面に出し、北朝鮮と対決することを選んだ。

 だが、圧力偏重では、北朝鮮が反発するだけであることは核問題を見ても明らかである。
 安倍氏が生存していると主張する「拉致被害者」にも危害が及ぶと考えるのが常識的であろうが、安倍氏にとっては、「国際的包囲網構築」に振って拉致問題解決を先延ばしにした方が、政治的メリットが大きいのである。

 ところが、国際社会では、安倍氏の“意図”についての疑惑が徐々に広がっている。
 韓国では、かなり前から「安倍氏の拉致は内政問題だ」との見方が支配的だ。
 米国ですら、ニューヨーク・タイムズ(12/17)が三面の大半を占め、「日本の右翼が、北朝鮮拉致で怒りを煽っている」とのタイトルで、安倍首相が「国際的にはすでに解決した拉致問題を右傾化に利用している」と批判するなど、メッキが剥げてきた。
 初の訪欧でも拉致問題を訴えているが、現地メディアは冷ややかな反応を示し、「内政上の葛藤から逃れて、休養になるだろう」などと報じているという。
 http://select.nytimes.com/gst/abstract.html?res=F50913FF38550C748DDDAB0994DE404482
 http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20070111k0000e010018000c.html

 北朝鮮も、安倍氏は「拉致問題を政治資源化している」とみなし、“安倍叩き”に乗り出した。
 安倍氏が官房副長官時代に「拉致問題は私を通してくれ」と福田官房長官を出し抜いて腹心の井上義行秘書(現首相秘書官)を北朝鮮に密使として送った事実を、慣例を破って暴露し、「政治的な二枚舌」と批判している。 
 かなり腹に据えかねているとみられ、北朝鮮のメディアは昨年暮頃から日本を「왜나라(倭国=日本の蔑称)」と呼び始め、労働新聞は3日付の論説で「日本反動らが反共和国(北朝鮮)策動とともに、反総連(在日本朝鮮人総連合会)策動をますます露骨化させている」との金正日総書記の発言まで引用して、対日批判のオクターブを一段と上げている。

 そこには日米離間を図る狙いもあろう、攻撃の矛先を、対話の進む米国以上に日本に向けているのが最近の特徴である。
 労働新聞の4日付論評は「朝日関係は現在、武力衝突ラインに肉薄している」とし、「倭国の軍国主義者らは『日本の安全保障』の口実の下に、わが国に対する先制攻撃で朝鮮再侵略の野望を実現しようとしている。わが軍隊と人民は、無慈悲な懲罰を与え、百年の宿敵に対する恨みを晴らさずにはいないだろう」と書いた。
 昨年12月23日には、金英春総参謀長が金総書記の軍最高司令官推挙15周年記念中央報告大会での報告で、「米国や日本などその追従勢力が制裁を続けることは我々を経済的に窒息させようとするものである。我々は決して戦争を恐れていない」と、核使用まで示唆している。
 http://www.kcna.co.jp/calendar/2007/01/01-04/2007-0104-005.html

 北朝鮮一流の過激なレトリックではあるが、日朝間の偶発的衝突の危険性がいつになく高まっていることは否定できない。
 日米両政府が、朝鮮半島有事とそれが日本有事に発展する場合を想定し、港湾・空域の使用や後方支援活動などの詳細部分を詰めた「共同作戦計画」づくりを昨年12月から始めたと報じられたが、実際には、韓国が太陽政策で北朝鮮との衝突回避を図っているだけに、朝鮮有事よりも日本有事の方が遥かに可能性は高いだろう。
 http://www.asahi.com/special/nuclear/TKY200701030318.html

 アメリカ科学国際安保研究所のオルブライト所長が「我々は北朝鮮が核弾頭をノドンミサイルに搭載できると評価している。北朝鮮が開発を進めてきたのはノドンミサイルに搭載できるよう核爆弾の直径を縮めることだった」と述べたように、北朝鮮が日本を攻撃できる核ミサイルをすでに保有している可能性もある。
 ミサイルも、核実験も失敗だったと喧伝し、軍備拡張で対決姿勢を強める安倍政権の安保政策は、無責任きわまるものであり、山崎氏ならずとも背筋が寒くなる思いがしよう。
 山崎氏が与党の安全保障調査会長として北朝鮮に乗り込んだのは、国益上、十分な大義がある。

 とは言え、北朝鮮は日本との開戦や、ましてや侵略の意図などさらさらないし、実益もない。
 ピョンヤン宣言にこだわっているように、北朝鮮の本音は、日朝国交正常化と日本の経済協力である。今年の大目標に「経済強国建設」を掲げているだけに、なおさらである。

 北朝鮮はそうした思惑から、山崎氏を安倍氏ら圧力・制裁派への対立軸として遇し、事態打開の取っ掛かりにしようとするであろう。
 北朝鮮の投げたボールにどう対応していくか、山崎氏にとっては政治生命を掛けた一大勝負だが、同じことは安倍首相にも言えることである。

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即ち北朝鮮に利用されるだけである。一人でのこのこ行くのは勝手であるが、加藤氏の言う通り半年後の状況を見ましょう。

2007/1/12(金) 午後 11:51 [ wat*rs*o*e8820*0 ] 返信する

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山崎訪朝は、安倍首相にとっても助け舟になるかも。 制裁一辺倒の安倍外交は、展望が見えない。米国始めとして全ての国が一斉に参加すればいいのだが、そうはいかないので効果は絶対ではない。 拉致家族には申し訳ないが、拉致は北にとってはアキレス腱であり、事実だけに、攻めれば攻めるほど北は頑になるだけだと思う。今の政治体制が倒れ無い限り認めないだろう。拉致を認めることは、自己批判をすることなのである。それは、それに相当する見返りがないとだめだろう。それは日本との平和条約締結だろう。

2007/1/13(土) 午前 1:55 [ コンビニ太郎 ] 返信する

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「自民・山崎氏訪朝、「拉致」進展せず=宋大使らと会談、きょう13日に帰国」、時事通信、2007/01/13-01:34 http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2007011300014

2007/1/13(土) 午前 5:30 [ - ] 返信する

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けんか腰の安倍方式では、拉致被害者家族の方たちが生存中に解決することは難しい。山崎訪朝が何らかの突破口になることを期待しています。 削除

2007/1/13(土) 午前 8:56 [ 青森市民 ] 返信する

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安倍さん、パリ旅行?シラク大統領が怒ったとか。これで何回目?次期大統領選で忙しいから、明日になれば忘れるだろうね。 削除

2007/1/13(土) 午前 9:07 [ 一読者 ] 返信する

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安倍政権支持率は24・0%。「言論NPO」は9日、安倍政権評価に関する有識者緊急アンケート調査結果を発表した。「どんなことを目指す政権か」に「分からない」69・4%、「分かった」25・4%。安倍政権支持率は24・0%。官僚44・0%、有識者26・0%、大学生25・0%、記者11・0%。アンケートは昨年12月下旬、新聞放送局記者、編集幹部、大学生、企業経営者、学者各100人と官僚50人の計350人から回答を得た。http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070109i212.htm

2007/1/13(土) 午前 9:58 [ - ] 返信する

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山崎氏と会談した北朝鮮高官が、「近い将来、情勢の大きな変化がある。」といったようなのですが、どういうことでしょうか。元外交官の原田氏も2007年1月ごろに北朝鮮情勢で大きな潮目の変化がくるかもしれないという見解をネットでしめされていたので、すごく気になります。 削除

2007/1/13(土) 午後 3:33 [ 読者2 ] 返信する

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朝米金融協議が決着し、朝米関係が正常化へと動き出すということでしょう。ライス国務長官の訪朝もありえます。

2007/1/13(土) 午後 4:26 [ 河信基(ハ・シンギ) ] 返信する

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米副大統領、早ければ来月訪日へ イラク政策など協議。今回、両政府がチェイニー氏の訪日を決めたのは、この間の「外交的空白が長くなってしまうので、弾みを維持するためだ」(米関係筋)という。日本の他にも、アジア太平洋諸国を訪れる予定で、日本での滞在は前回同様3日間程度になる見通しだ。 http://www.asahi.com/politics/update/0113/007.html

2007/1/13(土) 午後 7:09 [ 通りがかり ] 返信する

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東南アジア諸国連合(ASEAN)は13日、加盟10カ国による首脳会議を開き、統合実現の目標を5年前倒しし、「2015年」とすることを盛り込んだセブ宣言や議長声明などを発表して閉幕した。議長国フィリピンのアロヨ大統領は開会冒頭演説で北朝鮮の核問題に懸念を示したが、北朝鮮非難は含まれなかった。

2007/1/13(土) 午後 7:26 [ 通りがかり ] 返信する

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