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いつもながらの無責任な直感思考だが、麻生首相が「衛星であろうとなかろうと、国連決議に違反していることははっきりしている」と迎撃の意思をあらわにしたのは、無用な対決を煽る感情論であり、危険な賭けである。
国連安保理決議1718号は「弾道ミサイル開発に関するすべての活動を停止」と規制するが、国際手続きに則った「宇宙の平和利用」目的のロケットは対象外である。それを迎撃すれば、国際法違反となるばかりか、北朝鮮側から「本拠地(東京)への全面報復」(人民軍総参謀部スポースクスマン声明)を招くリスクが極めて高くなる。
麻生首相は、表向きは「国民の生命・財産を守るため」と称しているが、実態は、無謀な挑発行為をしているも同然なのである。
冗談ではなく、麻生首相は「北朝鮮ミサイルは日本を狙っている」と思い込んでいた節がある。
強硬姿勢を示すことで抑止効果を狙った側面もあろうが、短慮は否めない。日米韓連携を軸に中国、ロシアを巻き込んで発射中止へと追い込む作戦であったが、北朝鮮が「実験通信衛星・光明星2号」打上と国際機関に事前通告したことで、意表を衝かれてしまった。
中国からは麻生訪中をキャンセルされ、訪中した浜田防衛相は中国国防相から逆に自制を求められた。打上後を見据えて動き出した米国、韓国との間にも微妙なズレが生じ、唯一北朝鮮と外交チャンネルがない日本は浮き上がってしまった。
北朝鮮は打上予告日(4月4日〜8日)直後の9日に最高人民会議第12期第1次会議を召集すると公示し、国の威信をかけた不退転の決意をあらわにしている。
予告通りに宇宙の平和的利用を目的とした人工衛星打ち上げであったことがはっきりすれば、国連安保理非難決議どころか、一部で伝えられる議長声明の採択も難しいだろう。
麻生政権は慌てて軌道修正に乗り出したが、いかにも場当たり的である。
麻生首相は当初、「日本上空を通過する場合は迎撃する」として閣議決定で自衛隊に迎撃命令を出す意向を示していたが、「いたずらに刺激すべきではない」との意見が政府内に高まり、後ろに引っ込まされた。
代わって河村官房長官、中曽根外相、浜田防衛相が会合し、27日午前の安全保障会議で「秋田、岩手両県の上空を通過する予定軌道を外れ、ミサイル本体やブースターが日本の領海や領空に落下する場合にMDシステムで迎撃する」と大幅にトーンダウンし、浜田防衛相が3年前に制定された自衛隊法82条2の第3項に基づく「破壊措置命令」を発令した。
この「破壊措置命令」も形ばかりのもので実効性に乏しく、責任追及を逃れるためのアリバイ作り程度のものでしかない。
SM3を搭載したイージス艦二隻が日本海に展開し、浜松基地のPAC3が秋田、岩手両駐屯地に移動、首都圏の陸自市ケ谷駐屯地、朝霞、習志野両駐屯地にも発射機を展開する。また、ミサイル落下の可能性が高まった場合、昨年閣議決定した「緊急対処要領」に基づき、消防庁や警察庁などに通知するというものだが、これで、落下物を迎撃できると考える人がいるとしたら、かなりのお人よしである。
日本のMDシステムそのものが欠陥商品であり、某政府高官は23日の記者団との懇談で「鉄砲の弾で鉄砲の弾を撃つようなものだ。当たるわけない」と明かしている。
麻生首相は翌日、同高官を首相執務室に呼び、「つまらんことを言うんじゃない。緊張感が足りないんじゃないか」と激怒したと伝えられたが、何故国民に隠そうとするのか。
MDにはSM3、PAC3関連だけで6600億円もの税金を投じ、一隻建造費1400億円ものイージス艦を含めれば数兆円に達する。納税者に費用と効果を説明するのは最低限の責務であろう。
巨費を注いだMDが使い物にならないと知られたら政権がダメージを受けると、保身を図ったとしたら本末転倒である。
河村官房長官は「落下物が落ちてくる可能性は、極めて少ない」と国民に冷静な対応を呼びかけたが、振回されたのは国民の方である。
さんざん対決姿勢を煽った麻生首相が国民に説明しようとせず、河村官房長官に尻拭いさせたのは無責任の極みではないか。
トップがこの有様では、自衛隊へのシビリアンコントロールにも不安が残る。
田母神前空幕長の影響を受けた自衛隊が暴走しない保証はなく、落下物ではなくロケット本体に攻撃を加えようものなら、身構えている北朝鮮軍が黙っているはずがなく、報復される危険性が高い。
そうでなくとも手薄なPAC3の一部を、予定飛行コースを外れた首都圏に割いているのは、政府も同様な懸念を抱いているからではないのか。
そもそも「日本上空を通過する場合は迎撃する」との発想自体が、非現実的で危険である。
米国や欧米と異なり、日本は、米国防局長が「小型核弾頭を装着している可能性がある」と上院で証言したノドン・ミサイル200基などの射程内にある。
だが、日本のMDシステムは今回の事前予告されたロケット迎撃すら難しい。06年7月のような連射には全く無力であり、面や線はおろか、東京など点すら防ぎことができない。
ところが、拉致問題での感情的対立から外交チャンネルが断絶状態となり、偶発的な衝突がエスカレートし、最悪の場合は核ミサイルが日本に飛来する可能性すらある。
これが日本の偽らざる現実であるが、麻生首相の視野狭窄的な軽率な言動を見ると、安倍政権時代の“ジャパニーズ・ネオコン的な強硬路線”で時計が止まり、状況の変化が全く見えていないのではないのかと、危惧される。
とりわけ、上空と領空の識別すらないのは、度を越した傲慢、もしくは、驚くべき蒙昧無知である。
国際法上、領空の上空を「宇宙空間」ないしは「大気圏外」とし、国家の管轄権が及ばない空間とする。上空をすべて縄張りとするのはやくざ的な発想だが、「日本上空を通過する場合は迎撃する」との発言はそこから来るのではないのか。
いかにも常軌を逸した認識、発想だが、どこか、115人を殺害したテロリストの金賢姫元死刑囚を「韓国の母」と持ち上げる感情と通じるものがある。
拉致問題に偏重し、「包括的」と称して核・ミサイル問題を何の関係もない拉致問題と糞味噌に扱ってきた日本の外交は、半脳死状態である。
その一方で、外交不在から来る不安が軍事偏重となり、無駄な軍事費増大が国民経済を圧迫している。
IMFは09年の日本の成長率をマイナス5・8%と先進国最悪(米マイナス2・6、ユーロ圏マイナス3・2%)とし、世界全体でプラスに転じる10年も、日本だけがマイナス0・2%と予測した。麻生首相は「景気対策が第一」「日本が最初に世界金融危機から脱する」と総選挙を遅らせてきたが、麻生不況は日を追って深刻化している。
今回の迎撃騒動はそうした様々な矛盾を噴出させつつあるが、日本に修復能力が残されているだろうか。
北朝鮮と喧嘩すればロケットはミサイル、仲良くすればミサイルもロケットである。関係修復を図り、軍事費負担を減らし、その分、資源の豊かな北朝鮮との経済協力に振り向ければ双方ウィンウィンの関係となる。
発想の根本的な転換、リセットが必要である。
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