河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

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昨日9日の南北閣僚級会談は2回の首席会談、4回の陪席代表団会談をまじえ延々11時間に及び、3項目の共同報道文を採択した。1平昌オリンピックに北朝鮮は高位級代表団、選手団、応援団を派遣し、費用は韓国が負担する、2南北軍事当局者会談開催、3南北閣僚級会談随時開催が骨子であるが、出だしとしてはまずまずの出来である。
今後、南北首脳会談などより上級の南北対話に発展し、北朝鮮核問題の平和的解決の可能性が出てきたと評価できる。
話し合いの場が出来た以上、韓国側がどれだけ交渉力を発揮し、北朝鮮側を厳しい現実を踏まえた合理的な判断に誘導できるかに掛かっている。

焦点は二言するまでもなく、北朝鮮の核廃棄問題である。オリンピックを真に平和の祭典にするには避けて通れない喫緊の課題である。
趙明均統一部長官は非公開の冒頭発言で北朝鮮が核を廃棄することが半島と地域の平和と安定に不可欠と求めた。李善権祖国平和平和統一委員長はそれをじっと聞いていた。しかし、後半になって、核・ミサイルの戦略武器保有は米国に対する抑止力であり、南北関係とは無関係であると声高に主張した。会談場と直通で繋がっているピョンヤンの指示を受けての発言であった。そうした対応は十分に予想できた事であり、少しも驚くことではない。

金正恩委員長が依然として核に固執していることは衆知のことであり、それが不可能であることを思い知らせることが重要である。
北朝鮮のオリンピック参加の狙いは、核開発の時間稼ぎであり、あわよくば韓国を抱き込んで国際制裁に穴を開けることである。

しかしー前回も指摘したようにこの点が本質的に重要であるが、韓国の助けを借りねば米国の軍事行使を止められないという切迫した窮状が背後にある。
核放棄さえすれば体制保証が得られ、喉から手が出るほど欲しがっている経済支援も得られると理解させることが、パンドラの箱を開ける鍵となる。
今後の南北閣僚級会談にはナンバー2に伸しあがった崔龍海党副委員長・組織指導部長も参加すると予想され、韓国側の交渉力が具体的に問われる。

若干憂慮されるのは、文政権の一部親北派から米韓軍事演習の縮小・中止を求める浮わついた声が聞こえることである。順序を間違えると、結果的に北朝鮮に核開発の時間と資金を与えてしまった金大中、盧武鉉政権の二の舞になってしまう。
北朝鮮は伝統的に力関係にシビアであり、米韓軍事演習云々はあくまでも北朝鮮が核廃棄を約束、実行した後としなければ、交渉のカードとして機能しない。

その辺りを鋭く嗅ぎ取っているのがトランプ大統領である。6日、文との電話協議について記者団に「大きな始まりだ。もし私が関与しなければオリンピックについて話し合うこともなかっただろう。文大統領も感謝していた」と述べ、強力な制裁と軍事圧力が金正恩を対話に向かわせているとの認識を示している。
さらに、南北閣僚級会談にも期待感を表明し、「オリンピック以外も議論してほしい。適切な時期に我々も加わる」と語り、金正恩との電話協議について「問題ない」と積極姿勢を示した。

トランプは金正恩が「新年の辞」で「核のボタン」をひけらかすと、すぐさまツイッターで「私の核のボタンの方がロケットマンよりもはるかに強力だ。しかも、私のボタンは稼働する」と応じた。リアルに使うことができるとの意味である。金正恩の「核のボタン」は見せ掛けのブラフと見抜いているのである。
暴露本を巡ってトランプはバカか天才かと真っ二つに評価が割れているが、少なくとも対北朝鮮政策では、不動産業で成功し、人気テレビ司会者を長く務めた勝負勘が冴えている。相手の弱味を鋭く突くデイールは、後手後手であったクリントン、ブッシュ、オバマよりも上手である。

心配なのは、安倍政権の勇み足である。
日本では韓国が北朝鮮に譲り、日米韓連携の枠組みが揺らぐと警戒する声が強いが、文政権への不信感が影響している。従軍慰安婦問題で対立していることが冷静な判断を妨げていると見られる。
北朝鮮を口実にした軍拡は中国を警戒させており、日韓、日中の不要な対立は金正恩の野心に火をつけるようなものである。

つまるところ、北朝鮮核問題はトランプ大統領と習近平主席の関係性に左右される。習が石油禁輸など北朝鮮制裁に腰が引けていたのは、金正恩政権崩壊後に米国の影響力が北朝鮮に及ぶのを恐れてのことである。
実際、双方ともにそれを意識し、激しい鍔迫り合いを演じてきた。昨年4月6日、習近平はフロリダ州パームビーチにあるトランプの別荘に招かれて歓待されたが、晩餐会でデザートのチョコレートケーキを食べている最中、トランプからシリアに空爆を命じたと聞かされた。
59発のトマホークが発射されたが、習は10秒ほど沈黙し、通訳に再度通訳を求めてから、「化学兵器を使ったのだから仕方ない」と事実上、容認した。トランプから試されていると感じたであろう。
だが、10月に共産党大会を控えており、その場は穏便におさめた。トランプへの答えは半年後に持ち越される。

習は共産党大会で過去5年間の経済、外交的な成果を誇り、社会主義現代強国を築く自身の思想を党規約に盛り込んで足元を磐石にした。その上で一帯一路など積極的に対外政策を進めると表明した。
冷戦以来、初めて米国に強力なライバルが誕生したのである。ソ連は経済的な脆弱性を露呈して自滅したが、中国は改革開放政策が奏功して、今後10年内にGDPは米国をも追い抜くであろう。
自信を深めた習は11月に訪中したトランプを故宮での京劇でもてなし、上機嫌にさせた。さらに、29兆円もの対米投資や米製品買付の商談を持ちかけ、貿易不均衡に関するトランプの不満を吹き飛ばした。目先の利害調整に忙殺されるトランプと10年以上先を睨んだ習との勝負は自ずと見えてくる。

「米中新型大国関係」は私が『二人のプリンスと中国共産党』で予測した方向で今後も進んでいくだろう。
大きく見れば、北朝鮮核問題はその各論である。
金正恩委員長は1日に発表した恒例の「新年の辞」で、「米本土全域が我々の核攻撃の射程圏内にある。核のボタンが私の事務所の机の上に常に置かれているが、これは威嚇ではなく、現実である」と吠えた。その上で、2月のピョンチャン冬季オリンピックについて「成功を心から願う」とし、「軍事的緊張緩和と平和的な環境作りのために共同で努力すべき」と代表団派遣に前向きな姿勢を示した。
米国への核攻撃を露骨に口にし、恫喝する一方、韓国に対話攻勢をかける極端な硬軟両様の戦術に幻惑される向きが少なくない。しかし、自慢の「核のボタン」はバーチャルであり、下手なハッタリ劇である。

私は前回、金正恩はピョンチャン・オリンピックカードで米韓軍事演習中止を狙ってくると書いたが、やはり金正恩は相当に焦っている。より正確に言えば、金正恩は米国の軍事行使に怯えている。それを裏付けるように、「新年の辞」では米韓合同軍事演習の中止と米軍の戦略爆撃機の韓国派遣取り止めを強く求めているが、核先制攻撃を受ける恐怖感が滲み出ている。
今回の対話攻勢の本質もそこにあると見てよかろう。核に自信を持ったので対話攻勢に乗り出したとの見方が日韓のマスコミに散見されるが、皮相的と言うしかない。

金正恩が2017年内の「国家核戦力の完成」を目指していた事は、韓国に亡命した太永浩前北朝鮮駐英公使が明らかにした通りである。当初から、ピョンチャン・オリンピック開催に国威をかける韓国を揺さぶる狙いであったろう。
そのため金正恩は昨年、国連安保理制裁決議が強化される中でもミサイル実験を繰り返し、第6回核実験(9月3日)を強行、新型ICBM火星15号発射(11月29日)で「国家核戦力完成」を一気に宣言した。
だが、一連の実験は逆に、核小型化、大気圏再突入技術の未確立などの弱点を露呈した。火星15号も大気圏再突入に失敗し、バラバラになって燃え落ちた事が現場空域を飛んだキャセイ航空など複数の航空会社のパイロットに目撃されている。

未完成品を完成と言い張るところに、金正恩の焦りと苦境が如実に現れている。昨年暮れには火星15号成功を記念する記念切手を発行し、ピョンヤンでは元旦から群衆大会を開催するなど全国でキャンペーンを張っているが、経済破綻と国民生活窮乏で麻にように乱れつつある国内の引き締めに必死なのである。
制裁は効いていないと見てきたようにコメントする「専門家」がまだいるが、北朝鮮の宣伝に乗せられ、実態が見えていないのである。

核で恫喝しながらの韓国への対話呼び掛けは、無謀な並進路線が行き詰まった金正恩最後の大博打である。
科学者、技術者を叱咤するものの、制裁で外部からの材料、部品調達が阻まれ、核開発が思うように進まない一方、米国の先制攻撃の圧力は日に日に高まる。異常な肥満体が物語るように、金正恩のストレスと恐怖感は募るばかりだ。
昨年10月の米韓軍事演習に際して軍や治安部隊に実弾を支給して備えさせた。演習が実戦に切り換えられ、自分を狙う斬首作戦が実行されることを恐れてのことであるが、私の見立てでは、この事実はある重要な内部状況を示唆する。金正恩は暗殺や反乱を恐れて実弾を支給しないでいたが、その不文律さえ守れなくなっているのである。

中国にもソッポを向かれた金正恩が現時点ですがれるのは、韓国の文在寅政権しかない。韓国は日本と共に米国の先制攻撃に対する一種の人質であるが、とりわけ南北対話に執心する文大統領は利用価値が高い。
金正恩が描くシナリオは以下のごとくであろう。ピョンチャン・オリンピック参加をカードにして同時期に実施予定の米韓軍事演習を延期させ、当面して最大の脅威である米軍の軍事行使を防ぎたい。あわよくば、米韓軍事演習そのものを縮小ないしは中止に追い込みたい。そうして時間を稼いで核戦力を完成させ、核保有国として改めて対米交渉を呼び掛ける。

金正恩がオリンピック参加の意向を示したことに文在寅が歓迎の意向を表すると、待っていたように3日、李善権・祖国平和統一委員会委員長が歓迎の談話を発表し、「文在寅大統領」と最大限に持ち上げた。それによると、金正恩が労働党統一戦線部、祖国平和統一委、国家体育指導委員会に実務的な対応策をまとめるように指示したという。かくして、板門店の南北通信チャンネルが再開され、2年ぶりに南北担当者が対話し、話はトントン拍子に進む。
韓国側が9日に南北閣僚級会談を開くようにと提案、文大統領が4日にトランプ大統領と電話協議し、北側の挑発がないことを条件に米韓軍事演習延期で合意したと発表すると、北側は翌5日、即座に応じ、互いに人選作業に入っている。

文大統領にとっては、体制保証と経済支援を見返りに、金正恩に核開発断念を説得する好機であるが、果たしてそれだけの交渉力があるであろうか。
文在寅はトランプとの電話協議で、とりあえずピョンチャンオリンピック(2月9日〜25日)・パラリンピック(3月9日〜18日)後に米韓軍事演習を延期する事で合意し、南北対話ではオリンピック以外の政治議題も積極的に取り上げる含みを持たせた。「南北対話が核問題解決に向けた米朝対話の雰囲気作りに役立つと確信する」とトランプに伝えたが、核廃棄の言質を金正恩から引き出せるか、成否はその一点に掛かっている。
北朝鮮執権層が疑念の目を向け始めた金正恩の最大の失敗は、絶対に勝てない喧嘩をトランプに売った事に尽きる。
北朝鮮と米国との確執をチキンゲームに例えるのは誤りである。金正恩にとってはそうかも知れないが、トランプにはタンクでオンボロ自動車と対峙しているようなもので、相手が飛び降りるのを待っても、自分から飛び降りる気はさらさらない。彼我の軍事力は巨象と蟻のごとくである。

一部には開戦したら日韓に膨大な人的、物的損害が出ると脅える声もある。クリントン政権時代のペリー国務長官がそのような報告書を出したのは事実であり、臆病な東証の株価が北朝鮮リスクに影響されて上下するのはその名残である。
しかし、この点が極めて重要であるが、ペリー報告はあくまでも通常戦力に限定されたものであり、核攻撃を想定していない。

北朝鮮が蟻が象に立ち向かうように絶対に勝てない理由は、まさにロシア、中国をも怯ませる米国の強力な核兵器にある。
まさか核だけは使わないだろうとこの期に及んでも思い込んでいる能天気な向きは、マテイス国防長官が21日にグアンタナモ基地で米軍将兵を前に述べた次の言葉を、耳の穴をかっぽじって聞く必要がある。
「米国はロシアと中国は核戦争を望んでいないと知っていたが、金正恩はそうではない。」
意味するところはズバリ、金正恩が核戦争を挑発するので米国は核を使わざるを得ない、ということである。マテイスは以前から「開戦すれば一瞬で決まる」という事を言っていたのも同じ文脈である。

金正恩は口癖のように核抑止力を口にするが、本来の意味がよく分かっていない。互いに核戦争を回避したい思いがあれば、抑止力が働く事は冷戦時代に証明された事である。
しかし、金正恩はその不文律を侵し、ワシントンを焦土化すると再三公言してきた。21日にピョンヤンで開催された第5回党細胞委員長大会で「米国に実際の核の威嚇を加えられる戦略国家に急浮上した」と演説している。井の中の蛙の金正恩は自分の言葉に酔っているのであろうが、それが核攻撃を受けるリスクを限りなく高めている事が分かっていない。あるいは、薄々感じてはいるが、威信を誇示して内部を引き締める為に誇張しているのであろう。

核過信症の金正恩はたとえ数発でも核弾頭搭載ミサイルを有すれば、米国を脅し、自己主導の交渉のテーブルにつけさせる事が出来ると思い込んでいるが、キューバ危機でのケネディ大統領の例を挙げるまでもなく、あり得ないことである。
外交文書公開で最近明らかになった衝撃的な事実であるが、ニクソン大統領は1969年に米軍の偵察機が北朝鮮領空近くで撃墜された直後、核攻撃命令を下した。しかし、寸前のところでキッシンジャー補佐官が「大統領は酔っている。翌朝まで待て」と押し止めたという。「フリーダムドロップ」と呼ばれる核攻撃プログラムであるが、核のボタンは外部で思われているほどアンタッチャブルではない。

ましてや、核ミサイルが未完の段階では尚更である。金正恩は同会議で「核戦力完成」を強調したが、直近の火星15号が大気圏再突入時にバラバラになるなど、これまでの実験結果から核小型化、大気圏再突入技術は未完成と米韓は判断している。つまり、核は保有しても、実戦に使えるレベルではない。
その上で、完成阻止に照準を合わせているが、トランプが再三述べていることからそのシナリオを整理すると、北朝鮮への経済制裁を極限まで高め、強制的に金正恩を核廃棄の交渉に引き出す。金正恩が応じなければ、最後の手段として軍事行使をする、となる。
その最終期限は来年春頃となろう。文在寅の顔を立て、また金正恩に最後のチャンスを与える意味もかねて米韓軍事演習をピョンチャン・オリンピック以降の3月に延期する。それでも金正恩が核廃棄交渉に応じなければ、攻撃する名分が立つと考え、演習から北朝鮮先制攻撃へと発展させる。トランプの計略を深読みすれば、そうしたケースが浮かんでくる。

北朝鮮指導部もムザムザ攻撃されるのを腕をこまねいて見ているほどバカではない。韓国に先制攻撃を加える可能性はゼロではないが、勝算が立たないだけに限りなく低い。
金正恩が核開発に固執するのは危険と判断し、それを排除する動きが北朝鮮指導部から出てくる可能性がある。
米韓側は核放棄さえすれば、体制保証に経済援助を与えるとあらゆるチャンネルを通して伝えており、北朝鮮指導部からそれに呼応する勢力が台頭するかもしれない。
実際、金正恩は疑心暗鬼に駆られた気紛れな粛清が離反を招いて政権基盤が弱体化しており、唯一信じる妹の与正の助けを借りなければならないほどである。相次ぐ北朝鮮兵士の脱走や日本海岸に流れ着く大量の木造船は氷山の一角であり、疲弊しきった北朝鮮崩壊の前兆である。浮き上がった若輩の兄妹で政権を維持できるほど状況は甘くない。

注目すべきは、10月の労働党全員会議でまんまと組織指導部長に収まった崔龍海副委員長である。日本ではほとんど知られていないが、組織指導部長のポストは金正日が叔父の金英柱から奪い、後継者の地位を固めた党の中枢部である。金正日は終生、その地位を兼ねて権力を保持してきたが、党務経験のない金正恩は崔にあっさりと明け渡している。
崔は案の定、組織指導部長に就くと人員軍総政治局の検閲を実施し、ライバルの黄柄瑞総局長、金元弘第一副総局長らを追い落とした。金正恩を操って大恩人の元ナンバー2の張成沢を失脚させた謀略家であり、いつ金正恩委員長の寝首を掻くかもしれない。
米国や中国による制裁圧力が強まるほど政変の可能性も高まるであろう。

蛇足になるが、トランプ大統領は18日、安全保障政策の基本となる「国家安全保障戦略」を発表し、中国、ロシアを「米国の力に挑戦する現状変更勢力」「修正主義勢力」と規定し、特に中国に対して「米国の戦略的な競争国」、「強国同士の競争が再来している」と対抗意識を剥き出した。逆説的にG2、米中新型大国関係を認めたことになるが、十分に予想されたことである。
私は、2年前に出版した『二人のプリンスと中国共産党』の「第6章 中国が米国を追い抜く日」で、米中逆転が迫っていると分析した。米国が格差拡大や成長停滞など資本主義体制が行き詰まっている一方、中国が改革開放政策で毛沢東時代の経済的停滞と政治的混乱を克服し、社会主義・共産主義社会建設への展望を持ち、新たな体制競争が始まると予測したのである。
それを裏付けるように、さる10月の中国共産党大会での演説で習近平総書記は「社会主義現代化強国」を繰り返し強調し、「社会主義の核心的価値観を家庭、子供に徹底させる」と述べた。
大資本家でもあるトランプ大統領には衝撃であったろう。冷戦に勝利した米国は市場経済を導入した中国をWHOに加盟させて資本主義秩序に組み入れ、関与政策で民主化、自由主義化へと誘導した。その期待が打ち砕かれてしまったからである。「中国は国家主導の経済モデルを拡張」と警戒感を露にし、「米国は過去20年の政策の再考を迫られている」とまで述べている。

原論的に俯瞰すれば、北朝鮮問題は一見して米朝問題であるが、北朝鮮の命綱である原油禁輸問題に象徴されるように、実態は新型の米中大国関係の各論として展開しているのである。金正恩には新時代の大局が全く見えていない。
国連政治局は「フェルトマン事務次長・政治局長が5日から8日まで北朝鮮を訪問し、李容浩外相と会談する」とツイッターで発表した。
国連は朝鮮休戦協定の当事者であり、国連軍を代表し、安保理常任理事国でもある米国の意向を受けたものであることは言うまでもあるまい。
中国特使に続く特使であり、金正恩委員長にとっては対話を通して核問題を平和的に解決する最後のチャンス、と読める。

国連特使派遣は9月に北朝鮮側が要請していたというが、中国特使訪朝後に実現したことに特別な意味がある。
トランプ大統領との会談を受けて習近平主席が派遣した特使に金正恩は会わず、トランプからの事実上の最後通諜を無視した。その直後の11月29日に火星15号発射実験を敢行し、「国家核戦力完成の偉業を達成した」と豪語し、米国全域を核攻撃出来ると威嚇した。
金正恩独特の思い込み的な思考方式であるが、米国が恐れをなして対話の席に出てくると期待したのである。習特使が求めたのは核放棄を前提とした対話であるが、それを蹴って金正恩が求めるのは核保有国同士の対話であり、核保有を認めさせることに最大の狙いがある。

火星15号発射は核に政権の命運を託した金正恩の大きな賭けであったが、見事に外れてしまった。
韓米軍事当局の発表によると、単純に飛距離は伸びたが、大気圏再突入技術は確立されていない。その後、同じ時間帯に同空域を飛んでいた香港のキャセイ航空機のパイロットがバラバラになって落下するミサイルを視認していたと報じられた。日本の某テレビ局が実験翌日、日本海岸部の住民がスマホで写した、夜空から火の玉が落ちてくる映像を流していたが、北朝鮮ミサイルの残骸とみられる。

つまり、火星15号は実戦配備出来る段階ではないということである。しかし、米国を核攻撃する狂気が金正恩にはあることを如実に示した。
米国で北朝鮮攻撃論が急速に高まっているが、愚かにも金正恩はトランプに自衛権行使、及び人気挽回の口実を与えてしまったのである。

米軍は4日から8日までF22、F35のステルス戦闘機、B1B戦略爆撃機など史上最大の空軍力を動員して韓国空軍との合同演習を行っており、岩国や嘉手納基地が使われ、自衛隊機も一部参加している。いつでも実戦に移れるモードである。
北朝鮮東海岸の新浦港でSLMA実験の動きが把握されているが、それを新たな挑発とみなした空爆もあり得る。
軍事力の差は象と蟻ほど圧倒的な差があり、戦術核で攻撃されたら北朝鮮軍は反撃の間もなく壊滅してしまうだろう。

金正恩は核ミサイルを実戦化すれば米国の脅威を免れると稚拙な核抑止論に一抹の期待をかけるが、幻想である。現実は刻一刻とリスクを高めている。
国連特使の助言を受け入れ、核放棄を約して米国との対話に向かうしか、事態を平和的に解決する術はない。
北朝鮮指導層にも動揺が広がっており、前にも指摘したジンバブエ化の可能性が高まっていると読める。

金正恩の無謀な核開発路線の犠牲になっているのが、北朝鮮国民である。
日本海岸に相次いで北朝鮮の粗末な木造船が漂着し、白骨死体まで発見されている。破綻する北朝鮮経済の最後のあがきというべき漁獲増産闘争に駆り出された地域住民の窮状を物語る。
金日成に忠誠を誓った世代は、自身を犠牲にしても次の代には同じ思いをさせまいと一生を捧げながら、半世紀以上も経った今もなお、全く同じ事を子や孫の代が繰り返している。その絶望や苦しみは想像して余りある。
習近平総書記が北朝鮮に派遣した特使は事実上の最後通諜と前回書いたが、それを裏付けるように、幕裏では熾烈な神経戦が繰り広げられていたと北京から伝わってくる。
金正恩委員長は特使に会うかどうか、終始悩んでいた。核開発停止と引き換えに制裁緩和と経済支援を求めようと考えていた。そこで、労働党組織指導部長に就任し、ナンバー2の地位を固めた崔龍海党副委員長が会談し、中国側の譲歩を迫った。だが、習総書記がトランプ大統領から核開発放棄を絶対的前提条件とするように求められていたことから、特使は応じない、というよりも、応じる権限がない。結局、思うような返答を得られず、金正恩との会見は流れ、習の体面を傷つける結果となった。
金正恩にとっては大誤算であった。言葉では経済制裁に屈しないと強がるが、経済的打撃は大きく、国民生活は破綻している。核、ミサイル実験を2ヶ月以上中断して中国に秋波を送った目論見は失敗し、逆に習を怒らせてしまったからである。

中国は一段と制裁を強化し、北朝鮮の命綱の石油も例外ではなくなる。すでにピョンヤンではガソリンスタンドが営業を停止し、木炭車が走っている。北朝鮮の年間石油消費量は70万トン程度と推定され、一部無償の中国からの供給で何とかやりくりしている。それが止まれば備蓄している100万トンを放出するしかないが、せいぜい持って1年だろう。
板門店からの脱北兵、日本海岸への相次ぐ北朝鮮漁船の漂流と経済崩壊、体制崩壊の兆候が顕著になってきた。党と軍上層部との確執も表面化し、ジンバブエ化もありうる。

金正恩にとっては前門の虎、後門の狼となった。中国特使の説得が不調に終わったと判断したトランプ大統領は20日の閣議冒頭、北朝鮮を「殺人国家」と非難し、テロ支援国家に再指定した。
核実験をテロ行為と定義し、核保有を前提とした対話の芽を完全に摘み取った。その意義はけっして小さくない。日韓の一部には北朝鮮問題のどさくさに紛れて核開発を企む勢力が蠢いているが、それへの重大な警告となるからである。
また、金日成が唯一愛した男孫であり、金正恩の異母兄となる金正男をVXで殺害したことを直接の理由に挙げたことは、北朝鮮国民に衝撃を及ぼし、金日成に忠誠を誓ってきた中核層に深刻な動揺を引き起こすだろう。

今回の再指定は今月上旬の日韓中訪問時に各国首脳に事前通告していた。習主席の特使が帰国した直後での発表に特別な意味を込めたと読める。圧力を最大限強めて金正恩を核廃棄を約束する対話の場に引き出し、最後の手段として軍事オプションもやむを得ないとのメッセージを込めたのであろう。テイラーソン国務長官は北朝鮮上層部とパイプがあることを示唆しており、北朝鮮政変も視野に入れているとみられる。

米財務省は米独自の制裁を強化することになるが、香港に登録している16企業が焦点となろう。核兵器開発と関わっている北朝鮮の銀行と繋がりのある明正国際貿易、2年前に制裁対象となった丹東鴻祥実業発展の幹部が関わる企業などが知られている。トランプ大統領は今月上旬、中国の丹東銀行を制裁対象にしたが、米国企業との金融取引を遮断することで間接的に北朝鮮を締め付ける作戦である。金正恩が海外に保有する金融資産も洗い出され、凍結されよう。

Xデーは刻々近づいている。
金正恩は9月21日の声明で「史上最高の超強硬措置」に言及し、国連に出席中の李容浩外相が「太平洋上での水爆実験」を示唆した。韓国に亡命したテ・ヨンホ前駐英公使は金正恩が今年中に米本土を射程に入れた核搭載ICBMの完成を指示したと証言しており、火星14号の改良型の開発を完了したとの観測もある。

それらの実験をトランプは座視しないだろう。米韓空軍合同演習が12月4日から8日まで行われる。定例だが、米軍1万2千人にステルス戦闘機のF22、F35が参加し、原子力空母や爆撃機など核攻撃を想定した戦略兵器の巡回配備も強化されるなど過去最大規模となる。金正恩が核開発を進めるほど軍事的圧力は強まっていくだろう。
開戦となると膨大な被害が日韓にも及ぶとの見方があるが、米朝の圧倒的な軍事力の差から推して、一瞬にして終わるだろう。

繰り返し言うが、金正恩の核抑止論は幻想であり、北朝鮮被爆のリスクを高めるだけである。広島、長崎の惨事を招いた日本軍国主義者の轍を踏んではならない。

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河信基
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