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拉致問題の解決を願う集会が10日、都議会議事堂ホールで開かれ、180人の参加者を前に、横田めぐみさんの母早紀江さんが「安倍首相が『解決します』と明言していることを信じている」と訴えた。
安倍首相が国民大多数が反対する安保法制案を強行採決しようとしている最中、安倍首相にエールを送るような拉致被害者の発言に違和感を覚えた人は少なくなかったであろう。 実際、拉致被害者の集会に頻繁に参加する櫻井よしこ氏や田母神元航空自衛隊幕僚長らのように、安保法制案に積極賛成する人には、「自衛隊を北朝鮮に派遣して拉致被害者を救出せよ」と常軌を逸した事を口にする者が少くない。 集会はタイミング的に、支持率急落に悩む安倍首相に塩を送り、安保法案の強行採決を後押しする形になっている。拉致被害者を不純な政治目的に利用するのは、人道的に許されないばかりか、問題解決を一層遠ざけるだけである。 奇しくもこの日、北朝鮮のソン・イルホ朝日国交正常化交渉担当大使が共同通信記者に日本人拉致被害者を含む日本人調査結果について「ほぼ完成した」と明らかにし、報告が遅れているのは調査結果を日本と共有出来ないからとし、公式協議を呼び掛けた。 拉致問題は様々な意味で、佳境に入りつつある。 事件がこじれた時には出発点に立ち戻るのが常道であるが、拉致問題も事実関係を冷静に洗い直す時期に来ている。 日朝間の最大の争点は、金正日国防委員長が2002年9月の小泉首相との会談で「5人生存、8人死亡、4人入国せず」と通告した横田めぐみさんらの生死問題であり、北朝鮮が約束した再調査の焦点もそこにある。 再調査は福田政権時代の2008年8月に北朝鮮と合意したものであり、私も実は双方の橋渡しに若干関わった経緯があり(『証言 「北」ビジネス裏外交』参照)、あえて言うが、再調査さえ合意通りに行えば拉致問題はすんなりと解決するはずである。 ところが、その直後に福田首相が退陣し、事態は必要以上に紛糾し、第二次安倍政権誕生で振り出しに戻ってしまった。 現在、日朝は些細な言葉の定義でもめている。再調査とは文字通り白紙に戻っての調査であり、先入観や予断を排し、客観的に行わねばならない。 通常なら北朝鮮側が再調査の結果を出し、日本側が不足点や問題点を指摘し、さらに調査を深める。 ところが、日本側が再調査報告を受け取ろうとしない。 ソン・イルホ大使が公式協議を呼び掛けたのは、日本側に再調査報告の受け取りを促す意味がある。外務省との水面下の接触では埒が明かないので、メデイアを使ったのである。 何故、日本側は受け取らないのであろうか? これが現下最大の課題であるが、一言で言えば、「8人死亡、4人入国せず」と同じ結果が出たら困ると、再調査に先入観や予断を持ち込んでいるからである。 一部には、北朝鮮はまずいことがあるから被害者を出そうとしない云々とフィクションを連ねて受け取り拒否を正当化し、はては、「全員生存、全員奪還」と救出運動とすり替える傾向もある。 これでは自ら再調査を拒み、問題解決を故意に遅らせていると批判されても、反論する余地があるまい。 文化の衝突、という面もあろう。 韓国にも日本以上に拉致被害者がいるが、真相究明と生存者返還を求めても、「全員生存、全員奪還」と、感情的で非合理的なスローガンを掲げることはない。 戦前の一億玉砕、聖戦スローガンを彷彿させるが、村八分を恐れる強迫観念から一方向に流されやすいムラ意識が根強く残っているのであろう。 報復的な反北朝鮮感情を煽り、安保法案強行採決に利用する政治に利用されるとしたら不幸な事である。 韓国では北朝鮮が死亡と通告した事に憤激はしても、生きていると期待する事はあり得ない。朝鮮戦争の教訓や脱北者の情報などから、北朝鮮への幻想を一切持たないからである。 奇妙なことに、日本では北朝鮮が日本人拉致被害者を今でも生かして何処かで匿っていると思い込んでいる人が少くない。横田夫妻に同情している面もあるが、北朝鮮への幻想がないか、振り返って見る必要があろう。 客観的に観て、北朝鮮最高指導者が首脳会談の場で死亡と通告した拉致被害者を隠す理由は皆無に近い。死亡診断書など書類の不備は行政システムが日本のようにきめ細かく整っていないからである。 北朝鮮は拉致問題を解決し、日本との国交正常化、経済協力を対日外交の最優先順位に置いている。再調査を受け入れたのもそのためで、今さら隠すものは何もない。 安倍首相は「全員生存、全員奪還」を政権の支持率を高める政治スローガンとしており、せっかくの再調査報告を受け取ろうとしない。解決すると言いながら、今後ともあれこれ前提条件をつけてズルズルと引き延ばして行こうとするだろう。 安保法案反対世論のように日本の世論が目覚め、冷静に問題の解決を求める声が高まった時、事態は一気に動き出そう。 第三者を交え、例えば国連の場を借りて再調査報告をするのも一考する価値がある。 |
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2015年09月12日
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