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中国の沈志華・華東師範大学教授が近刊「最後の『天朝』 毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮」で会談記録などから「金日成は当事(1975年)、韓国への再度の武力侵攻に中国の承諾を得ようとし、毛はそれを知りながら、あえて政治の話題を避け続けたと推定」(朝日新聞「中朝『血盟』と不信感」9月1日)しているという。
当時の会談記録にそのような記述があるわけではなく、あくまでも沈氏の推測であるが、客観的に見てあり得ないことである。 金日成の訪中の最大の目的は、当時の北朝鮮の国内事情を見れば、経済支援要請である。 しかし、文革による中国の混乱が想像以上に深刻であることを知り、断念したと思われる。 いずれにしても、武力侵攻など企図する状況でなかった事は明白である。 「天朝」などと朝貢を連想させる用語を用いて金日成と毛沢東の関係を説明しようとするなど、基本的な視点にかなり無理がある。 「朴正煕」にも書いたが、当事、金日成は韓国の朴正煕大統領の新手の体制競争攻勢への対応に追われていた。南北共同声明を発表して3年、南の維新体制に対抗する形でトップに権限を集中する国家主席制に移行し、内部では金正日への後継体制固めを急いでいた。 韓国への南侵を考える余裕など全くなかったのである。 事実、訪中1ヶ月前、金日成主席はピョンヤンで全国工業熱誠者会議を開き、一人当国民所得が1000ドルに達した事を明らかにし、「先進国の入り口に立った」と胸を張った。 当事、私は朝鮮新報記者をしていたが、労働新聞一面に掲載された金日成の報告を読んだ感慨を今も鮮明に覚えている。私自身、北の国民所得がどのくらいなのか疑問を持っていたが、報告はそれに答えるものであった。 金日成が初めて国民所得に言及したのは、「漢江の奇跡」で急速に工業化を進めていた朴正煕を意識したからであった。当時の韓国の国民所得はまだ500ドル台で北の半分。しかし、人口は倍であったので、GDPは拮抗していた。つまり、南北の経済力が逆転する時期であった。 金日成は焦っていた。韓国は外資導入・輸出振興で勢いが付いていたが、北は第3次7ヶ年計画に失敗し、翳りが生じていた。資本不足が最大の原因であった。 その打開のために、金日成は同盟国である中国、ソ連の経済支援を要請していた。 同じ現実主義的な脈絡から、日本製鉄など日本資本、現代など韓国資本の導入計画を極秘裏に進めていた。中国の後を追って米国との修交にも乗り出し、この二、三年後に国際問題担当の金容淳書記をハワイでの国際会議に参加させる。 そうした投資計画を壊し、逆に膨大な軍事費を必要とする韓国への南侵など非現実的であることは、十分に理解していたはずである。 金日成が文革による中国の混乱を心底、心配していたのは事実である。 金日成訪中時、中国の実権は毛沢東の妻ら四人組が握り、毛は飾り物でしかなかった。沈氏は毛沢東が金日成に「政治の話はもうしない」と語ったと当時の文書にあった事を明かすが、老衰激しく翌年亡くなる毛は、政治を語る意欲を失っていたと解釈した方が妥当である。自身の後継問題で頭が一杯で、南侵の話どころではなかった。 紅衛兵の1人であった沈氏は、独特の思い込みから、その辺りが理解できないようだ。 沈氏は内部文書に、毛沢東が1956年に駐中ソ連大使に「金日成はナジになる可能性がある。ナジは(社会主義陣営から)離脱しようとして失敗したが、金日成は成功するかもしれない」と語り、4年後、駐朝ソ連大使からそれを聞かされた金日成は「嘘だ。中国の指導者は面と向かって言った話と裏でやることはまるで違う」と大声で怒った経緯が記されていたと明かす。 中ソ対立で揺れる金日成、毛沢東の心理をうかがわせて興味深い。毛沢東は反ソ、金日成は中立であった。 だが、毛沢東の北朝鮮に対する考えについて、「『おまえは俺の子供だ。子供が欲しがるのになぜ与えない』といったものだったではないか。中央王朝の周辺の従属国に対する姿勢と全く同じ発想だ」と述べているが、お粗末な独断である。金日成と金正恩を混同しているようである。 『二人のプリンスと中国共産党』で明かしたように、中華人民共和国建国直前の国共内戦で、いち早く建国し、ソ連の援助で強力な正規軍を有した北朝鮮人民軍が中国共産党軍に混じって国民党軍撃滅の先頭に立ち、朝鮮戦争では中国義勇軍が北朝鮮を助けた。長男の毛岸英が戦線に志願し、戦死した事に私心なき毛沢東の覚悟が如実に現れている。 それが互恵的、自己犠牲的な「血盟」の実体であり、一種の郷愁となって、現在も微妙に朝中関係に影を落とす。 沈氏はある時期まで国際共産主義運動の連帯精神であったプロレタリア国際主義を「属国との間に境界線を持たない中央王朝の概念であり、毛沢東にとって北朝鮮のことは自分自身のことだったのだ」と前掲朝日新聞の記事で述べているが、毛沢東を膨張主義的な民族主義者のように描いていると曲解されかねない。 当人はそこまで意識してはいまいが、日本の反中メデイアは毛沢東に回帰する習近平主席をそのように批判していることに留意すべきである。 歴史は螺旋階段のように繰り返すが、今の思惑で都合よく解釈するのではなく、教訓をこそ汲み取るべきである。 私は北朝鮮の白頭山(長白山)山頂に行った時に天池のほぼ真ん中に朝中国境線が引かれていると知り、驚いた。金日成と毛沢東の「プロレタリア国際主義に基づく同志的な関係の証」と説明を聞いて納得した記憶がある。 1962年にピョンヤンで締結された朝中国境条約に基づくものであるが、話し合いで国境問題が解決された稀有な例である。領土、領海問題で東北アジア諸国の関係が悪化している今だからこそ、その意味を真摯に考えてみる価値があろう。 |
東アジア国際関係論
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THAAD問題と東シナ海緊張の本質は東アジアに於ける米中の主導権争いにあり、それが韓中、日中の政治的要素と絡みながら表面化していると見なすことが出来る。
THAAD問題は(上)、(中)でみたように外交的な神経戦、条件闘争といったところだが、東シナ海問題ははるかに深刻である。尖閣諸島(釣魚島)の実効支配を巡って日中が武力衝突しかねない事態に直面している。 韓国政府は当初、今月末に予定されていた韓日中外相会談で三国の意見調整を行うことを考えていた。昨年ソウルで主宰した第1回会談を軌道に乗せようと満を持していた。 3国外相会談から中国杭州でのG20での首脳会談に繋げ、対話の枠組みをしっかりと作り上げるのが韓国が描いたシナリオである。従軍慰安婦問題の解決を急いでいるのも、その地均しの1つと考えれば十分に整合性がある。 ところが、日中が風雲急になってきた。さる5日から多数の中国の公船や漁船が連日、日本が主張する尖閣の領海や接続水域に進入し、緊張が一気に高まったのである。 岸田外相が駐日中国大使を呼んで厳重抗議した直後に再び中国船が尖閣に進入したことに韓国政府内では驚きが広がった。王毅外相の訪日日程を協議するはずの孔外務次官補の訪日が突然キャンセルされた事が伝わると、悲観論に変わっている。 さらに、中国外務省が日本外務省に外交ルートを通して、安倍内閣の閣僚が15日に靖国神社を参拝しないようにと正式に申し入れた事が伝わった。訪日をキャンセルした孔外務次官補が直接、日本側に申し入れる予定であった事が知れると、中国は何を狙っているのかと衝撃が広がっている。 外務次官補が来日して直接、靖国神社参拝を申し入れるのは、事実上の最後通諜に等しい。 さすがにそれは控えたようだが、事態が緊迫化しているのは間違いない。 今日の毎日朝刊によると、5月以降、中国空軍機が尖閣上空にしばしば飛来し、自衛隊機がスクランブルをかけているという。6月上旬に南シナ海で中ロ合同軍事軍事演習を終えたロシア軍艦を追うように中国軍艦が尖閣領海内を通過したことは明らかになっているが、一般国民が見えないところで際どいニアミスが繰り返されていることになる。 尖閣水域に大量に入ってくる中国漁船は民兵組織と連動しているとみられ、中国の一連の行動は無人島である尖閣の実効支配を意図し、機会をうかがっていると読める。 いたずらに危機感を煽るのは厳に慎まなければならないが、敵愾心に駆られた一部の跳ね上がりが事態を必要以上に深刻化させることもありうる。 何よりも、現状を冷静に見据えることが肝要であろう。 尖閣領有問題は歴史認識問題が絡むだけに、THAAD問題よりもはるかに複雑である。日本は1985年に領有したと主張するが、中国側は前年の日清戦争のどさくさにまぎれて強奪したと一歩も譲らない。韓中の独島(竹島)問題と似た構図である。 その脈絡から、安倍内閣の閣僚の靖国神社参拝に強硬に反対する。 もっとも中国は以前、かなり自制していた。周恩来首相は田中首相との日中国交回復交渉で棚上げを主張し、トウ小平も踏襲した。石原慎太郎都知事の唐突な都有地化宣言→国有化で常態が崩れ、紛争の対象となった経緯がある。 ここに来て中国が強硬に転じたのは、南シナ海問題で安倍政権がいわゆる「中国包囲網」の急先鋒になった事への意趣返しの側面がある。安倍政権が南シナ海問題に介入してくるのは、東シナ海に通じるシーレーンの支配権確保が狙いと判断しているのであろう。 それは習近平政権が描く一帯一路構想に関わる核心的利益の一つである南シナ海ー東シナ海ルートを脅かすものと映り、排除しなければならないと考えている。 日本のメデイアには中国指導部内で主導権争いが激化し、それが対日強硬姿勢に傾かせていると報じる傾向があるが、本質から目を逸らしている。事実上の党純化路線である腐敗撲滅闘争を通して習近平の指導権はすでに確立されている。 中国は最悪、尖閣への上陸と実効支配を選択肢に入れていると考えるべきであろう。 その場合、中国がもっとも警戒するのは米軍の動向である。日本側が思っているほど自衛隊の戦力を高く評価していない。米国のシンクタンク「ランド研究所」上席研究員が「フォーリンポリシー」に寄稿した論文で日中が衝突したら中国軍が5日で制圧すると予測しているが、順当なところであろう。 強気な安倍首相も頼みの綱は米国と考えている。菅官房長官が8日の記者会見で安倍首相から米国と緊密に連携を取るようにとの指示があったことを明かしているのは、米国に支援を求めた事を示唆している。 米国もその辺りは十分に心得ていて、9日、トルドー国務省報道部長が「米国は状況を注意深く見守っており、日本政府と緊密に連絡を取り合っている。尖閣諸島は1972年の沖縄返還以来、日本政府の施政下にあり、日米安保条約第5条の適用を受ける」と中国を牽制した。 だが、米国は一貫して領有権が日本にあるとは言わず、安倍政権と一定の距離を置いている。対話による解決に余地を残しているのである。 つまり、尖閣問題の背景にあるのも、米中関係なのである。 『二人のプリンスと中国共産党』で詳述したように、オバマ大統領は習主席と一度は「新型大国関係構築」で合意したが、中国の意図がアジアでの米国の影響力排除にあることに気付き、リバランス政策で巻き返しに乗り出した。 しかし、米国は中国と全面衝突する事は世界の安定を損ない、米国の戦略的、経済的な利益を根本的に傷付けると考えており、あくまでも戦術的なレベルで対応するであろう。 その有力パートナーが日本である。韓国は北朝鮮の命運を握る中国との関係維持に腐心し、必ずしも米国に同調していない。 その違いがTHAAD問題と東シナ海問題の差となっている。韓国としては米中関係が緊張すれば北朝鮮制裁の足並みが乱れ、好ましくない。他方の日本は米中関係が緊張した方が尖閣で有利になる。逆もまた真である。 この相反する複雑な方程式をいかに解いていくか、朴槿恵大統領、安倍首相共に手腕が問われる。 |
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事大主義、売国行為と国民から指弾される中での野党6議員の訪中強行は、27日に新代表を選ぶ全党大会を控えた共に民主党を大きく揺さぶっている。
党内が賛否両論で割れ、国民からは外交担当能力を疑問視され、来年の大統領選挙にも少なからぬ影響を与えるのは必至である。 他方の与党セヌリには、皮肉にも、国民世論を味方につける追い風となった。こちらはいち早く新代表を選んだが、保守党初のホナム(全羅南北道)出身のイ・ジョンヒョン新代表が選出され、セヌリ党が弱かった同地域に歴史的と歓迎する声が広がり、選挙構図に大きな変化が予測される。 朴槿恵大統領の側近でもあり、大統領の意向が通りやすくなった。少々早いが、朴大統領の意中の人物であり、安保外交観を一にするパン・ギムン国連事務総長で次期大統領は決まりであろう。 それはともかく、中国側はTHAAD配備反対派の6人に中国で反対声明を出させようと手ぐすねひいて待っていた。ところが、国内世論の指弾に動揺した6人は黙りを決め込み、予定した行事をキャンセルして10日に帰国してしまった。韓国国論分裂を策した中国の試みは失敗に終わったわけである。 結局、来月に中国で開催されるG20に合わせた朴槿恵・習近平会談で相互の意見調整を図るしかないとの意見が習近平指導部に強まっているようにみえる。焦点は、(上)で指摘したTHAAD配備と米国の安保戦略との関係である。 周知のように国連安保理は今年3月2日の4回目の核実験に対する制裁強化決議から直近の6月23日の弾道ミサイル発射非難声明まで北朝鮮の核・ミサイルと関連して5回の非難声明を出し、中国はいずれも賛同し、北朝鮮への制裁の強度を高めてきた。 ところが、それ以後は消極的になり、8月3日のノドン2発発射(一つは空中爆発)に対しても安保理決議に応じていない。THAAD配備決定(7月8日)と南シナ海常設仲裁裁判所判決(同月13日)が影響していることは明らかである。日本のメデイアはTHAAD配備決定ばかり取り上げるが、一面的で、全貌が見えなくなる。 中国はTHAAD配備決定が米日のMD網と連動した対中包囲網の一環であり、北朝鮮の核・ミサイル問題はその口実と疑い始めている。 常設仲裁裁判所判決の受け入れを求めて米日がASEAN会議などで多数派工作を強引に行ったことから、疑いは危機意識へと高まったと読める。 安倍政権は安保法制など中国との有事を想定した軍事力強化へと傾斜している、と中国が警戒しているだけに尚更である。 しかし、韓国が米日の多数派工作から距離を置き続けた事が奏功し、習近平指導部は韓国との対立を決定的にすることは避けようとしている。 実際、中国はTHAAD批判を強める一方で、韓国は必ずしも米国の圧力に屈した訳ではなく、韓国の言い分にも一理あると峻巡している。 例えば、8日のシンガポール中国語日刊紙・聯合早報に中国共産党学校機関誌「学習」元副編集長のトン・ウィオンが寄稿し、中国が北朝鮮との血盟関係に戻ることはあり得ず、北の核廃棄問題も後退させてはならないと主張する。その上で、中国が北朝鮮を変える力がありながら、十分に役割を果たさず、北を助けていると韓国が失望した事がTHAAD配備決定に繋がった一因と指摘し、対話による解決を求めている。 戦略上、中国にとって韓国に必要以上に圧力を掛けて、米国の側に追いやる選択肢はない。AIIBの有力メンバーであり、習政権が命運をかける一帯一路構想に欠かせない。 THAAD問題は、韓国との戦略的なパートナーシップの枠内で解決されなければならないのである。 THAAD配備問題に領土問題のような複雑さはなく、北朝鮮の核・ミサイルの脅威さえ除去されれば必要なくなる。また、米日のMDとは連動していないと韓国政府は繰り返し言明している。この二点を中国が理解し、北朝鮮にしかるべき影響力を行使すれば自ずと解決する。 中国側にそれをどう納得させるか、9月のG20で予定される朴槿恵・習近平会談が重要となる。 |
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THAAD配備問題を巡り韓中の関係が微妙になっている。他方、東シナ海では尖閣諸島(釣魚島)近海に中国の公船や漁船が連日、大量に入り、緊張が高まっている。
二つの現象は戦略的に密接に関連しているが、意外とそれについて論じるメデイアが見当たらず、一種の盲点になっている。 両者は一方が分からなければ他方も分からない密接な関係がある。具体的に俯瞰してみよう。 THAAD問題の現特徴は、韓中対立というよりも、韓国内部の対立の側面が強い。中国で流行っている韓流ドラマの本数が減ったり、数次商用ビザの発給が止まったりと、嫌がらせみたいな事が散発しているが、日本が主張する尖閣領海や接続水域に中国軍関連の公船が連日、入るといった実力行使と比べれば可愛いものである。 THAADを巡る韓国内の政治的な対立に中国が手を突っ込み、引っ掻き回しているというのが、外の日本から見た韓国の偽らざる姿である。 その端的な例が、野党の共に民主のTHAAD対策委幹事ら6人の議員が8日から10日の日程で訪中したことである。 朴槿恵大統領が「中国の立場に同調」「安保問題は政争の対象にはなり得ない」と連日、公開の場で思い止まるように批判しているにも関わらず、強行した。 憲法で外交などは大統領の専権事項と決められており、微妙な問題を抱えている相手国に政府との事前調整なく訪れるなど、米国や日本など先進国ではあり得ない事である。 李朝末期に諸外国にそれぞれ通じて国論を分裂させ、亡国をもたらした事大主義、党派主義の悪しき病弊が未だに克服されておらず、当人たちにその自覚もない。全くもって情けないと言うしかない。 以前から指摘しているように、THAADは北朝鮮が核・ミサイルを放棄させるように中国が制裁圧力をさらに高めるように求めるカードである。 高度な外交的判断が求められるものであり、韓国政府は中国の面子を尊重して、公にしてはこなかった。 しかし、訪中6人組の暴走を押さえるため、大統領府は特別コメントを出し、「私達の純粋な防御的措置を問題視し、韓半島と東北アジアの平和と安定を崩している北韓により強力な問題提起をすべきだ」とあえて中国にも注文をつけた。簡単に言い換えれば、北朝鮮が核・ミサイルを放棄せざるを得なくなるまで制裁圧力を高めるべきである、そうすればTHAAD配備は必要なくなると言っているのである。 そのようなやり取りは水面下の外交交渉で行われてきた事であるが、一部跳ね上がり議員のために手の内を晒すことになった。それだけでも外交的な損失である。 案の定、中国は「THAAD配備が中韓関係を緊張させている責任を北朝鮮と中国側に転嫁させるものだ」(環球時報8日)と反発した。 6人は北京での中国側との座談会でそのような意見を聞かされるのであろうが、それを国に持ち帰って喧伝するとしたら、いい笑い者である。外交の何たるかも弁えない軽薄な行動は、厳しい糾弾の対象となるしかない。 中国の本音は「米国の安全保障戦略に韓国が巻き込まれ、苦境に陥ろうとしている」(新華社通信)の一言に凝縮されている。1962年のキューバ危機を念頭に置いており、本気度が推し量れる。、 中国が国連安保理の制裁決議に同調し、特に今年4月以降、北朝鮮からの石炭、鉄鉱等の輸入を大きく制限し、北朝鮮経済に深刻な打撃を与えている事は事実である。金正恩政権は起死回生の経済発展5ヵ年戦略が頭から行き詰り、内部崩壊の兆しすら見せている。中国が更に制裁を強めれば長くて3、4年といったところであろう。1、2年内の政権瓦解もありうる。 中国もその辺りはよく分かっているが、問題はその先である。北朝鮮が混乱状態に陥った場合のデメリットに悩んでいると読める。 特に神経をすり減らしているのが、南シナ海問題で対立した米国の出方である。金正恩政権崩壊につけこんで米国の影響力が北朝鮮にまで及ぶのを恐れているのである。日本のMD網と連動しかねないTHAAD配備を、その前兆と捉えているのであろう。 尖閣領域に事実上の軍船を連日送り込み、日本を挑発しているのも、米国の出方を探るところに真の狙いがあると見られる。 |
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ラオスの首都ビエンチャンで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議は25日に共同声明を発表したが、日本が目指した南シナ海判決に触れなかった。
他方、韓国が目指した北朝鮮核・ミサイル問題に関しては、北朝鮮の第4回核実験、一連の弾道ミサイル実験などが国連安保理決議違反の挑発行為であると非難し、朝鮮半島の非核化を支持し、6ヶ国協議開催を求めた。 ほぼ私が(上)で指摘したシナリオに沿った結果である。一見して無関係のこの2つは外交的に密接に連動しており、THAAD問題とも関連している。 ビエンチャンには韓国、日本、中国、米国に加えて北朝鮮の外相が馳せ参じ、熾烈な外交戦を演じた。 南シナ海判決の扱いを巡り、王毅外相が精力的にASEAN諸国外相と会談する多数派工作を活発に繰り広げ、日本の岸田外相がそれに対抗する綱引きを繰り広げていた。だが、韓国の尹・ビョンセ外相は同判決には合同会議でもASEAN外相との個別会談でも一言も触れず、北朝鮮核・ミサイル問題に集中した。 共同声明には結果的に、韓国の意向が強く反映されたものとなった。日米韓連繋をベースに判決を盛り込み、中国包囲網を築こうとした日本には全くの期待外れのものとなったが、そこに現下の東アジア情勢の特徴が凝縮されている。 今日(26日)開かれたASEAN+3(韓日中)外相会議冒頭でチョッとした場面が撮られ、外交雀が騒いだ。 やや遅れて入って来た王外相が尹外相には軽く会釈しただけで通り過ぎ、隣の岸田外相とだけ握手したのである。 韓国を無視し、日本に接近して孤立を図っているとの解釈が一部メデイイアに出ているが、早とちりである。 その2日前、韓中外相会談が持たれ、THAADを巡って意見を交わした。内外報道は決裂と報じた。前述の無視説もそこから来る曲解であるが、これも読みが浅い。 王外相が配備に強硬に反対し、尹外相が「北の核に対抗するもので、中国を狙ったものではない」と従来の韓国政府の立場を伝え、意見は平行線を辿った。双方が声を荒げる局面もあったが、決裂ではなく、今後の交渉に余地を残した。 すなわち、THAADは北朝鮮の核ミサイルの脅威がなくなれば必要ない、北朝鮮が核・ミサイル開発をする経済的な余力がなくなるまで制裁を強めればTHAADは配備しないと韓国側が求め、中国側が対応に苦慮していると読めるのである。 朴槿恵政権は表向き、THAADが対中国への外交カードと述べたことはない。中国に露骨に圧力を掛けて中国のメンツを潰すと逆効果になる、と理解しているからである。 常設仲裁裁判所判決が対中包囲網を築くチャンスといきり立ち、「域外国が余計な口出しをするな」(王外相)と反発された日本と対照的である。 習近平主席と6回の会談を重ね、中国を知り尽くしている朴槿恵大統領は、高度な搦め手を使っている。 (上)でも述べたが、13日に大統領府の金寛鎮安保室長が国会での質疑応答で「北の核の脅威がなくなればTHAADはたとえ配備しても撤収する」と初めて言及したのも、配備は北朝鮮の核問題の進展次第と中国にメッセージを送ったものであることは言うまでもなかろう。 その一方で、ASEANでは南シナ海判決問題に一切触れず、中国に貸しを作って譲歩を迫り、一定の成果をあげた。大国の目の色をうかがうかつての韓国外交では見られなかった心憎いまでの芸当である。 韓国の野党要人にはそれが読めない人物が少なくない。大手紙も大国相手に堂々の外交戦をしている自国に自信が持てず的外れの大騒ぎをしているが、いよいよ正念場であり、もう少し冷静になるべきであろう。 中国も韓国の意図は熟知している。 王外相はビエンチャンに入るやいなや経済支援を臭わせた猛烈な外交攻勢をかけ、共同声明が南シナ海判決に触れることを阻止し、日本の狙いを封じた。 また、北朝鮮の李容浩外相との会談では核・ミサイル開発に警告し、国連安保理制裁決議を履行することを伝えた。 李外相は共同声明に核・ミサイル問題が触れられないようにと中国の影響力行使を求めたが、拒否され、かつての友好国である議長国ラオスからも袖にされ、国際的な孤立を改めて印象づけた。 北朝鮮に第5回核実験の動きが見られるが、もはや姑息な核恐喝外交が通じる状況ではない。金正恩政権がそれを強行したら、中国はいよいよ腹を決めるだろう。 中国としては北朝鮮への制裁強化でTHAAD配備が阻止されれば、それに越したことはないが、韓国の背後にいる米国の影響力が強まることは極力、避けたい。 ASEAN+3外相会合冒頭でのハプニングには王外相の困惑ぶりが出ている。仲裁裁判所判決問題は峠を越し、次の焦点はTHAADだ。日本を出汁にし、今度は韓国を揺さぶろうといったところか。 9月のG20首脳会合での朴槿恵・習近平会談で踏み込んだ議論が交わされることになろう。 メッキリと影が薄くなったのが米国である。ケリー国務長官もビエンチャンにいたが、ほとんど存在感を発揮することが出来なかった。 クリントンかトランプかと大統領選の行方が政局の中心となり、オバマ政権の外交力は大きく低下している。 安倍政権は依然として対中包囲網構築にこだわり、米豪との連携強化と声をあげているが、日本が突出し、中国との対立が尖鋭化するだけである。 頼みの米国は大統領選の結果次第であるが、米社会は全体として内向きになっており、梯子を外される可能性もある。 AIIBなど中国の対外的な経済膨張に対抗して合意を急いだTPPにトランプ候補は明確に反対している。クリントン候補も見直しを表明しており、当選に不可欠な強力な援軍であるサンダース上院議員も民主党大会でTPP反対をぶちあげており、TPPは風前の灯である。 ASEAN諸国もそうした流れを感じ取って親中へと舵を切ったのである。 比重を置きすぎた米国が揺らぎ、安倍外交は漂流し始めた。 |





