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卓球世界団体選手権での南北統一チームと日本との女子準決勝戦は色々な意味で楽しめた。
ストックホルムで南北統一チームが急造されたところに、南北首脳会談後の熱気の一端がうかがわれる。ソウルでは統一を期待する気の早い声まで飛び交っている。 しかし、1972年に金日成主席と朴正煕大統領との間で電撃的に発表された南北共同声明後の熱気ほどではない。明日にも南北統一かと、ソウルもピョンヤンも在日社会も燃え上がった。だが、その熱気も1、2年後には急速に冷え込み、以前にもまして敵対意識が強まった。代が変わり、分断は事実上固定化されて今日に至る。 非核化を南北首脳が約した板門点宣言は一定の成果ではあるが、無闇に熱くなることはない。同じ過ちを繰り返さないために、過去からしかるべき教訓を汲み出す冷静さと叡知が求められる。 南北共同声明当時は南北が「民族内部の問題」と勝手に燃え上がり、勝手に冷え込み、国際社会の関心は今一つであった。 だが、今回は韓国が一方的に燃え上がり、南北共同宣言では主導権を握っていた北朝鮮は一転、異様なほど静かである。労働新聞も朝鮮中央テレビも完全な非核化を約した板門店宣言をほとんど報じていない。下手に報じると、核武装を喧伝してきた金正恩国務委員長の権威が失墜し、政治不安を引き起こしかねないからである。 さらに、ノーベル平和賞候補に文と金正恩が挙がるなど、南北よりも米中欧日など国際社会の方が熱くなっている面がある。アジア・太平洋地域の安全保障に死活的な影響をおよぼす核問題が焦点となっているからである。 従って今回は南北だけの問題にとどまらない。 特に北朝鮮は対応を誤ると、政権のみならず国家そのものが存亡の危機に陥ることになろう。金正恩の責任は重大であり、厳しい舵取りを迫られる。 とはいえ、矢は放たれた。南北首脳会談後、韓国、北朝鮮、米国、中国の動きが慌ただしくなってきた。底流には、私が以前から「北朝鮮核問題は本質的には東西冷戦の殘滓であり、G2、すなわち米中新型大国関係の各論として決着をみるしかない」と指摘した流れがある(『二人のプリンスと中国共産党』参照)。 その大枠の中で南北がどこまで主体性を発揮できるか、それに尽きる。 一方の主役である金正恩は3日、急遽訪朝した王毅中国外相と会談し、「『朝鮮半島の非核化実現は我が国の揺るぎない立場だ』と改めて述べた」(中国外務省)。王はそれを支持し、経済協力推進を表明した。 しかし、本音と建前が微妙に交錯している。王は金正恩が先月20日に核実験とICBM発射実験停止を表明し、「経済建設に総力を集中する」としたことを“路線転換”と理解しているが、朝鮮中央通信は李容浩・王の朝中外相会談について「両国の親善、協力関係を新たな高い段階に発展」と報じるのみで、非核化への言及はない。北朝鮮の労働党内では核・経済並進路線は「結束」と総括され、“路線転換”とは認識されていない。 金正恩が発表した核・ICBM実験停止と核実験場閉鎖は客観的には現状維持のレベルであり、廃棄に踏み込んだものではない。凍結と段階的非核化という核隠しで批判を交わし、制裁緩和と経済協力を得ようとするのが秘めた狙いであろう。 ただ、中国との金日成・毛沢東時代の血盟のよりを戻し、米国に対抗する後ろ楯を得たい金正恩の本音は透けて見える。 反対解釈すれば、対中依存度を高めたことになる。北朝鮮核問題の比重が南北もしくは米朝から米中の力関係に移行していることを如実に物語るものである。 直近のコラムで北朝鮮権力内部では核放棄で自身と体制の保証を優先したい金正恩と、金日成以来の武力統一路線に固執する保守派の葛藤が生じていると書いたが、米朝首脳会談が近付くにつれ、一層熾烈化し、金正恩の統率力が問われることになろう。 こうした指摘は現時点で私以外、見当たらないが、日本、韓国には真の意味での北朝鮮専門家が存在しないからである。普通は欧米専門家なら当該国の大学に留学し、現地で研修し、知見や人脈を蓄えるが、日本の専門家にはそうした人物が一人もいない。北朝鮮の内情を知るよしもなく、臆測や推測でしゃべるからコロコロと一貫性がない。 他方の主役である文在寅大統領はというと、現時点では合格点である。就任前はTHAADに反対するなど反朴槿恵ポピュリズムにドップリ浸かっていたが、大統領に就任すると、THAADをあっさり受け入れ、韓米同盟重視を明確にし、親北派と一線を画す現実主義的な政治家に豹変した。 南北首脳会談でも北朝鮮側に最大限の配慮を示しながらも、金正恩を45分の二人だけの徒歩会談に連れ出し、金正恩の本音を入念に探った。 その中継映像を興味深く観ていたが、金正恩は倍ほども歳が離れた文に礼節をもって対し、悩める一青年指導者の素顔を覗かせていた。文が金正恩の本音や置かれた立場、人柄まで相当に踏み込んだ観察をしたことがうかがえる。 文は「トランプ大統領の圧力政策が北朝鮮を対話のテーブルにつかせた」とトランプとの電話協議で確認しあったが、単なる外交儀礼ではあるまい。金正恩との間で休戦協定を年内に平和協定に変え、秋にはピョンヤンを訪問すると合意したが、その直後、核廃棄まで制裁は継続する、平和協定と在韓米軍撤退問題は無関係と原則的立場を再確認している。 今やトランプ・文は強固な盟友関係となり、トランプ・安倍晋三の個人的信頼関係を凌駕するが、鄭義溶大統領府安保室長ら知米派の役割が大きい。英語に堪能な鄭は訪朝の結果をトランプに報告し、その席で米朝会談を決意させる離れ業を演じた。その後もポンペオ新国務長官、ボルトン大統領安保担当補佐官候補と随時、会談を重ねて細部を詰め、今月22日の米韓首脳会談をセットした。その脈絡から、板門店が米朝首脳会談の候補地として急浮上した。 米朝首脳会談ではトランプは文のアドバイスを元に単刀直入に金正恩に核廃棄の意思を尋ね、即答を求めるだろう。 トランプが求めるように2021年までの任期内廃棄へと劇的に進展するか、決裂、軍事オプション選択へと急展開するか予断は許さないが、舞台と役者は揃った。 舞台裏では貿易摩擦も絡んだ米中の確執が複雑化している。双方ともに北朝鮮核問題をカードにしており、米朝会談の行方にも少なからぬ影響を与えるだろう。 板門店宣言では南北米中4者会談も明記されており、南北の主体性がより厳しく問われることにもなる。 北朝鮮が核廃棄と改革開放を断行し、50倍のGNPを有する韓国が全面支援する方向に持ち込めれば、主体性度は合格点である。 他方、蚊帳の外に置かれたのが安倍晋三首相であるが、懸案の拉致問題も自力解決しか方途がない。 それについては次回に譲る。 |
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