河信基の深読み

タブーを排し、批判精神を高めましょう(商用無断転載厳禁)

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猫殺しの心理

 直木賞作家の坂東眞砂子さん(48)が日経新聞18日付夕刊15面の「プロムナード」に寄稿したエッセー「子猫殺し」で、「こんなことを書いたら、どんなに糾弾されるかわかっている。(中略)承知で打ち明けるが、私は子猫を殺している。飼っている雌の猫3匹は避妊手術をせず、子猫が生まれると自宅隣のがけ下に放り投げている」と告白した。

・・・猫に言葉が話せるなら、避妊手術など望むはずがないし、避妊手術を施すのが飼い主の責任だといっても、それも飼い主の都合。子種を殺すか、できた子を殺すかの差だ。避妊手術のほうが、殺しという厭なことに手を染めずに済む。
 そもそも、愛玩動物として獣を飼うこと自体が、人のわがままに根ざした行為なのだ。獣にとっての「生」」とは、人間の干渉なく、自然のなかで生きることだ。
 人間は、避妊手術をする権利もないし、子猫を殺す権利もないが、飼い主としては、自分のより納得できる道を選択するしかない。
 自分の育ててきた猫の「生」の充実を選び、社会に対する責任として子殺しを選択した。もちろん、それに伴う殺しの痛み、悲しみも引き受けてのことである・・・
 
 それを聞いて、酒鬼薔薇聖斗も自宅周辺の猫を殺していたことを思い出した。
酒鬼薔薇は猫殺しに飽き足らず、妄想を膨らませて猟奇殺人に走るが、ホラー小説家の坂東眞砂子さんはフィクションの世界で同じことをしている。
 さて、共通性があるのか、ないのか。

 坂東さんは日経を通じて「タヒチ島に住んで8年。人も動物も含めた意味で『生』、ひいては『死』を深く考えるようになった。『子猫殺し』はその線上にある。動物にとって生きるとはなにかという姿勢から、私の考えを表明した。人間の生、豊穣性にも通じ、生きる意味が不明になりつつある現代社会にとって、大きな問題だと考えているからだ」とのコメントを寄せた。
 正直な人らしい。自身の生きる意味が不明になりつつある、と告白したようなものだ。

 猫は身勝手な人間の理屈の犠牲になったのであるが、動機において、酒鬼薔薇の猫殺しと全く同じである。
 彼は家の近くの野良猫の首を切り裂き、手足をばらばらにした。方法論は若干異なるが、他の生命を犠牲にしながら、瞬間的に自己が生きていることを実感し、日々消えつつある生の意味を確かめていた点に於いて共通性がある。 
 酒鬼薔薇は猫を殺し終わると、ホラービデオに夢中になったが、坂東さんがホラー小説創作に打ち込むのとどこか似ている。

 早熟な14歳であった酒鬼薔薇は次第に、「猫も人も同じだ」、「なぜ人を殺してはいけないのか?」と反問するようになる。
 やがてニーチェの影響で絶対的なものに帰依し、バモイドオキ神を創り、殺人を正当化する。そして、あの忌わしい殺人に手を染めてしまうのである。サデイズムの傾向があったが、本質的なものではない。

 坂東さんは童話からホラーに移って第一人者となった。映画にもなった「死国」「狗神」など作品には日本的な情念と土着的宗教観が濃く漂う。
 殺人を正当化してはいないが、運命的に受け入れる傾向は見受けられる。
 酒鬼薔薇は母親の愛に飢え、自己を見失い、周囲に対して疎外感を強く抱いていた。遠いタヒチで暮らす坂東さんの内面で、何が起きているのか。

 「自分の育ててきた猫の「生」の充実を選び、社会に対する責任として子殺しを選択した」は、酒鬼薔薇が警察に送り届け、「ゲームの始まりです」と社会への挑戦を宣言した犯行声明を想起させる。
 坂東さんは「猫の『生』の充実」が飼い主の自分に殺されることにあり、それが猫の運命だと言っているようだが、殺人までもう一歩、の危うさがある。

 生を受けたものは生きようとする。その自然の摂理を権利として価値観に高めたものが倫理であり、文明である。
 生きるために他を犠牲にすることが、種の保存のための必要悪として認められる場合もあるが、特定のイデオロギーや宗教的政治的信条、気まぐれによってなされてはならない。

 猫殺しは悪いが、仕方なかった、でよいのである。それをあえて正当化し、生一般に拡大すると、自己中心的な利己主義が頭をもたげ、無差別的となる。
 作品ではその一歩にすでに踏み込んでいるが、「人間と猫は異なる」最後の一線が維持されることを望みたい。

 抗議のメールが殺到しているそうだが、坂東さんはそうした危険が猫や自分だけでなく、自分らしさが否定される現代の管理社会一般に存在すると訴えたかったのかもしれない。
 それならば、今回の事件は身をもって社会に警鐘したものとして、それなりの意味がある。 

 

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