河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

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(上)で「貿易戦争の裏で習近平主席が高笑い」と書いたが、26日のパリでそれが誰の目にもハッキリと映った。焦点の一つであるファーウエイ(華為技術)問題でEU欧州委員会は「単純に禁止しない」と各国の判断に任せたのである。イタリア、英国、ドイツはファーウエイ採用に前向きである。
トランプ大統領は安全保障上の理由を付けてファーウエイ排除を呼び掛けていたが、EUは袖を振ったのである。それどころか、イスラエルが占領したシリア領のゴラン高原への主権を認めると発表し、逆に孤立を深めてしまった。

ここに来て、米中の経済力の差が露になっている。
習主席はフランスのマクロン大統領の招きでメルケル・ドイツ首相、ユンケル欧州委員長らとの4者会談後に臨んだが、その直後に声明を出し、「反グローバル化や保守主義が台頭している。他国間主義こそ経済成長の原動力だ」と述べた。自由貿易主義の旗幟を高々と掲げるのは自分だと誇示し、トランプ大統領の保護主義を暗に批判したのである。事実上の勝利宣言に等しい。

直前まで、日本のマスコミはこぞってマクロンは中国のEU進出に歯止めを掛けようとしていると報じていたが、蓋を開けてみると真逆の結果が出た。マクロンは予想とは正反対に、「共に他国間主義を推進したい。中国と協力し、対話する用意がある」と対中融和姿勢を示した。
習の巧妙な一手が功を奏したのである。前日の中仏首脳会談で、フランス中心の欧州航空大手エアバスのA320を300機発注など電力、造船分野を含む総額400億ユーロ(約5兆円)の経済協力を申し出て、デモ対策で窮地にあるマクロンに手を差し伸べたのである。

英独仏がイタリアの「一帯一路」参加に警戒的であったのは事実であるが、3カ国に対する中国の投資額はEU全体の半分に達し、引き返せないところに来ている。
既にAIIBに加盟している英独仏が「一帯一路」参加の覚書に署名するのは時間の問題である。

習の欧州エアバスの大量発注は、トランプへの巧妙な当て付けでもあった。
というのも、エアバスのライバルの米ボーイングは旅客機737MAXの連続墜落事故で世界的な不信を買い、中国も同型97機の国内での運航を停止した。中国の旅客機需要は今後20年間で7000機と推定されているが、この時期でのエアバス大量発注は米国を揺さぶり、英独仏を引き付ける格好のカードとなろう。

EU首脳は中国を「競争国」と見なし、知的財産権保護などの通商ルールの順守を求めているが、中国は大きな問題とは受け取っていない。
中国側は今回のEU訪問中、「中国が訴える多国間主義や自由貿易の原則は、本来は欧州の理念である。一帯一路の方向性について反対できるわけがない」と外信記者に積極的に発信し、一段と自信を深めている。

文明論であるが、畢竟、中国の強みは製造業を握っていることである。世界の工場と言われていた一時代前は先進国に低廉な労働力を提供する下請けに甘んじていたが、次第に自力をつけ、自前で生産できるようになった。
ある時期まで、技術移転を迫り、先進各国の知的財産権を侵害していたし、現在もそうした状況が全く無くなった訳ではない。
しかし、世界特許の申請件数が米欧を抜いているように、確実に自前の技術を発展させ、蓄積し、先進国を部分的に抜き始めた。5G構築で世界をリードしているファーウエイはその象徴である。
もともと文明の三大発明と言われる火薬、紙、印刷技術は中華文明圏の産物であり、教育熱や教育水準の高さは欧米の比ではなかった。
その自力が再現、発揮されつつあるということである。
習が欧州首脳を前に「欧米が300年かけた産業化(工業化)を中国は改革開放の40年で達成した」と述べたのは、単なる強がりではない。

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トランプ大統領が仕掛けた米中貿易戦争がいよいよ佳境に入り、近々予定される米中首脳会談で落とし所を求めることになろう。
リーマンショック後に米中経済の相互依存関係は引き返せないところまで深まっており、チキンレースで弄ぶには自ずと限界がある。

その象徴が代表的な米企業となったアップルである。主要商品であるスマホは核心的なパテント開発に特化し、本体は台湾企業のホンハイを通して部品を外注し、低廉な労働力の中国工場で組み立てる。ライバルのサムスン電子がパテント開発から組み立てまで主要部分は韓国内で行うのと対照的である。
パテント開発への特化は一時期までアップルの強みであったが、ここに来て弱点となった。低廉な組立工場に甘んじていた中国で、独自ブランドのスマホを売り出すベンチャー企業やスタートアップ企業が次々と現れ、アップルの牙城を脅かし始めたのである。次世代通信網の5Gで存在感を示すファーウエイを米国が排除し始めたのも、危機感の表れと言えよう。

不動産業界から政界に転じたトランプ大統領の目には、巨大な貿易赤字は下手なデイールの結果に映る。それで一番儲けているのはアップルのCEOら0・1%の米富裕層なのであるが、トランプ自身も富裕層の一員なので、不平等な仕組み是正には無関心である。
矛先は最大の貿易黒字国である中国に向かい、「米国を手玉にしてボロ儲けしている・・・」と怒り、高関税を課して赤字解消を企図した。チキンレースの始まりであるが、個別的一時的な“成果”はともかく、マクロ的、戦略的次元で言えば、完全な失敗である。
「米国ファースト」の保護主義を掲げたことは、自由貿易主義の旗幟を自ら中国に譲り渡したことを意味し、その影響は一般に思われている以上に大きい。後世の歴史家に、目先の利害に目が曇り、米中の世界経済覇権交代を促した愚策と評価されよう。

というのも、私は『二人のプリンスと中国共産党』の第6章「中国が米国を追い抜くワケ」でユーラシア大陸東西を結ぶ「一帯一路」が決め手になると予測した。習近平主席が2013年に旧シルクロードを現代に蘇えさせるとして、アジア投資開発銀行(AIIB)立ち上げと同時に提唱した戦略的な巨大経済圏構想である。
AIIB設立に英国、韓国など多数の主要国が参加するのに危機感を募らせたのが、当時のオバマ大統領であった。それを封じ込めようと、自由貿易主義擁護の旗を高く掲げ、日本と共にTPP設立で対抗しようとした。
私は「一帯一路」とTPPが激しくぶつかり、「米中新型大国関係」の帰趨を左右すると書いた。さらに、格差拡大という「先進国の罠」に嵌まった米国は内部分裂を深め、後手後手に回る可能性が高いと指摘した。サンダース旋風は一縷の希望とも書き添えた。トランプ政権誕生は同書刊行直後であるが、最悪のシナリオであった。
すなわち、近視眼的なデイールを得意とするトランプ大統領はTPPの戦略的価値を認めず、脱退を公式表明した。貿易赤字解消を狙う保護主義の殻に閉じ籠ってしまい、結果的に「一帯一路」に保護貿易主義に反対し、自由貿易主義擁護の大義名分を与えてしまったのである。

習近平主席は米国の関税攻勢に一見苦しんでいるが、陰では高笑いしていよう。欧州歴訪中の23日、ローマでイタリアのコンテ首相と「一帯一路」に積極参加する覚書を締結した。すでにギリシャ、ポルトガルなど中東欧のEU加盟国13ヶ国が覚書を交わしているが、14番目のイタリアはG7初となる。この一事だけでも、習の勝ちである。
EUの喉元に位置するジェノバ近郊のバードリーグレーでは現在、2016年にギリシャ最大のピレウス港の運営権を握った中国遠洋海運集団が世界最大級の大型コンテナ船が入港出来るターミナル建設に着手している。皮肉にも、トランプ政権の保護主義が世界経済を不安定化させ、EUを揺さぶっている。財政・経済難に喘ぐ加盟国が少なくないが、イタリアが中国の支援を受け入れた。15番目は、EU脱退で混乱するイギリス、もしくはスペインとみられる。

トランプ大統領もバカではない。愛用のツイッターではそろそろ潮時と考えているニュアンスをうかがわせている。20日には記者団に「対中貿易協議は順調」と述べている。その一方で「関税はかなりの期間にわたって維持することを話し合っている」と中国を牽制することも忘れない。習近平主席との来る会談を意識し、少しでも有利な条件を引き出そうとしているのである。

無理もない。トランプ大統領の突然の関税措置により米中は過去8ヶ月間、総額3600億ドルものモノに関税を掛け合ってきたが、ジワジワと経済へのダメージが目につくようになってきた。
とりわけ、トランプ側に疲弊の色が濃い。鉄鋼関税でUSスチールが息を吹き替えしているように見えるが、鉄鋼を使う製造業はコスト上昇に直撃され、外交問題評議会は1月、「関税は結局、米鉄鋼業界に打撃を与える」と警告している。
今年1〜3月期の米経済実質成長率は0%に急落するとの予想が専らで、連邦準備理事会(FRB)は20日に急遽、今年中の利上げを見送りを発表し、米国債の保有量を減らす量的引き締めを事実上、終了せざるを得なくなっている。FRBの米国債、住宅担保ローン担保証券保有量はリーマンショック前は9000億ドルであったが、現在は4兆ドルと危機的状況だ。トランプ大統領の圧力に屈して景気対策を優先させた量的引き締め断念であるが、米経済の不安定性が高まって債務リスクを増大させよう。一家総出でシンガポールに脱出したジム・ロジャースら第2のリーマンショック到来に身構える投資家が少なくないのである。

政治的リスクも高まっている。大豆の対中輸出等が激減した米中央部の農家は悲鳴を上げ始めたからだ。さらに、中国製鉄鋼値上がりに耐えきれなくなったGMが一部工場閉鎖に踏み切り、地域の白人労働者が再びレイオフの対象となっている。いずれもトランプのコアの支持層であり、来年の大統領選再選戦略に黄信号が点灯している。
ロシア疑惑等で追い詰められているトランプ大統領としては、何とかして習主席から相応の譲歩を引き出し、景気浮揚と同時に支持層を固めたいところだ。

カウンターパートナーの習主席も痛し痒しである。
ただ、中国経済の現状は日本で「減速」と喧伝されるほど深刻ではない。昨年の実質成長率は6・6%と目標を若干下回ったが、日本のマスコミが「28年ぶりの低成長」と声を合わせるのは為にする合唱である。15日に閉幕した全人代で2019年の経済成長率目標を昨年の「6・5%前後」から「6〜6・5%」に引き下げたが、微調整の枠内である。
それでも2%台の米国の3倍強である。既に日本の3倍に迫る中国のGDPは、今世紀半ばには米国を抜くだろう。

その鍵が、先端製造業である。習近平総書記は中国共産党第19回大会(2017年10月)での中央委員会活動報告で建国100周年(2049年)までに「富強、民主、文明、調和の美しい社会主義現代化強国を建設する」との戦略目標を明らかにしている。
その現実的な担保と位置付けられているのが、次世代情報技術(5G)、工作機械、省エネ自動車など10の分野で世界最先端を行く「中国製造2025」にほかならない。
そのモデルケースが世界的な次世代通信網5G構築で頭一つ抜きん出たファーウエイであり、米国の排除の論理の病根は深い。

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金正恩委員長とトランプ大統領の幕裏デイールは佳境に入りつつある。
それを端的に物語るのが、金正恩のスポークスレデイーである崔善姫外務次官の一連の発言である。15日、「いかなる形でも譲歩するつもりはないし、そのような交渉は望んでいない」と述べた、とタス通信が報じた。ハノイ首脳会談でトランプが求めた完全非核化を念頭に置いた発言である。主語を曖昧にしているが、トランプ側には金正恩の意向と伝わる。
崔はハノイ会談決裂直後にも同様な発言をして米側をおそるおそる牽制した。会談決裂は望まない、どうか寧辺核施設廃棄の見返りに制裁を解除してほしとの金正恩の切なる思いを代弁しているのである。
それに対するポムペイオ国務長官ら米側の反応が自制的なのは、ある程度金正恩の本音の部分を見透かしているからと読める。

議会で弾劾の気運が高まるトランプの足元を揺さぶって何とか譲歩を迫ろうとの苦肉の策であるが、金正恩は腰が引けている。
トランプ以上に追い詰められているからである。ハノイ会談決裂後に中国首脳との会談を求めたが、袖にされ、孤立感を深めている。

国内も厳しい。実際、金正恩は今、戦時用に備蓄した2号倉庫、5号倉庫の米まで配給に回して急場を凌ぐ状況にまで追い詰められている。
猛暑と干魃、洪水被害で昨年の穀物総収穫量が500万トンを割り、多くの国民が食糧難の春窮にあえいでいる。大規模暴動に発展しかねない状況であり、強権的支配は限界に近付いている。

金正恩は戦略的次元の根本的な手直しが求められている。
核開発と経済建設を同時に進めると豪語した並進路線が完全に破綻し、全てが裏目に出ているのである。

日本のマスコミはどこも、その点がまだ理解できていない。
昨年4月、金正恩は並進路線は勝利したと終了を宣言し、経済建設に総力を挙げる新方針を宣言した。これを真に受け、北朝鮮は核開発所期の目的を達成し核保有国になったと報じているが、北朝鮮の実態が全く見えていない。

実態はどうか?
鉱物資源や労働力輸出を制裁対象に含めた2016年以降の国連制裁決議が効果を現し、資金難資材難から、核ミサイル開発は核小型化とICBMの実戦化で行き詰まり、中途半端である。
軍需に予算を取られた民政部門はどれも計画倒れの枯れ死状態であり、金正恩が提唱した5ヶ年計画は絵に描いた餅でしかない。
つまり、並進路線は軍事的にも経済的にも破綻し、北朝鮮の国力をいたずらに消耗させたのである。

その責任を回避しようと、金正恩は一発勝負に出た。トランプとのトップ会談に賭けたのである。
事実、昨年の第一次会談は北朝鮮国民に希望を抱かせた。「米大統領とのトップ会談は偉大な金日成大元帥も出来なかった・・・」と、一部にカリスマ性も芽生えた。

それだけに今年の第二次会談への期待は大きかった。制裁が解除され、生活が良くなる、と。当然、それに失敗すれば反動は極めて大きい。
北朝鮮指導部もそれを十分に理解しているので、いまだに対応に苦慮している。会談決裂、と報じるわけにはいかず、朝鮮中央通信や労働新聞は肯定も否定も、一切報じていない。しかし、国民の間には中国国境地帯での携帯やスマホ情報を通して、失敗したらしいと噂が拡散している。
労働党内部の学習会では「核は手放さない。自力更正で耐えよう」と引き締めを図り、他方で備蓄米を放出して動揺を抑えるに必死だが、事は時間との戦いのレベルに入りつつある。南米のベネズエラと状況が似てきた。

余録だが、著名な投資家のジム・ロジャースが近著で「北朝鮮は5年以内に世界で最も魅力的な投資先となる」と語り、話題を集めている。特別な根拠を挙げているわけでもなく、私が以前から述べていることを後追いしたような話である。だが、第二次首脳会談を迎えトランプ大統領が「北朝鮮は核廃棄し、改革開放に向かえば世界のどの国よりも急速に発展する」とツイッター等で発信し、北朝鮮を新規の有望な投資先として世界中に認知させた事は間違いない。

ハムレット金正恩も本音では気苦労抜きに贅沢三昧できる儲け話に乗りたいであろう。
保守強硬派を説得できるか、その一点に注目しよう。

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ハノイでの米朝首脳会談は物別れに終わった。金正恩国務委員長が寧辺の核施設の廃棄と制裁の実質解除を交換条件にしたが、トランプ大統領が寧辺以外のウラン濃縮施設を廃棄対象に含めることを要求し、金正恩が難色を示すと会談を途中で打ち切り、さっさとハノイを飛び立ってしまった。
予想外と内外メデイアは報じるが、読みが浅すぎる。局面は私が予想した我慢比べの新ラウンドに入ったと見るべきであろう。

今朝一番で目にしたトランプのツイッターには「米韓軍事演習は数億ドルの無駄遣いの節約だ。緊張の緩和は今後の北朝鮮との交渉に役立つ」とあった。金正恩との対話を忍耐強く続けるとの意思表示である。
制裁が効いており、金正恩は遠からず音を上げて、寧辺+αのデイールに応じてくると見越した。独特の商売勘を働かせたと読める。

次回の会談はそれが焦点となろう。前回、指摘したように、北朝鮮の全面核廃棄は金正恩の独断では決められない。保守強硬派の同意が不可欠である。
金欠病から改革開放に前のめりの金正恩が彼らを説得出来るか、それが隠れた焦点である。

私はトランプ・金正恩会談をつぶさに観ていたが、ボルトン大統領安保担当補佐官が会談に割り込んできたのを観て、雰囲気が変わったと見て取った。記者も入ってきて金正恩に質問を浴びせたが、初めての体験に金正恩は狼狽していた。笑みがこわばっていた。
案の定、トランプは非核化のハードルを揚げ、金正恩は即答出来なかった。陪席した金英哲副委員長もピョンヤンの実勢である保守強硬派の意向を無視する事は出来ない。

陰の演出者は明らかにボルトンである。ボルトンは昨日来、米メデイア各紙のインタビューに応じ、「将来の明るい経済のために、北朝鮮は完全非核化に応じる可能性があった。大統領は悪い取引を拒否した。国益のために成功だった」と内幕を明かしている。大統領を庇いながら、その実、ボルトンの自画自賛である。
成果を誇示したいトランプは寧辺核施設廃棄程度でデイールに応じる気があったが、ボルトンが身を持って押し止めたのであろう。ネオコン筆頭格のボルトンは進言が受け入れなければ辞任する意向を暗示したと思われる。ロシア疑惑等で追い詰められ、相次ぐ側近の辞任で孤立を深めているトランプには、それを受け入れるしか選択肢がなかったと私は分析している。

労働新聞は金正恩がピョンヤンに戻る列車の中で悶々としている現時点で、米国との交渉が決裂した事を一切伝えていない。ホワイトハウスも「成功」だったと強調している。互いに今後の交渉の進展に賭けようとしている証左である。
トランプと金正恩の関係は個人的信頼関係というより、脛に傷持つ者同士の持たれあい、が実態に近い。実利で一致しているのが強みであり、安倍晋三首相とプーチン大統領の危うい関係よりもはるかにソフトランデイングの可能性は高い。

今後の展望であるが、「核は民族の宝剣」と認識するのが保守強硬派である。南北統一の決め手になる宝剣である。
現時点では、米国との交渉を核軍縮交渉に持ち込むのが保守強硬派の最低ラインである。寧辺廃棄までは応じられるとなる。
他方の金正恩は、イデオロギーには基本的に無関心の実利主義者であり、核にそれほど固執していない。昨年9月のピョンヤンでの文在寅との会談で、「世界の人々が時間稼ぎだと言っていることを知っている。ペテンなら米国の報復は目に見えている。報復に持ちこたえられるだろうか。真剣さを信じてほしい」と海外の目をかなり正確に認識している事をうかがわせた。
その一方で「リスト申告は攻撃目標リストを申告しろと言うのと同じだ」と述べ、保守強硬派にも配慮した。そのギャップを埋められるか、それが喫緊の課題となる。

今回の米朝首脳会談の番外の成果は、トランプが「北朝鮮は改革開放すればすぐに経済大国になれる」と世界に宣伝した事である。ベトナムは会談場所提供が大きな宣伝となったと喜んでいるが、北朝鮮の潜在的可能性が改めて注目された事は、今後、大きな意味を有する。
北朝鮮の地下資源は石炭、鉄鉱石、銅、タングステン、亜鉛、金以外にもレアアースが豊富であり、総額6兆ドルと試算する韓国の調査機関もある。トランプはそれを宣伝し、新たな投資先をうかがう国際的な投資家の目を引き付けた。
優秀な人的資源と合わせた巨大な潜在能力を発揮できず、世界最貧国レベルに沈んでいるのは、北朝鮮の政治体制の劣化に最大の要因がある。それを如何に止揚していくか、今後の課題の一つである。

私は『二人のプリンスと中国共産党』で米中新冷戦をいち早く予測したが、米朝会談も隠れたモメントはそこにある。北朝鮮は1993年に核不拡散条約から脱退した。NPT復帰とIAEAの査察は不可欠であるが、具体的な核弾頭解体処分は核保有国の米中が担うことになろう。
米朝核廃棄は一般に想像されているほど難しくはない。過去には南アフリカが初歩的な核兵器を自主解体し、リビアが核開発計画を廃棄した。実戦配備した核兵器についてもウクライナが全てロシアに撤収した前例もある。

動き出せば早い。

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27〜28日にハノイで第二次米朝首脳会談が開催される。昨年6月の首脳会談で新米朝関係構築、朝鮮半島の平和体制構築、朝鮮半島の完全な非核化が合意されたが、地域の平和と安定に直結する問題の焦点は一点、北朝鮮の非核化である。金正恩国務委員会委員長は「完全な非核化に向けた決意」をトランプ大統領に直接伝え、事態は動きだすやに見えた。
しかし、具体的な進展は何もなく、時間が無為に過ぎてきた。

トランプは核実験もミサイルも飛ばなくなったと自画自賛し、安倍首相にノーベル平和賞推薦を依頼しながら、成果を誇示した。
確かに、一時はカウントダウンとまで言われた北朝鮮核施設などへの先制核攻撃の危険度は低下し、まがりなりにも地域の平和は保たれた。
その一方で、北朝鮮に核開発の時間稼ぎに利用された側面もある。
評価は賛否両論であり、それぞれ一理あるが、一つだけハッキリしているのは、状況はトランプ、金正恩双方に次第に重荷になっていることである。

北朝鮮の核戦力が米国を脅かすレベルでない事を知ったトランプは、以前ほど北朝鮮に関心を持っていない。制裁維持で音をあげさせる方針に切り替えた。
主たる関心は、焦眉の貿易戦争の相手である中国の影響力が韓国を巻き込んで地域で強まる事である。そこでデイールのカードに北朝鮮問題に再び目を向けた。あわよくば、外交的成果とし、来年の大統領選挙に向けたアピール材料にする腹積もりであろう。

実際、前回の「立ち枯れの金正恩 泥沼のトランプ」で「両者ともに足元は脆弱で、中国の顔色をうかがいながら、脅し透かしの我慢比べに入る」と書いたが、今日までの展開はほぼ予測した通りであり、我慢比べが続いている。
トランプ大統領は「北朝鮮側で意味のあることがなされなければならない。これが最後の会談になるとは思わない」と、大統領選を睨んだスケジュール表を示唆している。ロシア疑惑などで追い詰められている苦しい内情があるが、それについては次回(下)で検証する。

他方の金正恩だが、時間が経つほど苦しくなっている。持病の金欠病が限界に達しつつあるのだ。
市場経済が発達しているとの見方が一部にあるが、ピョンヤンのショーウインドウを見学した感想でしかない。闇市場であったチャンマダンが全国に約500余ヶ所、事実上合法化されているが、その実態は、建前の計画経済が予算難から機能しなくなり、闇取引を追認せざるを得なくなっている。
金正恩は新年の辞で「自立経済」を7回も繰り返したが、民間に丸投げしたに過ぎない。金日成時代の社会主義経済強化のスローガンの一つであったそれとは全く異なる。正規の国内教育を受けなかった金正恩自身がその違いに気付いていないだろう。

金正恩の経済政策なるものは、失敗した馬息嶺スキー場、現在進行中だが資金難で頓挫している元山葛麻海岸観光地区のような思い付きリゾート建設である。
どれも利用予定者数など経済的効果や効率性を無視しているため、造っても維持費がかさみ、投資した労力、資材、資金の無駄遣いとなる。その皺寄せで、肝心の工業生産部門や鉱山開発部門は慢性的な資金難で補修すら出来ず、崩壊状態に陥っている。

それでも金正恩が持ちこたえてきたのは、父親金正日から受け継いだ39号室管理の秘密資金である。外貨は全てここに集められ、そこから党幹部に贈り物をして支持を取り付け、他方で思い付き経済プランに流用して何とか政権を維持してきた。
しかし、2017年に国連安保理で中ロ賛成で採択された制裁決議後、虎の子の秘密資金が急速に枯渇しつつある。中国への石炭、海産物、衣料品輸出など前年の輸出総額の9割が対象となった。出稼ぎ労働者からの上納金も大きな収入源であったが、それも規制され、にっちもさっちも行かなくなっている。

それに伴い、統治基盤が揺らぎ始めている。金正恩体制下で70人以上の高級幹部が粛清され、太永浩前駐英公使ら核心幹部クラスまで連続亡命している事実は内部の思想的団結が崩壊し、強権でしか秩序が維持できなくなっていることを物語る。

ギリギリまで核にこだわる金正恩の本音は何処にあるのだろうか?
これについては再三述べているように、落下傘で後継者に納まった金正恩は、金日成主義者でも社会主義者でもない。急造の独裁者の中身はスイスの中高時代と変わらない。
「私の子供たちが一生核を背負って生きていくのを望んでいない」と、金正恩が昨年4月にポンペオ国務長官との会談で述べたとエンドル・キム前CIAコリアミッション・センター長が22日のスタンフオード大学での講演で明らかにした。小市民的な金正恩の本音がよく出ている。

金正恩自身は負担の大きい核廃棄を考えている。その見返りに制裁解除や経済支援を得て、ベトナムにさえ大きく立ち後れた経済再建を図りたいと考えているだろう。
しかし、その場合、核を南北統一を主導する最後の手段と考える保守強硬派の反発は高まり、政権維持が覚束なくなる可能性もある。

それが金正恩のジレンマである。トランプとの通訳だけを交えた1対1の会談を望んでいるのも、その辺の事情をそれとなく訴え、譲歩を迫る思惑があろう。既に、南北首脳会談では文在寅大統領にそんな胸の内を明かしている。
腹心の金ヒョクチョル国務委米国担当特別代表をビーガン北朝鮮担当特別代表と直接交渉させているのも、トランプへの直訴で経済制裁緩和の見返りを得ようとしているためである。

番外の成果は、ピョンヤンから中国・ベトナム国境まで鉄道で約60時間ほどで行けることがわかったことである。
金正恩がわざわざ鉄道を利用した腹の内は、現在進行中の韓国との鉄道連結を意識していると読める。
北朝鮮が全面核放棄と中国式の改革開放に舵を切れば、韓国と連結し、中国、東南アジアに伸びる鉄道インフラは経済再建の大きな武器になる。

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