|
金正恩北朝鮮労働党委員長が演説した20日の党中央委員会全員会議(総会)で、核・ミサイル実験の停止と核実験場の廃棄が決定された。しかし、肝心の核廃棄についてはするともしないとも言及していない。
それに対してトランプ大統領はツイッターで「北朝鮮と世界にとってvery good news」と意味深長なことを呟いた。一定の手応えを感じているとしながらも、記者会見で「首脳会談が開かれないかもしれない。会談途中で席を立つこともある」と、金正恩を牽制することも忘れない。いかにもデイール上手らしく制裁継続と軍事的オプションの可能性を残し、膝詰談判で金正恩を落とそうとの姿勢を崩さない。 総じて北朝鮮核問題は対話を通して平和的に解決する局面に向かっているが、戦争の可能性が消えたわけではない。全ては27日からの南北首脳会談、来月上旬に予定されている米朝首脳会談の内容如何に掛かっており、金正恩が核放棄の具体策を提示しなければ、米韓が軍事行使に踏み切る状況も十分にあり得る。 というのも、金正恩はピョンチャン・オリンピック参加表明で小型化と弾頭化の課題が未解決の核・ミサイル開発の時間稼ぎをしている。少なくともトランプはそう判断しており、米朝首脳会談が不調に終わったら、時間ロスを取り戻す為にも強硬策に回帰するだろう。何の罪もない北朝鮮国民の為に、若い金正恩がその点を見誤らないことを祈るばかりである。 初の首脳会談を控えたトランプと金正恩の前哨戦は激しさを増し、先の米主導のシリア空爆はアサド政権優位のシリア情勢にほとんど影響を与えなかったが、金正恩には十分な警告になった。対北朝鮮強硬派のポンペオCIA長官、ボルトン元国連大使を安保政策の中枢に据えた上での軍事作戦は北朝鮮有事を想定した事実上の予行演習であり、それをベースにしながら戦略兵器を動員する大規模なものとなるだろう。 誰よりも神経質になっているのが、米韓合同軍事演習で斬首作戦のターゲットになっている金正恩である。金正恩の電撃訪中は米国の軍事的圧力に耐えかねた駆け込みと前に書いたが、シリア事態で鮮明になった。怯えた金正恩は中国を盾にしようと、前年は袖にした習近平主席の特使を丁重に迎え、米朝首脳会談後の習訪朝の約束を取り付けている。日本のメデイアは「血盟の中朝同盟復活」と報じるが、それほど単純ではない。 私は既に1年以上前から「金正恩政権の寿命は2年±1年」と予測し、ほぼその通りの展開となっているが、その骨子は、金正恩は戦略なき戦略で自ら袋小路に陥り、自身の生存戦略を探らねばならないところにまで追い詰められているということである。 すなわち、金正恩が2013年3月の労働党中央委で提唱した「核開発と経済建設の並進路線」はあまりに非現実的であり、5年経った現在、完全に経済的、軍事的に破綻に直面している。 今さら言うまでもないが、国家予算さえ満足に立てらてなくなって久しく、市場経済に丸投げ状態になった北朝鮮経済は中国への依存度を強めた。その中国の制裁参加で窒息直前の窮状にあり、飢えた人民の不満と怒りはいつ爆発しても不思議ではない。 軍事的には致命的な欠陥をさらけ出した。井の中の蛙の金正恩は「核抑止力」の幻想に憑かれ、無謀にも対米核攻撃を公言し、脅すつもりが逆に、米国に核先制攻撃の口実を与えてしまった。 客観的に見て、中ロさえ恐れる米国の核戦力と北朝鮮のそれは象と蟻の差があるが、斬首作戦や北朝鮮攻撃を想定して戦略兵器を大規模に動員した米韓軍事演習で金正恩は厳しい現実を思い知らされ、日々怯え、所在を隠すまでになった。核をあくまでも外交カードにしていた金日成、金正日時代にはあり得なかった異常事態である。 しかし、その点がまだよく理解できず、ある種の呪縛に陥っている人々が少なくない。 今日の朝日新聞朝刊に韓国系米国人のビクター・チャ元NSCアジア部長のインタビューが掲載されているが、駐韓大使に内定したチャは米韓軍の鼻血作戦に反対の意を伝え、トランプ大統領に人事が白紙撤回されたと明らかにしながら、「軍事作戦は数百万の日本、韓国人、数十万の在韓米国人の命を危険にさらす」と述べている。この種の状況認識はペリー元国務長官が口を酸っぱくして語り、米国の対北朝鮮政策に加わった人たちが合言葉のように使っているが、そこにクリントン、ブッシュ、オバマ政権が失敗した理由が透けて見える。北朝鮮の人質作戦に見事に嵌まっているのであり、北朝鮮核問題解決を妨げる心理的要因である。 それを断ち切ったのがトランプであった。デイールを得意とするだけに、相手につけこまれる弱点を敏感に見付け出し、強力なカウンターパンチを食らわせたのである。客観的に見れば、米国の核先制攻撃で北朝鮮は反撃の間もなく地上から消滅する。人道上、民間人を犠牲にすることは許されないが、金正恩は悪魔の選択肢を握られ、縮み上がった。 トランプは戦略的な思考は習近平に劣るが、個別の相対デイールでは昨年4月の米中首脳会談中のシリア攻撃のように習をもたじろがせる速攻策を繰り出してくる。金正恩も手強い相手に睨まれたもので、蛇に睨まれたネズミの心境といったところだろう。 金正恩は核廃棄について「なすべきか、なさざるべきか」とハムレットの心情であろう。 斬首作戦を主導していたポンペオCIA長官(次期国務長官)が4月初めに極秘訪朝し、金正恩と会談した事が明らかになったが、ポンペオはその後米国議会の公聴会で「体制転換(金正恩政権の交代)は求めない」と述べている。金正恩に体制保証をしたことをうかがわせる。 ポンペオを丁重に迎え、再三会談した金正恩が「完全な非核化」の意思を伝えたことへの対価であったと読める。 だが、依然として大きな疑問が残る。 金正恩はなぜ労働党中央委員会で非核化に言及しなかったのであろうか? その疑問を解く鍵は金正恩の政治基盤が外で思われているほど強固ではない事がある。幹部の粛清を繰り返し、反感を買っているのである。 それでもトップの座に居られるのは、核保有を踏まえて対米交渉に臨み、労働党の大義である南北統一に有利な局面を開くとの期待感があるからに他ならない。 つまり、金正恩は自身の安全と体制保証を得る生存戦略を密かに描くが、金日成以来の幹部たちの統一戦略と乖離しているのである。今になって並進路線を否定すれば金正恩政権の存在意義が疑われかねず、「結束」と曖昧にするしかない。 金正恩委員長は今後、文在寅大統領、トランプ大統領、習主席との会談でそうした乖離を解決する具体策を探していかなければならない。核廃棄と制裁解除や経済支援獲得、平和協定締結などを組み合わせた複雑な過程が待っている。 長くなるのでここまでにするが、鍵を握るのは、米中関係であろう。 『二人のプリンスと中国共産党』に詳しいように、北朝鮮核問題もつまるところ、米中大型大国関係構築の各論であり、米中の力学関係で決着するしかない。かつての「中朝蜜月」は思想性以外にも、国共内戦で中国共産党軍に偽装した北朝鮮正規軍が国民党軍撃破の先頭に立ち、逆に朝鮮戦争で中国義勇軍が北朝鮮を助けるという対等、互恵の関係があった。現在は残念ながら北朝鮮は中国に依存するしかないが、かつての人脈が完全に切れた訳ではない。 最後に一言。 かつて朴正煕は核開発を試みて、最側近の金戴圭KCIA部長に暗殺された。『朴正煕』で「政治の世界で最も危険なのは最も信頼する人物である」と書いたが、金正恩にも同じことが起こらない保証はない。 |
北朝鮮核・ミサイル・ロケット
[ リスト | 詳細 ]
|
韓国政府は22日、北朝鮮が同日5時58分に元山付近からムスダンを試射したが、150キロ飛行して爆発した。さらに、8時5分に再度試射し、高度1000キロに達し、400キロ離れた東海(日本海)に落下したと発表した。前者は失敗、後者は「飛行性能は(一定の)向上」との見方を示した。
射程4000キロの中距離弾道ミサイルのムスダンは2007年に実戦配備されたとされながら、1度も試射されたことがなく、実態は不明であった。 今年4月15日に初めて試射され、続いて同月28日に2度試射されたが、いずれも数秒で空中爆発もしくは墜落した。5月31日にも試射が強行されたが、移動式発射台で爆発したことが韓国軍のイージス艦のレーダや衛星写真で確認されている。 今回を併せ2ヶ月でトータル6回試射し、最後の1発でようやく「成功」を収めた。単純計算して成功の確率は6分の1である。撃ってみないと飛ぶか飛ばないか分からないレベルであるが、これを直ちに実用的な兵器と見なすにはかなり無理がある。 一連の試射は金正恩委員長の肝煎りで実行されたものであり、今回も立ち会ったと見られるが、その狙いは何か? それについて日韓のマスコミには様々な観測が飛び交っているが、残念ながらどれも皮相的に過ぎ、正鵠を射たものは見当たらない。 この問題を考察するには、近視眼的な視点には自ずと無理があり、歴史的なスパンが必要である。 一般的な軍事常識では試射無しのミサイル配備は下手をすれば飛ばないスクラップを並べることになり、冒険に過ぎる。 1つの可能性はダミー説である。私は1981年に北朝鮮東北部のオラン飛行場で、ダミーのミグ戦闘機がズラリと並んでいるのを見た。木製だが、上空からは本物に見え、実際、韓国、米国側はそのように数えていた。 ムスダンについても、敵に恐怖感を植え付ける為のダミーであった可能性を否定しきれない。 その2は、スカッドミサイルを輸出していたイラン、パキスタンで試射を重ねた上で実戦配備した可能性である。私は以前からこの点を強調し、「北朝鮮のミサイル技術がイラン、パキスタン以下であることはあり得ない」と指摘していた。 すると、1つの疑問が湧く。金正恩時代になって試射を繰り返し、失敗しているのは何故か、ということである。 しかし、実は、この疑問への回答はそれほど難しくない。 電力不足で、実戦配備されたミサイルの保守点検が適切に成されず、精密部が腐食しているのであろう。脱北軍人は武器の管理が不十分で戦闘機、戦車の多くが使い物にならなくなっていると明かしているが、デリケートなハイテク兵器であるミサイルなら尚更である。 秘密主義の金正日と正反対に、武器を誇示して相手を威嚇しようとする金正恩は、試射に積極的である。 しかし、それが裏目に出て、制裁による補修部品調達の困難に加え、工業の衰退が軍需産業に影響を及ぼし、ミサイルの維持管理が困難になっているのがあからさまになっている。 韓米側はミサイル試射を国連決議違反と表向き批判するが、その実、ほくそ笑んでいる。ミサイルの能力に関する情報を直に把握できるからに他ならないが、現時点で「北朝鮮のミサイルには核搭載能力がない」との見方が支配的である。 米国の科学国際安全保障所は北朝鮮が現時点で13〜21個の核を保有すると推定するが、運搬手段がない以上、軍事的には無意味である。 前にも指摘したが、韓米合同軍事演習で金正恩ら北朝鮮指導部を強襲する「斬首作戦」を実戦演習に組み入れているのも、北朝鮮が核ミサイルを開発する前にリスクを除去する狙いが秘められているからに他ならない。 金正恩委員長も「斬首作戦」を恐れ、常に居場所を隠す一方、今年3月に「核弾頭搭載可能な弾道ミサイルの発射実験を行うように」と檄を飛ばした。一連の試射強行はその結果であるが、逆に、手の内をさらけ出すことになり、国際的孤立を深めた。 今回の実験で射程角度を高くし、落下範囲を北朝鮮領海に近い400キロに収めたのは、弾頭の破片を韓国側に押さえられるのを避けるためと見られる。先の人工衛星ロケット実験では断片を回収され、弾頭がアルミニウムに断熱材を張り合わせた粗末なものであり、部品の多くに輸入品が使われていることが発覚している。 金正恩委員長がムスダン試射にこだわったのは、29日からの最高人民会議に向けて自身の実績を誇示し、権力基盤を補強する狙いがあると読める。 それを裏付けるように、今回の試射について労働新聞、朝鮮中央テレビなど北朝鮮国内メデイアは「戦略弾道ミサイルの火星10号が上空1463.6キロに達し・・・」と事細かに報じ、金正恩の指導の賜物であると強調している。 国際社会の制裁強化で北朝鮮経済は破綻状況に直面し、国民の不満を押さえつけるために金正恩は強権支配に傾き、軍事に頼る悪循環に陥っている。 核・経済を共に進める並進路線は事実上、破綻しているが、それを認めれば権力の座が危うくなるジレンマがある。 日韓の一部のマスコミには北朝鮮制裁の効果を疑問視する声があるが、事はそれほど単純ではない。 それを熟知しているのが、北朝鮮の対外貿易の9割を占め、事実上、金正恩政権の命運を左右する中国である。 制裁の強化が北朝鮮の体制崩壊と地域の不安定化を招くことを恐れ、制裁の匙加減に苦慮しているのである。 習近平主席としては、北朝鮮への影響力を維持しながら、6ヵ国協議などで金正恩に進んで核放棄させ、改革開放へと舵を切らせたい。 そうした問題意識を共有しているのが、習主席と7回も会談している朴槿恵大統領である。 「非核化のない対話は欺瞞」であり、核隠しの対話はしないとしながらも、6ヵ国協議参加国の外交当局者等の「北東アジア協力対話」に政府高官を派遣したのは中国の顔を立て、その役割を期待してのことであった。 朴大統領と習主席の個人的な信頼関係が中国が国連制裁決議に同調する上で大きな役割を果たした。THAAD問題がそこに微妙に絡んできた事は既に指摘した通りである。 しかし、南シナ海問題での中国と米日の対立が北朝鮮問題に影を落としていることも軽視できない。 特に、参院選を意識してか、ここに来て安倍政権が中国艦の尖閣水域や日本領海「無害通行」などで対決姿勢を露にしていることが、事態を複雑にしている。「日本は北朝鮮の脅威を過度に煽って安保法制正当化など国内問題に利用している」として中国が警戒感を強め、北朝鮮問題が日中問題化している側面がある。 北朝鮮核問題は各国の思惑や利害が入り乱れて紆余曲折を得ようが、つまるところは、北朝鮮非核化と金正恩政権の処遇に帰着しよう。 その点において、米中の大局的な利害が一致するからである。 バイデン米副大統領が20日、PBSとのインタビューで中国に対して「北朝鮮の核を放置し、日本が核武装したらどうなるのか?日本は一晩で核武装する」と述べ、制裁を効果的に履行するように求めていることを明らかにした。 トランプが日本と共に韓国の核武装に選挙演説で言及し物議を醸したが、朴正煕時代に核開発に手を染めた韓国もその気になれば数年で北朝鮮以上の核を開発することが可能である(「韓国を強国に変えた男 朴正煕」参照)。 つまり、オバマ政権の真の危機意識は、小国北朝鮮の核保有よりも、それが大国日本、韓国の核武装を誘発することにある。そうした戦略的な思惑は習政権も共有しているのである。 |
|
朝鮮戦争南侵失敗の責任を負わせた朴憲永労働党副委員長銃殺など金日成時代の粛清から始まり、2013年の張成沢国防委副委員長の「現代版宗派主義」粛清までの一連の粛清を正当化し、「金正恩第1書記の唯一領導体制死守」を訴えるものである。 過去の例からして、玄部長粛清を正当化する狙いであると読める。 労働党と軍内部の動揺が深刻化している様子がありありと分かる。各級党組織で思想統制を試みているが、十分に機能していない。 初めて「金正恩パルチザン隊伍」なる内部組織の名が出ているが、金正恩の兄の正哲が組長をしている「ポンファ組」を指していると見られる。 しかし、正哲が英国人ロック歌手のクラプトンの追っかけをしている写真が撮られたように、思想的には金日成時代の革命思想とはかなりの距離がある。世襲組の既得権益団体に近い。自民党世襲議員族と大差ない。 「金正恩を操るのは誰か」で指摘したように、背後で主導するのは金日成時代からのイデオロギー担当党官僚である金己男、崔泰福書記らである。 しかし、粛清の半面、慈愛深い父親として国民の敬愛を集めた金日成と異なり、金正恩は恐怖政治のイメージが先行しており、祖父のような求心力を保つのは難しい。 叔父にあたる張成沢粛清で金ファミリーが分裂し、在日出身が母である金正恩の出自を挙げてその正統性を疑問視する見方も北朝鮮指導部内で出ており、政権の弱体化は今後とも進もう。 さて、前回の続きであるが、米国務省が北朝鮮の核搭載ミサイルの存在を否定する公式見解を急遽、出したのは、ケリー国務長官が18日にソウルの竜山基地でTHAADの必要性に言及したことと関係がある。 米国では対中強硬派のマケイン上院軍事委員長が中心となって、2020年までに新MD網を構築する報告書が議会に提出されている。 写真下がそれを絵にしたものである。北朝鮮が主敵に描かれているが、実は本当の敵は左端に隠れている。中国である。 北朝鮮を体よくダミーにして、潜在的な脅威である中国に備えようというのが真の狙いである。 オバマ政権は安倍首相の訪米後に、次期統合参謀本部議長に海兵隊司令官を内定し、オスプレイ17機の日本売却、横田基地への配備を決めている。 中国に対抗するリバランス戦略に沿った布石であり、自衛隊をその下に組み込んで実動部隊として使おうとの腹積もりである。 朝鮮半島では状況は膠着しているが、尖閣周辺や南シナ海では中国軍機や艦艇と米日のそれが毎日、にらみ合い、むしろこちらの方が一触即発の危険性が高い。 人民日報系の環球時報は25日社説で、「南シナ海での中米衝突は不可避だ」と警告している。 そうした対中包囲MD網で核心となるのが、中国中心部をレーダーで網羅するTHAADである。 中国が神経を尖らすのは当然と言える。 ケリー国務長官はTHAADに慎重な韓国政府を揺さぶるために、竜山でこれ見よがしに発言したのであろう。 しかし、韓国政府から非公式にクレームが出されたようだ。 米国務省の公式見解はそれに応えたもので、状況を客観的に整理し、THAAD導入を韓国政府に公式に打診したことはないとする従来の立場を再確認する意味があったと見られる。 予見を排し、来月に訪米を控えた朴槿恵大統領とオバマ大統領との会談に下駄をあずけたのである。 朝鮮中央通信は25日、金正恩第1書記が「SLBMを完成させた科学者たちを訪れ、記念写真を撮った」と伝えたが、足元が揺らぐなか、実戦化にこだわる内情が透けて見える。 そこから実戦化される前にいかに押さえ込むか、という課題が浮かび上がってくる。 朴槿恵大統領としては北朝鮮を押さえ込むには、米中の協力が欠かせない。 米中の衝突は韓国の根本的な国益に反し、一方に偏ることは許されない。 安倍政権には二股外交と非難する声もあるが、米中の間を取り持つ韓国独自の基軸外交を進めるということであろう。 オバマ大統領も中国との衝突は望んでおらず、習近平主席の本音もそうである。 仲介者を求めている事情は同じであり、そこに韓国独自の役割がある。 |
|
米国務省当局者は21日、「北朝鮮の弾道ミサイルは核を搭載できる段階に至っていない」との公式見解を明らかにした。
前日、北朝鮮の核の小型化について「ICBMに搭載できることを実証していない」と述べていたが、いわゆるノドンなど中距離ミサイルについても核搭載能力を否定したことになる。 そうして、現実の脅威を否定したうえで、「最終的には同盟国や米本土への脅威になりえる」とした。 これをどう解釈すべきであろうか? 米軍部首脳は北朝鮮脅威論を露骨に口にし、日韓米の専門家の間でも北朝鮮がノドンなどに核を搭載しているとの見方が広まりつつある。 韓国では高高度ミサイル防衛体系(THAAD)配備を求める声が沸き上がり、日本では安倍政権が安保法制整備の理由に北朝鮮有事を挙げ、国民の理解を得ようと腐心している。 何よりも、北朝鮮が「いつでも米本土を核攻撃できる態勢にある」と豪語している。 こうした状況をよく分析すると、それぞれの政治軍事的な思惑が浮かび上がってくる。 これまでも再三指摘したことだが、北朝鮮が核の小型化や米本土に達するICBMの開発に成功したことを示す実験は、全く確認されていない。 北朝鮮の第三次核実験(2013年2月)や人工衛星ロケット打上(2012年12月)等も、客観的にそうした軍事能力を証明するものではなかった。 直近では、9日に「金正恩第1書記の直接的な発起と指導で実施された」との鳴り物入りで、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)実験が行われた。 これについては、韓国国防部は「潜水艦からミサイルが150メートル飛び、発射は成功したが、憂慮するレベルではない」と評価している。北朝鮮メデイアは「大成功」と写真入りで大々的に報じたが、米国防総省は「写真を加工した」と実験そのものを問題視する。 要するに、極めて初歩的な段階で、実戦化するには最低でも数年要する。 立証不可能な北朝鮮の核能力を誇張する主調、憶測が飛び交っているのは、それぞれの主観的な思惑や狙いを秘めていると見るべきであろう。 まず、北朝鮮であるが、国防委員会政策局が20日、「小型化、多様化に入って久しい。精密化、知能化も進んでいる。自衛力強化措置に挑戦するな」と強気の声明を出している。 SLBMについても、あたかも実戦配備しているかのようなレトリックを用いている。 過度に誇張された心理戦仕様の対外強硬姿勢は、実は内に向けたもの、すなわち、唐突な玄永哲人民武力部長粛清で動揺する軍引き締めが狙いである。 外交は内政の延長、は、現在の不安定な金正恩政権にそのまま当てはまる。 そのため、パン・ギムン国連事務総長の21日の開城工団訪問を直前の20日未明に「許可取消」を一方的に通告する非礼まで犯している。内政に振り回され、外交不在である。 韓国国防部が「挑発には断固として応じる」と一歩も引かないのは、北朝鮮の軍事能力の限界を見抜いているからである。 そもそも金第1書記の「自衛的抑制力強化」なる核開発路線には、いかにも思い付きといった大きな穴がある。 攻撃ばかりに目が行き、防衛システムがゼロに等しい。ノーガードのボクシングのようなもので、勝算度外視である。 ようやくそれに気付いて、玄永哲人民武力部長をモスクワに派遣し、ロシアからの対空ミサイル導入を図ったが、にべもなく拒絶されてしまった。 これは私の推測であるが、それを巡って金第1書記と玄部長の間に争いが起こり、粛清につながったのであろう。 朴槿恵大統領は19日、SLBM発射と恐怖政治を非難し、金正恩政権が変わろうとしない限り、5・24措置を継続する原則を言明している。 同時に、北朝鮮の弾道ミサイル実験を禁止する国連安保決議1718違反として、国連北朝鮮制裁委員会での討議を求める意向を明らかにしている。 北朝鮮の政変も視野に入れていると読める。 20日の国防委政策局の強硬声明や国連事務総長訪朝許可取消はそれに反発してのことであるが、こうした衝動的対応は自分の立場を苦しくするだけである。 金第1書記は、いい加減に脅しが逆効果であることを知り、正直にならねばならない。 国防委政策局は24日、20日の強気の声明から一転し、5・24措置解除を求め、天安艦沈没の共同調査を提案する声明を出している。経済が破綻の度を深めるなか、頼るは韓国のみという北朝鮮の実情がうかがい知れる。 来月の訪米を控えた朴大統領を困惑させているのは、ある程度先が見えてきた北朝鮮問題よりも、THAAD問題である。 いうまでもなく、中国が反発しているからである。 |
|
オバマ大統領は17日、テレビを通して「50年余の(キューバ)孤立政策は機能しなかった。新しいアプローチをする時だ」と述べ、キューバと国交正常化する意向を明らかにした。ケリー国務長官が交渉を進め、数ヵ月内にハバナの米大使館を再開させるという。
キューバは1962年に米ソがあわや核戦争かと緊張した「キューバ危機」以来、北朝鮮とも特別な関係にある。金正恩政権の核・経済並進路線の原型である金日成の並進路線もそれを名分にしていた。 数少ない反米の盟友であったハバナの方針転換は、ピョンヤンに計り知れない衝撃を与えている。 米政府高官はキューバとの秘密交渉は昨年6月から、ローズ大統領副補佐官らがカナダなどでキューバ側と秘密接触した。 フランシスコ・ローマ法王が政治犯交換などで米・キューバ首脳の間に入って和解を斡旋したことも明らかになっている。 最終的にはオバマ大統領が16日にカストロ国家評議会議長と1時間近く電話会談し、渡航制限緩和、送金上限額引き上げ、輸出入緩和で合意した上で、両首脳が国民に向かって同時発表した。 オバマ大統領がキューバへの孤立化政策の失敗を認めたのは、キューバがベネズエラ、ボリビアなど米国の裏庭である中南米諸国の左傾化の拠点となり、中国の影響力まで浸透している現実を踏まえ、流れを変える狙いがあったとみられる。 就任直後からキューバとの関係改善を目指しており、任期2年を残した現在が最後のチャンスと判断したのであろう。移民政策を見直していることもあり、関与外交政策の成果として後世に名を残す思惑もあったとみられる。 共和党や200万人のキューバ系には独裁的なカストロ政権を承認することに反対する声も根強いが、米世論は6割が関係正常化を支持し、米経済界も歓迎していることがオバマ大統領を強気にしている。 他方のカストロ国家評議会議長は国交正常化に伴い、外資導入のための市場開放は積極的に進めるが、社会主義体制は維持すると再三、言明している。 「米国の制裁がキューバに人的、経済的に甚大な損害を与えてきた」と率直に述べている。原油安で深刻な打撃を受けているベネズエラからの格安の原油供給が先細りしており、米国の一日も早い制裁解除が不可欠であった。 中国に倣った改革開放政策で経済再生を図ろうということである。 オバマ政権はほぼ同時期、北朝鮮に対しても水面下の接触を試みている。 先月初めのクラッパー国家情報局長がオバマ大統領の特使として訪朝したのがそれである。北朝鮮に拘束されていた米国人二人が釈放されるなど、一定の進展もあった。 しかし、キューバとのような劇的な進展はなかった。 核問題での距離が埋まらなかったからである。 キューバはミサイル基地建設問題で米国と激しく対立したが、建設を諦めたことが結果的に幸いした。反対に、北朝鮮は2つの並進路線で対米軍事対決路線に突き進んだことで、抜き差しならぬ対立に陥ってしまったのである。 それに、国連総会での北朝鮮人権非難決議採択、『ジ・インタビュー』に絡むサイバーテロ問題まで加わり、朝米関係改善の展望は全く立たなくなった。 米国の対北朝鮮世論は極度に悪化しており、北朝鮮が大きく歩み寄ってこない限り、オバマ大統領も手の打ちようがない。 しかし、金正恩政権が崩壊し、北朝鮮が混乱状態に陥ることは、韓国も米国も中国もロシアも日本も望んでいない。 金正恩政権が孤立状況を打破しようと柔軟な路線に転換する可能性がある。それに反対する守旧勢力との軋轢が強まる事態も十分にありうる。 そうした具体的な状況を踏まえ、北朝鮮を軟着陸へと誘導することが現実的な課題として浮上している。 |





