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金正恩委員長とトランプ大統領の幕裏デイールは佳境に入りつつある。
それを端的に物語るのが、金正恩のスポークスレデイーである崔善姫外務次官の一連の発言である。15日、「いかなる形でも譲歩するつもりはないし、そのような交渉は望んでいない」と述べた、とタス通信が報じた。ハノイ首脳会談でトランプが求めた完全非核化を念頭に置いた発言である。主語を曖昧にしているが、トランプ側には金正恩の意向と伝わる。 崔はハノイ会談決裂直後にも同様な発言をして米側をおそるおそる牽制した。会談決裂は望まない、どうか寧辺核施設廃棄の見返りに制裁を解除してほしとの金正恩の切なる思いを代弁しているのである。 それに対するポムペイオ国務長官ら米側の反応が自制的なのは、ある程度金正恩の本音の部分を見透かしているからと読める。 議会で弾劾の気運が高まるトランプの足元を揺さぶって何とか譲歩を迫ろうとの苦肉の策であるが、金正恩は腰が引けている。 トランプ以上に追い詰められているからである。ハノイ会談決裂後に中国首脳との会談を求めたが、袖にされ、孤立感を深めている。 国内も厳しい。実際、金正恩は今、戦時用に備蓄した2号倉庫、5号倉庫の米まで配給に回して急場を凌ぐ状況にまで追い詰められている。 猛暑と干魃、洪水被害で昨年の穀物総収穫量が500万トンを割り、多くの国民が食糧難の春窮にあえいでいる。大規模暴動に発展しかねない状況であり、強権的支配は限界に近付いている。 金正恩は戦略的次元の根本的な手直しが求められている。 核開発と経済建設を同時に進めると豪語した並進路線が完全に破綻し、全てが裏目に出ているのである。 日本のマスコミはどこも、その点がまだ理解できていない。 昨年4月、金正恩は並進路線は勝利したと終了を宣言し、経済建設に総力を挙げる新方針を宣言した。これを真に受け、北朝鮮は核開発所期の目的を達成し核保有国になったと報じているが、北朝鮮の実態が全く見えていない。 実態はどうか? 鉱物資源や労働力輸出を制裁対象に含めた2016年以降の国連制裁決議が効果を現し、資金難資材難から、核ミサイル開発は核小型化とICBMの実戦化で行き詰まり、中途半端である。 軍需に予算を取られた民政部門はどれも計画倒れの枯れ死状態であり、金正恩が提唱した5ヶ年計画は絵に描いた餅でしかない。 つまり、並進路線は軍事的にも経済的にも破綻し、北朝鮮の国力をいたずらに消耗させたのである。 その責任を回避しようと、金正恩は一発勝負に出た。トランプとのトップ会談に賭けたのである。 事実、昨年の第一次会談は北朝鮮国民に希望を抱かせた。「米大統領とのトップ会談は偉大な金日成大元帥も出来なかった・・・」と、一部にカリスマ性も芽生えた。 それだけに今年の第二次会談への期待は大きかった。制裁が解除され、生活が良くなる、と。当然、それに失敗すれば反動は極めて大きい。 北朝鮮指導部もそれを十分に理解しているので、いまだに対応に苦慮している。会談決裂、と報じるわけにはいかず、朝鮮中央通信や労働新聞は肯定も否定も、一切報じていない。しかし、国民の間には中国国境地帯での携帯やスマホ情報を通して、失敗したらしいと噂が拡散している。 労働党内部の学習会では「核は手放さない。自力更正で耐えよう」と引き締めを図り、他方で備蓄米を放出して動揺を抑えるに必死だが、事は時間との戦いのレベルに入りつつある。南米のベネズエラと状況が似てきた。 余録だが、著名な投資家のジム・ロジャースが近著で「北朝鮮は5年以内に世界で最も魅力的な投資先となる」と語り、話題を集めている。特別な根拠を挙げているわけでもなく、私が以前から述べていることを後追いしたような話である。だが、第二次首脳会談を迎えトランプ大統領が「北朝鮮は核廃棄し、改革開放に向かえば世界のどの国よりも急速に発展する」とツイッター等で発信し、北朝鮮を新規の有望な投資先として世界中に認知させた事は間違いない。 ハムレット金正恩も本音では気苦労抜きに贅沢三昧できる儲け話に乗りたいであろう。 保守強硬派を説得できるか、その一点に注目しよう。 |
金正恩政権の深層分析
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金正恩委員長の自称「電撃訪中」の訳に対して様々な憶測が飛び交っているが、どれも群盲象を撫でる類いの域を出ず、肝心な点を見逃している。
北朝鮮政権中枢部でさえ直前まで知らなかった金正恩の電撃訪中は、簡単に言えば、なりふり構わぬ駆け込みである。「中国取り込み」は主客転倒の戯言に等しく、「後ろ楯を得る」といった悠長なレベルの話でもない。 直接のきっかけは、トランプ大統領のツイッター人事による国務長官、大統領補佐官(安全保障担当)の交代である。対話にも一定の理解を見せていた前任者に代わって、斬首作戦を主導したポンペオCIA長官、軍事オプションを一貫して主張してきたネオコンのボルトン元国連大使と超強硬派がそれぞれ後任に決まった。ボルトンは最近まで「先核放棄後補償」のリビア方式を主張し、北朝鮮がそれを受け入れなければ軍事力を行使して核・ミサイル施設を破壊すべきと公言していた。 5月末の米朝首脳会談を控えた金正恩はその人事にトランプの意図を見てとって、恐怖感に駆られたのである。以前私が指摘したように文在寅韓国大統領に後見人的な仲裁役を期待したが、それでは覚束なくなってきたというのが正直なところであろう。 トランプ大統領には昨年春の習近平主席との会談中にシリアのロシア軍空軍基地をミサイル攻撃したと伝え、習を唖然とさせた前歴がある。自分の子供か孫の代の金正恩を「リトル・ロケットマン」と呼んでいただけに、面と向かった首脳会談で核廃棄にイエスかノーかと単刀直入に迫ろう。せっかくのデイールに水を差す返事でもしたら、それこそ「世間知らずのバカヤロー」と叫んで席を蹴り、すかさず2、3年前から米韓合同軍事演習で繰り返し準備してきた軍事作戦を命令する事態も十分に考えられる。 29日にシリア駐留米軍を「as soon as possible(早急に)」撤退させる意向を表明したのも、財政的問題とは別に、来る北朝鮮作戦に戦力を集中する布石と読めないこともない。 誰よりも金正恩当人がそれを感じ取っていよう。中国の力を借りて米国の軍事行使に少しでも歯止めになればと保険を掛けたのである。 豪胆と偶像化され、日韓にも為にする宣伝を真に受けている向きがいるが、実は、気が小さく猜疑心の強い性格である。叔父や兄を含む幹部らを前後の見境もなく衝動的に虐殺したのは、それに起因する。 即核廃棄を求めるトランプに対し、「段階的措置」を何とか認めさせ、体制保証を確固としたいのが本音であろう。 金正恩の「電撃訪中」は想定の範囲内であった。2年前に出版した『二人のプリンスと中国共産党』で明確に指摘したように、世界はG2、すなわち「米中新型大国関係」を軸に動いており、大局的には北朝鮮問題はその各論でしかない。 習近平主席にとって金正恩非公式訪中は「窮鳥懐に入らば」であり、ほくそ笑みながら至りつくせりの厚遇で迎えたのである。トランプにまた貸しが出来ると算盤を弾いていた。 そもそも金正恩政権が窮地に陥っているのは、米韓の軍事的圧力と北朝鮮貿易の9割を占める中国による強烈な経済制裁である。 金正恩としては中国の理解を得ないことには動きが取れない。習主席の言葉を健気にメモしている様子が中国国営テレビに大きく映し出されたが、核問題で恭順の意思を表していると言外に語っている。 中朝首脳会談には事実上のナンバー2で、対米外交を統括する王岐山副主席が陪席している事が、習近平主席が米国を強く意識しながら対北朝鮮外交に当たっている事を如実に示している。地域の安保問題におとらず、関税問題などの死活的課題で米国から譲歩を引き出す上で北朝鮮は貴重なカードになっているのである。 実際、会談翌日、中国当局は米国に内容を通報すると共に、「制裁は継続する」と明言している。これに対しトランプ大統領は早速ツイッターで満足の意を表している。 さらにもう一つ、極めて重要であるにも関わらず日本の新聞、テレビが見逃されている事がある。金正恩政権の立場から朝米首脳会談を報じる北朝鮮国営テレビの記録映像に、私がかねてから北朝鮮のナンバー2、陰の実力者と書いている崔龍海副委員長・組織指導部長が金正恩の側にピタリと張り付いている様子が出てくる。 北朝鮮国民が見れば自ずと感じ取る事であるが、今後の展開に大きな意味を持ってこよう。 |
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北朝鮮執権層が疑念の目を向け始めた金正恩の最大の失敗は、絶対に勝てない喧嘩をトランプに売った事に尽きる。
北朝鮮と米国との確執をチキンゲームに例えるのは誤りである。金正恩にとってはそうかも知れないが、トランプにはタンクでオンボロ自動車と対峙しているようなもので、相手が飛び降りるのを待っても、自分から飛び降りる気はさらさらない。彼我の軍事力は巨象と蟻のごとくである。 一部には開戦したら日韓に膨大な人的、物的損害が出ると脅える声もある。クリントン政権時代のペリー国務長官がそのような報告書を出したのは事実であり、臆病な東証の株価が北朝鮮リスクに影響されて上下するのはその名残である。 しかし、この点が極めて重要であるが、ペリー報告はあくまでも通常戦力に限定されたものであり、核攻撃を想定していない。 北朝鮮が蟻が象に立ち向かうように絶対に勝てない理由は、まさにロシア、中国をも怯ませる米国の強力な核兵器にある。 まさか核だけは使わないだろうとこの期に及んでも思い込んでいる能天気な向きは、マテイス国防長官が21日にグアンタナモ基地で米軍将兵を前に述べた次の言葉を、耳の穴をかっぽじって聞く必要がある。 「米国はロシアと中国は核戦争を望んでいないと知っていたが、金正恩はそうではない。」 意味するところはズバリ、金正恩が核戦争を挑発するので米国は核を使わざるを得ない、ということである。マテイスは以前から「開戦すれば一瞬で決まる」という事を言っていたのも同じ文脈である。 金正恩は口癖のように核抑止力を口にするが、本来の意味がよく分かっていない。互いに核戦争を回避したい思いがあれば、抑止力が働く事は冷戦時代に証明された事である。 しかし、金正恩はその不文律を侵し、ワシントンを焦土化すると再三公言してきた。21日にピョンヤンで開催された第5回党細胞委員長大会で「米国に実際の核の威嚇を加えられる戦略国家に急浮上した」と演説している。井の中の蛙の金正恩は自分の言葉に酔っているのであろうが、それが核攻撃を受けるリスクを限りなく高めている事が分かっていない。あるいは、薄々感じてはいるが、威信を誇示して内部を引き締める為に誇張しているのであろう。 核過信症の金正恩はたとえ数発でも核弾頭搭載ミサイルを有すれば、米国を脅し、自己主導の交渉のテーブルにつけさせる事が出来ると思い込んでいるが、キューバ危機でのケネディ大統領の例を挙げるまでもなく、あり得ないことである。 外交文書公開で最近明らかになった衝撃的な事実であるが、ニクソン大統領は1969年に米軍の偵察機が北朝鮮領空近くで撃墜された直後、核攻撃命令を下した。しかし、寸前のところでキッシンジャー補佐官が「大統領は酔っている。翌朝まで待て」と押し止めたという。「フリーダムドロップ」と呼ばれる核攻撃プログラムであるが、核のボタンは外部で思われているほどアンタッチャブルではない。 ましてや、核ミサイルが未完の段階では尚更である。金正恩は同会議で「核戦力完成」を強調したが、直近の火星15号が大気圏再突入時にバラバラになるなど、これまでの実験結果から核小型化、大気圏再突入技術は未完成と米韓は判断している。つまり、核は保有しても、実戦に使えるレベルではない。 その上で、完成阻止に照準を合わせているが、トランプが再三述べていることからそのシナリオを整理すると、北朝鮮への経済制裁を極限まで高め、強制的に金正恩を核廃棄の交渉に引き出す。金正恩が応じなければ、最後の手段として軍事行使をする、となる。 その最終期限は来年春頃となろう。文在寅の顔を立て、また金正恩に最後のチャンスを与える意味もかねて米韓軍事演習をピョンチャン・オリンピック以降の3月に延期する。それでも金正恩が核廃棄交渉に応じなければ、攻撃する名分が立つと考え、演習から北朝鮮先制攻撃へと発展させる。トランプの計略を深読みすれば、そうしたケースが浮かんでくる。 北朝鮮指導部もムザムザ攻撃されるのを腕をこまねいて見ているほどバカではない。韓国に先制攻撃を加える可能性はゼロではないが、勝算が立たないだけに限りなく低い。 金正恩が核開発に固執するのは危険と判断し、それを排除する動きが北朝鮮指導部から出てくる可能性がある。 米韓側は核放棄さえすれば、体制保証に経済援助を与えるとあらゆるチャンネルを通して伝えており、北朝鮮指導部からそれに呼応する勢力が台頭するかもしれない。 実際、金正恩は疑心暗鬼に駆られた気紛れな粛清が離反を招いて政権基盤が弱体化しており、唯一信じる妹の与正の助けを借りなければならないほどである。相次ぐ北朝鮮兵士の脱走や日本海岸に流れ着く大量の木造船は氷山の一角であり、疲弊しきった北朝鮮崩壊の前兆である。浮き上がった若輩の兄妹で政権を維持できるほど状況は甘くない。 注目すべきは、10月の労働党全員会議でまんまと組織指導部長に収まった崔龍海副委員長である。日本ではほとんど知られていないが、組織指導部長のポストは金正日が叔父の金英柱から奪い、後継者の地位を固めた党の中枢部である。金正日は終生、その地位を兼ねて権力を保持してきたが、党務経験のない金正恩は崔にあっさりと明け渡している。 崔は案の定、組織指導部長に就くと人員軍総政治局の検閲を実施し、ライバルの黄柄瑞総局長、金元弘第一副総局長らを追い落とした。金正恩を操って大恩人の元ナンバー2の張成沢を失脚させた謀略家であり、いつ金正恩委員長の寝首を掻くかもしれない。 米国や中国による制裁圧力が強まるほど政変の可能性も高まるであろう。 蛇足になるが、トランプ大統領は18日、安全保障政策の基本となる「国家安全保障戦略」を発表し、中国、ロシアを「米国の力に挑戦する現状変更勢力」「修正主義勢力」と規定し、特に中国に対して「米国の戦略的な競争国」、「強国同士の競争が再来している」と対抗意識を剥き出した。逆説的にG2、米中新型大国関係を認めたことになるが、十分に予想されたことである。 私は、2年前に出版した『二人のプリンスと中国共産党』の「第6章 中国が米国を追い抜く日」で、米中逆転が迫っていると分析した。米国が格差拡大や成長停滞など資本主義体制が行き詰まっている一方、中国が改革開放政策で毛沢東時代の経済的停滞と政治的混乱を克服し、社会主義・共産主義社会建設への展望を持ち、新たな体制競争が始まると予測したのである。 それを裏付けるように、さる10月の中国共産党大会での演説で習近平総書記は「社会主義現代化強国」を繰り返し強調し、「社会主義の核心的価値観を家庭、子供に徹底させる」と述べた。 大資本家でもあるトランプ大統領には衝撃であったろう。冷戦に勝利した米国は市場経済を導入した中国をWHOに加盟させて資本主義秩序に組み入れ、関与政策で民主化、自由主義化へと誘導した。その期待が打ち砕かれてしまったからである。「中国は国家主導の経済モデルを拡張」と警戒感を露にし、「米国は過去20年の政策の再考を迫られている」とまで述べている。 原論的に俯瞰すれば、北朝鮮問題は一見して米朝問題であるが、北朝鮮の命綱である原油禁輸問題に象徴されるように、実態は新型の米中大国関係の各論として展開しているのである。金正恩には新時代の大局が全く見えていない。 |
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国連政治局は「フェルトマン事務次長・政治局長が5日から8日まで北朝鮮を訪問し、李容浩外相と会談する」とツイッターで発表した。
国連は朝鮮休戦協定の当事者であり、国連軍を代表し、安保理常任理事国でもある米国の意向を受けたものであることは言うまでもあるまい。 中国特使に続く特使であり、金正恩委員長にとっては対話を通して核問題を平和的に解決する最後のチャンス、と読める。 国連特使派遣は9月に北朝鮮側が要請していたというが、中国特使訪朝後に実現したことに特別な意味がある。 トランプ大統領との会談を受けて習近平主席が派遣した特使に金正恩は会わず、トランプからの事実上の最後通諜を無視した。その直後の11月29日に火星15号発射実験を敢行し、「国家核戦力完成の偉業を達成した」と豪語し、米国全域を核攻撃出来ると威嚇した。 金正恩独特の思い込み的な思考方式であるが、米国が恐れをなして対話の席に出てくると期待したのである。習特使が求めたのは核放棄を前提とした対話であるが、それを蹴って金正恩が求めるのは核保有国同士の対話であり、核保有を認めさせることに最大の狙いがある。 火星15号発射は核に政権の命運を託した金正恩の大きな賭けであったが、見事に外れてしまった。 韓米軍事当局の発表によると、単純に飛距離は伸びたが、大気圏再突入技術は確立されていない。その後、同じ時間帯に同空域を飛んでいた香港のキャセイ航空機のパイロットがバラバラになって落下するミサイルを視認していたと報じられた。日本の某テレビ局が実験翌日、日本海岸部の住民がスマホで写した、夜空から火の玉が落ちてくる映像を流していたが、北朝鮮ミサイルの残骸とみられる。 つまり、火星15号は実戦配備出来る段階ではないということである。しかし、米国を核攻撃する狂気が金正恩にはあることを如実に示した。 米国で北朝鮮攻撃論が急速に高まっているが、愚かにも金正恩はトランプに自衛権行使、及び人気挽回の口実を与えてしまったのである。 米軍は4日から8日までF22、F35のステルス戦闘機、B1B戦略爆撃機など史上最大の空軍力を動員して韓国空軍との合同演習を行っており、岩国や嘉手納基地が使われ、自衛隊機も一部参加している。いつでも実戦に移れるモードである。 北朝鮮東海岸の新浦港でSLMA実験の動きが把握されているが、それを新たな挑発とみなした空爆もあり得る。 軍事力の差は象と蟻ほど圧倒的な差があり、戦術核で攻撃されたら北朝鮮軍は反撃の間もなく壊滅してしまうだろう。 金正恩は核ミサイルを実戦化すれば米国の脅威を免れると稚拙な核抑止論に一抹の期待をかけるが、幻想である。現実は刻一刻とリスクを高めている。 国連特使の助言を受け入れ、核放棄を約して米国との対話に向かうしか、事態を平和的に解決する術はない。 北朝鮮指導層にも動揺が広がっており、前にも指摘したジンバブエ化の可能性が高まっていると読める。 金正恩の無謀な核開発路線の犠牲になっているのが、北朝鮮国民である。 日本海岸に相次いで北朝鮮の粗末な木造船が漂着し、白骨死体まで発見されている。破綻する北朝鮮経済の最後のあがきというべき漁獲増産闘争に駆り出された地域住民の窮状を物語る。 金日成に忠誠を誓った世代は、自身を犠牲にしても次の代には同じ思いをさせまいと一生を捧げながら、半世紀以上も経った今もなお、全く同じ事を子や孫の代が繰り返している。その絶望や苦しみは想像して余りある。 |
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金正恩政権はあとどのくらい持つだろうか?
金正恩委員長が9月15日に中距離弾道ミサイル火星12号を発射して以来、1ヶ月以上も沈黙している。その謎解きをNHKなどが特番で試みているが、謎は深まるばかりだ。発射命令を出せる唯一の人物である金正恩の心理が読めていないからである。 沈黙の訳は一言で言えば、火星12号発射で米国の譲歩を期待したが、逆に中国を巻き込んだ想定外の反発を招き、次の手を出しかねて立ちすくんでいるのである。 先制攻撃を招きかねないと、動揺していると言っても過言ではない。 トランプ大統領はツイッターで7日、「たった一つの事が効果がある」と呟いたが、サイバー部隊や自身愛用のスマホで米側の反応を随時チェックしている金正恩は、それを読んでトランプが本気で軍事行使を考えていると受け取ったことであろう。 テイラーソン国務長官が北朝鮮への対応でトランプ大統領と衝突し、軍事行使には消極的と報じられていることに大いに気をよくしていたが、そのテイラーソンまでが「外交努力は最初の爆弾が落ちるまで続ける」と、軍事的選択肢を想定した発言をしたことに衝撃を受けたとみられる。 金正恩は米韓の先制攻撃の脅威をもろに感じている。 米韓は原子力空母ロナルド・レーガン、戦略爆撃機B1B、F22ステルス戦闘機など核を含む戦略兵器を集結し、16日から20日まで朝鮮半島東西海域で合同軍事演習を実施した。 ロナルド・レーガンは香港に寄港してから演習に参加しており、事実上、中国も北朝鮮有事に一定の理解を示している。 米軍が軍事攻撃をマニュアル化していることは、米誌フォーリンポリシーが18日、「米軍はさる9月、東海(日本海)に展開した米艦に北朝鮮を標的にした巡航ミサイルのトマホークの発射準備命令を出していた」と報じたことからもうかがえる。 米韓が狙うのは金正恩暗殺である。その任務を帯びた米海軍特殊部隊シールズがロナルド・レーガンに乗船しているとも報道された。 金正恩はそれに脅え、神経を尖らせている。 それを裏付けるように、朝鮮中央通信が18日、「危険千万な軍事的挑発だ」と北侵核戦争演習反対全民族非常対策委員会の報道官声明を出した。 一見して強気な言葉が並ぶが、正規の外務省や軍ではなく、急造の格下の団体に声明を発表させたことに意味がある。米国をあまり刺激しないようにと、腰が引けているのである。 金正恩は9月21付声明で「超強硬措置」に言及し、直後に国連総会に出席した李容浩外相が「太平洋上での水爆実験」と示唆したが、その強気は完全に影を潜めている。 そこで、外交で活路を開くしかないと必死であるが、対米外交の切り札というべき崔善姫・外務省北米局長の外交も行き詰まっている。 崔はモスクワで開催された国際会議で「核兵器は米国だけが標的」と従前の日韓への攻撃論を否定し、「米国との対話はある」と思わせ振りな発言をして揺さぶろうとした。米国との直接対話に持ち込もうと必死だが、トランプ大統領が核放棄の前提無しでの対話に応じない姿勢を明確にしているので行き詰まっている。 そもそも金正恩が「米国との核均衡」を主張すること自体が、天と地ほどの軍事力経済力の差を直視しない妄想の類いでしかない。 核廃棄を受け入れて対話に臨むしか金正恩に選択肢は無くなっているが、金日成直系孫の金正男暗殺や古参幹部の大量粛清で政権は権威も人材も失い、空洞化しており、強硬路線転換を行える政治力が残されているか疑問だ。進むも地獄、退くも地獄である。 私は1年前に「金正恩政権の余命は2年±α」と予測したが、どうやら当たりつつある。 さる16日、金正恩の統治資金を管理する39号室の元幹部もニューヨーク市内の講演で「1年乗り切れるかどうかわからない」と私のブログを読んだようなことを述べている。 制裁の効果について疑問を呈する声が日韓言論に見受けられるが、木を見て森を見ない拙論である。2014年の脱北直前まで39号室傘下の企業のトップを務めていた元幹部は「国連安保理が9月に採択した新制裁決議は北朝鮮市場を完全に封鎖した」と指摘しているが、政権中枢の認識に近い。 北朝鮮政権が20年の制裁に耐えてきたのは事実であるが、基幹経済は崩壊、国民生活が窮乏化し、最後の段階に入っている。迫り来る厳冬に空腹を抱え怯える国民の姿が目に浮かんでくるようである。 石油、食糧など北朝鮮が戦略物資を依存している中国が金正恩政権の命綱を握るが、習近平政権は二年前に出版した『二人のプリンスと中国共産党』で予測したように、共産党大会で権力基盤を磐石にし、社会主義強国=格差ゼロの共産主義社会実現のロードマップを自信たっぷりに描いた。北朝鮮問題にもいよいよ本腰を入れてこよう。 中国税関総署は9月は対北朝鮮輸出が前年同期比6・7%減の2億8千万ドル、輸入が37・9%減の飢5千万ドルと発表した。これからもドンドン締め付ける一方、金正恩が助けを求めてくる作戦と読める。 他方、日本では安倍首相が「圧力を最大限に強化」と公約にうたい、北朝鮮を国難と争点化して総選挙で勝利した。朝鮮有事を想定し、トランプ大統領の軍事オプションに協力する布石と見受けるが、日本が軍事的に前のめりになると中国、さらには韓国が警戒し、事態を必要以上に複雑化させる恐れがある。 トランプ大統領が来月上旬に日本、韓国、中国を歴訪するが、北朝鮮を締め上げながら、他方で域内諸国の対立を利用し、貿易赤字解消を図ろうと算段しており、軽挙に行動すべきではない。 |


