|
金正恩委員長の自称「電撃訪中」の訳に対して様々な憶測が飛び交っているが、どれも群盲象を撫でる類いの域を出ず、肝心な点を見逃している。
北朝鮮政権中枢部でさえ直前まで知らなかった金正恩の電撃訪中は、簡単に言えば、なりふり構わぬ駆け込みである。「中国取り込み」は主客転倒の戯言に等しく、「後ろ楯を得る」といった悠長なレベルの話でもない。 直接のきっかけは、トランプ大統領のツイッター人事による国務長官、大統領補佐官(安全保障担当)の交代である。対話にも一定の理解を見せていた前任者に代わって、斬首作戦を主導したポンペオCIA長官、軍事オプションを一貫して主張してきたネオコンのボルトン元国連大使と超強硬派がそれぞれ後任に決まった。ボルトンは最近まで「先核放棄後補償」のリビア方式を主張し、北朝鮮がそれを受け入れなければ軍事力を行使して核・ミサイル施設を破壊すべきと公言していた。 5月末の米朝首脳会談を控えた金正恩はその人事にトランプの意図を見てとって、恐怖感に駆られたのである。以前私が指摘したように文在寅韓国大統領に後見人的な仲裁役を期待したが、それでは覚束なくなってきたというのが正直なところであろう。 トランプ大統領には昨年春の習近平主席との会談中にシリアのロシア軍空軍基地をミサイル攻撃したと伝え、習を唖然とさせた前歴がある。自分の子供か孫の代の金正恩を「リトル・ロケットマン」と呼んでいただけに、面と向かった首脳会談で核廃棄にイエスかノーかと単刀直入に迫ろう。せっかくのデイールに水を差す返事でもしたら、それこそ「世間知らずのバカヤロー」と叫んで席を蹴り、すかさず2、3年前から米韓合同軍事演習で繰り返し準備してきた軍事作戦を命令する事態も十分に考えられる。 29日にシリア駐留米軍を「as soon as possible(早急に)」撤退させる意向を表明したのも、財政的問題とは別に、来る北朝鮮作戦に戦力を集中する布石と読めないこともない。 誰よりも金正恩当人がそれを感じ取っていよう。中国の力を借りて米国の軍事行使に少しでも歯止めになればと保険を掛けたのである。 豪胆と偶像化され、日韓にも為にする宣伝を真に受けている向きがいるが、実は、気が小さく猜疑心の強い性格である。叔父や兄を含む幹部らを前後の見境もなく衝動的に虐殺したのは、それに起因する。 即核廃棄を求めるトランプに対し、「段階的措置」を何とか認めさせ、体制保証を確固としたいのが本音であろう。 金正恩の「電撃訪中」は想定の範囲内であった。2年前に出版した『二人のプリンスと中国共産党』で明確に指摘したように、世界はG2、すなわち「米中新型大国関係」を軸に動いており、大局的には北朝鮮問題はその各論でしかない。 習近平主席にとって金正恩非公式訪中は「窮鳥懐に入らば」であり、ほくそ笑みながら至りつくせりの厚遇で迎えたのである。トランプにまた貸しが出来ると算盤を弾いていた。 そもそも金正恩政権が窮地に陥っているのは、米韓の軍事的圧力と北朝鮮貿易の9割を占める中国による強烈な経済制裁である。 金正恩としては中国の理解を得ないことには動きが取れない。習主席の言葉を健気にメモしている様子が中国国営テレビに大きく映し出されたが、核問題で恭順の意思を表していると言外に語っている。 中朝首脳会談には事実上のナンバー2で、対米外交を統括する王岐山副主席が陪席している事が、習近平主席が米国を強く意識しながら対北朝鮮外交に当たっている事を如実に示している。地域の安保問題におとらず、関税問題などの死活的課題で米国から譲歩を引き出す上で北朝鮮は貴重なカードになっているのである。 実際、会談翌日、中国当局は米国に内容を通報すると共に、「制裁は継続する」と明言している。これに対しトランプ大統領は早速ツイッターで満足の意を表している。 さらにもう一つ、極めて重要であるにも関わらず日本の新聞、テレビが見逃されている事がある。金正恩政権の立場から朝米首脳会談を報じる北朝鮮国営テレビの記録映像に、私がかねてから北朝鮮のナンバー2、陰の実力者と書いている崔龍海副委員長・組織指導部長が金正恩の側にピタリと張り付いている様子が出てくる。 北朝鮮国民が見れば自ずと感じ取る事であるが、今後の展開に大きな意味を持ってこよう。 |
過去の投稿日別表示
[ リスト | 詳細 ]
2018年03月30日
全1ページ
[1]
全1ページ
[1]


