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延坪島の南北砲撃戦で高まった緊張は峠を越し、焦点は対話による解決へと移りつつある。
韓国国防部は今日から軍人の休暇凍結措置を解き、正常任務に戻す措置を取った。一部保守系紙以外の韓国メディアは昨日の民防衛訓練を若干報じた程度で、新年度予算案強硬採決を巡る与野対立や史上最大規模になった豚の口蹄疫拡散問題に焦点が移っている。
6か国協議首席代表会合案を出した北朝鮮、中国が押し切る結果になりつつある。
米韓軍当局は日本も巻き込んだ軍事演習を黄海(西海)、日本海(東海)で連続して行い緊張を高めたが、肝心の北朝鮮側が全く反応せず、準戦時体制を敷くでもなく、金正日総書記は地方視察を続けるなどして肩透かしを食らわせた格好になった。
また、砲撃で死亡した民間人二人への謝罪としてそれぞれ100万ドルの保障と島復興に800万ドル提供を韓国側に申し出ていることも、韓国世論沈静化の一因になっている。
他方で、李明博大統領に逆風が吹き始めた。
予算案強硬採決問題で与党が混乱していることに加え、韓国陸軍トップの参謀総長がインサイダー取引による不動産不正蓄財疑惑で電撃辞任に追い込まれ、世論が大統領のリーダーシップに厳しい目を向けている。
さる9日にマレーシアで「統一は近い」と北朝鮮崩壊論をぶち上げたが、政府内からも「崩壊論ではない。対話カードを捨ててはいない」「一時的な情報に左右されすぎている」と批判する声が上がっている。
李大統領がぶれるのは、頼みとする米政権がウラン濃縮施設を北朝鮮側に見せられてから「戦略的忍耐」と積極関与論の間で揺れ始めたためである。
キム・ソンファン外交通商部長官は14日、「北は米国との対話を望んでいる。いずれ実現するだろう」と認めながら、「しかし、南北対話が優先されるべきとの立場に変わりはなく、米側と協議する」と矛盾したことを述べている。
野党の民主党などからは「一貫性がない。安保無能」と厳しく批判され、国民の中でも「金大中、盧武鉉大統領時代には南北関係がうまくいっていたのに、李政権になって緊張が高まっている」と太陽政策を懐かしむ声が日々高まっている。
歴代大統領に対する最新の世論調査によると、前回05年調査に比べ盧武鉉前大統領への評価が急速に高まっている。評価が高い順に並べると、朴正煕(72・6%→72・4%)、盧武鉉(30・1→67・9)、金大中(50・6→67・4)、李承晩(38・6→44・1)、金泳三(21・9→36)、全斗ファン(25→29・4)、盧泰愚(12・6→21・4)となる。
盧武鉉前大統領への項目別評価は、経済成長(15→58・6)、南北和解(56・8→80・1)と南北和解が高く評価されている。
対照的に、現職の李大統領に対しては経済成長(47・1)、南北和解(33・2)と対北政策の評価が極めて低い。
プーチンロシア首相が公式に対話を求め、事実上中国案が主流になりつつある。
圧力・対決派の日米韓の旗色が悪くなり、新たに6か国協議再開の条件としてウラン濃縮活動停止、IAEA査察受け入れを挙げているが、中国による北朝鮮説得に期待するしかなく、交渉上手の中国の存在感が高まる一方である。
余談だが、私の著書『韓国を強国に変えた男 朴正煕』がソウルの日本書籍コーナーで平積みされて売れているのは朴正煕への根強い人気が背景にある。そのお陰?で私は一部の元民主化闘士から「独裁者であった朴正煕を評価する極右論客」とのレッテルを貼られている。
ちなみに、次期大統領候補の支持率トップは朴正煕の娘、朴槿恵元ハンナラ党代表である。日本、北朝鮮と異なり韓国では二世政治家は珍しいが朴ファミリーは別格らしい。
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南北砲撃戦
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ハリウッド的ネーミングの「戦略的忍耐」で様子見を決め込んでいたホワイトハウスが急にバタバタと動き出したのは、訪朝したヘッカー元ロスアラモス研究所長が寧辺で整然と並ぶ2000基以上の遠心分離器を見せられてからである。
自分が危うくなると動き出す米国人気質を北朝鮮(おそらく金正恩)に見透かされた格好だが、それを境に「数十単位の遠心分離器を保有している可能性がある」と悠長なことを言っていたワシントンは、「寧辺以外にもウラン濃縮施設が少なくとも1カ所」(クローリー国務次官補14日定例記者会見)をはじめ、「4〜5箇所ある」「年間4〜10の核爆発物を作り出すことが出来る」云々と北朝鮮脅威論を半パニック状に叫び出し、延坪島砲撃事件を最大限利用して日韓の尻を叩くようになった。
韓国では米国の一貫しない態度に疑問の声が上がり、対話による緊張緩和論が野党中心に出ているが、米国に去勢された世界でも稀な親米国の日本では与野党、マスコミともに反応が鈍い。
オバマ政権内では国務省の協商派と軍部強硬派の溝が深まっているが、マレン米統合参謀本部議長は14日もイラクに飛び、「朝鮮半島で戦争の危険性が高まっている。北朝鮮が新たな挑発をする危険性があり、権力の継承問題が絡んでいる」と米兵の前で演説した。
その前日の13日にはブレア米国家情報局前局長がCNNに出演し、「韓国は北朝鮮への忍耐力を失っており、北朝鮮に対して軍事的措置を取る(可能性がある)」と述べている。
手分けして半島での緊張を煽っているのは、日韓政府に危機感を募らせ、米軍の「抑止力」への依存心を高め、操ろうということであろう。
それにしても、マレン米統合参謀本部議長らの発言を聞いていると、一貫性がなくしきりにぶれ、北朝鮮の状況を正確に把握しているのかと心配になる。
金正恩後継問題に強引につなげているのは、情報の質量と分析力が不十分であることがうかがわれる。
最近の特徴は中国を牽制し、対北圧力行使に期待していることだが、焦っているようだ。
多くの犠牲を払って軍事的に制圧したイラクも、先のノーベル平和賞授賞式に中国に同調して欠席するなど、中国の経済的政治的な影響力が強まっている。
マレン米統合参謀本部議長が韓国、日本からイラクまで飛んだのも、アフガンを含めた同一帯における米国の劣勢を日韓の軍事力で補完しようとの野望が隠れているように読める。
一連の動きは、国連決議違反のイラク侵略責任を負うべきネオコンの影響が払拭されていないことを物語るが、その残党は日本の各界に潜り込んでいる。
マスコミも勿論、例外ではない。
ジャパニーズ・ネオコンを識別するリトマス試験紙がマレン米統合参謀本部議長の「(米韓合同軍事演習への)日本の参加を望む」発言であるが、正直と言うべきか単細胞と言うべきか、産経新聞が12日の主張「米統参議長提案 日韓の防衛協力が肝要だ」で早速馬脚を現した。
イラク、アフガンなどで戦争を仕掛けた米軍を「抑止力」「平和と安定」の守護神であるかのように崇め、自国憲法を「非現実的」と否定する卑屈な対米思想はネオコンならではの発想である。
マスコミの御用化には構造的な問題があり、労組が衰退し、経営側の思惑で動いていることが与っている。
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日韓首脳の頭越しに軍事情報を管理し、「北朝鮮の脅威」を口実に日本、韓国を駒として使おうとしているのは、米国、特に、中国の台頭に危機感を募らせる統合参謀本部の制服組である。
「イラクを真似た天安艦有志連合(米韓+日本)」で指摘したように、米軍の下に日韓の軍備を統合する発想は3月の韓国哨戒艦沈没事件以降、米軍部に顕著に現れてきた現象であり、日韓のネオコンが米軍側と歩調を合わせる中、危険水位に達しつつある。
ネオコン主導のブッシュ政権によるイラク侵略に日本のマスコミはすっかり乗せられてしまったが、今回も片棒を担がされているようにみえる。
それを象徴するのが、米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長の越権的発言である。
訪韓中の8日、韓民求・韓国合同参謀本部議長との共同記者会見で「北朝鮮の脅威に対し、我々は団結しなければならない。(米韓合同軍事演習への)日本の参加を望む」と述べた。
突出発言ではない。今年7月の米韓合同軍事演習にすでに自衛官がオブザーバーとして参加し、韓国軍幹部も今月の日米演習に初めてオブザーバー参加しており、現場では、憲法違反の集団的自衛権行使がなし崩し的に進んでいる。
それに民主党内の追米的なネオコンは、「自民党が出来なかったことをやる」と積極的に呼応している。
菅首相は10日に拉致被害者家族会との懇談会で「万が一の時に北(朝鮮)におられる拉致被害者をいかに救出できるか。準備というか、心構えというか、いろいろと考えておかなければいけない。救出に直接、自衛隊が出ていって、向こうの国の中を通って、行動できるか、という所までいくと、まだそうしたルールは決まっていないのが現状」と述べ、韓国との間で検討を進める必要性を指摘したのも、その延長線上の発言とみられる。
しかし、米軍はイラク、アフガンでも失敗したように、肝心の現地の情報に疎く、特に政治的情勢をいつも見誤ってきた。
今回も、菅発言に対して韓国では「妄言」と反発が広がっており、民主党の朴智元院内代表は11日、「日本がまたわが国を侵略するというのか」と激怒した。
政府与党にも困惑が広がり、聨合ニュースは「大統領府関係者が『深く考えて述べたものではないだろう』と批判した」と伝えたが、翻訳すれば「バカを言うな」という意味である。保守の朝鮮日報ですら「戦犯国の日本の首相が・・・。反日国民感情からとうてい容認できない」と非難している。
李明博政権は8日に不評の4大河川整備事業を進める来年度予算案を強硬採決したことで国民の怒りを呼び起こし、民主党が院外反対闘争を強化する中、与党政策委員長が辞任表明に追い詰められるなど、窮地に陥っている。
菅妄言への批判が加わり、李大統領の支持率低下で政権運営はさらに厳しくなることが予想される。
菅妄言を招いたマレン統合参謀本部議長の越権的発言は、韓国内の反米感情をも刺激しつつある。
延坪島を過剰砲撃した北朝鮮に対する悪感情で韓国内の対米感情は相対的に好転していたが、ここに来て「米国人に主権を制限されている」「越権行為だ」との認識が広がり、伝統的な反米感情が燻り始めた。
今後の展開は予断を許さない。
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日本では全く報じられていないが、元世勲・韓国国家情報院長の国会証言によると、李明博大統領は延坪島の砲撃戦をテレビで知り、「どうなったんだ」と尋ねたという。
日本でも菅首相がテレビニュースで第一報を受け、官邸を空けていたとかどうとかと自民党から噛み付かれたが、日韓とも国民の代表が実情を正確かつ迅速に把握していなかったことが図らずも明らかになった。
これが意味することは重大である。
戦争も予想された事態で、日韓共に事実上、米軍をバックにした韓国軍、自衛隊が主導権を握り、シビリアンコントロールが機能していなかったのである。
マスコミはそれが見えず、かつての大本営発表さながらに、核搭載原子力空母「ジョージワシントン」からの「初の現場中継」と称して米日韓の軍事演習は「抑止」、北朝鮮は「挑発」のイメージをふりまく宣伝係となり、戦争の片棒を担がせられようとしていたことになる。
批判精神の欠如もここまでくると病気である。
深刻なのは李大統領だ。
先月23日の延坪島砲撃戦当時、韓国軍合同参謀本部が戦闘機による反撃を試みたが、韓米連合司令部が慰留して事なきを得たと言うが、李大統領は事後にそれを知らされていたというから驚きである。
韓国政府高官は当時の状況について9日、「北朝鮮の砲撃が二度続き、合同参謀本部は韓米連合司令部に戦闘機による爆撃を提案したが、受け入れられなかった」と明らかにした。
当日、韓米連合司令部が爆撃について3時間30分余にわたり緊急会議を持ったことは知られているが、内容が明らかにされたのは初めてである。
北朝鮮が自国領海に向けた韓国軍の約四千発もの実弾射撃演習への腹いせから大延坪島を砲撃したのが23日午後2時34分だが、4分後に韓国空軍戦闘機が飛来し、24時間交代で延坪島上空を旋回しながら、韓民求・合同参謀議長の攻撃命令を待っていた。
シャープ韓米連合司令官がそれにゴーサインを出していたら、李大統領が知らない間に南北全面戦へと発展した危険性があったわけである。
合同参謀本部は「爆撃について米側の意見を求めたことはない」と否認しているが、逆に見れば、李大統領も知らない最高軍事機密が存在するということになる。
韓国軍には北に対して同程度の反撃だけ許される交戦規則があり、その範囲を超える戦闘機爆撃は韓国軍の戦時作戦権を有する在韓米軍司令官兼韓米連合司令官の了解を得なければならない。
平和か戦争かの決定権が米軍司令官にあるわけで、そうした米国依存の状況を危ういと判断した盧武鉉前大統領は戦時作戦権返還を米側に強く求め、2012年で合意した。
それを覆し、2015年に延期したのが李大統領であるが、その危険性と無責任さが図らずも白日の下にさらされたことになる。
日本の首相もそうした実情については知らないと見られる。「拉致被害者救出のために自衛隊を韓国に・・・」といった寝ぼけた発言もそこから来る。肝心なことを把握せず浮ついた情報が飛び交い踊らされているのが日本のお粗末な現状である。
シビリアンコントロールも何もあったものではない。
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先月28日からの騒々しい米韓軍事演習の期間、大延坪島の住民は本土に避難していたが、1日に演習が終わると戻り始めた。
日本のテレビ、新聞は「抑止」と演習目的を宣伝していたが、何のことはない、肝心の住民たちはきな臭い「北への挑発」の臭いを嗅ぎ取って行動していたわけである。
図らずも日本の「報道の自由」は敗戦で米国に与えられ、米国の意のままに操られる根の浅いものであったことを満天下に晒した。今に始まったことではなく、米国のイラク侵略時も「いけいけ、やれやれ」式の無批判な報道をしていたが、全く反省というものがない。
ネットで直に現地の動向を知ることができる今、そうした偏向報道は自ら信用を傷つける自殺行為であることを知るべきである。
米韓の軍事演習は逆に手詰まり感を残すパフォーマンスに終わり、限界を露呈した。
反比例して存在感を高めているのが中国である。ロシア外務省当局者は2日、「朝鮮半島での出来事をめぐる懸念は解消されていない。6か国協議首席代表緊急会合が開催されるならわれわれは参加する」と中国案を支持した。
クリントン長官もキルギスタンで3日、北朝鮮に対する新提案を準備しており、すでに中、ロと協議していることを認めた。6日の米韓日外相会合で対応を話し合うと見られる。
米韓の予測に反して、北朝鮮は終始冷静であった。
米韓軍事演習が北朝鮮領海から離れた海域で行われることを知った時点で、単なるパフォーマンスに過ぎないと判断したのであろう。
金正日総書記は28日にピョンヤン大劇場での国立交響楽団公演を後継者の金正恩らとともに観覧する余裕を見せ、その後、地方への現地視察に赴いている。1993年の第一次核危機時時には準戦時体制を敷いたが、今回はピョンヤンは平時と何ら変わらない。
北朝鮮メディアがわざわざ冷静さを流すのは、金正恩の情報戦略によるものと読める。
北の余裕の背景には、今年3月の韓国哨戒艦沈没事件以降の中国との同盟関係深化に自信を深めていることがある。
外交関連の北朝鮮高官が相次いで訪中しているのは、中国の6か国協議首席代表緊急会合案を煮詰めているからであろう。
また、「米国への抑止力」と位置付ける核ミサイル戦力への自信がある。ウィキリークスが暴露した米外交秘密公電にはU.S-Russia Joint ThreatAssessment Talks(2010年2月14日付 極秘文書No.017263)が含まれ、米ロが北朝鮮のテポドン・ミサイルについて弾頭重量500Kg、射程15,000kmと分析している。
さらに、中国の核専門家リ・ビン清華大学国際問題研究所副所長が昨年5月の北朝鮮の第2次核実験について「中国に爆発規模が4キロトンと事前通告した通りの実験結果が出ており、核爆弾の小型化実験と解釈される。北朝鮮は2キログラムのプルルトリュムで核爆弾を製造したと通告してきた」と明かしている。
すでに核ミサイル搭載潜水艦が作戦行動に入っているとの情報も韓国から出ている。
こうした情報は、北朝鮮が10月の軍事パレードで公開した潜水艦発射型多弾頭核ミサイル(米国コード名ムスダン)や対空ミサイルなど新型ミサイルを分析すればある程度裏付けられる。
つまり、北朝鮮はすでに核ミサイルを多様な形態で実戦配備している可能性があるということである。
米韓軍事演習がプレス報道は派手だが、実際には慎重な行動に終始したのは、そうした可能性を考慮した側面があろう。
NHKソウル支局長は「ジョージワシントンの艦載機は十分でピョンヤンに入り、壊滅的な打撃を与えることができる」と伝えたが、対空ミサイルの迎撃を受けなければの仮定の話でしかない。
事実は小説より、報道より奇である。
言うことをおとなしく聞けとばかりに、軍事的手段で圧迫して解決しようとする前世紀的な砲艦外交は、核戦争を覚悟しない限り不可能になった現実を直視するべきである。
無知な楽観論は大怪我のもとである。
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