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金正恩北朝鮮労働党委員長が演説した20日の党中央委員会全員会議(総会)で、核・ミサイル実験の停止と核実験場の廃棄が決定された。しかし、肝心の核廃棄についてはするともしないとも言及していない。
それに対してトランプ大統領はツイッターで「北朝鮮と世界にとってvery good news」と意味深長なことを呟いた。一定の手応えを感じているとしながらも、記者会見で「首脳会談が開かれないかもしれない。会談途中で席を立つこともある」と、金正恩を牽制することも忘れない。いかにもデイール上手らしく制裁継続と軍事的オプションの可能性を残し、膝詰談判で金正恩を落とそうとの姿勢を崩さない。 総じて北朝鮮核問題は対話を通して平和的に解決する局面に向かっているが、戦争の可能性が消えたわけではない。全ては27日からの南北首脳会談、来月上旬に予定されている米朝首脳会談の内容如何に掛かっており、金正恩が核放棄の具体策を提示しなければ、米韓が軍事行使に踏み切る状況も十分にあり得る。 というのも、金正恩はピョンチャン・オリンピック参加表明で小型化と弾頭化の課題が未解決の核・ミサイル開発の時間稼ぎをしている。少なくともトランプはそう判断しており、米朝首脳会談が不調に終わったら、時間ロスを取り戻す為にも強硬策に回帰するだろう。何の罪もない北朝鮮国民の為に、若い金正恩がその点を見誤らないことを祈るばかりである。 初の首脳会談を控えたトランプと金正恩の前哨戦は激しさを増し、先の米主導のシリア空爆はアサド政権優位のシリア情勢にほとんど影響を与えなかったが、金正恩には十分な警告になった。対北朝鮮強硬派のポンペオCIA長官、ボルトン元国連大使を安保政策の中枢に据えた上での軍事作戦は北朝鮮有事を想定した事実上の予行演習であり、それをベースにしながら戦略兵器を動員する大規模なものとなるだろう。 誰よりも神経質になっているのが、米韓合同軍事演習で斬首作戦のターゲットになっている金正恩である。金正恩の電撃訪中は米国の軍事的圧力に耐えかねた駆け込みと前に書いたが、シリア事態で鮮明になった。怯えた金正恩は中国を盾にしようと、前年は袖にした習近平主席の特使を丁重に迎え、米朝首脳会談後の習訪朝の約束を取り付けている。日本のメデイアは「血盟の中朝同盟復活」と報じるが、それほど単純ではない。 私は既に1年以上前から「金正恩政権の寿命は2年±1年」と予測し、ほぼその通りの展開となっているが、その骨子は、金正恩は戦略なき戦略で自ら袋小路に陥り、自身の生存戦略を探らねばならないところにまで追い詰められているということである。 すなわち、金正恩が2013年3月の労働党中央委で提唱した「核開発と経済建設の並進路線」はあまりに非現実的であり、5年経った現在、完全に経済的、軍事的に破綻に直面している。 今さら言うまでもないが、国家予算さえ満足に立てらてなくなって久しく、市場経済に丸投げ状態になった北朝鮮経済は中国への依存度を強めた。その中国の制裁参加で窒息直前の窮状にあり、飢えた人民の不満と怒りはいつ爆発しても不思議ではない。 軍事的には致命的な欠陥をさらけ出した。井の中の蛙の金正恩は「核抑止力」の幻想に憑かれ、無謀にも対米核攻撃を公言し、脅すつもりが逆に、米国に核先制攻撃の口実を与えてしまった。 客観的に見て、中ロさえ恐れる米国の核戦力と北朝鮮のそれは象と蟻の差があるが、斬首作戦や北朝鮮攻撃を想定して戦略兵器を大規模に動員した米韓軍事演習で金正恩は厳しい現実を思い知らされ、日々怯え、所在を隠すまでになった。核をあくまでも外交カードにしていた金日成、金正日時代にはあり得なかった異常事態である。 しかし、その点がまだよく理解できず、ある種の呪縛に陥っている人々が少なくない。 今日の朝日新聞朝刊に韓国系米国人のビクター・チャ元NSCアジア部長のインタビューが掲載されているが、駐韓大使に内定したチャは米韓軍の鼻血作戦に反対の意を伝え、トランプ大統領に人事が白紙撤回されたと明らかにしながら、「軍事作戦は数百万の日本、韓国人、数十万の在韓米国人の命を危険にさらす」と述べている。この種の状況認識はペリー元国務長官が口を酸っぱくして語り、米国の対北朝鮮政策に加わった人たちが合言葉のように使っているが、そこにクリントン、ブッシュ、オバマ政権が失敗した理由が透けて見える。北朝鮮の人質作戦に見事に嵌まっているのであり、北朝鮮核問題解決を妨げる心理的要因である。 それを断ち切ったのがトランプであった。デイールを得意とするだけに、相手につけこまれる弱点を敏感に見付け出し、強力なカウンターパンチを食らわせたのである。客観的に見れば、米国の核先制攻撃で北朝鮮は反撃の間もなく地上から消滅する。人道上、民間人を犠牲にすることは許されないが、金正恩は悪魔の選択肢を握られ、縮み上がった。 トランプは戦略的な思考は習近平に劣るが、個別の相対デイールでは昨年4月の米中首脳会談中のシリア攻撃のように習をもたじろがせる速攻策を繰り出してくる。金正恩も手強い相手に睨まれたもので、蛇に睨まれたネズミの心境といったところだろう。 金正恩は核廃棄について「なすべきか、なさざるべきか」とハムレットの心情であろう。 斬首作戦を主導していたポンペオCIA長官(次期国務長官)が4月初めに極秘訪朝し、金正恩と会談した事が明らかになったが、ポンペオはその後米国議会の公聴会で「体制転換(金正恩政権の交代)は求めない」と述べている。金正恩に体制保証をしたことをうかがわせる。 ポンペオを丁重に迎え、再三会談した金正恩が「完全な非核化」の意思を伝えたことへの対価であったと読める。 だが、依然として大きな疑問が残る。 金正恩はなぜ労働党中央委員会で非核化に言及しなかったのであろうか? その疑問を解く鍵は金正恩の政治基盤が外で思われているほど強固ではない事がある。幹部の粛清を繰り返し、反感を買っているのである。 それでもトップの座に居られるのは、核保有を踏まえて対米交渉に臨み、労働党の大義である南北統一に有利な局面を開くとの期待感があるからに他ならない。 つまり、金正恩は自身の安全と体制保証を得る生存戦略を密かに描くが、金日成以来の幹部たちの統一戦略と乖離しているのである。今になって並進路線を否定すれば金正恩政権の存在意義が疑われかねず、「結束」と曖昧にするしかない。 金正恩委員長は今後、文在寅大統領、トランプ大統領、習主席との会談でそうした乖離を解決する具体策を探していかなければならない。核廃棄と制裁解除や経済支援獲得、平和協定締結などを組み合わせた複雑な過程が待っている。 長くなるのでここまでにするが、鍵を握るのは、米中関係であろう。 『二人のプリンスと中国共産党』に詳しいように、北朝鮮核問題もつまるところ、米中大型大国関係構築の各論であり、米中の力学関係で決着するしかない。かつての「中朝蜜月」は思想性以外にも、国共内戦で中国共産党軍に偽装した北朝鮮正規軍が国民党軍撃破の先頭に立ち、逆に朝鮮戦争で中国義勇軍が北朝鮮を助けるという対等、互恵の関係があった。現在は残念ながら北朝鮮は中国に依存するしかないが、かつての人脈が完全に切れた訳ではない。 最後に一言。 かつて朴正煕は核開発を試みて、最側近の金戴圭KCIA部長に暗殺された。『朴正煕』で「政治の世界で最も危険なのは最も信頼する人物である」と書いたが、金正恩にも同じことが起こらない保証はない。 |
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2018年04月23日
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