河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

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米朝会談を巡る動きが慌ただしくなってきた。24日午前(日本時間同日夜)、ホワイトハウスはトランプ大統領が金正恩委員長に宛てた書簡を公表したが、そこでトランプ大統領は「残念ながらあなたが直近に出した声明では強い憤りと敵意が剥き出しになっていた。会談を開催することは不可能だと考えている」として、6月12日に予定されていたシンガポールでの米朝首脳会談中止を通告した。
その8時間後、北朝鮮の金柱冠第1外務次官が声明を発表し、「予想外であり、極めて遺憾」としながらも、「トランプ大統領は歴代のどの大統領も出来なかった勇断を下した。内心高く評価している」と持ち上げ、トランプ大統領の不興を買った一連の発言は「個人的なもの」と事実上、謝罪した。「委任によって」としており、金正恩委員長の意思を代弁したものである事は二言を要しない。

北朝鮮が反発するとの見方もあったが、私は当初から指摘しているように金正恩には選択の余地がない、折れてくるだろうと予測していた。
トランプも金正恩の軟化を読んでいたと思われる。昨晩10時過ぎ(日本時間)に「北朝鮮から前向きで建設的な回答が来た。北朝鮮がやりたがっている。どうなるかみてみよう」と発表し、ツイッターにも書き込んだ。北朝鮮側が実務協議に応じてきたとも明かし、一転、米朝首脳会談は予定通りに開催される雲行きとなってきた。

トランプが突然、会談中止をぶち挙げたのは中国の動きを警戒したからにほかならない。
文在寅大統領との共同記者会見(22日)で「大連での中朝会談後、北朝鮮の態度が変わった」と不快感を表明し、文に「どう思うか」とふった。異例の対応だが、それだけ中国の動きを警戒している証である。その後の非公開会談で、文からは満足な回答を得られなかったのであろう。

この点が本質的に重要であるが、北朝鮮核問題は今や米中の力学的な関係を基本に動いているのである。(『二人のプリンスと中国共産党』参照)。
トランプが再度米朝首脳会談開催に前向きになったのは、金正恩の謝罪に加え、習近平主席からも北朝鮮非核化で引き続き協力するとのシグナルが送られてきたからと読める。

さて、本題の金正恩をすくませたトランプの一言だが、書簡にある「我々の核能力は大規模かつ強大であり、使わなければならないときが来ないように神に祈る」である。
金正恩が対話に舵を切り、韓国の仲介で米朝首脳会談に応じたのも、米韓合同軍事演習で斬首作戦や核先制攻撃を想定した実践的な演習が繰り返されたことに恐怖感を抱いた事が主因である。
崔善姫外務次官は24日に即事核廃棄を強硬に主張するペンス副大統領を実名を挙げて攻撃し、「会談場で会うのか、核対核の対決場で会うのかは、全て米国の決心に掛かっている」と挑発、トランプを怒らせた。

金正恩の戦略的な大失敗は、無謀にも対米核攻撃を公然と主張し、トランプに対北核攻撃の名分を与えてしまったことにある。
中国、ロシアさえも上回り、北朝鮮とは象と蟻以上の差のある米国の核戦力を敵に回してしまった事は決定的な誤りであった。

金正恩は段階的な核廃棄で見返りを得ようとしているが、調子に乗りすぎ、状況は一段と厳しくなった。
イデオロギーとはもともと遠い金正恩の本音は核廃棄の代償に体制保証、改革開放の為の経済支援を得ることにあると読めるが、足元は外から見るほど磐石ではない。
シンガポールでトランプに大きな譲歩を迫られる事は必定であるが、北朝鮮内部の金日成以来の保守強硬派をまとめきれるか、課題は尽きない。
朝米首脳会談が近付くにつれ取り残され感が高じ、日朝首脳会談の必要性が与野党から叫ばれる最中、朝鮮中央通信論評(5月12日)は「拉致問題は解決済」と従来の主張を繰り返した。その上で「日本はひねくれている。縁談に葬式の話を持ち出している」と非難し、「朝日関係は本質的に被害者と加害者の関係」であるとして過去の植民地支配への謝罪と賠償を求めた。
金正恩国務委員長の意向を反映したものであることは言うまでもない。
それをどう読み解くか、今後の展開を占うキーポイントになろう。

金正恩のカウンターパートナーとなる安倍首相はというと、14日の衆院予算委員会で岸田総務会長が「対話が欠かせないのではないか?」と質問したことに、「日朝首脳会談は(拉致問題解決に)繋がるものでなければならない」と、これもまたここ十年一日のごとき見解を繰り返すのみであった。「トランプ大統領から直接話を聞きたい」と他力本願なのは、当人も打つ手を考えあぐねていることを物語る。

金正恩委員長が「拉致問題は解決済」とするのは、「(横田めぐみさんら)8人死亡、5人不明」と02年の日朝初の首脳会談で金正日委員長が小泉首相に通告した内容が不動であることを示している。
当時、金正日委員長は小泉首相に拉致を認めて謝罪し、蓮池薫氏ら5人を送還することを約した。北朝鮮としては異例の対応であり、日本との関係正常化と賠償獲得のために、もはや隠す必要はなくなったとの判断に基づく。
その認識は金正恩委員長にも引き継がれている。

ところが、拉致問題で名を売って首相の座に駆け上がった安倍氏は「全員生存全員奪還」を公約に掲げ、交渉に前提条件を付けて自ら選択肢を狭め、10年が徒労となった。
生存説に科学的、客観的な根拠があるわけではない。日本のマスコミが連日競って大きく報じた安明進元北朝鮮工作員らの曖昧な情報が全てであったが、安自身が後に「生きていると言えば、飛び付いてきた。捏造した情報を売った」と証言している。

昨今はテレビの若いキャスターが「生存」と何の疑問もなく枕詞のように口にする。だが、冷静に見れば、拉致問題では明白な加害者である北朝鮮が「死んだ」と自白しているのに、「生きている」と被害者側が言い張るのがいかに奇っ怪な光景であるかが分かろう。
加害者を庇い、免罪しているも同然である。あるいは、北朝鮮はそこまで悪でない、生かしてくれていると幻想でも抱いているのであろうか。

私も裏方で少々手助けした08年の日朝接触(14年のストックホルム合意の伏線となる)が大きな転機になるはずであったが、福田首相退陣もあってこれも頓挫した。
安倍首相は「北朝鮮は再調査の約束を反故にした」と主張し、日本のマスコミも追随してきたが、事実に反する忖度報道である。北朝鮮側は再調査結果を出したが、「8人死亡5人不明」の内容であったため、日本側が受け取りを拒否したのが真相である。

私は日朝文化の衝突と呼んでいるが、日本には骨を見ないと死んだと認めない葬送文化があり、横田夫妻ら被害者家族に同情が集まっている。
安倍首相も下手に扱うと公約違反と非難され、支持率急落を招くと動きが取れなくなっている。悲しいかな、せいぜいトランプ大統領に抱きついて何かしているアリバイ作りで交わすしかないのが偽らざる実情である。

しかし、米国も韓国首脳も安倍首相が「全員生存」と言うほど何か根拠はあるのかと首をかしげる。さらに、核問題解決に支障を来すのではないかと敬遠され、孤立するだけである。
安倍首相としては、拉致問題を掲げて被害者の立場を主張している限り、北朝鮮からの歴史修正主義非難を交わし、コアの支持層である保守右翼層を繋ぎ止められるとの計算もあるであろうが、それも限界である。

果たして「全員生存全員奪還」に呪縛されたままで良いのだろうか?
「鬼畜米英」で突き進んだ先の戦争の教訓が示すように、安全保障問題が感情問題で揺れるのは国が誤る危険な兆候である。
北朝鮮情勢は急速に動いている。自ら手足を縛らず選択肢を広げて対応する冷静沈着な判断が待たれる。
卓球世界団体選手権での南北統一チームと日本との女子準決勝戦は色々な意味で楽しめた。
ストックホルムで南北統一チームが急造されたところに、南北首脳会談後の熱気の一端がうかがわれる。ソウルでは統一を期待する気の早い声まで飛び交っている。
しかし、1972年に金日成主席と朴正煕大統領との間で電撃的に発表された南北共同声明後の熱気ほどではない。明日にも南北統一かと、ソウルもピョンヤンも在日社会も燃え上がった。だが、その熱気も1、2年後には急速に冷え込み、以前にもまして敵対意識が強まった。代が変わり、分断は事実上固定化されて今日に至る。
非核化を南北首脳が約した板門点宣言は一定の成果ではあるが、無闇に熱くなることはない。同じ過ちを繰り返さないために、過去からしかるべき教訓を汲み出す冷静さと叡知が求められる。

南北共同声明当時は南北が「民族内部の問題」と勝手に燃え上がり、勝手に冷え込み、国際社会の関心は今一つであった。
だが、今回は韓国が一方的に燃え上がり、南北共同宣言では主導権を握っていた北朝鮮は一転、異様なほど静かである。労働新聞も朝鮮中央テレビも完全な非核化を約した板門店宣言をほとんど報じていない。下手に報じると、核武装を喧伝してきた金正恩国務委員長の権威が失墜し、政治不安を引き起こしかねないからである。
さらに、ノーベル平和賞候補に文と金正恩が挙がるなど、南北よりも米中欧日など国際社会の方が熱くなっている面がある。アジア・太平洋地域の安全保障に死活的な影響をおよぼす核問題が焦点となっているからである。

従って今回は南北だけの問題にとどまらない。
特に北朝鮮は対応を誤ると、政権のみならず国家そのものが存亡の危機に陥ることになろう。金正恩の責任は重大であり、厳しい舵取りを迫られる。

とはいえ、矢は放たれた。南北首脳会談後、韓国、北朝鮮、米国、中国の動きが慌ただしくなってきた。底流には、私が以前から「北朝鮮核問題は本質的には東西冷戦の殘滓であり、G2、すなわち米中新型大国関係の各論として決着をみるしかない」と指摘した流れがある(『二人のプリンスと中国共産党』参照)。
その大枠の中で南北がどこまで主体性を発揮できるか、それに尽きる。

一方の主役である金正恩は3日、急遽訪朝した王毅中国外相と会談し、「『朝鮮半島の非核化実現は我が国の揺るぎない立場だ』と改めて述べた」(中国外務省)。王はそれを支持し、経済協力推進を表明した。
しかし、本音と建前が微妙に交錯している。王は金正恩が先月20日に核実験とICBM発射実験停止を表明し、「経済建設に総力を集中する」としたことを“路線転換”と理解しているが、朝鮮中央通信は李容浩・王の朝中外相会談について「両国の親善、協力関係を新たな高い段階に発展」と報じるのみで、非核化への言及はない。北朝鮮の労働党内では核・経済並進路線は「結束」と総括され、“路線転換”とは認識されていない。
金正恩が発表した核・ICBM実験停止と核実験場閉鎖は客観的には現状維持のレベルであり、廃棄に踏み込んだものではない。凍結と段階的非核化という核隠しで批判を交わし、制裁緩和と経済協力を得ようとするのが秘めた狙いであろう。

ただ、中国との金日成・毛沢東時代の血盟のよりを戻し、米国に対抗する後ろ楯を得たい金正恩の本音は透けて見える。
反対解釈すれば、対中依存度を高めたことになる。北朝鮮核問題の比重が南北もしくは米朝から米中の力関係に移行していることを如実に物語るものである。

直近のコラムで北朝鮮権力内部では核放棄で自身と体制の保証を優先したい金正恩と、金日成以来の武力統一路線に固執する保守派の葛藤が生じていると書いたが、米朝首脳会談が近付くにつれ、一層熾烈化し、金正恩の統率力が問われることになろう。
こうした指摘は現時点で私以外、見当たらないが、日本、韓国には真の意味での北朝鮮専門家が存在しないからである。普通は欧米専門家なら当該国の大学に留学し、現地で研修し、知見や人脈を蓄えるが、日本の専門家にはそうした人物が一人もいない。北朝鮮の内情を知るよしもなく、臆測や推測でしゃべるからコロコロと一貫性がない。

他方の主役である文在寅大統領はというと、現時点では合格点である。就任前はTHAADに反対するなど反朴槿恵ポピュリズムにドップリ浸かっていたが、大統領に就任すると、THAADをあっさり受け入れ、韓米同盟重視を明確にし、親北派と一線を画す現実主義的な政治家に豹変した。
南北首脳会談でも北朝鮮側に最大限の配慮を示しながらも、金正恩を45分の二人だけの徒歩会談に連れ出し、金正恩の本音を入念に探った。
その中継映像を興味深く観ていたが、金正恩は倍ほども歳が離れた文に礼節をもって対し、悩める一青年指導者の素顔を覗かせていた。文が金正恩の本音や置かれた立場、人柄まで相当に踏み込んだ観察をしたことがうかがえる。

文は「トランプ大統領の圧力政策が北朝鮮を対話のテーブルにつかせた」とトランプとの電話協議で確認しあったが、単なる外交儀礼ではあるまい。金正恩との間で休戦協定を年内に平和協定に変え、秋にはピョンヤンを訪問すると合意したが、その直後、核廃棄まで制裁は継続する、平和協定と在韓米軍撤退問題は無関係と原則的立場を再確認している。
今やトランプ・文は強固な盟友関係となり、トランプ・安倍晋三の個人的信頼関係を凌駕するが、鄭義溶大統領府安保室長ら知米派の役割が大きい。英語に堪能な鄭は訪朝の結果をトランプに報告し、その席で米朝会談を決意させる離れ業を演じた。その後もポンペオ新国務長官、ボルトン大統領安保担当補佐官候補と随時、会談を重ねて細部を詰め、今月22日の米韓首脳会談をセットした。その脈絡から、板門店が米朝首脳会談の候補地として急浮上した。

米朝首脳会談ではトランプは文のアドバイスを元に単刀直入に金正恩に核廃棄の意思を尋ね、即答を求めるだろう。
トランプが求めるように2021年までの任期内廃棄へと劇的に進展するか、決裂、軍事オプション選択へと急展開するか予断は許さないが、舞台と役者は揃った。

舞台裏では貿易摩擦も絡んだ米中の確執が複雑化している。双方ともに北朝鮮核問題をカードにしており、米朝会談の行方にも少なからぬ影響を与えるだろう。
板門店宣言では南北米中4者会談も明記されており、南北の主体性がより厳しく問われることにもなる。
北朝鮮が核廃棄と改革開放を断行し、50倍のGNPを有する韓国が全面支援する方向に持ち込めれば、主体性度は合格点である。

他方、蚊帳の外に置かれたのが安倍晋三首相であるが、懸案の拉致問題も自力解決しか方途がない。
それについては次回に譲る。
金正恩北朝鮮労働党委員長が演説した20日の党中央委員会全員会議(総会)で、核・ミサイル実験の停止と核実験場の廃棄が決定された。しかし、肝心の核廃棄についてはするともしないとも言及していない。
それに対してトランプ大統領はツイッターで「北朝鮮と世界にとってvery good news」と意味深長なことを呟いた。一定の手応えを感じているとしながらも、記者会見で「首脳会談が開かれないかもしれない。会談途中で席を立つこともある」と、金正恩を牽制することも忘れない。いかにもデイール上手らしく制裁継続と軍事的オプションの可能性を残し、膝詰談判で金正恩を落とそうとの姿勢を崩さない。

総じて北朝鮮核問題は対話を通して平和的に解決する局面に向かっているが、戦争の可能性が消えたわけではない。全ては27日からの南北首脳会談、来月上旬に予定されている米朝首脳会談の内容如何に掛かっており、金正恩が核放棄の具体策を提示しなければ、米韓が軍事行使に踏み切る状況も十分にあり得る。
というのも、金正恩はピョンチャン・オリンピック参加表明で小型化と弾頭化の課題が未解決の核・ミサイル開発の時間稼ぎをしている。少なくともトランプはそう判断しており、米朝首脳会談が不調に終わったら、時間ロスを取り戻す為にも強硬策に回帰するだろう。何の罪もない北朝鮮国民の為に、若い金正恩がその点を見誤らないことを祈るばかりである。

初の首脳会談を控えたトランプと金正恩の前哨戦は激しさを増し、先の米主導のシリア空爆はアサド政権優位のシリア情勢にほとんど影響を与えなかったが、金正恩には十分な警告になった。対北朝鮮強硬派のポンペオCIA長官、ボルトン元国連大使を安保政策の中枢に据えた上での軍事作戦は北朝鮮有事を想定した事実上の予行演習であり、それをベースにしながら戦略兵器を動員する大規模なものとなるだろう。
誰よりも神経質になっているのが、米韓合同軍事演習で斬首作戦のターゲットになっている金正恩である。金正恩の電撃訪中は米国の軍事的圧力に耐えかねた駆け込みと前に書いたが、シリア事態で鮮明になった。怯えた金正恩は中国を盾にしようと、前年は袖にした習近平主席の特使を丁重に迎え、米朝首脳会談後の習訪朝の約束を取り付けている。日本のメデイアは「血盟の中朝同盟復活」と報じるが、それほど単純ではない。

私は既に1年以上前から「金正恩政権の寿命は2年±1年」と予測し、ほぼその通りの展開となっているが、その骨子は、金正恩は戦略なき戦略で自ら袋小路に陥り、自身の生存戦略を探らねばならないところにまで追い詰められているということである。
すなわち、金正恩が2013年3月の労働党中央委で提唱した「核開発と経済建設の並進路線」はあまりに非現実的であり、5年経った現在、完全に経済的、軍事的に破綻に直面している。
今さら言うまでもないが、国家予算さえ満足に立てらてなくなって久しく、市場経済に丸投げ状態になった北朝鮮経済は中国への依存度を強めた。その中国の制裁参加で窒息直前の窮状にあり、飢えた人民の不満と怒りはいつ爆発しても不思議ではない。
軍事的には致命的な欠陥をさらけ出した。井の中の蛙の金正恩は「核抑止力」の幻想に憑かれ、無謀にも対米核攻撃を公言し、脅すつもりが逆に、米国に核先制攻撃の口実を与えてしまった。
客観的に見て、中ロさえ恐れる米国の核戦力と北朝鮮のそれは象と蟻の差があるが、斬首作戦や北朝鮮攻撃を想定して戦略兵器を大規模に動員した米韓軍事演習で金正恩は厳しい現実を思い知らされ、日々怯え、所在を隠すまでになった。核をあくまでも外交カードにしていた金日成、金正日時代にはあり得なかった異常事態である。

しかし、その点がまだよく理解できず、ある種の呪縛に陥っている人々が少なくない。
今日の朝日新聞朝刊に韓国系米国人のビクター・チャ元NSCアジア部長のインタビューが掲載されているが、駐韓大使に内定したチャは米韓軍の鼻血作戦に反対の意を伝え、トランプ大統領に人事が白紙撤回されたと明らかにしながら、「軍事作戦は数百万の日本、韓国人、数十万の在韓米国人の命を危険にさらす」と述べている。この種の状況認識はペリー元国務長官が口を酸っぱくして語り、米国の対北朝鮮政策に加わった人たちが合言葉のように使っているが、そこにクリントン、ブッシュ、オバマ政権が失敗した理由が透けて見える。北朝鮮の人質作戦に見事に嵌まっているのであり、北朝鮮核問題解決を妨げる心理的要因である。

それを断ち切ったのがトランプであった。デイールを得意とするだけに、相手につけこまれる弱点を敏感に見付け出し、強力なカウンターパンチを食らわせたのである。客観的に見れば、米国の核先制攻撃で北朝鮮は反撃の間もなく地上から消滅する。人道上、民間人を犠牲にすることは許されないが、金正恩は悪魔の選択肢を握られ、縮み上がった。
トランプは戦略的な思考は習近平に劣るが、個別の相対デイールでは昨年4月の米中首脳会談中のシリア攻撃のように習をもたじろがせる速攻策を繰り出してくる。金正恩も手強い相手に睨まれたもので、蛇に睨まれたネズミの心境といったところだろう。
金正恩は核廃棄について「なすべきか、なさざるべきか」とハムレットの心情であろう。

斬首作戦を主導していたポンペオCIA長官(次期国務長官)が4月初めに極秘訪朝し、金正恩と会談した事が明らかになったが、ポンペオはその後米国議会の公聴会で「体制転換(金正恩政権の交代)は求めない」と述べている。金正恩に体制保証をしたことをうかがわせる。
ポンペオを丁重に迎え、再三会談した金正恩が「完全な非核化」の意思を伝えたことへの対価であったと読める。

だが、依然として大きな疑問が残る。
金正恩はなぜ労働党中央委員会で非核化に言及しなかったのであろうか?

その疑問を解く鍵は金正恩の政治基盤が外で思われているほど強固ではない事がある。幹部の粛清を繰り返し、反感を買っているのである。
それでもトップの座に居られるのは、核保有を踏まえて対米交渉に臨み、労働党の大義である南北統一に有利な局面を開くとの期待感があるからに他ならない。
つまり、金正恩は自身の安全と体制保証を得る生存戦略を密かに描くが、金日成以来の幹部たちの統一戦略と乖離しているのである。今になって並進路線を否定すれば金正恩政権の存在意義が疑われかねず、「結束」と曖昧にするしかない。

金正恩委員長は今後、文在寅大統領、トランプ大統領、習主席との会談でそうした乖離を解決する具体策を探していかなければならない。核廃棄と制裁解除や経済支援獲得、平和協定締結などを組み合わせた複雑な過程が待っている。

長くなるのでここまでにするが、鍵を握るのは、米中関係であろう。
『二人のプリンスと中国共産党』に詳しいように、北朝鮮核問題もつまるところ、米中大型大国関係構築の各論であり、米中の力学関係で決着するしかない。かつての「中朝蜜月」は思想性以外にも、国共内戦で中国共産党軍に偽装した北朝鮮正規軍が国民党軍撃破の先頭に立ち、逆に朝鮮戦争で中国義勇軍が北朝鮮を助けるという対等、互恵の関係があった。現在は残念ながら北朝鮮は中国に依存するしかないが、かつての人脈が完全に切れた訳ではない。

最後に一言。
かつて朴正煕は核開発を試みて、最側近の金戴圭KCIA部長に暗殺された。『朴正煕』で「政治の世界で最も危険なのは最も信頼する人物である」と書いたが、金正恩にも同じことが起こらない保証はない。
金正恩委員長の自称「電撃訪中」の訳に対して様々な憶測が飛び交っているが、どれも群盲象を撫でる類いの域を出ず、肝心な点を見逃している。
北朝鮮政権中枢部でさえ直前まで知らなかった金正恩の電撃訪中は、簡単に言えば、なりふり構わぬ駆け込みである。「中国取り込み」は主客転倒の戯言に等しく、「後ろ楯を得る」といった悠長なレベルの話でもない。

直接のきっかけは、トランプ大統領のツイッター人事による国務長官、大統領補佐官(安全保障担当)の交代である。対話にも一定の理解を見せていた前任者に代わって、斬首作戦を主導したポンペオCIA長官、軍事オプションを一貫して主張してきたネオコンのボルトン元国連大使と超強硬派がそれぞれ後任に決まった。ボルトンは最近まで「先核放棄後補償」のリビア方式を主張し、北朝鮮がそれを受け入れなければ軍事力を行使して核・ミサイル施設を破壊すべきと公言していた。
5月末の米朝首脳会談を控えた金正恩はその人事にトランプの意図を見てとって、恐怖感に駆られたのである。以前私が指摘したように文在寅韓国大統領に後見人的な仲裁役を期待したが、それでは覚束なくなってきたというのが正直なところであろう。

トランプ大統領には昨年春の習近平主席との会談中にシリアのロシア軍空軍基地をミサイル攻撃したと伝え、習を唖然とさせた前歴がある。自分の子供か孫の代の金正恩を「リトル・ロケットマン」と呼んでいただけに、面と向かった首脳会談で核廃棄にイエスかノーかと単刀直入に迫ろう。せっかくのデイールに水を差す返事でもしたら、それこそ「世間知らずのバカヤロー」と叫んで席を蹴り、すかさず2、3年前から米韓合同軍事演習で繰り返し準備してきた軍事作戦を命令する事態も十分に考えられる。
29日にシリア駐留米軍を「as soon as possible(早急に)」撤退させる意向を表明したのも、財政的問題とは別に、来る北朝鮮作戦に戦力を集中する布石と読めないこともない。

誰よりも金正恩当人がそれを感じ取っていよう。中国の力を借りて米国の軍事行使に少しでも歯止めになればと保険を掛けたのである。
豪胆と偶像化され、日韓にも為にする宣伝を真に受けている向きがいるが、実は、気が小さく猜疑心の強い性格である。叔父や兄を含む幹部らを前後の見境もなく衝動的に虐殺したのは、それに起因する。
即核廃棄を求めるトランプに対し、「段階的措置」を何とか認めさせ、体制保証を確固としたいのが本音であろう。

金正恩の「電撃訪中」は想定の範囲内であった。2年前に出版した『二人のプリンスと中国共産党』で明確に指摘したように、世界はG2、すなわち「米中新型大国関係」を軸に動いており、大局的には北朝鮮問題はその各論でしかない。
習近平主席にとって金正恩非公式訪中は「窮鳥懐に入らば」であり、ほくそ笑みながら至りつくせりの厚遇で迎えたのである。トランプにまた貸しが出来ると算盤を弾いていた。

そもそも金正恩政権が窮地に陥っているのは、米韓の軍事的圧力と北朝鮮貿易の9割を占める中国による強烈な経済制裁である。
金正恩としては中国の理解を得ないことには動きが取れない。習主席の言葉を健気にメモしている様子が中国国営テレビに大きく映し出されたが、核問題で恭順の意思を表していると言外に語っている。

中朝首脳会談には事実上のナンバー2で、対米外交を統括する王岐山副主席が陪席している事が、習近平主席が米国を強く意識しながら対北朝鮮外交に当たっている事を如実に示している。地域の安保問題におとらず、関税問題などの死活的課題で米国から譲歩を引き出す上で北朝鮮は貴重なカードになっているのである。
実際、会談翌日、中国当局は米国に内容を通報すると共に、「制裁は継続する」と明言している。これに対しトランプ大統領は早速ツイッターで満足の意を表している。

さらにもう一つ、極めて重要であるにも関わらず日本の新聞、テレビが見逃されている事がある。金正恩政権の立場から朝米首脳会談を報じる北朝鮮国営テレビの記録映像に、私がかねてから北朝鮮のナンバー2、陰の実力者と書いている崔龍海副委員長・組織指導部長が金正恩の側にピタリと張り付いている様子が出てくる。
北朝鮮国民が見れば自ずと感じ取る事であるが、今後の展開に大きな意味を持ってこよう。

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