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被害者が高齢化した従軍慰安婦問題の早期解決は、誰もが望むことである。その意味で先月28日の韓日外相の合意は、一定の前進と評価できる。
会談後の共同記者会見で岸田外相が「日本政府は当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を傷付けた慰安婦問題の責任を痛感」と明言した事実は重い。 「軍の関与」、すなわち強制性こそ、安倍晋三氏が第一次安倍内閣時代に蒸し返し、密かな閣議決定で「狭義の強制はなかった」などと河野談話を否定し、韓国側の反発を招いて事態を紛糾させた最大要因であっただけに、岸田外相の発言は喉元の刺を抜いた以上の意義がある。 しかし、合意文書を採択せず、両外相の口頭発言で止めたことが、合意を曖昧にし、せっかくの意義を半減させている。 私は前回の「従軍慰安婦問題の本質は、卑しいカネではなく、誠意」(上)で合意は難しいと書いたが、半分外れ、半分当たっている。本質論としては、正鵠を射ていると言うべきであろう。 というのも、「合意」を文書化しない時点で十分に予想された事であるが、会談直後から日韓双方で反対論が噴出し、日韓政府当局も合意内容についての解釈が割れ始めているからである。 国際問題化の様相すら帯びている。台湾、中国、インドネシア、フィリピン、オランダなどの元従軍慰安婦が謝罪を求める声をあげており、「軍の関与」の客観的な評価が問われざるを得ない。 従軍慰安婦のユネスコ世界記憶遺産登録とも関連し、日韓の玉虫色の表現で済まされなくなっているのである。 公式文書がなければ、それぞれが都合よく解釈することになるのは分かりきったことである。 「最終的かつ不可逆的な解決」には韓国側も異存がないが、日本では専ら、「10億円を元慰安婦支援のために支払い、ソウルの日本大使館前の慰安婦少女像が撤去される」とマスコミで喧伝されている。 日本政府関係者が“外交的成果”をリークするからであるが、それが韓国側に伝わり、「カネで片をつけようとしている」と従軍慰安婦支援団体や野党などから猛反発を呼び起こした。韓国政府も「謝罪、反省に反すれば合意違反」と火消しに追われた。 一事が万事である。「合意文が不採択になったのは韓国側の要請」、「合意には従軍慰安婦のユネスコ世界記憶遺産不申請も含まれる」といったことも日本のマスコミを賑わせたが、韓国側はいずれも即座に否定した。 安倍政権が「軍の関与」を認めたことから話をそらす方向にリークするのは、国内の支持勢力の反発を恐れる面がある。 事実、安倍側近の稲田朋美自民党政調会長は「今まで通りの法的立場と事実の主張を続けるべきだと考える」とコメントを28日に発表している。「事実の主張」なるものは、慰安婦は日本軍に強制されたものではなく、「気の毒な売春婦」と云うもので、安倍自民党内で公然と言われてきた。 「安倍外交の最大の汚点」(中山恭子「日本の心を大切にする党」代表)と右翼は反発し、安倍首相のフェイスブックは非難調の書き込みで半ば炎上している。 安倍首相の誤算は、「軍の関与認める」と日韓合意が報じられるや、台湾、中国、インドネシア、フィリピン、オランダの政府や民間団体が次々と同様の謝罪を求める声を挙げていることである。 それらの国々では元慰安婦問題への関心が高まりつつある。オランダの慰安婦には10年前に補償金が支払われたが、謝罪がなおざりにされている。 天皇が今月下旬に訪れるフィリピンの元慰安婦支援団体はアキノ大統領に直訴する動きを見せており、7月に参院選を控える安倍首相は想定外の所から「地球儀を俯瞰する外交」に大穴が空きかねない。 |
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2016年01月01日
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