河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

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18日のパラリンピック閉幕式は先月25日のオリンピック閉幕式とは別の感動があった。身体にハンデイーを負う社会的弱者の大会興隆に韓国が1988年のソウルオリンピック以降一貫してファン・ヨンデ女史らが中心になって力を入れ、パラリンピックのロゴの元に韓国国旗がなっている事を初めて知ったからである。
朝鮮ではピンシンという言葉があるように障害者への差別が酷かった。私が1980年代にピョンヤンに3ヶ月滞在しているときも、市内で一人も障害者を見なかった。首都の景観を汚すと地方に排除されていたのである。
史上最大規模の華麗なピョンチャン・パラリンピックは障害者差別を一掃する大きな契機になった、との熱い実感が込み上げてきた。同時に、韓国がそれだけの事を成し遂げる国力を有したことを再認識した。

それを痛感させられたのが北朝鮮代表団であり、特使の妹の口を通して金正恩委員長も同じ感慨を持ったに違いない。
返礼に訪れた韓国特使を丁重に迎え、非核化の意思を伝えて一挙に南北首脳会談、米朝首脳会談へと舵を切った内的要因は、韓国との決定的な国力の差を思い知ったことにあったと読める。
GNPで50〜60分の1以下に離された経済力の差は、もはや核などで覆すことが出来ないことを心底、悟ったに違いない。南に送った代表団や応援団の費用まで全額韓国に頼らざるを得なかった現実に忸怩たるものを感じたことだろう。

無論、本コラムで何回も指摘しているように、金正恩に非核化を口にさせた決定的な要因は、米韓による強烈な軍事的経済的圧力である。
それなくしてはもはや体制の維持も自身の安全も覚束なくなったとの深刻な危機意識がある。核を含む大規模戦略兵器が眼前に展開されるのを見て、蟻が象に戦いを挑む無謀さを知ったということである。

そうした認識を共有したのが文在寅大統領とトランプ大統領である。両者は適時、頻繁に電話で協議し、対北朝鮮政策を擦り合わせてきた。こと対北朝鮮政策に限って言えば、緊密な盟友の関係にある。安倍首相は全て事後通達され、事実上、蚊帳の外に置かれている有り様である。

育ちも思想的な背景も異なる二人の意思疏通には相当な苦労が伴うと予想していた私も少なからず驚かされたが、過日、文大統領に近い筋の話を聞いて、なるほどと納得した。
それによると、文大統領は「うまくいけば、あなたはノーベル平和賞だ」とトランプ大統領を徹底的に持ち上げ、その気にさせたという。現実的理想主義者の面目躍如と言うべきか。
デイールが得意なトランプも悪い気はしない。「ハッピーな事が起きるかもしれない」とツイッターで呟いたように、金正恩の改心に賭ける気になったという訳である。

かくして南北首脳会談が4月、米朝首脳会談が5月に開かれることになり、あまりの急展開に日韓マスコミには連日、ああでもない、こうでもないと甲論乙駁の記事が溢れているが、どれも疑心暗鬼の域を出ない。その影響であろう、直近の朝日新聞の世論調査を見ても、米朝会談が核廃棄に繋がると思うかの質問に63%が「繋がらない」と懐疑的に答えている。
「北朝鮮の微笑み外交に韓国は騙されている」との皮相的な見方が少なくないのは、従軍慰安婦問題で対立する感情的な当て付けもあるとみられる。

この点が重要であるにも関わらずしばしば見逃されているが、北朝鮮の政治は金正恩一人で動くものではない。
内部には権力闘争絡みの複雑な動きがあり、時間稼ぎをして核開発を完成させ、しかる上で米国との核軍縮に持ち込もうとの動きが根強くあり、金正恩もそれを無視できないのもまた厳然たる事実である。
2つの首脳会談を挟んで、最後までギリギリの折衝が続くことになろう。

パラリンピック閉会式の余韻漂う20日、韓国国防部は韓米国防長官の合意事項として、オリンピックで延期された韓米合同軍事演習を4月1日から「例年の規模で実施する」と発表した。
ステルス爆撃機F35Bが離発着する大型強襲艦などによる上陸演習を含む実戦形式のトクスリ(フォーイーグル)は4月1日から4週間となる。さらに、5月中旬から2週間にわたってコンピューターを用いた指揮所訓練のキーリゾルブが行われる。
その間に同時進行で行われる南北、米朝首脳会談に配慮し、トクスリは2ヶ月続いた昨年よりも期間を短縮し、空母や原子力潜水艦、B1B爆撃機は参加しない。「韓米軍事演習が行われても構わない」と譲歩した金正恩委員長への配慮であるが、国防部は「追加的な演習もあり得る」と圧力自体を緩める気はない。

トランプ大統領も首脳会談が不調に終わった場合の軍事オプションの準備を怠らない。13日に対話重視派のテイラーソン国務長官を得意のツイッター人事で電撃更迭し、後任に「思考回路」が似ているとして陸士出身の超強硬派として知られるポンペオCIA長官を任命した。これはトランプの不退転の決意を物語る。
と言うのも、金正恩が「新年の辞」でピョンチャン・オリンピック参加と南北対話の意思を表明してから事態が急進展したと一般的には理解されているが、そのプロセスに裏で一貫して関わってきたのが、ポンペオにほかならない。「最も重要なのは(核)能力から(核使用の)意図を持つものを分離することだ」と金正恩排除まで公言している最強硬派でもある。

まさに戦争か平和かのギリギリの交渉がこれから始まるが、そこで決定的重要な課題として浮かんでくるのが、南北対立、米朝対立の根本的な原因を解くことである。核問題もそこから派生した。
その問題を解決できるかどうかに、ピョンチャン・オリンピックが真に平和の祭典として歴史に刻まれるかが掛かっている。

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