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朴大統領が北朝鮮を除く5ヵ国協議を提唱したのは、5ヵ国が北朝鮮非核化で足並みを揃えて圧力を一段と強化しようというものである。
それと同時に「総体的なアプローチ」を強調しているのは、人権問題等も絡め、金正恩政権への揺さぶりを視野に入れていることを物語る。 さる1月6日の第4次核実験について韓国政府は、水素爆弾ではなく、第3次と同じ核分裂爆弾と断定し、米日政府も同様の見解を示している。金正恩政権が水素爆弾成功と喧伝するのは、1つには米国を対話の席に引っ張り出そうとするプラフであり、もう1つは国内の士気高揚と体制固め、との見方で大方一致している。 ハッキリしたのは、金正恩政権に進んで核を廃棄する意思がなく、放置すれば「最後の聖戦勝利」と韓国に対する軍事的な冒険に走る危険性が高まることである。 それを踏まえ、金正恩政権を核を放棄せざるを得ない状況に追い込む。朴大統領は「核開発が無意味であることを悟らせ、イランのように国際社会に出てくるような効果的な措置を講じる」と述べ、急遽、イラン訪問を予定に入れるほど前のめりになっている。 無論、核疑惑段階のイランと既に核実験を繰り返している北朝鮮を同列視出来ない。 しかし、イランが経済制裁に音を上げ、不承不承ながら核廃棄に応じた前例は十分に教訓となろう。 しかも、産油国であるイランと異なり、北朝鮮は原油の大半を中国に頼っている。食糧など戦略物資も含めた貿易の9割を中国に依存する構造的な脆弱性を秘めている。 中国が対北朝鮮交易を止めれば、北朝鮮経済は忽ちたち行かなくなり、金正恩政権も持たない。 朴槿恵政権がそこに目を付けるのは戦略上、当然とも言える。 逆に見れば、金正恩政権はその強気の言葉と裏腹に、自己の命運を中国に預けたも同然であり、その意味で第4次核実験は一か八かの大博打と言えよう。 中国と米国の覇権争いを見越したとの見方を朝鮮新報が論評で示しているが、朝中関係が冷却し、首脳外交盛んな韓中関係に大きく立ち後れた現状では楽観的に過ぎる。 5ヵ国協議への中国側の姿勢は、現時点では否定的である。6ヵ国協議議長国としての体面もあるが、それ以上に、対米戦略的な思惑がある。 事実、北朝鮮の第4次核実験後の中国の動きは鈍かった。朴槿恵大統領の電話に習近平主席は応じず、韓国との国防部間のホットラインも機能しなかった。性急な韓国マスコミには対米外交失敗説まで飛び交ったが、問題はそれほど単純ではない。 業を煮やした朴槿恵大統領は13日の国民向け談話で「北に応分の代価を払わせなければならない」と強調し、中国が神経を尖らす高々度防衛ミサイル(THAAD)に初めて公の場で言及した。 その直後の15日、ソウルで開催された韓中国防政策実務会議に参加した中国の関友飛国防部外事弁公室主任が国連での対北朝鮮制裁決議に加わることを表明した。他方で朝鮮半島の安定を強調し、「韓国と多方面で協議」すると付け加えた。 虚々実々の外交的な駆け引きから読めるのは、中国は北朝鮮の核廃棄に異論はないが、米日韓連携に基づく有志国連合の形で制裁に加わることには警戒的であり、従来から主張している国連中心主義で事態に対応しようとしていることである。 朴槿恵大統領がTHAAD配置を匂わせて習主席を動かした結果となったが、少し前までは考えられなかったことである。 6回も会談を重ねて信頼関係を築き、お互いの胸の内が分かっているからこそ可能な駆け引きと言える。 韓国が隣国の大国中国に圧力をかけ、動かした歴史的な出来事であった。 翻って、金正恩第1書記にはその種の高度な首脳外交が出来ない。 相手がどう反応するか全く読めず、また読もうともしないから、無用に怒りを買い、孤立を深め、自分で自分の首を絞めることになる。 |
東アジア国際関係論
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韓国政府は22日、韓国軍と米軍の艦艇や航空機がレーダーやソナーなどで得たリアル情報を共有するシステム「リンク16」を導入する方針を固めた。米軍と自衛隊は既に運用しており、事実上、3国間のミサイル防衛(MD)体制が出現する。
これまで韓国は中国に配慮して導入を控えてきたが、北朝鮮の4度目の核実験を受けて方針を変更した。 中国の反発は必至だが、それを承知で韓国政府が「リンク16」導入に踏み切るのはある狙いが秘められている。 韓国のマスコミ報道にここ数日、ある変化が現れている。 「中国に対する圧力強化」との見出しとともに、朴槿恵大統領が新たに北朝鮮を除いた5ヵ国協議開催を求めていることを事細かに報じているのである。 少し前まではアジアインフラ投資銀行(AIIB)や韓中FTA批准などへの期待感が先行し、最大の貿易相手国である中国への批判がましい論調はほとんど見られなかっただけに、注目すべき変化と言うべきである。 二言するまでもなく、北朝鮮の“水素爆弾実験”以後の異変である。 |
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“日本がアジア第一”と頑張るナショナリストは認めたがらないが、上海株下落に引きずられた東京株式市場の暴落は新しい現実を示している。
中国がくしゃみをすれば日本は風邪をひく、いや、肺炎になりかねない。 日本の株式市場は構造的な弱点を露呈した危機的な事態に直面していると言うべきであろう。 日経平均株価は8日の時点で5日連続下落したが、1949年の東京証券市場開設以来という。 年初の珍事と見る向きもあったが、下落は止まらず、14日には1万7000円を割り込んだ。昨年9月29日以来3ヶ月半ぶりの安値だが、深刻なのは下落率が先月30日から9・4%と、米英韓など先進国の株式市場よりもはるかに落ち込み幅が大きいことである。 マイナス成長が続くブラジルの10・2%に続くというから、投資家の間で日本経済の先行きに対する不安が急速に広がっているのは無理からぬことである。 原因として新聞各紙が挙げているのは、中国経済の減速、原油安による産油国の財政悪化であるが、これだけでは漠然として先が見通せない。 一体、何が起きているのか? 今日発売のライバル週刊誌がトップ記事で「日本経済大暴落のXデーは3・16」、「爆騰する日本株 これからが本番だ」と正反対の予測をしている。 それだけ不安定で先行き不透明ということであるが、いずれにしても日本の株式市場売買の6、7割を占める外国人投資家の胸三寸で決まる。株高をアベノミクスの最大の成果としている安倍首相も、参院選を控え、気が気ではあるまい。 結論から言えば、外国人投資家が目を凝らしている上海株の動き、つまり、中国経済次第である。 正式の発表は19日であるが、昨年の中国の実質経済成長率は6%台と見込まれている。目標の7%に届かないことが減速、成長鈍化と先行きへの悲観論を投資家の間にドミノ的に呼び起こし、上海発の世界的な株安へと繋がった。 かつてなかった現象であり、逆に見れば、IFMが数年内に米国を抜くと予想する世界第2位の中国経済の存在感をまざまざと示したと言える。 中国の台頭に危機感を募らせる日本では、中国経済はマイナス成長、果ては崩壊寸前といった極端な憶測が飛び交っているが、無論、事実無根である。 中国経済が目標よりも0・数%低いと見込まれるだけで日経平均株価が異常な値下がりをしているくらいだから、万が一にも中国経済がマイナス成長にでも落ち込んだら、それこそ東京証券市場は大暴落し、日本企業各社の株は紙屑同然となりかねない。 無邪気な中国経済崩壊論者は、日本経済がすでに中国経済に大きく依存している、いわば一蓮托生の関係にある事に全く気付いていないのである。 「石平の勘違い“習近平政権崩壊論”が持て囃される理由」でも指摘したように、一部マスコミが喧伝する中国崩壊論は石平氏ら「思想難民」を利用した反中プロパガンダであって、客観的な分析ではない。隣の巨人を見誤り、日本の進路を誤らせる暴論である。 マクロ数字を見れば明らかであるが、中国のGDPはとうに日本の2倍を超え、3倍に達しつつあり、構造的にも密接に繋がっている。 1990年初の日本の株・土地バブル、2008年のリーマンショックが端的に物語るように、株価は基本的にはマネーゲームであり、実体経済と乖離する場合が少なくない。 その意味で、中国税関が13日発表した2015年の輸出入総額が前年比8・0%減であった事実の方が日本経済の今後を占う上ではるかに重要である。 中国政府は6%前後増と見込んでいただけに、リーマンショックを受けた09年以来の前年割れは実体経済の変調をそのまま示している。 輸出は2・8%減の2・28兆ドルであり、人件費の高騰で国際競争力が低下していることが響いた。 それ以上に落ち込んだのが輸入で、前年比14・1%減となり、世界最大の中国市場に頼る世界経済に甚大な打撃を与えた。原油などの資源国はたちまち資源価格暴落で不況に陥った。 中でも日本は二重の打撃を被った。最大の交易規模の対中輸出は12%も激減し、貿易赤字打開の足掛かりを失ってしまった。中国関連株暴落はその結果である。 さらに、中東産油国の財政が悪化し、オイルマネーを運営する投資ファンドが日本株式市場から資金を引き揚げはじめ、日経平均株価下落に拍車をかけたのである。 以上、中国がくしゃみをすれば日本は風邪か肺炎になりかねない重大な事態であるが、全く希望がないわけではない。 今日、正式に発足するアジアインフラ投資銀行(AIIB)である。 AIIBは2013年10月に東南アジア歴訪中の習近平主席が提唱し、オバマ大統領が「国際金融、貿易秩序の主導権を中国に与えるわけにはいかない」として反対したが、英国がいち早く創立国に手を挙げ、韓国を含む57ヶ国が雪崩式に参加した。 ヨーロッパを含むユーラシア大陸の経済一体化を目指す一帯一路構想と連動し、2020年まで毎年7300億ドルのインフラ投資が見込まれており、波及効果とあわせた経済効果ははかりしれない。 TPPのような未来仮定形ではなく、すでに中国の新疆カシュガルからパキスタンのグワダル港に至る1300キロのカラコルムハイウエーを拡張し、鉄道、パイプラインなどを新設する工事が今年9月完成を目指して進行しているが、地域の経済社会構図を一変させる中パ経済回廊構築にAIIBが弾みを付けている。 中国経済の減速は鉄鋼、セメントなどがダブっている過剰生産が主因であるが、AIIB効果は新たな有効需要を喚起し、習政権が掲げる新状態=安定成長路線を現実のものとするだろう。 それが日本経済を潤すことにもなる。韓国が積極的に参加しているのはAIIB効果を見越してのことであり、昨年暮に韓中FTAを優先批准した狙いもそこにある。韓国の昨年の対中貿易額、投資額は日本を超えている。 しかも、AIIBには経済の域を超えた戦略的な意義がある。 『二人のプリンスと中国共産党』第6章「中国が米国を追い抜くワケ」3「米国の衰退とアジアインフラ投資(AIIB)ショック」で明解に論証しておいたが、オバマ大統領が恐れた「世界金融交易秩序の再編」である。G2である「米中新型大国関係構築」にも繋がる。 その点が日本ではマスコミを含めてまだ十分に理解されていない。米国次期大統領候補らが再交渉で口を揃える秘密合意のTPPなどに経済再生の一僂の望みをかける日本では、投資適格性や国有企業の民営化など局部的な問題を誇張したAIIB失敗説なるものが飛び交っているが、基本的な視点が欠けている。 中国が考える国際金融交易秩序は綻びが生じている従来の枠を超えている。一言で言えば、投資家を儲けさせるものではないということである。 IMFはそれを承知で中国にSDRを与えたが、元が次第にドルにとって代わる中で習近平構想のなんたるかが姿を現してくるだろう。 日本が急台頭する中国に対して不安、喪失感や焦りを覚えるのは理解できる。韓国にも似たような現象が見られる。 しかし、かのトランプ・シンドロームにつかれ、荒唐無稽な反中プロパガンダに流れて外交の進路を誤るようなことがあれば、不幸なことである。 好むと好まざるに関わらず、日本、韓国は中国を中心とした経済圏に組み込まれつつある。文明史上の必然であり、本来のアジア回帰のプロセスなのである。 それにいかに主体的に対応するか、それが問われている。 追:1月8日の『二人のプリンスと中国共産党』出版記念会は盛況であり、「日中関係など現代世界が直面する諸問題を解決するヒントになる」(軍事評論家・小川和久氏)、「前書に引用されている『韓国を強国に変えた男 朴正煕』は朴槿恵政権誕生に一定の影響力を発揮した」(大東文化大学名誉教授・永野慎一郎氏)などと励ましのスピーチをいただいた。 今年も正論をはきつづける決意を固めた。 |
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反中の中国系論客として一部マスコミでもてはやされている石平氏が最新著『習近平にはなぜもう100%未来がないのか』で、「習政権は2017年までに終わる」と断言している。
正反対に私は、同時期に上梓した『二人のプリンスと中国共産党』で「腐敗撲滅運動の本質は市場化で汚染された共産党に本来の前衛の姿を取り戻させる思想純化路線であり、習近平は党、軍をほぼ完全に掌握し、父親ら革命第一世代の夢実現へと着実に向かっている」と書いた。 おりしも習近平総書記に近い劉源解放軍総後勤部政治委員の「退任」情報が流れてきたが、その評価も石平氏と正反対に割れる。果たしてどちらが正しいだろうか? 石平氏の習政権崩壊論は方法論的には局部的な情報を過度に膨らませた、よくある極論の類いであるが、それが持て囃される社会現象が何を意味するのか、同時に考察してみる。 結論から言おう。 石平氏は前掲書で習政権崩壊の理由として、中国経済崩壊、外交的な孤立、権力闘争に破れる等を挙げているが、いずれも部分的な現象を誇張した極論でしかない。 例えば、経済崩壊論では「成長率6・9%は嘘であり、実際はマイナス成長」と断言する。「鉄道などの物流が前年比30%以上、減少」が最大の論拠であるが、全くの食わせものである。 石氏はいわゆる李克強指数を拠り所にしている。李首相が遼寧省トップの2007年に米大使に「中国の統計は信用できない。私は鉄道貨物輸送量、銀行融資残高、電力消費の推移を見ている」(エコノミスト2010年12月9日)と述べたことを指し、3つの指数を加重平均して算出される。 日本の一部メデイアが喧伝する中国経済減速、崩壊論の根拠とされているが、これがそもそもいい加減なのである。 中国の物流の中心はトラックであり、石炭など鉱物資源が半数以上を占めている鉄道は主要な指標足りえない。また、銀行の融資は国営企業中心であり、私的企業がもれている。電力消費量で経済全体を計るのも無理がある。 つまり、石氏の経済崩壊論は統計的に無理がある暴論でしかない。 外交的な孤立というのも、COP21で習主席がオバマ大統領とにこやかに握手を交わし、存在感を放っていた事実が、妄想でしかないことを如実に物語っている。 米中は南シナ海問題で対立したが、経済的には相互依存関係を強めており、その枠内で異論を収束させる「新型大国関係」へと向かっている事はもはや否定できない。 「中国に付き従うのは韓国ぐらい」とあるのは、反中反韓感情に迎合した悪乗りである。 直近の劉源退任説はどうだろうか? 石平氏は「追い込まれた」と自身のツイッターで失脚説を流布しているが、それも全くの誤り、曲解である。 石平氏は「石平太郎」なる自身のツイッターで「習近平に極めて近い劉源総後勤部政治委員が退任することが判明された。突如の退任は・・・どうやら軍における習近平勢力が崩れ始めている様子である」(12月21日13時54分)とツイートした。 さらに「『習近平にはなぜもう100%未来がないのか』において、習近平が軍の掌握はできずにしていずれか崩れるとの観測を立てたが、軍における習近平一番側近の劉源氏が退任に追い込まれたことは、私の観測の正しさを証明してくれている」(同14時01分)と自画自賛している。 退任は事実であるが、失脚と決めつける解釈は主観的に過ぎる。 劉源上将は12月16日に発表した「退任告別の講話(挨拶)」で郭伯雄、徐才厚前軍事委副主席らの腐敗撲滅の成果を改めて強調し、習総書記の軍改革を支援していく決意を述べている。軍内の軍紀確立を統括する軍紀委書記であったことも明らかにされている。 石平氏が指摘するような不穏な動きは一切なく、円満退職である。 劉源は文化大革命で非業の最後を遂げた劉少奇元国家主席の子で、革命第一世代の遺子である紅二代、いわゆる太子党に属する。満65歳となる来年、政治協商会議副主席に栄転するとの見方が香港筋のメデイアから流れている。腐敗問題で失脚した冷計画元党統一戦線部長の後任とされており、信憑性が高い。 退任は「追い込まれた」ものではなく、定年制を率先垂範するものと、むしろ評価されている。 このように、直近の劉源退任問題をみても、石平氏の言う習近平による軍の掌握失敗説が荒唐無稽であり、逆に、私が『二人のプリンスと中国共産党』で見立てた「軍完全掌握」が正しいことを証明している。 経済崩壊や外交的孤立云々とあわせ、石平氏の立論は客観的な事実にそぐわない暴論の類いであるが、問題は、「中国分析の第一人者」、「習近平以後の中国完全分析」などと持ち上げる一部マスコミのはしゃぎぶりにある。 それがネット等で拡散し、反中感情を煽る。さらに、政治に少なからぬ影響を与え、誤った対中政策に結び付いている現状は危ういと言わざるをえない。 事実をねじ曲げた病的ともいえる中国崩壊論は、長期停滞に沈む日本への焦りと台頭する中国への恐れやコンプレックスが入り交じった虚勢の産物でしかない。 新華網(12月1日)によると、中国共産党政治局は先月11月23日に「マルクス主義政治経済学の基本原理と方法論」というテーマで第28回集団学習会を行った。そして、学習会を主宰した習近平総書記が「中国経済発展の実践的な法則的成果を総括し、系統化した経済学説に昇華し、現代中国のマルクス主義政治経済学の新境地を開拓しなければならない」と強調した。 いみじくもこの「新境地」こそ私が前掲書で指摘したものであり、習近平総書記がトウ小平の改革開放政策以来進めてきた「中国の特色ある社会主義」に明確な展望を持ち始めた証左に他ならない。 無論、石平氏の問題意識や立論を全否定するものではない。 文化大革命で大学教員の両親が迫害され、農村に下放されて苦労した生涯、その過程で体験した毛沢東時代の数々の矛盾は傾聴に値するものであり、北朝鮮に渡った私の先輩同輩後輩らと重なる。ソ連社会主義の崩壊に呆然自失した「思想難民」の1人として共感する部分もある。 その挫折をどう乗り越えていくか、違いはそこから来るのだろう。 |
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昨日夕のテレビ朝日番組「池上彰そうだったのか」でさる7日の中台首脳会談を特集するなど、日本でも関心が高まっていることをうかがわせた。
池上氏は毛沢東と蒋介石が抗日で手を組んだ国共合作まで遡って解説していたが、その立役者である張学良と西安事変に触れなかったため、仏つくって魂入れずではないが、視聴者には今一つ習近平・馬英九会談の意義が伝わらなかったようだ。 その辺りは「東北の貴公子」張学良と皇太子裕仁(後の昭和天皇)との会談にまつわる秘話から始まる『二人のプリンスと中国共産党 張作霖の直系孫が語る天皇裕仁、張学良、習近平』を読んでもらうしかないが、一言で要約すれば、国共合作に全人格を賭した張学良の志が現代に蘇った、と言えよう。 そうした地域の歴史的、地政学的な特性を理解していなかったことが、オバマ大統領の失敗の遠因である。 G20、APECやASEAN首脳会合、東アジアサミットに精力的に参加し、南シナ海埋立問題で中国包囲網を作り、あわよくば有志連合を形成して圧力を加えようとしたが、逆に中国の存在感を思い知らされ、米国の限界を印象づけてしまった。 見逃されやすいが、南シナ海問題の隠れたキープレーヤーは台湾である。 埋立問題で脚光を浴びている南沙諸島には第二次大戦後に台湾が一貫して実効支配してきた太平島がある。同諸島最大の島(岩礁ではない)であり、国際法上、その領有国が同海域の主権帰属問題で優先的な発言権を有する。 台湾は中華民国として国連安保理常任理事国の一員であった1947年の地図に太平島が領土と記され、1952年の日華平和条約でも日本が戦時中占領していた新南群島(南沙諸島)と西沙諸島の権利を放棄すると明記されている。そして、1971年の国連脱退後も太平島に灯台や港を築くなどしている。 従って、「中国が1つ」ならば、中国が南沙諸島に主権を主張しても、直ちに国際法違反とはならない。 シンガポールで中台首脳が「1つの中国」を再確認したことは中国に一定の正統性を認めるものであり、ASEAN諸国が国際法違反と声を上げる米国に同調しなかったのもうなづける。 米国は無論、太平島の存在を知らなかった訳ではない。中国は2009年の国連事務総長宛の口上書で南シナ海と海底に主権を有すると主張し、「九段線」をその根拠としたが、それを国際法違反と断じるためには、太平島に対する中国の領有権を封じなければならない。 そのため、蒋介石時代からの緊密な同盟国である台湾に対して「九段線」を否定するように働きかけてきた。 しかし、馬総統は習主席との会談で「1つの中国」を再確認し、結果的に、中国の「九段線」に国際法上の根拠を与えたのである。 米国と対等な「新型大国関係」構築を目指す大国外交に乗り出した習政権には気負いが見られる事は否定できない。「2000年以上活動してきた歴史」(中国外務省声明2014年12月)と南シナ海の領海化を宣言したことが膨張主義と国際社会の批判を浴びている。 だが、中台首脳会談後、明らかに流れが変わりつつある。ASEAN諸国が米国と距離を置き始めたのは、中国の経済的な影響力と相まって中台接近の歴史的な意味を感じ取っているからに他ならない。 来年1月の台湾総統選挙で野党が勝利しても「1つの中国」の約束を覆すことは不可能に近い。馬総統は米国の反対を押して12月に太平島を訪れ、灯台建設完工式に参加する意向を示しており、同海域での中国の発言権は高まるだろう。 他方のオバマ政権は中国の埋立人工島に軍艦や爆撃機を派遣する砲艦外交に打って出たが、思い描いたASEAN+日本有志連合形成に失敗し、中国にも事実上、無視されてしまった。 そもそも国際海洋条約を批准もしていない米国が同条約に基づく「航行の自由」を声高に叫ぶことが、地域の覇権に執着する不純な底意を感じさせるのである。 歴史の浅い米国のオバマ大統領は恐らくそうした歴史的な経緯に詳しくないであろうが、南北戦争で東アジアから撤退した米国が再度この地域に介入したのは、大恐慌の傷が癒えた1930年台からである。 特に、張学良が主導した1936年の西安事変=第2次国共合作後の対日戦争で蒋介石に全面的に肩入れし、日本降伏の伏線を作ったが、国共内戦と蒋介石敗北でうっちゃりを喰らった。 中台首脳会談は第3次国共合作であり、中華5千年の流れである。 南シナ海を巡る米中の確執はあくまでも「米中新型大国関係」への外交的政治的な地均し、いわば各論であり、相互の軍首脳が接触しているように軍事的な全面衝突に発展する事はあり得ない。 米国はIS対策でもロシアの陰に隠れてしまうなど、世界的に存在感が失われつつある。アフガン・イラク戦争以降に露骨化した国連軽視の米主導の有志連合方式が破綻しつつあることの証左である。 習政権は国連重視主義を打ち出し、「米中新型大国関係」もその枠内での新秩序作りと見られるが、その限りにおいて十分に合理性がある。 |







