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麻生首相の期待とは裏腹に、法的正当性に疑問符が付いた議長声明は6か国協議脱退と言う北朝鮮の強烈なカウンターパンチを喰らい、早くも有名無実化しつつある。
「必要なのは、制裁の強化ではなく、6者プロセスを再開する話し合いだ」(ボロダフキン・ロシア外務次官)と中国、ロシアにEUまでが協議再開優先の声を上げ、1718号は邪魔者扱いされ、脇に押しやられている。
米国は現時点で様子見の状況だが、北朝鮮は寧辺(ニョンビョン)核施設への無能力作業中断、稼動再開を進めており、それを止めるためにも、遠からず北朝鮮との直接協議に乗り出さざるを得ないだろう。
麻生首相の誤算は、国連安保理決議1718号はネオコンの遺産であり、ブッシュ政権退場とともに賞味期限がとうに切れていることが見えていない状況認識のズレから来る。
中ロは鼻からまともに履行する気がなかったし、ボズワース特別代表が安保理協議とは別に訪朝の意思を明らかにしていたように、オバマ政権内部でも圧力・制裁の効果に否定的な見方が強くある。
議長声明は皮肉にも、オバマ政権の関心を北朝鮮に引き付け、米朝直接対話を加速化させる触媒の役割を果たしつつある。
北朝鮮がそこまで読んでいたかはともかく、「宇宙の平和利用」という大義名分を前面に押し出すことで国際法を味方につけながら、新たにICBMカードを手にして交渉力を高めたことで、通米正面突破戦略に弾みがついているように見える。
米国の航空宇宙専門誌・Spaceflight Nowによって「人工衛星打ち上げのロケット」と確認された「銀河2号」が宇宙の平和利用を認めた国際宇宙条約1条に合致することは明らかであり、「4月5日の発射」とロケットであるかどうかの認定を意識的に避け、「1718号違反」とした議長声明が国際法に抵触していることも否定できない。
反射的に、議長声明を非難した北朝鮮外務省声明は、国際法の理論とロジックに則った正論ということになる。
だが、他面において、それは小賢しさと危うさを隠せない。
いくら法的論理的に真であっても、事実の裏づけがなければ真実とは言えないのである。
最近、ウェブ上で、中国軍事大学で軍事戦略学を教えている張召忠海軍少将が自身のブログで「私自身は、北朝鮮が打ち上げたのが誘導ミサイルではなく、人工衛星であってほしいと願っている。『金正日の歌』を今度こそ、人々に聞かせてほしいものだ」と書き、話題になっている。
こうした懸念は友好国の中国でさえも根強くあり、ましてや米国や日韓を納得させるには、言葉ではなく、明白な物的証拠を出さねばならない。
私も打ち上げ前から、「成功するかどうか? 失敗すると複雑になる」と考えていたが、不幸にも的中した。
北朝鮮は「ロケット打ち上げは成功し、人工衛星は軌道を回っている」と主張するが、誰もそれを確認していない。いつまでもあると言い張ると、言葉に信憑性が無くなり、ロケットであることも疑われるのである。
国内の士気鼓舞のために成功を主張したい政治的な思惑があることは理解できるが、今後のためにも、国際社会の常識をもう少しわきまえる必要があろう。
北朝鮮は、成功するまで衛星打ち上げを続けるだろう。
韓国が7月末に初の人工衛星搭載ロケット「KSLV―1」を南西部の羅老宇宙センターから打ち上げるが、今回の北朝鮮の衛星ロケット打ち上げの目的の一つに、韓国より先に「世界10カ国目の自前ロケットによる人工衛星打ち上げ国」となることがあったと読める。
1970年代、韓国の浦項製鉄所(現POSCO)建設に対抗して3000億円の総合製鉄所建設「Dプラン」を新日鉄の協力で進めたように(「証言 北ビジネス裏外交」参照)、北朝鮮は建国以来のライバルである韓国を常に意識してきた。
地域にいたずらに緊張を引き起こさないためには、国際法を大上段に振り上げる小理屈だけでなく、日本を含めた国際社会の理解を得ることが必要である。
北朝鮮は先端技術開発と併せて宇宙空間進出に力を入れ、金策工業総合大学機械科学技術大学宇宙航空工学科で専門家を育てて科学院宇宙技術研究所、宇宙空間技術委員会に送り込み、衛星管制総合指揮所、東海発射場などのシステムも備えている。
それらをなるべく公開する努力が求められる。
さらに、開発責任者は現在、朱奎昌(チュ・ギュチャン)労働党軍需工業部第1副部長・国防委員となっているが、これでは軍事目的と疑われても仕方があるまい。
科学院を中心としたシステムに改めるべきであろう。
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