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ハーグの常設仲裁裁判所が12日、中国と周辺国が領有権を争う南シナ海問題で判決を出した。
だが、2013年に提訴したフィリピンが政権交代で新大統領が対話による解決を主張し、判決遵守を声高に主張する日本と判決に反発する中国との対立だけが際立つ皮肉な事態となっている。 判決の骨子は、1中国が主張する9段線には法的根拠がない、2中国が岩礁を埋め立てた7の人工島は島ではなく、排他的経済水域や大陸棚の権利を主張できない、3南沙海域に法的な意味での島はないといったものである。 上訴はなく判決は確定するが、強制的に履行する手段はない。 中国は判決後、「中国国内法と国連海洋法条約に基づき、南シナ海の島嶼に領海、排他的経済水域、大陸棚を有する」との声明を出し、判決受け入れを拒否した。 今後も実効支配を強める構えを崩していない。 他方、排他的経済水域を侵害されていると訴えたフィリピンの新外相は判決を「尊重する」と述べるに止め、ドウテルテ大統領が対話による解決の意向を示している。 中国は裁判ではなく二国間交渉を以前から示しており、新政権は共同資源調査に応じるとの見方も出ている。国内での鉄道建設支援を受ける見返りに、柔軟姿勢に転じる可能性も指摘されている。 現局面の特徴は、モンゴルで15日に開催したアジア欧州会議首脳会合での日中の立ち位置にそのまま現れている。 日本側の要請で安倍・李克強会談が約35分持たれ、双方が主張をぶつけた。安倍首相は判決受け入れを求め「我が国は法の支配の下で紛争を平和的に解決する」と主張したが、新華社によると李首相は「日本は南シナ海と関係ない。煽り立てたり、干渉したりするべきでない」といなし、物別れとなった。 安倍首相は9月の杭州でのG20首脳会合を控え、中国が強硬姿勢を変えると判断して会談に臨んだと伝えられるが、狙いは見事に外れた。 十分に予想されたことであった。 中国は判決を認めないとの立場を崩さず、李首相はラオス、カンボジア、ロシア首脳らとの会談を重ねて支持を取り付けていたからである。 他方の安倍首相はフィリピン外相と会談したものの、逆に「冷静な対応」を求められ、中国批判を引き出すことは出来なかった。 それもそのはず、フィリピンを含む東南アジア諸国連合は経済的結び付きの強い中国と個別の問題で対立することは望んでいない。ブレグジット対策で手一杯のドイツなどEU諸国は関わりたくないとの姿勢がありありであった。 安倍首相が密かに期待した韓国の朴槿恵大統領も、EU首脳、ラオス、ベトナム首脳らと相次いで会談したが、経済協力強化や北朝鮮核問題が議題となり、仲裁裁判所判決には一言も触れていない。 それもそのはず、中国が対北制裁強度を一段と高めるように促すことを外交の軸に置いており、それと関連し、THAAD配備問題も大きな山場に来ている。 すなわち、朴大統領のブレーンである金寛鎮大統領安保室長が13日の国会質疑で与党議員の質問に答える形で「(中国が反対する)THAADは北核の脅威が除去されれば撤去される」と初めて公式に認めている。 高度な外交的政治的判断であり、今までは伏されていたが、分かりやすく翻訳すれば、中国が北朝鮮への圧力を高め、金正恩政権が核を持てなくなれば配備せず、仮に配備しても撤去する、となる。 中国との水面下の駆引きが微妙な段階に来ている今、朴槿恵政権としては南シナ海問題で中国を無用に刺激することは得策でないと判断している。 現に、韓国政府は判決について一言も論評していない。今回の首脳会合でも、朴大統領は夕食会で隣席となった安倍首相と会話を交わしたが、判決については全く触れなかった。 なお、一部日本のメデイアが、14日にハワイで開かれた韓日米外務次官協議で今回の判決に関し「法的拘束力を持つとの認識で一致」と報じたが、正確でない。韓国の連合ニュースは「温度差があった」と報じている。 こう見ると、安倍首相は勇み足をし、浮き上がってしまった感すらある。 判決は日中対立を際立たせる結果となっている。 |
東アジア国際関係論
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ブレグジット(英国のEU離脱)が全世界に衝撃を与えているが、議論が散漫で事態の本質に迫るものが見受けられない。
あるいは事態があまりにも深刻なために本質論を避けているのかもしれないが、ポスト冷戦体制が終焉を迎えている事実は隠しようもない。 私は昨年暮れに出した『二人のプリンスと中国共産党』の第5章1「EU、夢の実験 スープラ・ナショナリズムの限界」で「キャメロン首相は総選挙の劣勢挽回のためにEU離脱の賛否を問う国民投票を公約したが、格差拡大問題に明確な処方箋を出さない限り、自分の首を絞めることになる」というようなことを書いたが、予測した最悪の結果となった。 国民投票結果は僅差で離脱に軍配が上がったが、離脱を主導したジョンソン元ロンドン市長や極右の英国独立党首がいずれも国民保険サービスの財源を巡る重要な公約に偽りがあると批判され、身を引かざるを得なくなった事実が端的に物語るように、これといった成算があるわけではない。 離脱しても地獄、残留しても地獄、つまり、英国は完全に行き詰まり、解体の危機に直面している。 このことは単に英国だけの問題ではなく、英国が重要な役割を担っていたポスト冷戦体制が綻び始めていることを物語る。 さらに言えば、イギリスを発祥の地とし、アダム・スミスが『国富論』でその原理を説いた資本主義そのものが構造的な危機に直面していることを意味する。 当初は少数派と見られていた離脱派が多数派になった直接の要因は、シリアをはじめとする中東からの難民が百万を超える単位で激増し、EU域内の「人の移動の自由」を定めたシュンゲン協定を揺るがせたことである。同協定は物、サービスの移動の自由と相まって共同市場を形成するEUの大原則と成っている。 ところが、陸路でギリシャに殺到した難民の受け入れを中東欧諸国が拒否し、英仏独主要国でも反対の声が高まり、EUの内部矛盾が露になる。 EU域内ではある時期から貧富の格差拡大が年毎に深刻化し、移民問題がそれに拍車をかけていた。移民の流入で労働者の実質賃金が低下し、社会福祉環境が悪化させたのである。 それが顕著であったのが英仏独など西洋諸国である。 旧社会主義圏であったポーランド、ハンガリーなど中東欧から流入した移民は当初は低廉な労働力として人手不足を補い、企業を潤わせたが、次第に労働者一般の賃金低下とリストラをもたらす。 加えて、財政難に陥っている政府は社会福祉関連予算の削減に乗り出したため、無償の教育・医療、各世帯一戸の充実した住宅施策など世界が羨ましがった高度福祉システムが崩れていく。 それと共に、ロンドン、パリ、ベルリンにホームレスの姿が目につくようになった。 しかし、人々の目には「移民のために仕事が奪われ、住宅が不足し、医療や教育サービスが低下した」と映りやすい。 反移民感情が高まり、扇情的なデマゴーグが飛び交い、紳士の国と言われた英国で下品なヘイトクライムが横行する。 日本でも在日へのヘイトスピーチが問題化しているが、残念なことに、人には本質的な問題を探る努力を怠り、安易に、弱いものに責任を押し付けて憂さを晴らそうとする悲しい性がある。 それに反発した一部の青年たちがイスラム過激派に走ってテロに訴え、それがさらに反移民感情を高め、悪魔の連鎖に陥っているかに見える。 そうした内部矛盾に火を付けたのが大量に押し寄せる難民であり、EU全体が半パニック状態と言っても過言ではない。 英国の国民投票はその象徴であるが、英一国にとどまらず、近代をリードしてきたヨーロッパが存在意義を問われる重大な危機に直面していると言わねばならない。 それは世界史的な問題であり、第一義的にはポスト冷戦体制にノーを突き付けているが、不確実性を増す今後の世界情勢は中国の存在抜きに展望することは難しい。 今回のブレグジットはEU金融危機を引き起こしたギリシャ債務破綻問題の時点である程度予測されたことで、私も前掲書で指摘したことである。そのギリシャのチプラス首相が訪中し、4日、李克強首相との会談で同国最大のピレウス港を国営中国海運大手企業に売却する案件が議会を通過したと伝えたが、中国のしたたかな「一帯一路」戦略がまた一歩前進したことを意味する。 周知のように、英国は中国初のアジアインフラ投資銀行(AIIB)にG7で先頭を切って参加し、習近平主席は昨年の訪英で「両国史上最高の蜜月時代」を英女王らと約束し、ロンドンのシテイーで人民元決済を始めることも決めてキャメロン首相を喜ばせた。 ブレグジットを織り込んでいたとも考えられる。 |
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アベノミクスに期待してきた人にはひっくり返るような衝撃であろうが、日韓の一人当たりGDPが2、3年内に逆転するのがほぼ確実となってきた。
経済成長率の差もある。だが、意外と見逃されているが、安倍政権3年の円安誘導のいわゆる量的緩和なる金融政策により、ドルベースの日本のGDPが急速に縮小したことが大きい。 統計数字を見れば一目瞭然である。安倍政権が誕生した2012年の日本の一人当GDPは4万6704ドルであったが、2015年には3万2485ドル。実に、1万4000ドル以上、30・5%も急減している。 他方の韓国は同期、2万4156ドルから2万7195ドルへと、3215ドル、11・6%増大している。 両国の差はグッと縮まり、経済成長率で上回る韓国が日本を逆転するのは時間の問題となっている。 すでに物価を考慮した購買力平価換算では、2015年に日本3万8054ドル、韓国3万6511ドルと肉薄し、2016年にも逆転する勢いである。 落ち込んでいる日本の消費を支えているのが昨年2000万を突破した外国人観光客であることは周知のことであるが、その過半数が中国、韓国、台湾からなのは偶然ではない。今後ともそうした傾向が強まろう。 2015年のGDPは、中国11兆ドル、日本4・1兆ドル、韓国1・4兆ドルとなる。中国のGDPは日本の2・7倍になるが、一人当ではまだ8000ドル台に止まる。そうとはいえ、上海など沿岸都市部のレベルは日韓に急速に迫っており、いわゆる爆買の背景となっている。 経済的な地殻変動が東アジアで急速に進展しており、その影響は経済から文化、政治まで広範囲に及んでいる。 留意すべきは、そうした現実を踏まえない議論はほとんど無意味と化していることである。 この辺が過日の講演で一番受けたが、無意味に張り合う反日、反韓、反中など戯画に等しい。3国の経済的相互依存関係は急速に進んでおり、感情的に対立することは互いに不利益しかもたらさない。 韓国、中国の経済力が高まり、日本と均衡することは、相互の水平分業化を促し、地域経済圏を安定的に形成していく上で不可欠の客観的な条件となる。 その過程で独島(竹島)、尖閣諸島(釣魚島)などの問題でも、領有権に偏って目くじらを立てて争うことなく、冷静に、共同開発の実利を優先する成熟した関係を築き上げていくことができよう。 領土紛争は本質的に、西洋帝国主義が地域に覇権争奪戦を持ち込んだ近代以前にはなかった一時的な現象に過ぎない。一部で抜いたとか、抜かれたとか、肘突き合う騒音も聞かれるが、大局が見えない過渡期の小児病と考えれば頭も痛くなくなる。 重要なことは、大して広くもない欧州で多数の国が分立し、地みどろの領土争いを繰り返してきた西洋流の旧い主権観念や国家至上主義的価値観に煩わされることなく、庶民目線の東アジア観を構築することである。 地域の庶民同士が互いの存在を直に意識すれば、自ずと隣国の生活向上を素直に喜び、チャンスととらえ、経済交流から文化交流へと多面的に拡大していく。 現実は既にそうなりつつあるが、賞味期限の過ぎた旧国家観に憑かれた政治家の意識がなかなか付いていけず、無用な摩擦を引き起こしているのが眼下の最大の障害である。 言うまでもなく、東アジアで最も早く近代化(西洋化)を成し遂げ、その意味で経験値が高く成熟しているのが日本である。 本来なら日本が地域統合のイニシアチブを取るべきところであるが、残念ながらそうなっていない。朴槿恵大統領には「ユーラシア平和構想」、習近平主席には「一路一帯」はあるが、安倍首相の頭には「強い日本復活」しかない。 日本の政治指導者だけが内向きになっているのは、奇妙で不幸なことである。 最近、報道の自由ランキングで日本が韓国より下の72位まで急落していることが物議を醸している。本来なら地域をリードすべき日本が安倍政権になってから以前の11位から急落している笑えない事実は、地域全体の不幸にほかならない。 |
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北朝鮮が7日に事実上の長距離弾道ミサイルを打ち上げたが、予想されたことであり、それ自体は驚くことでもない。2013年の第3次核実験でも直前に長距離弾道ミサイルを打ち上げており、両者は一体となった核・ミサイル開発計画である。
問題は、それを効果的、効率的に阻止できないことにある。 北朝鮮の核・ミサイル実験は金正恩政権誕生後、経済悪化と政権基盤の弱体化と比例するように無軌道化しているが、それなりの算段はしている。 韓米日と中国の足並みが揃わないことを見越し、揺さぶる。あわよくば、米中対立につけこんで対米直接交渉に持ち込もうというものである。 そこで浮上してくるのが、韓国の役割である。 朴槿恵大統領はオバマ大統領とも習近平主席とも数回の首脳会談を重ねて個人的な信頼関係を築いている。このような例は他に見られない。 米中関係が何かとギクシャクする中、オバマ大統領にとっても習主席にとっても、朴大統領は相互の橋渡しが出来る貴重な存在である。 無論、朴大統領としても自己の存在感を高め、バランサーとしての首脳外交手腕をふるう好機となる。 一部に二股外交と揶揄する声があるが、下衆のやっかみ、嫉妬の類いでしかない。 これまで対北朝鮮外交で朴槿恵イニシアチブは目覚ましい成果を挙げた。 多言を弄さずとも、習主席と6回に渡り相互訪問の会談を重ね、一度も習主席と会っていない金正恩第1書記と決定的な差をつけてきた事実一つで十分である。 その真価が問われるのが、今回の事態である。 一連の核・ミサイル実験騒動は本質的にはそれほど複雑なものではなく、追い詰められた金正恩政権が伸るか反るかの最後の大博打に出た。「対米戦全面的勝利」の名分を掲げた国威発揚で体制固めを狙うが、外交不在で全く展望が立たない。一言でくくれば、暴走の類である。 暴走を阻止する手立てがないわけではない。戦略戦術の基本であるが、糧道を断つことである。原油の大半、食糧の不足分を頼る中国との貿易を止めれば、暴走しようにも出来なくなる。 それを最も熟知しているのが、当の中国である。逆に言えば、それだけに制裁には慎重にならざるをえない。 北京に比較的近い地政学上の要衝である北朝鮮がシリア化することは、避けねばならないのである。 そうした問題意識は韓国、米国も共有しており、金正日政権時代と根本的に異なる点である。 北朝鮮の核・ミサイル問題は金正恩政権の存続、処遇という新たな次元に入っていると言えよう。 国連安保理での対北朝鮮制裁の隠れたポイントはそこにあり、韓国を挟んで中国、米国がギリギリの折衝をしているのが実情である。 習主席がオバマ大統領、朴槿恵大統領に直接電話を入れ(5日)、それに先立って武大偉6ヵ国協議議長がピョンヤンに入った動きを注意深く追ってみれば、朴槿恵外交が重要な役割を担っていることが容易に読み取れよう。 国連安保理の北朝鮮制裁の内容は事実上、韓米中首脳の間で煮詰められていると言っても過言ではない。 朴大統領はTHAADをカードに、韓国配備を求める米国にブレーキをかける一方、中国に対しては効果的な制裁措置に踏み切る圧力をかける芸当まで見せている。米ソ冷戦時代の金日成外交を彷彿させる。 だが、個別の事象にバタバタと目を奪われると見えるものも見えなくなる。 例えば、今日の朝日新聞3面の「国際社会止められず 韓国、中国の協力導けず」では、朴槿恵大統領が1月13日の記者会見で「中国の役割が重要だ」と発言したことに「韓国政府関係者は『中国は公の発言を極度に嫌う。発言は失敗だった』と語る」と書かれている。「別の韓国政府関係者は『カードを切る順番を間違えた。中国を怒らせてから、5者(協議)を提案しても意味がない』と語る」との記述もある。 記事自体は表層的に個別事象を追っただけの他愛のないものだが、「韓国政府関係者」の不用意な発言がそこそこの信憑性を付与し、結果的に誤解を撒いている。 日米の政府関係者が政府の方針を否定したり、批判する発言を引用する記事を見かけないだけに、異様なものを覚えたのは私だけではあるまい。 特に1月13日の朴槿恵大統領の発言はTHAAD配置に初めて言及する微妙な内容を含むだけに、「失敗」と断じた「政府関係者」は無責任の極みである。 「韓国政府関係者」が政府の方針に反し、曲解させる発言をするのは、国家公務員の守秘義務に反するばかりか、重要局面に差し掛かった外交の揚げ足をとることになりかねない。 金第1書記が読んだらほくそ笑むことであろう。 金正恩政権が核を放棄し、改革開放に向かうように圧力をかけ、誘導するのがベターな制裁であるが、事態は予断を許さない。心理戦、情報戦の様相を帯び、一歩間違えば平和か戦争かの重大局面に陥る。 政府が一丸となって行動すべき時だけに、一部の「韓国政府関係者」の気の弛みが放置されてはならない。 |
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北朝鮮に対する国連安保理制裁決議案を巡って韓国を挟んだ米中の駆け引きが水面下で熾烈に繰り広げられているが、状況は、パワー米国連大使が1月27日に述べた以下の言葉に集約されている。
「信じがたいほど複雑な議論をしている。交渉を急ぐ必要はあるが、決議の内容を犠牲にするつもりはない。」 米国としては、金正恩政権に核放棄させる実効性ある制裁を科したい。 他方の中国としては、金正恩政権が崩壊し、千余キロの国境を接する北朝鮮が中東のように混乱する最悪の事態は避けたい。 その調整役を担うのが、韓国である。米中共に強い関心を示すTHAADカードをちらつかせながら、米中から譲歩を引き出し、来るべき南北統一政策へと繋げようとあらゆる外交努力を傾けている。 北朝鮮はと言えば、事実上のICBMである大型ロケット打上を示唆しながら牽制するが、外交不在のため、守勢に追い込まれざるをえない。 パワー米国連大使の発言は、同月27日のケリー国務長官と王毅外相との会談が不調に終わったのを受けてのことである。 ケリー長官は北朝鮮への原油輸出禁止や石炭など鉱物資源の輸入禁止、北朝鮮の金融機関の中国国内での取引規制、高麗航空の乗り入れ禁止などを制裁に含めるように求めた。 これに対して中国側は「北朝鮮人民の生活に甚大な影響を与える」と異議を唱え、核開発計画を抑止する制裁に絞ることを主張し、平行線をたどった。 要するに、米側は兵糧を絶って金正恩体制を瓦解に追い込むことを視野に入れているが、対する中国側は地域を不安定化させる事態は極力避けたいと判断している。 そのギャップが埋まらず、2月7〜13日の春節以降に結論を出すと中国側が押し切ったが、米側は収まらない。 米中外相会談3日後の同月30日、横須賀を母港とする米海軍イージス艦が中国が実効支配する西沙諸島の中建島(トリトン島)から12カイリ内を「無害通行」したと米国防総省が明らかにした。 すると即日、中国国防部が「重大な違法行為」と非難する談話を発表した。 北京での米中外相会談の幕裏が赤裸々に浮かび上がってくる。会談後の会見で双方は南シナ海問題で一歩も譲らず火花を散らしたが、それが西沙諸島に飛び火したにほかならない。 すなわち、北朝鮮制裁問題の背後で、米中は東アジアの全般的な覇権を巡って激しい綱引きをしているのである。 それだけ事態は複雑化しているということであり、米中と良好な関係を保っている韓国の立ち位置は微妙にならざるをえない。 朴槿恵大統領が米国とのミサイル防衛に参加するとしながら、中国が反対するTHAADに依然として慎重な姿勢を崩さないのはそのためである。 金正恩政権が核・ミサイル開発の意思を露にした以上、韓国がその脅威を取り除こうとするのは国防政策上、当然のことともいえる。 金正恩第1書記がいくら米国との平和協定締結のためと言い張っても、相手は傍若無人な振る舞いと警戒を強める。現に、韓国では世論調査で7割の人が韓国も核武装して対抗すべきと答えており、与党院内代表までが公然と声をあげている。 朴槿恵大統領としては、核武装以外の有効な対抗手段を考えなければ国民を納得させられない。 いかなる強行手段をもってしても、北朝鮮が核を小型化し、現実的な脅威となる前に除去しなければならないと考えていよう。 核先制攻撃を想定した拡大抑止戦略の強化はその表れであり、B52、米原子力空母、F22など核装備した戦略資産を米国から次々と導入している。ピョンヤン進攻まで想定していることが以前と決定的に異なる。 それと並行して、金正恩政権を内から揺さぶる制裁圧力を極限まで高めようとしているのである。 金正恩政権が進んで核放棄すれば対話するとの余地を残すが、これ以上の核開発は許さないとの不退転の決意がうかがえる。 中国としては、目と鼻の先に米国の戦略資産(核兵器)が持ち込まれることに安閑としてはいられない。 それでもあからさまな非難を差し控えているのは、韓国との良好な関係を維持したいからである。中国経済の安定成長への転換と発足間もないAIIBを軌道に乗せるために韓国の協力は欠かせない。 朴槿恵大統領はそうした習近平主席の腹の内を読み、THAAD配置を示唆するメッセージを送った。 その心は、実効性ある対北朝鮮制裁に加わることを強く促すことにある。韓米間は言うに及ばず、韓中間でもすでに非公式ながらポスト金正恩構想が交わされているとの見方も十分にできる。 金正恩政権内部には、中国を敵に回しても米国と接近すればどうにかなると、いわば肉を切らせて骨を断つ冒険論もあるようであるが、米国との外交的チャンネルが断絶している状況では一方的な思い込み、妄想にひとしい。 何よりも、経済的に相互依存している米中の対立は新型大国関係構築上の、どちらが世界秩序再構築に主導権を持つかという各論的な問題である。小国の北朝鮮が割って入れる次元を超えているのである。 同じことは、尖閣や歴史認識問題で中国と対立する安倍政権にも言えよう。 |





