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北朝鮮が短距離ミサイルを発射した意図について、「韓国のイージス艦に対抗した」との説が日韓でまことしやかに飛び交っている。
一種の情報戦であるが、情報源を辿ると日本にたどりつく。韓国イージス艦への高まる反発に便乗し、事態の本質を南北対立にすり替える意図的なものがあるように見受けられる。
まず北朝鮮がミサイルを発射した狙いであるが、前々回書いたように「米国にBDAの北朝鮮資金送金問題解決を促す政治的メッセージが、密かに込められている」とみるのが妥当と思われる。
いわゆる「瀬戸際戦術」と呼ばれるものだが、朝米関係が「2・13合意100日、米朝“我慢比べ”」という微妙な段階にあるだけに、これまでのような単純な形態ではなく、手が込み入っている。
その答は、北朝鮮ばかり睨んでいてもみつけにくい。
北朝鮮の外交安全保障は一にも二にも米国を見ながら、「言葉には言葉」「行動には行動」の関数関係で組み立てられているからだ。
ブッシュ大統領は日米首脳会談で「我慢にも限界がある」と語り、初期段階受け入れを迫った。さらに、「北朝鮮やイランのようなならず者国家(rogue state)から米国を守る」(ペンタゴン関係者)として、24日(現地時間)に弾頭ミサイル迎撃実験を実施した。
北朝鮮側がそれを圧力の行使と反発し、ミサイルにはミサイルと,対抗措置を取ったと考えるのは十分に合理的である。
実際、24日からマニラで始まった東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)に、北朝鮮は初めて「年次報告書」を提出し、米日が軍備を拡張し、2・13合意の進展を妨げていると批判した。さらに、高級事務レベル協議に出席した北朝鮮代表のチョン・ソンイル外務省副局長は、ミサイル開発について「防衛のためであり、我々の自主的な権利である」と発言している。
やはり同協議に出席しているヒル国務次官補は、ミサイル実験のあった25日の夕方、チョン代表と接触したことを認め、BDA送金問題が月内にも解決されるとの見通しを語っている。
皮肉なことに、米朝がほぼ同時に行ったミサイル実験を挟んで、BDA送金問題が幾分前進したようだ。
なお、弾頭ミサイル迎撃実験について米国防総省ミサイル防衛局は25日、実験は中止と発表した。
アラスカ州の基地から打ち上げたおとりミサイルが迎撃想定域内に到達することに失敗し、迎撃ミサイルを発射できなかった。夏に延期という。
ミサイル防衛については効果とコストに議会から疑問が出されており、実験不調で予算削減の動きが強まりそうだという。
http://www.nytimes.com/2007/05/26/washington/26missile.html?_r=1&ref=us&oref=slogin
日本も、今回の北朝鮮のミサイル実験を米国との関連で捉えることができれば、釈迦力になって進めているMD問題でも、本当に苦しい財政事情を犠牲にしても進めるだけの効果が期待できるのか、あるいは外交的努力で補う必要があるのではないか・・・などと冷静な議論が可能になるはずなのだが、どうも視野が狭く、我田引水に流れがちだ。
例えば、今日の産経新聞主張だが、「北ミサイル発射 追加制裁の具体化へ動け」と、昨年7月で時計が止まってしまったかのようにワンパターンである。歯切れも悪い。
「どういう思惑かは不明だが、一連の安保理決議への違反として厳しく非難されるべきで、追加制裁の根拠となるものだ。麻生太郎外相は北朝鮮が初期段階措置の不履行を続けた場合には、日米両国で追加制裁の協議に入る考えを示している。全面禁輸、送金停止などがこれにあたるが、その時期はすでに来ている」
http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/shucho/070526/shc070526000.htm
ブッシュ政権のスタンスの変化も読めていない、もしくはそれに反対するかのような、悲しいほど硬直したロジックである。対決ばかりを鼓吹し、地域の安全や平和への努力や配慮に欠けた独善的なものと言わざるをえない。
愛読者の安倍首相の本音に近いのかもしれないが、「色々な対応措置を考えなければならない」から「冷静に対処」へと言い換えたのは、米国の協力を得られないと知ったからであろう。
冒頭の「韓国のイージス艦に対抗した」説も、その種の情緒的反応の一つである。
東西で発射してるので、西は韓国、東は日本を意識したとの見方も、話としてはイージス艦対抗説に劣らず面白い。
だが、金日成時代からの伝統的な戦略戦術論に照らし、対米外交に全力を挙げているしたたかな北朝鮮が、韓国を米側に追いやるような愚策をとるとは考えにくい。
そこには、あわよくば南北対立にすり替えようとの、一種の情報操作があるようだ。
読売新聞記事には「韓国メディアの多くは、この日、韓国初のイージス艦『世宗大王艦』の進水式が行われたため、『これに合わせて、一種の武力示威として行ったものだ』(聯合ニュース)と報じている」とあるが、その聯合ニュースは実は、「重村智計早大教授はAP通信とのインタビューで『韓国のイージス艦配置に警告したもの』と答え、NHKもその可能性に注目した」と日本発の見方を紹介している。
つまり、日本から発信された根拠薄弱な情報が、独り歩きしているのである。
http://www.yonhapnews.co.kr/politics/2007/05/26/0504000000AKR20070526008300071.HTML
状況はやや込み入ってくるが、韓国初のイージス艦を警戒しているのは、南北対話を進める北朝鮮よりも、歴史認識などで韓国とギクシャクしている日本の保守層である。
事実、保守層の代弁紙である産経新聞は「韓国初のイージス艦進水 日本や中国を意識か」とのタイトルで、「韓国は、日米が北朝鮮の弾道ミサイルを想定して進めているミサイル防衛(MD)には参加しない方針を表明しているが、日本の防衛関係者らは、韓国の海軍力強化が、北東アジアの安全保障環境に影響を与える可能性を指摘している」と報じた。
http://www.sankei.co.jp/kokusai/korea/070525/kra070525002.htm
日本の一部メディアには、盧武鉉政権は「反日親北」であり、韓国初のイージス艦は日本に対抗、との主張が溢れているが、「韓国のイージス艦に対抗した」説はそれに便乗した珍説、とでも言うべきものである。
それを機に韓国に反北気分が高まり、コメ支援などがストップすればもうけものといったところだろう。
ちなみに、今回発射されたミサイルは、地対艦の「シルクワーム」の改良型か「シアサッカー」である可能性が高いとされる。。
シルクワームは中国が旧ソ連からの技術供与で60年代に開発したもので、北朝鮮に輸出され、さらに改良された。94年5月の実験では160キロ離れた標的に命中した。05年6月の実験では300キロ以上飛んだことが確認されている。
北朝鮮海軍は魚雷艇、哨戒艇、高速攻撃艇、小型上陸用舟艇など沿岸防衛の小型艦艇中心で、その他、旧ソ連製ウィスキー級4隻、中国製ロメオ級22隻、北朝鮮製ロメオ級潜水艦など攻撃型潜水艦を保有する。
シルクワーム改良型は北朝鮮軍2連隊に配備され、発射施設は6カ所と推定されている。
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