|
ハノイでの米朝首脳会談は物別れに終わった。金正恩国務委員長が寧辺の核施設の廃棄と制裁の実質解除を交換条件にしたが、トランプ大統領が寧辺以外のウラン濃縮施設を廃棄対象に含めることを要求し、金正恩が難色を示すと会談を途中で打ち切り、さっさとハノイを飛び立ってしまった。
予想外と内外メデイアは報じるが、読みが浅すぎる。局面は私が予想した我慢比べの新ラウンドに入ったと見るべきであろう。 今朝一番で目にしたトランプのツイッターには「米韓軍事演習は数億ドルの無駄遣いの節約だ。緊張の緩和は今後の北朝鮮との交渉に役立つ」とあった。金正恩との対話を忍耐強く続けるとの意思表示である。 制裁が効いており、金正恩は遠からず音を上げて、寧辺+αのデイールに応じてくると見越した。独特の商売勘を働かせたと読める。 次回の会談はそれが焦点となろう。前回、指摘したように、北朝鮮の全面核廃棄は金正恩の独断では決められない。保守強硬派の同意が不可欠である。 金欠病から改革開放に前のめりの金正恩が彼らを説得出来るか、それが隠れた焦点である。 私はトランプ・金正恩会談をつぶさに観ていたが、ボルトン大統領安保担当補佐官が会談に割り込んできたのを観て、雰囲気が変わったと見て取った。記者も入ってきて金正恩に質問を浴びせたが、初めての体験に金正恩は狼狽していた。笑みがこわばっていた。 案の定、トランプは非核化のハードルを揚げ、金正恩は即答出来なかった。陪席した金英哲副委員長もピョンヤンの実勢である保守強硬派の意向を無視する事は出来ない。 陰の演出者は明らかにボルトンである。ボルトンは昨日来、米メデイア各紙のインタビューに応じ、「将来の明るい経済のために、北朝鮮は完全非核化に応じる可能性があった。大統領は悪い取引を拒否した。国益のために成功だった」と内幕を明かしている。大統領を庇いながら、その実、ボルトンの自画自賛である。 成果を誇示したいトランプは寧辺核施設廃棄程度でデイールに応じる気があったが、ボルトンが身を持って押し止めたのであろう。ネオコン筆頭格のボルトンは進言が受け入れなければ辞任する意向を暗示したと思われる。ロシア疑惑等で追い詰められ、相次ぐ側近の辞任で孤立を深めているトランプには、それを受け入れるしか選択肢がなかったと私は分析している。 労働新聞は金正恩がピョンヤンに戻る列車の中で悶々としている現時点で、米国との交渉が決裂した事を一切伝えていない。ホワイトハウスも「成功」だったと強調している。互いに今後の交渉の進展に賭けようとしている証左である。 トランプと金正恩の関係は個人的信頼関係というより、脛に傷持つ者同士の持たれあい、が実態に近い。実利で一致しているのが強みであり、安倍晋三首相とプーチン大統領の危うい関係よりもはるかにソフトランデイングの可能性は高い。 今後の展望であるが、「核は民族の宝剣」と認識するのが保守強硬派である。南北統一の決め手になる宝剣である。 現時点では、米国との交渉を核軍縮交渉に持ち込むのが保守強硬派の最低ラインである。寧辺廃棄までは応じられるとなる。 他方の金正恩は、イデオロギーには基本的に無関心の実利主義者であり、核にそれほど固執していない。昨年9月のピョンヤンでの文在寅との会談で、「世界の人々が時間稼ぎだと言っていることを知っている。ペテンなら米国の報復は目に見えている。報復に持ちこたえられるだろうか。真剣さを信じてほしい」と海外の目をかなり正確に認識している事をうかがわせた。 その一方で「リスト申告は攻撃目標リストを申告しろと言うのと同じだ」と述べ、保守強硬派にも配慮した。そのギャップを埋められるか、それが喫緊の課題となる。 今回の米朝首脳会談の番外の成果は、トランプが「北朝鮮は改革開放すればすぐに経済大国になれる」と世界に宣伝した事である。ベトナムは会談場所提供が大きな宣伝となったと喜んでいるが、北朝鮮の潜在的可能性が改めて注目された事は、今後、大きな意味を有する。 北朝鮮の地下資源は石炭、鉄鉱石、銅、タングステン、亜鉛、金以外にもレアアースが豊富であり、総額6兆ドルと試算する韓国の調査機関もある。トランプはそれを宣伝し、新たな投資先をうかがう国際的な投資家の目を引き付けた。 優秀な人的資源と合わせた巨大な潜在能力を発揮できず、世界最貧国レベルに沈んでいるのは、北朝鮮の政治体制の劣化に最大の要因がある。それを如何に止揚していくか、今後の課題の一つである。 私は『二人のプリンスと中国共産党』で米中新冷戦をいち早く予測したが、米朝会談も隠れたモメントはそこにある。北朝鮮は1993年に核不拡散条約から脱退した。NPT復帰とIAEAの査察は不可欠であるが、具体的な核弾頭解体処分は核保有国の米中が担うことになろう。 米朝核廃棄は一般に想像されているほど難しくはない。過去には南アフリカが初歩的な核兵器を自主解体し、リビアが核開発計画を廃棄した。実戦配備した核兵器についてもウクライナが全てロシアに撤収した前例もある。 動き出せば早い。 |
過去の投稿日別表示
[ リスト | 詳細 ]
全1ページ
[1]
全1ページ
[1]





