河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

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 世宗路沿いにあるはずの建物がみつからない。右前方に米国大使館があったはずだ。世宗路は青瓦台に近い韓国の政治の中心部である。少なくとも8年前までは、米大使館はその一角に周囲を睥睨するように佇んでいた。
 ようやく茶色の建物を認めた。周囲を高層ビルに囲まれ、星条旗がないと見逃してしまうごく普通の大使館である。写真は世宗路全景を正面中央の李舜臣像から撮ったものであるが、米大使館は右奥、高層ビルの左下辺りに位置する。道路を隔てた真向かいの白い大きな建物が韓国の外交通商部である。
その古いイメージで探したから戸惑ってしまったのであるが、米大使館は小さくなった。無論、建物自体が小さくなったわけではないく、あくまでも相対的な印象である。
 影が薄くなったものだとつくづく思ったが、新局面を迎えた韓米関係を象徴している。
 
以前から指摘しているように、オバマ大統領、習近平主席らとの朴槿恵大統領の積極的な首脳外交により、中米を中軸にした新たな政治秩序が形成されつつあるアジア・大平洋地域において、韓国の存在感は確実に高まっている。
日本の安倍政権が尖閣領有、歴史認識問題で中米対立の矛盾側面を刺激しているとするなら、朴政権は反対に、経済的な依存関係を強める中米の協調側面を促進させる触媒の役割を巧みに果たしていると言えよう。

とりわけ、冷戦時代の遺物と言える北朝鮮核問題で、朴政権はある意味で決定的な役割を担っている。
 朴大統領は就任早々、「韓半島信頼プロセス」を発表し、北朝鮮に対し核を放棄さえすれば大規模経済支援を行うとの明確なメッセージを発した。それは妥協を排したリアルな原則的な立場に立脚するもので、米国との間で北朝鮮の核挑発には核先制攻撃もありうるとする新抑止戦略を締結して北朝鮮の暴走を封じ込める一方、中国に対して対北制裁強化で足並みを揃えることを促している。
 オバマ政権は北朝鮮に対して核放棄の具体的な行動を起こすことを対話の条件としているが、その具体的な判断は朴槿恵政権に委ねていると言っても過言ではない。
 政府債務上限引き上げを巡る国内対立の激化に手を焼き、外交にまで十分な手が回らないのが実情であり、そうした状況は下院の多数派奪還を目指す一年後の中間選挙まで続くことになろう。
 
それを端的に物語るのが、米国のプレゼンスを象徴する新駐韓大使に韓国系のソン・キム氏を任命したことである。韓国で生まれ育ったキム氏は中学生の時に駐日公使を務めた父親とともに米国に移住し、検事をへて外交官となり、6ヶ国協議米代表として北朝鮮にも10回行っている。
 オバマ大統領はアジア重視戦略にシフトする中で現地に通じた人物を大使に配置し、中国系のロック氏を駐中国大使に任命したのに続き、北朝鮮問題のエキスパートと厚く信頼するキム氏を大使に抜擢した。キム大使からの助言に基づいて対北朝鮮政策を調整しているが、キム大使が常に韓国外交通商部と緊密な連携を保っていることは言うまでもない。
 かつて米国大使は韓国の政治に深く関わり、影の大統領と言われた時期もあったが、もはや遠い過去のことである。
 
因みに、駐日大使はケネディ元大統領の娘のキャロライン氏だが、外交経験はなく、オバマ大統領再選を支持したことへの論功行賞であると言われる。
 日本がオバマ政権の新アジア重視戦略の本筋から微妙にずれていることが、こうした儀礼的な人事にもうかがわれる。

もう一つ、韓国における米国のプレゼンスを語る上で無視できないのが米軍である。しかし、ソウル市内で米軍兵士の姿を見かけることはなかった。北朝鮮との関係が緊張していることを思えば、拍子抜けの感があった。
 幸いにして、私をソウルで迎えてくれたカン・テフン前檀国大総長がソウルの龍山米軍基地管理に助言する諮問委員を長く務めていたことから、同基地を訪問することができた。カン教授とは私の著書『朴正煕・韓国を強国に変えた男』を韓国語に翻訳出版してくれた間である。
 
 韓国の地図には一切掲載されていないが、同基地はソウル駅から南方にわずか1キロ、南山近くにある。2・9平方キロの敷地には在韓米軍司令部、米第8軍司令部、国連軍司令部、米韓連合司令部などが集中しているとされる。
 景福宮見学などを終えた夕方6時過ぎ、カン教授の車で同基地の検問所に向かった。カン教授一人ならほとんどフリーパスであるが、同行者がいるというので改めて指紋検証を行う物々しさであった。私もパスポートや身分証を提出した。
 詳しいことは別の機会に譲るが、基地内は木々が鬱蒼と繁り、寮、病院、郵便局、銀行、ゴルフ場、レストランなどが点在する。行き交う人もまばらで、ソウル市の喧騒も届かない閑静な別天地である。南山のテレビ塔がくっきりと見えたのが印象的であった。
 8千人ほど駐屯しているらしい。レストランで兵士たちが食事をとっていたが、半数はいつでも前線に出動できるように、リュックを担いで完全武装している。ソウルに来て初めて、緊張らしきものを感じた。
 北朝鮮は同基地を目の敵にするが、皮肉なことに北朝鮮自身が基地の存続に一役買っていることに気づいていない。同基地は2016年には平沢へ移転する予定であり、基地周囲にはそれを見込んで高層マンションが立ち始めたが、金正恩政権が核を放棄しない限り、移転は延期になりそうである。
 朴槿恵大統領も本音では、北朝鮮さえ核放棄し、南北平和共存に応じれば、ソウルの中心部を占め韓国人の反米感情を何かと刺激する米軍基地を移転させられるのにと歯軋りしている。
 最近も、米NSAによる外国首脳の電話盗聴が問題になり、龍山米軍基地内のCCソウルが青瓦台を盗聴しているとの疑惑が持ち上がり、報復として閉鎖が取りざたされている。
 
 北朝鮮の労働新聞など各メディアは未だに韓国を米国の傀儡政府と呼び、世界の失笑を買っているが、冷戦時代の時代錯誤の認識は捨てないと逆効果である。
 米国との直接交渉に期待し、一発逆転を狙っているが、韓国との和解なくしては物事は一歩も進まず、経済は疲弊して国民生活は窮乏化し、自分の首を絞めるだけである。
 
 米国の東アジアにおけるプレゼンスは薄くなる一方である。北朝鮮政府は核を放棄すると米国に攻められると国民の危機感を煽るが、米国にはそうする意図も利益も力もない。
シリア、イラン問題で存在感を高めているロシアがASEAN に韓国、中国、米国、日本など18ヵ国を加えた新安保機構設立を呼び掛け、中国が賛同して14日からブルネイで外務・国防当局のワークショップが開かれる。北朝鮮核問題も俎上に上がることになろう。
 朴大統領は13日に訪韓したプーチン大統領と会談し、核廃棄を前提にロシアが進める北朝鮮の鉄道インフラ事業に協力することで合意したが、首脳外交から取り残された金正恩第1書記は新たな流れを見失わないことである。

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