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文在寅大統領が金正恩国務委員長と19日に会談し、「ピョンヤン共同宣言合意書」に署名したが、内容的には4月の「板門店宣言」や6月の「米朝共同宣言」より事実上、後退している。
北朝鮮が非核化を約した2つの宣言履行を巡って、核廃棄が先か、見返り措置が先かと対立してきた事は周知の事である。しかし、今回、「北側は米国が6・2米朝共同宣言の精神に従い相応の措置をとれば、寧辺核施設の永久的廃棄のような追加措置をとる用意がある」として見返り措置が先であると明記した。最も肝心な部分で、北朝鮮側に押し切られた結果となった。 米側は非核化対象のリストや工程表提出を繰り返し北朝鮮側に求め、文も訪朝に先立ってトランプ大統領から念押しされていた。金正恩との単独会談でもその点を繰り返し説得したとみられるが、合意書を見る限り、明確な成果は得られなかったようだ。 ただ、外交に付き物の裏取引もあり得る。文は24日にトランプと会い、今回の訪朝結果を伝えるが、報道陣に対して大統領府は文・金会談では公開出来ない話があったとして、「金正恩の真意」をトランプに直接伝え、理解してもらう意向を示している。文・トランプ会談を見ないことには即断できないが、前途多難である。 金正恩の、文を巻き込んだ新戦術の狙いは透けて見える。北朝鮮の核施設は寧辺だけではないが、非核化の対象を極力そこに集中させ、文を仲介に譲歩を装い、逃げ切る作戦であろう。 そうして最終的には過去の核に蓋をし、米国とは事実上の核保有国として核軍縮交渉に臨むということである。 1ヶ月半ほど前の前回のブログで、トランプと金正恩はこれから互いに中国の顔を窺いながら脅しすかしの我慢比べに入ると指摘したが、ほぼその通りの展開となった。 両者共に強気を崩さないが、足元は脆弱である。経済的困窮が深まる金正恩は立ち枯れ、ロシア疑惑やセックス・スキャンダルを抱えたトランプは泥沼状態にある。 そこから一種の腐れ縁、すなわち、金正恩は米国の制裁解除に希望を繋ぎ、トランプは北朝鮮外交の成果で中間選挙を乗り切ると奇妙な相互依存関係にある。それが第2回米朝首脳会談を現実味あるものにしているが、一歩間違えば互いに命取りになりかねない危うさも秘めている。 金正恩は9日の建国記念日に5年ぶりの大規模軍事パレードを行い、文には17万収容のスタジアムでマスゲームを披露した。いずれもかなり前から莫大な費用と労力を投じて準備したものであるが、所期の目的を達することが出来なかった。 というのも、金正恩は当初、後ろ楯と頼む中国の習近平主席の訪朝を当てにして準備していた。朝中の結束を誇示して米国に対抗し、同時に中国からの経済支援を引き出す狙いがあったのである。 外交経験不足の金正恩は大きな思い違いをしてしまった。習は3、4日に北京で開いている「中国アフリカ協力フォーラム」に「今年最大の主場外交」(王毅外相)と総力を挙げていた。持論の一帯一路に今後急成長が期待されるアフリカを取り込む狙いである。「一帯一路は米中新型大国関係構築の要になる」と『二人のプリンスと中国共産党』で書いた通りである。金正恩は習のそうした思惑を理解できず、一人相撲で苦しい国家財政をさらに苦しくしてしまった。 習としてはそうでなくとも貿易戦争で険悪化するトランプの怒りを買うことは避けねばならない。代わりに建国記念日式典にナンバー3とされる栗戦書を送り込んだが、外交を統括する盟友の王岐山ならともかく、栗では体裁を整える以上の意味はない。 金正恩が今後最も神経を尖らすのは制裁解除であるが、それを金正恩を動かすビバレッジと考えているトランプが寧辺核施設の条件付き廃棄や既に用済みの東倉里ミサイル実験場閉鎖程度で解除に応じるとは考えにくい。 制裁が現在のレベルで続けば、凶作の今年、北朝鮮国民は深刻な飢餓に直面し、金正恩政権への不満、怒りは極限まで高まろう。 とはいえ、トランプも予測不能な面がある。深夜に「ピョンヤン宣言合意書」にツイッターで歓迎の意思を表し、金正恩との第2回会談に前のめりになっている。外交的成果を挙げ、泥沼からなんとか脱しようと必死だ。 11月6日投開票の米中間選挙は事実上就任2年のトランプ大統領への信任投票となるが、焦点は共和党が下院で過半数を維持できるかにある。現時点で共和党は民主党に支持率で後れをとっている。 民主党が過半数を奪還すれば、トランプには最悪の事態が待っている。マラー特別検察官によるロシア疑惑捜査はほとんどトランプ黒で固まりつつあり、民主党主導の下院でトランプ弾劾裁判が始まることが十分に予想されるのである。 核実験やミサイル実験停止程度でも米国民を喜ばせ、有利な投票を見込めると判断して安易に妥協する可能性も排除できない。 その意味では文大統領の役割が重要となるが、低賃金引き上げ問題で躓き、支持率が急落している。功を焦って事態をより複雑にしかねない。 越南者でもある文を見ていると、親日軍事政権と朴正煕政権を糾弾した民主化勢力の宿業みたいなものが見えてくる。朴政権時代に今日の発展の基礎が築かれた韓国という国体に誇りと自信が持てず、反射的に抗日独立闘争の英雄とされる金日成に憑かれてしまう傾向である。 金九の上海臨時政府を過度に評価し、韓国近代化の礎を築いた朴正煕の時代を正当に評価しない限り、その呪縛は続くだろう。付け加えれば、金九は金日成が呼び掛けたピョンヤンでの南北協商会議に参加し、韓国政府樹立の単独選挙に反対している。 今日午前、文は金日成が抗日闘争を行った聖地とされる白頭山を訪れた。私もかつて訪れ、独特の厳かな雰囲気に魅了された記憶がある。 北側に心情を見透かされ、ミイラ取りがミイラになる可能性がなしともしない。 北朝鮮核武装容認は東アジアに共滅の核拡散ドミノを引き起こすのは必定である。 文大統領には、核に正義はなく、北朝鮮核保有は朝鮮民族と東アジアの悪夢である事をゆめゆめ忘れず、非核化の初心を貫いて貰いたい。その先にノーベル平和賞がある。 |
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