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警察発表で26万人が参加した12日のデモが発生する過程を3日間、つぶさに観察し、当日、デモの渦中に身を置いて知ったのは、非正規職増大や格差拡大など、生活権を巡る国民の不満が臨界点に達しているということである。 デモ現場の光化門広場や世宗路の至るところに労働組合や市民団体有志による籠城のテントが張られ、様々な横断幕が掲げられているが、首切り反対、賃金値上げといった労働権、生活権に関する訴えが多い。セオル号真相究明や開城公団再開など日本でもすっかり馴染みのもあり、国民各層がそれぞれの不満をぶつけている。 請願権は憲法に定められた国民の権利であり、デモ自体は民主主義が機能している証しでもある。同じ問題を抱え、強制的な時間外労働で自殺者まで出しながらデモ一つ起きない日本はむしろおとなしすぎる。韓国が羨ましいとの声すら聞こえる。 朴大統領が不通で、国民との対話を疎かにしてきた事が、事態を必要以上にこじらせたというのが実相であろう。 朴政権は無為無策であった訳ではないが、国民の理解を得る努力に欠けた事は否めない。 一例を挙げれば、「増税なき福祉」を掲げ、年金整備や無料給食制など福祉予算は以前の政権にもまして増大している。だが、「増税なき」に固執し、財源問題を不明にしながら、しかるべき説明もなく、国民のフラストレーションは高まった。 デモ現場を歩いていると、その種のフラストレーションがヒシヒシと伝わってきた。 デモ当日の昼頃、ソウル市庁前広場に行くと、前日は閑散としていた場所が赤いゼッケンを付けた人々でビッシリと埋まり、「学校非正規(教育公務職)労働者闘争大会」が進行中であった。マイクからアジ演説を響かす首席壇には「非正規職絶対反対」とあり、主催団体は「全国教育公務職本部」と書かれてあった。 私が見たところ、これがデモの核心勢力の1つである。写真のように、全国から集結した小中高校や大学の教員たちであり、時間を逐うごとに「延世大支部」、「ソウル大支部」などとと書かれた旗を先頭に続々と馳せ参じ、8車線の広い世宗路を光化門方向へと伸びていく。 資源が乏しい教育立国の国で、教員が十分な待遇を受けない国に未来はない。集会の中に身を置きながら、かつて教鞭を取った私も怒りを十分に共有することが出来た。 韓国の学生たちの間では「ヘル朝鮮」という言葉が流行り、SNSの書き込みで常用されている。最初は何かの造語と思ったが、Hellの事である。日本以上に熾烈な受験地獄に苦しみ、ソウルで会った旧知の元某大学総長は「名門大を出ても半分しか希望の会社に就職出来ない」と憤慨していた。街にはホームレスの老人が目に付き、尊敬すべき先生たちまで非正規職で苦しむのを見て、堪忍袋の緒が切れたというところであろう。 午後2時頃、その集会から巨大な風船が上がり、「朴槿恵退陣」の大きな垂れ幕が下がった。 ソウル市庁前広場から光化門にかけて点々としていた集会が繋がり、線となり、みるみる巨大な流れとなる光景は壮観であった。東京、モスクワ、ベルリンなどで数多くのデモや集会を見てきたが、これほどエネルギッシュなものは初めてであった。音量一杯にしたアジ演説に太鼓やドラの音が混じり、テンションは否応にも高まっていく。 このエネルギーを良い方向に導けば、この国はさらに発展すると思ったが、残念ながら、舵取りが不在である。 米国のGoogleでも「得票数でもトランプ勝利」の虚偽が検索上位を占めて拡散するなど、単なる噂や伝聞が拡散し、どさくさに紛れて過激な主張が“事実”かのように伝えられる現象は、ネット社会共通の世界的な現象である。 韓国マスコミが騒いでいる「秘線崔順実国政壟断疑惑」もその類いである。私が各記事を精査したところ、朴槿恵大統領自身が40年来の友人の崔に演説文を見せたと対国民談話で明かしたことが、「国政に介入」と断じられているが、為にする誇大解釈である。 崔は誇張して友人に漏らしたが、実態は茶飲み友達に演説原稿を見せた程度の話であろう。日米のようにスピーチライターを使えば済むものを、一人で抱え込んだ挙げ句の軽率な行為と見られる。 そもそも崔のような無識な人物に国政を壟断する能力などあり得ない。 特に韓国国際政治でかつて見られなかった秀逸な米中バランス外交は、習近平主席、オバマ大統領との個人的信頼関係があって可能な事であり、英中語に堪能な朴大統領ならではであった。崔某が関与できる能力を越えており、私の見たところ、文在寅、安哲珠両氏にも到底出来ないことである。 また、崔に関わる2つの財団に朴大統領が寄付をするように企業に圧力をかけた職権濫用が問題視されているが、朴大統領がそれにより何らかの利益を得た証拠はなく、恣意性を証明するのは極めて難しい。 崔が大統領との近さを悪用して私腹を肥やした可能性はあるが、そうした私的行為に対してまで朴大統領の法的責任を問うことは無理がある。 仮に日本でその程度のことで法的責任を問うことになれば、無事な政治家は一人もいなくなるだろう。 要するに、朴大統領が追求されていることは法的責任ではなく、道義的責任なのである。デモ参加者たちが訴えていたのも法的責任ではなく、崔順実の声は聞くのに自分達の声は聞いてくれない、裏切られたという思いであったろう。 その意味で朴大統領が弁護士を立て、世論に煽られているきらいのある検察に法的な問題点を整理するように求めたのは、適切な対応と言えよう。 朴大統領が辞任する必要はさらさらない。週刊誌レベルの無責任な噂や伝聞が政治問題化して大統領が退陣する前例を残せば、韓国の民主政治は後退し、国政は混乱するばかりである。 歴代大統領が任期後半になると必ずといって良いほどスキャンダルめいた事件に足を取られ、国政の混乱を招いている。今回の騒動を奇禍として、大統領2期10年制に憲法改正し、朴大統領の信任投票をしたらどうであろうか。 当面、朴大統領がなすべきは、国民の道義的な批判に謙虚に耳を傾けることである。広く意見を聞いて内政に手腕を発揮できる人物を実力総理に据え、非正規職教員を全員正規職に転換するなど格差拡大問題などに大胆に取り組む必要がある。 しかし、THAAD配備問題と絡む北朝鮮制裁強化問題が重要な局面に来ている外交安保は朴大統領以外に能力のある適任者は見当たらず、引き続き担うべきである事は二言を要さないだろう。 来月日本で開催される韓日中首脳会談には参加し、中国の李克強首相と北朝鮮制裁問題を詰めることになる。 韓国社会を分裂させ、揺るがせている根本的な問題は格差拡大問題である。10億円以上の資産を擁する0・5%の富裕層が国を牛耳っているとの声も聞いた。 実は韓国の格差拡大問題は金大中政権がIMF危機を克服するために無限競争社会、すなわち、新自由主義に舵を切ってから始まった事であり、金大中政権の流れを受け継ぐ野党勢力が政権を担当しても解決するのは容易ではない。現在の野党指導者はそうした問題意識すら希薄で、大統領の椅子への野心に目が眩んでいる危うさがある。 格差拡大問題を解決するために韓国はデモに揺れ、同じ問題を抱えた日本は不思議なほど静かである。 2つの対照的な現象を掘り下げ、『韓国の熱病、日本の認知症』(仮題)を上梓する予定である。 実は、デモ隊の中にも旧態依然とした既成野党批判の声が厳然とある。資本主義体制に限界を感じ、北欧のような福祉国家、あるいは社会主義を志向する人々が増えているのである。いわゆる従北ではなく、北朝鮮の個人独裁化した体制にも批判的で、人権や民主主義が保障される社会主義を真摯に研究している。 経済関係が深まっている中国の習近平体制が何を目指しているのか知ろうと努め、私の『二人のプリンスと中国共産党』への関心も高かった。 韓国問題はグローバルな問題の縮図である。国際的多面的な視点から捉えねばならない。 |
盧武鉉政権→・・・朴槿恵政権
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ソウル中心街の世宗路で12日に行われたデモの深層を探るために、9日から当日まで急遽、現地に入った。 そこに見えてきたものは、大きな曲がり角に差し掛かった韓国の苦悩である。いわゆる崔順実ゲート問題なるものは、それを噴出させたきっかけに過ぎない。 3年ぶりの韓国で最も目に付いたのが、ソウル駅前広場のホームレスである。3年前にはほとんど見掛けなかったが、今回は確認しただけで20数名いた。階段近くで手を差し伸べ物乞したり、広場の片隅にゴザをひいて横たわっている。全て老人である。 日本でもホームレスは珍しくない。人々は見慣れ、目もくれないで通りすぎていくのが日常の光景となっている。 私は韓国人の反応に目を凝らした。伝統的に敬老精神が美徳とされた国で、老人のホームレスに人々は何を感じているのであろうか。 12日当日、朝から光化門からソウル市庁広場を行ったり来たりしながら、デモの中心にいる各団体、スローガン、参加者の様子を一通り観察し終え、夕方、湧いてくるような人波を掻き分けながらソウル駅へと急いだ。大韓航空の羽田行便は8時40分であり、ソウル駅からの空港鉄道は仁川空港まで40分かかり、ギリギリのタイミングであった。 ソウル駅に通じる地下道の出口近くに、ホームレスの老人が仰向けにひっくり返っていた。と、反対方向からデモに参加するため足早に歩いてきた若い女性(女子大生であろう)がチラリと目を向け、口を歪めた。怒りが明らかに認められた。 私がデモ現場を取材して最も驚いたのが、大学生や高校生など若者が多かったことである。 世宗路の所々に地下鉄の出入口があるが、泉のように人が涌き出て、通路脇にうず高く積まれた「朴槿恵退陣」と書かれた真っ赤なビラを次々と手に取り、胸の前に両手で広げる。昼頃までは労組員や市民団体関係者がほとんどであったが、午後遅くなると学校を終えた学生たちが連れ立って続々と現れた。 怒れる若者たちが大集合しているが、その心情をホームレスを見て口を歪めた女子大生にハッキリと認めることが出来た。 そこに主催者発表で100万、警察発表で26万の、1987年の民主化闘争以来最大規模の朴槿恵退陣デモの深層が伺える。 今回のデモは3野党が主導したものではなく、野党はむしろ引きずられている。冒頭の写真は10日、光化門に近い広場の一角にテントを張って籠城闘争を続ける市民グループを撮ったものであるが、3党とは無関係である。 国民の党の安哲洙前共同代表は「市民革命」と言うが、デモの性格を完全に見誤っている。 共に民主党の文在寅前代表は「朴槿恵大統領は統帥権と戒厳令宣布権を放棄すべきだ」と述べるが、北朝鮮との緊張状態が高まっている最中に統帥権の空白を招くことを不用意に口にするようでは無責任の謗りを免れない。「朴槿恵下野」と叫ぶ群衆に迎合しているのがありありである。 共に次期大統領の椅子への野心が強すぎ、冷静に政局を捉えているとは言い難い。 秋美愛民主党代表が14日に朴大統領に会談を申し入れ、15日と決まりながら、当日深夜に撤回するなど、野党3党の対応がコロコロと変わるのは、デモの実態を捉えきれていないからに他ならない。 12日に世宗路を埋めた大群衆は朴大統領の失政を厳しく断罪するが、必ずしも野党を支持している訳でもないのである。 |
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40年来の親友とされる女性実業家である崔順実との不透明な関係が“秘線実勢疑惑”へと変質し、窮地に立たされている朴槿恵大統領が4日、対国民談話を発表した。先月25日に続く2回目である。
前回、突如として、大統領就任後の一時期、演説草稿など一部資料を崔に見せ、意見を聞いていた事を認め、国民を驚愕させた。崔が「大統領の演説を直すのが大好きだ」と知人に語ったことがマスコミに流れて拡散し、“秘線実勢疑惑”となって政治問題化したことを沈静化しようとしたのであるが、火に油を注ぐ結果となった。 朴大統領の対話不足の政治スタイルが禍した。国民に直接、政策への理解を求める記者会見が極端に少なく、一部側近からの書面報告で決める秘密主義、権威主義に“不通”と国民のフラストレーションがたまり、臨界点に達していた。 それが正体不明の人物に操られているとの疑惑で一挙に沸点に達し、韓国社会に怒りと絶望が渦巻いている。一介の女性に国家のトップが操られ、国益を損なっているとの不信感が韓国人の自尊心を痛く傷付けているのである。清廉潔白と信じていた旧来の支持層には裏切れたとの思いがあろう。 これを鎮めるのは容易ではないが、朴大統領は2回目の賭けに出た。 「真相と責任を究明するために最大限協調する」として、検察の捜査に応じ、野党が求める特別検察官設置も受容するとしたのである。 憲法84条により内乱と外患以外に訴追されないと身分を保障された大統領が検察の捜査を受け入れるのは憲政史上初のことであり、憲法秩序を根幹から揺るがしかねない重大な政治的決断である。 “秘線実勢疑惑”を晴らす緊急かつ非常手段に踏み切ったということになる。 他方で、野党やマスコミが求める辞任、総理への権限大幅移譲には言及せず、事実上拒否した。 国政トップとして名実ともに止まる意志を明確にしたということである。 朴大統領は意志疎通の出来ない不通、秘線に操られる世間知らずの公主(姫)と不信感を強める国民に自己の重大な政治的決断を直に伝え、その審判を仰ごうとしたのである。 その固い決意を示すように、事前に青瓦台の主要秘書官5人を更迭し、新首相に左翼系との評もある元ノ・ムヒョン政権副首相の金秉準国民大教授を任命した。また、大統領秘書室張に金大中大統領の秘書室長であった韓光玉「国民大統合委員会」委員長を任命した。 こうしたサプライズ人事とあわせた朴大統領の決断が国民の胸にどう響くか、今後の展開はその一点にかかっている。 与党セヌリ党のイ・ジョンヒョン代表は朴大統領が悲壮な表情で談話を発表する様子をテレビで観ながら涙を浮かべていたが、旧支持層に同じ思いが蘇るか。 大統領への検察の捜査は書面回答になろうが、“秘線実勢疑惑”が刑事問題に発展する可能性は低い。 主筆の宋煕永が豪華接待と収賄疑惑で辞任した朝鮮日報、サムスン系列の中央日報などはまるでアジビラのようにあることないこと書き立てるが、どの記事を読んでも噂と伝聞の域を出ない。日本なら週刊誌レベルのゴシップ三文記事である。 実際、中心人物とされる崔順実への検察の逮捕状請求理由に本筋であったはずの“秘線実勢疑惑”がソックリ抜けているのだから何をかいわんやである。 世論を意識した検察が苦労して挙げたのは、職権乱用と詐欺未遂の二点に過ぎない。職権乱用とは崔が私物化しているとされるミル財団、Kスポーツ財団に大統領との関係を匂わせて全国経済連合会やサムスンら大企業50余社幹部に圧力を加え、800億ウオンの寄付を強要したとするものであるが、漠然として、日本ならほとんど立件出来ない代物である。今日本で問題化している豊洲移転疑惑にも満たない。取って付けたような詐欺未遂容疑など思わず笑ってしまう。 そもそも民間人の崔が何で職権乱用なのか。安鍾範前大統領政策調整首席秘書官を緊急逮捕し、共犯関係とのシナリオを作り上げたが、いかにも無理がある。 自らドイツから帰国して検察に出頭した崔は容疑を全面否認し、安も否認している。「大統領の指示に従っただけ」と供述したとかしないとか報じられているが、物的証拠もなく、立証するのは事実上困難である。 アジビラ各紙は10以上も“容疑”を挙げていたが、どれを読んでも出所不明の噂と伝聞を膨らませた扇動的なフィクションのレベルを出るものではなく、法律論とは無縁である。 時局は政治闘争の局面に入っている。 ここ1、2週間で支持率が回復すれば朴大統領の勝ちとなり、支持率の回復が思わしくないと韓国の政局は混迷の度を深めるだろう。 “秘線実勢疑惑”が為にする邪推でしかなかった事が分かってくれば、事態は鎮静化すると私は読んでいる。 と言うのも、逮捕後に初めて目にする崔順実なる人物は変哲のない一女性であり、ブレーンらしくない。朴大統領の卓越したバランス外交や対北朝鮮外交を陰で操る見識や経験があるとは到底思えないのである。大統領が仕事のストレスを発散させる茶飲み友達が羽目を外した程度の話ではないか。 激高する世論を追い風にしている野党にも切り札があるわけではない。挙国一致内閣を主張し、政局の主導権を握ろうとしているが、これといった政策があるわけでもなく、政権担当能力に疑問符が付く。 特に、THAAD問題の迷走ぶりを見ても、重大な局面に差し掛かっている外交・安保を担える能力があるとは思えず、逆に不安感を募らせる。 習近平主席やオバマ大統領らと首脳会談を重ね、国際的な存在感を放っている朴槿恵大統領に代わる人材も見当たらない。 次期大統領候補に名乗りを上げている文在寅民主党議員には、ノ・ムヒョン大統領秘書室長当時の2007年の国連人権決議案採択前、北朝鮮に意見を求め、棄権を決めたと当時の韓国外相が最近出版した回顧録で明かし、致命的な内通疑惑が出ている。 もう1人の安チョルス国民の党議員は豹変激しく政治家として未熟である。 韓国の国民性は熱しやすく冷めやすい。現在の厳しい内外状況を考えれば、国政の最適任者が誰か、自ずと分かるはずである。 朴槿恵大統領がハンナラ党代表当時に事務総長として党勢回復に汗をかいた金ヒョンオ元国会議長「大統領は静かで愛国心が強い人だが、口数が少なく、公式行事以外はほとんど表に出てこなかった」(朝日新聞11月3日)と述べているが、国民との意思疎通が朴大統領の最大の課題である。その意味で左翼から招いた新首相と新秘書室長は妙味のある人事と評価できる。 外交・安保は大統領が従来通りに専権し、経済など内政は首相に任せる方式が国民大多数が望む形であろう。 |
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日本ではまたやっていると嗤う声が少なくないが、朴槿恵大統領が崔スンシルなる長年の知人に演説草稿などを見せて助言をあおいだことを明らかにして謝罪(25日対国民談話)したことに、中央日報や朝鮮日報などが「機密情報漏洩」と問題視し、辞職まで求める大騒ぎを起こしている。
韓国の新聞によく見られる特徴であるが、機密情報と云うから何事かと記事を読んでみると、それらしき事実は全くない。週刊誌レベルの噂や伝聞を膨らませて騒いでいるだけである。次期大統領選に絡む政治的な思惑、ポストや利権狙いの身勝手な主張をこっそり潜ませ、もっともらしく声高に叫ぶのもある。 腐敗癒着の温床とされた縁故文化と決別するとして先月施行された接待規制法で従来の取材活動が出来なくなった腹いせもあるようであるが、公私混同は厳に慎むべきである。 「秘線実勢疑惑」や「機密文書流出」騒動が韓国の政治・外交・外交にどれだけダメージを与えているか、当人たちは勝手に熱くなり、冷静に見えなくなっているだけに始末が悪い。 事大主義的な政争に明け暮れて国を滅ぼした李朝末期の醜態を彷彿させるものがある。 日本の政界では御意見番や指南役という言葉があるように、私淑する人物に助言を求める事は珍しくない。池田、佐藤、三木、福田、大平ら歴代首相が陽明学者の安岡正篤に演説文の草稿に助言を仰いだのは有名な話である。 朴槿恵大統領と崔スンシルとの関係はそれと似たようなもので、何故それが問題となるのかと、良識あるものなら誰でも首を傾げよう。 こう言うと、日本と韓国は異なるとの声が聞こえてきそうであるが、ちょっと待てと言いたい。 孟子は「人は私(ひそ)かにこれを人よりうけて淑(よし)とするなり」と述べ、御意見番や指南役をむしろ奨励している。儒教の国と知られる韓国でも無論、普通に行われていた政治文化なのである。 ノ・ムヒョン政権時代に文在寅秘書室長が国連での北朝鮮人権決議案賛否を巡って北朝鮮側の意向を尋ねた事が記録文書に残されていることが明らかになったが、広義には孟子の教えに従ったと見れないこともない。 大統領記録物管理法が禁ずる機密文書流出の容疑で29日に検察が大統領府の青瓦台を家宅捜査したというので日本でも大きく報じられたが、何のことはない、大統領府の横で関係書類の任意提出を受けただけのことである。世論を気にして格好をつけただけのことである。 渦中の崔スンシルが30日に「捜査に積極的に協力する」として滞在先の欧州から帰国し、「緊急逮捕しろ」と騒ぐポピュリズム病のマスコミがあったが、噂や伝聞で検察がそんなことをすれば検察ファッショになる。任意出頭を求めるのがせいぜいであった。 民間の旅客船セオル号が沈没した時も冷静であるべきマスコミが出所不明の噂や伝聞で大統領の責任を声高に追求し、日本でも何を騒いでいるのかと驚かれた。 イタリアでも同様の事故があったが、無論、大統領や首相の責任が問われることはなかった。日本では未曾有の被害をもたらせた福島原発事故があったが、これも首相の責任がどうのと騒ぐマスコミはなかった。 事故が本筋から憶測を逞しくした韓国特有の「秘線」疑惑などへとずれ、政局、政争へと発展して国中が熱病に憑かれたように大騒ぎするのは、先進国では韓国ぐらいだ。そのため無用に政治の空白が生じ、国力を浪費している。 事実と主張の違いを弁え、成熟した法治国へと脱皮する必要があろう。 朴槿恵大統領にも事態を不必要に政治問題化した責任がある。頑固を意味する不通が国民の不興を買い、支持率を落としている。記者会見を増やすなど国民との対話の窓を広くし、国政の風通しをよくする必要があろう。 しかし、基本線は変える必要はない。言うまでもないが、信念は政治に不可欠であり、それに基づく首脳外交は米中を繋ぐ朴槿恵流のバランス外交として韓国の国際的な発言力を高め、対北朝鮮政策ではかつてない成果を挙げている。 今回の謝罪記者会見はいかにも唐突で、火に油を注ぐ結果となったが、あるいはその2日前に明らかにした改憲論と連動したショック療法なのかもしれない。 確かに、大統領任期が1期5年というのは非合理的であり、先進国では韓国ぐらいだ。年中行事のような政争の要因となり、今回の事態も背景にそれがある。 もはや1987年の民主化闘争の古いノリで政治を行う時代ではない。事実と主張の違いを弁え、噂や伝聞で大騒ぎする政争文化に終止符を打つ時である。 米国を参考に2期10年に変え、朴槿恵大統領の信任投票を行ったらどうか。 |
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米中対立の狭間で韓国が股裂きになっていると揶揄する声が日本でかまびすしく、韓国のマスコミにも憂慮する論調が見られるが、一部の現象に目を奪われた皮相な見方である。
反中に傾く安倍政権は朴槿恵政権を味方に取り込みたいが、思うようにならない。そこで股裂き論で揺さぶる。憂さを晴らす気分が半分あり、一部では極端な反韓論となって噴き出している。 韓国の親米的なマスコミには、米国に愛想をつかされるとの恐怖感にも似た思いがある。「日米同盟の深化」と聞くと半ば条件反射的に「韓国は韓米日連携から取り残される」と怯えたりする。 ともに転換期にある東アジア情勢の本質が見えておらず、一喜一憂しているからにほかならない。 5日までシンガポールで開催された「アジア安全保障会議」でカーター米国防長官が中国の南シナ海の岩礁埋め立てを「軍事拠点化だ。最強の軍事力を投入する」と牽制し、中国の孫建国・中央軍事委連合参謀部副参謀長が「ある国が横槍を入れてくる」と対抗措置も辞さない構えを見せた。 それに対して米中が対立局面に突入したと日韓マスコミは書き立てるが、外交的な前哨戦に過ぎないことが見えていない。 事実、6日に北京で開かれた「米中戦略・経済対話」の開幕式で習近平主席が「個別的な問題で両国関係を損なってはならない。しばらく解決できない問題もあるが、相手の立場を考え、実務的、建設的な態度で管理を強めなければならない」と述べ、米中協力の必要性を強調した。 米国側からはケリー国務長官やルー財務長官らが出席したが、前日のシンガポールでの激しいやり取りが嘘のように、楊チェーチー国務委員、汪用副首相らと和気藹々と交歓していた。 2日間、安保、経済、環境など包括的な協議を行う。派手な話題に飛び付くマスコミは「最大の焦点は南シナ海問題」と伝えるが、同問題はシンガポールでガス抜きが終わった。 最大の焦点は地味な経済問題である。 習主席はそれを見越して、「中米間の貿易・投資額は過去最高を更新している。中国は今年からの13次5ヶ年計画でサプライサイドの構造改革や経済の対外開放を進める。(5年平均6・5%以上の経済成長の)目標達成に自信を持っている」と述べている。 それこそ景気対策に腐心するオバマ政権が最も知りたいことに他ならない。先の伊勢志摩サミットで呼び掛けたことであり、たけなわの大統領予備選の最大の争点ともなっている。 アベノミクスは失敗か成功か、の判断が分かれ目となる日本の参院選にも少なからぬ影響を及ぼそう。 経済的な依存関係を強める米中は、共倒れ必至の全面対立は避けざるを得ない。 そうした経済的必然性のもとで国際社会の新たな線引き、すなわち「新型大国関係構築」を行っているに過ぎない。(詳しくは『二人のプリンスと中国共産党』参照) そうした大局的な見地から、米中間のバランスを取ろうとする朴槿恵政権の外交姿勢は理に叶っている。 二股に映り、米中対立で股裂きになるリスクを負うことは否定できないが、個別的な問題で対立する米中を取り持つ役割を果たすことが出来れば、地域の平和と安定に大きく貢献できる。 尖閣問題を抱え、米国に偏る安倍政権には真似出来ないことである。 実際、朴槿恵大統領はオバマ大統領、習主席との会談を重ねて個人的な信頼関係を築き、両者をつなぐなど、世界有数の経済大国としての韓国外交の新たな地平を開いている。 韓国のマスコミにそれがまだ十分に見えていないのが惜しまれる。 具体的には、AIIBに理事国として積極的に参加した事は同行が始動するに連れ決定的な意味を持つであろう。 韓国の原油輸入ルーとでもある南シナ海問題では、中国批判を避けながら、国際法に基づく解決を促し、国連を中心とした合理的な着地点を模索している。 極め付きはやはり北朝鮮核問題である。 オバマ大統領と圧力・制裁優先で足踏みを揃える一方、習主席との7回もの会談で戦略的な合意に達し、北朝鮮制裁に舵を切らしたことは特筆に値する。 先の李スヨン労働党副委員長らの訪中団で朝中関係修復と報じるマスコミが多いが、両国が元の友好関係に戻ることはもはや不可能である。 習主席は北朝鮮側の食糧支援要請に満足に応じず、圧力をかけている。並進路線を認めず、核廃棄を促したことは言うまでもない。噂される金正恩訪中は、核廃棄が中心議題になるしかない。 このまま制裁が強化されていけば、金正恩政権は長くて3、4年であろう。 米国は北朝鮮を資金洗浄主要懸念国に初めて指定して金融取引禁止を決め、米国銀と取り引きする第3国にも同調を求めている。中国が応じれば金正恩政権の命綱である外貨獲得の道が断たれる。 米国の国内法(愛国法)に従うことをよしとしない中国は今のところ応じていないが、朴槿恵政権がここが勝負どころと、一歩前に踏み出した。 高高度ミサイル迎撃システム(THAAD)配備問題がそれである。 Xバンドレーダーで内陸部まで探知されるのを嫌がる中国が韓国配備に反対し、韓国がそれを外交カードにして中国に対北朝鮮制裁を促してきたことは、私が以前から指摘したとおりである。 シンガポールでの安保会議直前、米国が大邱配備を決めたと日本のマスコミが特報したが、韓民求韓国国防長官が同会議で「まだ決まっていない」と否定した。中国が金融制裁など対北制裁レベルを一段と高めれば配備はしない、と暗に求めているのである。そもそも北朝鮮が核を放棄さえすれば高価なTHAADは必要ない。 朴槿恵大統領は任期中に北朝鮮核問題に区切りをつけ、改革開放へと誘導することに外交の総力をあげている。いよいよ正念場である。 なお、THAADを日本(福岡若しくは沖縄)に配備する計画もあるが、これだと露骨な軍事的な圧力となり、中国の反発は避けられない。 韓国ならあくまでも対北朝鮮とカムフラージュし、中国の反発は多少和らぐ。そこに米国の狙いがある。 金正恩委員長は小国北朝鮮が東アジアのパワーゲームに利用されている客観的状況を正確に理解しなければならない。 喉から手が出るほど欲しい外貨も、核を放棄さえすればTHAADに要する10兆ウオンが北朝鮮経済支援へとふりむけられる。 |







