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北朝鮮の金正恩委員長が1日に発表した「新年の辞」で「いつも気持ちだけで、能力が伴わないもどかしさと自責の中で昨年1年を過ごした」と自己批判し、頭を下げた。
昨年の北朝鮮は北東部地方が大水害に襲われ、経済成長率もマイナス(韓国側推定で−1・1%)に大きく落ち込み、国民生活は一段と困窮している。 国家指導者として責任問題に言及するのは普通の国なら当然の在り方であるが、そこは極端な個人崇拝の独裁国、異例と受け止められている。 実際、金日成以来三代続く絶対的な世襲体制で有り得なかった現象であるが、一体、何が起きているのか? 金正恩委員長は一方に於いて強気である。持論である核と経済を同時建設する並進路線の旗を降ろそうとせず、「初の水爆実験・・・核爆弾爆発実験が成功裏に行われ、大陸弾道ロケット試射発射準備が最終段階に入った」と述べ、今年も引き続き核戦力を強化すると強調している。 金正恩当人に専門知識が全くないのでどの程度実態を把握しているのか心許ない点があるが、実戦レベルにはほど遠い。 韓国国防省2016年版国防白書は「核弾頭の小型化能力は相当なレベルに達した」と一定の評価はしながらも、水爆実験は成功していないとする。ミサイルについては「ICBM技術はない」とした。北朝鮮は昨年、20余のミサイル実験をしたが、4回しか成功していない。中核のムスダンはことごとく失敗している。 核・ミサイル実験を恫喝外交のカードと考えている金委員長としては想定外のことであろうが、2度の核実験を含め、実験を重ねるごとに、逆に、精度の低さ、回収されたロケット部品の脆弱性など弱点が韓国側に漏れる結果となっている。 米政府の公式見解も韓国と同様であり、「核の小型化も運搬技術もない」としている。 韓米と対照的に、日本では防衛省等が北朝鮮の核・ミサイル技術を比較的に高く評価する傾向がある。しかるべき対応が必要とTHAAD導入議論まで一部に起きているが、これには別の狙いがある。 北朝鮮の脅威は建前であり、本音は尖閣有事など中国に備えて軍事力を強化することにある。 金正恩委員長が核ミサイルにこだわる理由は単純で、米国に脅威を認識させ、交渉の席に引き出すことにある。 しかし、イランとの核合意を批判する強気のトランプ大統領の登場で先行きが一段と厳しくなった。「中国が責任を持つべきだ」とツイッターで注文を付けており、金正恩政権排除に向けて制裁強化、もしくは積極的な軍事的関与を強めてくる可能性が高い。 最後の切り札である米国との直接交渉に展望がなくなると共に、金正恩委員長の政治的な影響力は低下せざるをえないだろう。 米政府は昨年、金正恩委員長を政治犯収容所等での人権侵害を理由に制裁対象に含めたが、さる11日には妹の金与正労働党宣伝扇動部副部長を新たに制裁対象に含めた。金ファミリー排除にかかっていると見られるが、北朝鮮支配層に衝撃となって伝わるであろう。 金正恩時代になって労働新聞等から「白頭の血統」という金日成以来の革命的な血脈を誇示する枕詞がメッキリ見えなくなった。 金正恩氏が金ファミリーの中核にいた後見人である叔父の張成沢国防委副委員長を粛清したことで、事実上、神聖不可侵とされた金ファミリーの権威は大きく傷付いた。 金正恩氏は独自の権威付けをしなければならなくなったが、致命的な秘密を抱えている。母親の高英姫が在日出身という事実である。 昨年、韓国に亡命したテ・ヨンホ元北朝鮮駐英公使が17日に韓国国会議員らとの懇談会で明らかにしたところによると、金正恩氏は執権直後の2012年初に「先軍の母」という実母の宣伝映画を製作したが、事前鑑賞した幹部たちが「この映画が表に出れば、失うものばかりで得るものがない」と反対し、お蔵入りとなった。同じ頃、実母の墓を作り、幹部らに参拝させたが、墓には「先軍の母の墓」とあるのみで、名はない。 こうした事実は、北朝鮮幹部の間で金日成以来、「動揺分子」に分類されていた在日への差別意識が根強く残っていることを物語る。 金正恩氏の屈辱感と怒りはいかほどであったろう。徹底した恐怖政治と過酷なまでの幹部の大量粛清は意趣返しと考えれば理解できる。 昨年5月の労働党第7回大会直前に「人民の偉大なる空」なる171ページの写真集が刊行され、金委員長の偶像化が図られた。青年層にはある程度浸透しているが、生活苦に喘ぐ一般住民はしらけている。 昨年12月の金委員長の活動を伝える朝鮮中央テレビの記録映像で左足を引きずって歩く姿が確認されているが、孤独の指導者の前途は多難である。 |
金正恩政権の深層分析
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前にも指摘したが、いよいよ経済成長率がマイナスに落ち込み、後がなくなってきた金正恩政権の寿命は、2年±αが順当なところであろう。
占いをしているわけではないので、必然的な理由に加え不確定要素も考慮し、±αとした。生活の困窮化と過度の幹部粛清による対立激化で政権基盤が不安定化しており、ある日突然、暴動、内乱で崩壊する可能性もある。 韓国情勢が緊迫化し、不確定要素が更に1つ加わったことは否定できない。 それに幻惑され、一部に金正恩政権は生き延びる、はては南を武力吸収するといった極論まで口にするお調子者が見受けられるが、為にする妄想の類いでしかない。 韓国統計庁が14日に発表した「北主要経済指標」によると、昨年度の北朝鮮のGNIは34兆5120億ウオン(約3兆円)、1人当139万ウオンであり、韓国1565兆3094万ウオンに比べ、総合で約45分の1、1人当22分の1にしかならない。しかも、昨年の北朝鮮の経済成長率はマイナス1・1%と韓国の2・6%に大きく引き離され、南北格差は開くばかりである。 今年の北朝鮮の成長率はさらに落ち込んでいる。国家情報院が明らかにしたところによると、今年3月に国連安保理が対北朝鮮制裁決議をした以降、北朝鮮の外貨収入が2億ドル減少した。さる11月30日に国連安保理が石炭等北朝鮮鉱物資源の輸入を制限する新たな制裁決議でさらに8億ドル減少するとみられ、昨年の総額33億ドルの実に3割に当たる外貨収入を失う事になる。 経済成長率はマイナスを大きく下回るとみられ、いよいよ限界である。 窮乏を極めるのが国民生活である。 北朝鮮労働者の平均月収は5千ウオン前後であるが、コメ1キロは市場で8千ウオンで取引されており、到底家族の生活を維持できない。配給を受けるのは幹部層や軍、治安関係者、一部ピョンヤン市民くらいであり、圧倒的多数の国民は市場の副業で稼ぐしかない。 その市場が制裁で縮小し、社会不安や混乱が増幅されている。 1970年代半ばまで韓国と拮抗していた北朝鮮経済が韓国の済州島以下にまで落ち込んだのは、金日成首相が1964年に打ち出した「経済建設と国防建設を同時に進める並進路線」が政治、軍事優先に傾斜し、経済が疎かにされたことが最大の理由である。 金正恩委員長の「核建設と経済建設並進路線」はその焼き直しである。金委員長が個人的な思い付き、趣味のレベルのスキー場や乗馬クラブ建設を衝動的に言い出して現場を混乱させるなど、独断専行の非合理的な経済運営体質がより強まり、金正恩政権誕生後5年経った今、国家経済は年間計画もまともに立てられず、事実上、破綻している。 金日成、金正日時代は巧みな外交に目を見張るものがあったが、金正恩は一転、外交不在で、独善的な猪突猛進が自分の首を絞めている。 核武装で通常兵力を減らし、経済に振り向けるなどとそれなりの展望を描いていたが、国際社会の動きを読み誤り、国連安保理の制裁強化で逆に窮地に陥っている。 国内製造業の破綻で対外依存度が高まり、国内市場は大半が中国商品に占められている。命綱を中国に握られたようなものであり、それを見据えた朴槿恵政権が習近平政権に接近して制裁強化に舵を切らせたものだから、もはや風前の灯火である。 北朝鮮経済は国家の上に立つ金ファミリーの私的マフィア的な金脈である39号室に外貨を握られている。それも制裁対象に含まれて先細っており、幹部の忠誠心を買う統治資金の枯渇は政権の足元を揺るがせつつある。 恐怖政治は自ずと限界があり、止まらない高級幹部の脱北は金正恩政権崩壊のカウントダウンが始まっていると読める。 金委員長が予定行事を発表しなくなって久しい。暗殺を恐れて所在を明かにせず、週3、4回の酒宴では酒乱となる等情緒不安定が伝えられる。 金委員長にまだ統治能力と判断力が残されているとするなら、核放棄と改革開放政策を受け入れる大英断を下すべきである。それしか生き残る道はない。 北朝鮮は絶対に核を放棄しないとの見方は半分当たっている。 重要なのは、核を放棄しない限り、生き残る道はない事を身をもって知らせることであり、現在まさに、その最終局面にある。 韓国の大統領弾劾騒動に乗じて金委員長が挑発を繰り返しており、朴槿恵大統領弾劾勢力の呼応、蜂起を期待して軍事行動を起こすとの見方があるが、その可能性はゼロではない。 しかし、それは北朝鮮の自滅となる。国際社会の対北朝鮮包囲網は完成しており、韓米連合軍の斬首作戦の格好の標的になるだけである。それは韓国の政治の空白の影響を全く受けない。 経験不足の金正恩が焦りから内外状況を読み誤って軍事挑発を起こした時に、北朝鮮の悲劇は起きよう。 |
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北朝鮮が15日午後0時33分頃、北西部の亀城市の飛行場周辺からミサイルを発射したが、ほとんど飛行することなく墜落したと韓国軍合同参謀本部が発表した。
米国領のグアムを射程内に収める中距離弾道ミサイルのムスダン(射程2500〜4000キロメートル)と見られているが、何故この時期に発射し、何故失敗したのかと様々な憶測が飛び交っているが、これまでの過程を分析すれば、解は自ずと出てくる。 まずこの時期に発射した理由であるが、これまでも何度も指摘してきたように、発射時期をほとんど独断的に決めている金正恩委員長の強迫観念に主因がある。 15日は北朝鮮の西海岸鼻先の黄海で米原子力空母やグアムを基地とする戦略爆撃機参加の韓米合同軍事演習の終了日である。この演習には作戦概念5015に基づくピョンヤン占領や斬首作戦もシュミレーションされ、米高官も「核攻撃能力を持てば、金正恩委員長は直ちに死ぬことになる」と公言していた。 その発言に北朝鮮外務省は15日、「最高尊厳を中傷した代価を支払うことになる」と反発し、米本土への核攻撃まで言及した。 金正恩の指示を受けての事であることは言うまでもない。言葉は勇ましいが、言外に怯えが滲んでいる。 一部で核・ミサイル実験が予測された労働党創建記念日はやり過ごし、演習終了を見越した同日午後過ぎ、恐る恐るミサイルを発射したことがそれを如実に物語る。仮に演習最中の前日に発射したら、韓米軍は強度を上げて迫ったであろう。それを用心深く避けたわけで、愛用のスマホで韓米の動きに神経を尖らせ、割合と単純に反応してきたこれまでのパターンと大差ない。 知見も経験も浅い金正恩は核保有を公然化する並進路線を決めた当時、核攻撃能力を有すれば、米国は交渉に応じ、譲歩してくるだろうと考えていたが、それが甘かったことに気付き始めている。 私は北朝鮮の核攻撃能力が単なる脅しから現実問題となる時点で、韓米の対応は厳しくなると予測してきた。相手が攻撃能力を有する前に叩くのが軍事戦略上の常識である。金正恩は今、それを思い知らされ、所在先を隠すところまで追い詰められている。 今回の発射は国民の目を気にした金正恩のギリギリの意地であったが、それも失敗し、泣き面に蜂となったが、どうして失敗したのであろうか? 実はこれもある程度、予測できたことである。 北朝鮮は今年4月15日の金日成生誕記念日にムスダンを初めて試射したが、数秒後に空中爆発した。面子を潰された金正恩はムキになり、今回を含め短期間に7発試みたが、成功したのは6月22日に400キロ飛ばした僅か一回だけで、未完成品である。 その間にSLBM(8月24日)、ノドン3発(9月5日)を成功させたものの、戦力としては初歩的な段階であり、無論、核搭載能力もない。韓米の圧倒的な戦力に対抗するべくもない。 引けなくなった金正恩は依然として核・ミサイルにこだわり、完成を急ぐが、前途は暗い。 今回のムスダンは初成功した前回同様にグリッドフィンと呼ばれる補助翼を8枚付け、飛行の安定性を保とうとしたが、移行に移る前に爆発した。燃料系統の欠陥が指摘されるが、技術不足に加え、さらに致命的なのが部品調達が思うようにいかなくなっていることである。 北朝鮮の核・ミサイル開発を陰で支援してきた鴻祥実業発展有限公司が中国公安当局によって摘発された。同社は中国共産党中央対外連絡部の影響下にあったが、朴槿恵政権のTHAAD外交が効いて習近平政権が対北朝鮮制裁に本腰を入れ始めたと読める。 日本では意外と知られていないが、電力不足と老朽化で基幹産業が崩壊状態の北朝鮮では、核・ミサイルの部品、原料は外部調達するしかない。 ところが、一連のミサイル残骸を収集分析した韓国側により調達先が特定され、制裁対象になっているのである。 今後とも制裁の網が縮まれば、金正恩の核・ミサイル開発は事実上、動きが取れなくなる。ここ1、2年で事態はハッキリしよう。 |
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中国と韓米日の間に楔を打ち込もうとした金正恩委員長には大きな誤算であったろうが、国連安保理が26日に北朝鮮のSLBM発射を強く非難する報道声明を発表した。
声明は7月9日から8月24日までの4回の実験について安保理決議違反とし、「状況を注意深く監視し続け、更なる強力な措置を取る」としたが、これまでの経緯を注意深く観察すると、金正恩政権の命運を左右する重大なエポックとなる可能性がある。 安保理はさる6月23日の声明を最後に、北朝鮮のミサイル実験を放置してきた。 朴槿恵政権がTHAADの韓国配置を発表したことに中国が反発し、米草案にTHAAD配備反対の一言を加える対案を出して霧散させたからである。 それをクリアした今回の声明の最大の意義はズバリ、THAAD問題に中国が一定の理解を示したことにある。 中国に配慮し、「安保理メンバーは朝鮮半島と周辺の緊張緩和に努める重要性を強調する」との文言が付け加えられたが、韓国が「THAADは米日に向かうミサイルを探知するために、レーダーは使わない」と、中国が神経を尖らせている日米のMDと一線を画していると中国側に説明してきたことと文脈が通じる。 注目すべきは、「対話を通じた平和的な解決に努力する」との文言が中国の要求で加えられたことである。一種の留保条件であろう。新たなミサイル実験、とりわけ第5次核実験で金正恩政権がその努力に背いた時、「更なる強力な措置」に中国が同意することを示唆したものと読める。 韓国政府は国連安保理報道声明を静かに歓迎したが、青瓦台には歓声が上がったことであろう。 朴槿恵大統領の狙い通りの展開になってきたからである。 朴大統領は8月15日の光復節演説で「北の政府幹部と一般国民のみなさん」と平和的な統一を呼び掛けた。その後も「金正恩は一人独裁をしている」と、金正恩委員長と北朝鮮国民を峻別し、踏み込んだ発言を繰り返している。政権維持のために核・経済の並進路線に拘泥する金正恩政権に直接圧力をかけ、核ミサイル廃棄へと追い込む作戦である。その根底には、幹部の打ち続く脱北で政権内部が激しく動揺しているとの認識がある。 その文脈から中国の圧力強化を期待し、THAADの配備決定に踏み切ったが、「北の核・ミサイルの脅威が除去されれば必要ない」との条件付きである。 中国はその条件付き配備を疑い、米国が北を口実に米日MD網を韓国に拡大しようとしていると警戒し、南シナ海問題も絡んで猛烈に反発、朴槿恵・習近平の個人的信頼関係を基礎にした蜜月の韓中関係がギクシャクし始めた。 朴政権は中国の誤解を解くことに外交努力を傾けるが、韓国にとって米中超大国と丁々発止と渡り合う異次元の多方位バランス外交であっただけに、なかなか理解されなかった。 大国に翻弄されてきたとの歴史的な被害意識が根強く残る国内では、THAAD配備決定に野党から反対の声が上がり、朝貢外交まがいに北京に御伺いを立てる跳ね上がり議員まで出てくる有り様であった。 朴槿恵政権は局面打開のために、9月上旬の杭州でのG20を見据えた積極外交に打って出た。朴大統領が早々に訪中の意向を表明して習主席に秋波を送る。 他方で韓日中3国外相会談→首脳会談開催へと動き出す。同会談は1999年から始まったが、犬猿の仲の習政権、安倍政権誕生後は開催されなくなり、昨年、韓国の音頭でソウルで事実上の第1回会談が開催され、翌年に東京で開催されることが約された。 日中が尖閣問題で武力衝突まで憂慮される事態となり、一時は延期との観測が新聞紙上に飛び交ったが、前回開催国の韓国が間に入る形でどうにか開催へと持ち込んだのである。従軍慰安婦問題や日韓スワップで対日歩み寄りを演出しているのも、3国連携の大義を優先させ、垂範率先しているのである。 金正恩委員長なりにそうした3国の同床異夢を読んで楔を打ち込もうとしたのがSLBMの電撃実験であったが、安保理報道声明という逆の結果が出てしまった。 即日、北朝鮮外務省が朝鮮中央テレビを通して「全面的に排撃する」との声明を発表したが、期待外れの結果に金正恩委員長は動揺を隠せない。 一時緩和するかに見えた中国の制裁圧力が再び強まることは必至であり、崩壊過程に入った経済は一段と混乱を深めていくだろう。政権の土台が揺れ始めた。 同じ日、ユン・ビョンセ外相は韓国KBSのインタビューに「10月の米国で開催される韓米外務・防衛閣僚会合(2プラス2)で、北に核ミサイルを開発するほど苦痛と費用がかさなる事を思い知らせる」と述べているが、韓米が金委員長の統治資金である外貨獲得を断つ金融制裁などを強化し、中国にも同調を求めることになろう。 あるいは、金政権がSLBM搭載潜水艦建造など核ミサイルを実戦化する前に脅威を除去する予防措置も検討される可能性がある。 今回のSLBM実験成功を受け、北朝鮮が核ミサイルを実戦配備するのは多少早まり、2018年後半というのが一般的な見方であるが、座視せず、完成する前に開発能力を全て軍事的に除去してしまう選択肢もありうる。軍事戦略的には防衛手段を強化するよりも、その方が効果的で安上がりである。 実際、韓米の拡大抑止戦略にはキルチェーンという、そうした作戦概念が含まれている。ただ、それは北朝鮮が軍事挑発を行った事を前提にしている。 一歩進め、新たな核実験やミサイル実験を挑発と規定して予防的軍事措置に踏み切る事も当然、考慮されよう。それには中国の同意が不可欠であり、来る韓中首脳会談で外交議題として浮上してこようが、どこまで合意できるか、表には現れない焦眉の課題である。 以上は私独自の分析であるが、必然的にそうなるしかあるまい。 金正恩政権は他国への核攻撃を公言しているが、前代未聞の異常事態をこれ以上、放置するのは、より重大な事態を招く危険性がある。 韓国では、北朝鮮に対抗して核武装すべきとの国内世論が高まっている。日本でも「本当に米国は北朝鮮が韓国に侵攻した際に核を使うのか。『核の傘』の信頼が揺らいだ事が韓国や米国にとって深刻だ」(伊藤俊幸元海自呉地方総監)といった声が聞かれるが、本音は日本の核武装である。 北朝鮮の数十倍のGNPを有する韓国、日本のような経済大国が北朝鮮の脅威を口実に核武装に踏み切ったら、その影響は北朝鮮の比ではない。北東アジアは核抑止力の亡霊に憑かれて収拾のつかない核拡散競争に陥り、一挙に不安定化する。北朝鮮核問題の真の脅威はそこにある。 金正恩の核はあらゆる手段を使って早急に排除すべきである。 |
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日韓中外相会談が23日、24日に開催されたが、その最中の24日早朝5時半に北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射した。
無論、偶然ではなく、金正恩委員長のジレンマが直接絡んでいる。 開催すら危ぶまれた3国外相会談には各国の思惑や利害が複雑に交錯しているが、金委員長が最も恐れるのは3国が対北朝鮮制裁強化で歩調を合わせることである。特に、命綱である中国の動向に神経を尖らせている。 一見して強気だが、米国に亡命した叔母が明かすように根は繊細にして臆病であり、実は幹部離反と体制崩壊に脅え、力を誇示しないと安心していられない。一種の反動形成である。 SLBM発射について北朝鮮中央テレビは翌25日、異例の早さで1分47秒にわたって発射の映像を様々な角度から流し、金委員長が李炳哲労働党第1副部長と抱き合って喜ぶ様子など60枚の写真を字幕なしで報じた。 さらに労働新聞は金委員長が「成功中の成功。勝利中の勝利」、「核攻撃能力を保有して軍事大国化した。太平洋と米国は我々の掌中にある」と絶賛したと伝えた。 こうした発言を真に受け「北朝鮮は核攻撃能力を有した」と相槌をうって大騒ぎするメデイアもごく一部見られるが、不見識極まると言っておく。 金委員長の大言壮語はいま始まった事ではないが、今回の狙いは第1に、駐英公使らエリート層の打ち続く脱北で内部崩壊の兆しが現れた体制引き締めにある。 26日から急遽、金日成社会主義青年同盟の大会を23年ぶりに開催するが、その前日にテレビでSLBM発射の映像を流し、気勢を上げようとしているのが手に取るように分かる。 8月上旬に新義州の北朝鮮兵士が鴨緑江対岸の丹東に侵入し、民家のロバを奪って逃走、追跡する中国国境警備隊と銃撃戦となったが、深刻化する食糧難で軍の規律まで乱れに乱れている。不満を外に向け、青年たちの盲目的な忠誠心に頼るしかないところまで追い詰められている。 しかし、外部への敵愾心と金日成の権威に依存した反理知主義的な精神論は限界に来ている。いきおい治安機関を全面に出した恐怖政治に傾斜せざるを得ず、内部矛盾はさらに先鋭化し、脱北増加に加え、暴動、反乱の発生も避けられないだろう。 第2の狙いは、韓国、米国、日本への牽制である。定例の韓米合同軍事演習UFGが22日から始まったが、北朝鮮総参謀部は即日声明を発表し、「少しでも挑発的行動があれば、我々式の核先制攻撃を加える」と威嚇した。 SLBM発射と金委員長の言動は、それを補強するものに他ならない。 しかし、笑えない事実であるが、北朝鮮が主張する「核先制攻撃」はフィクションである。 そう思わされているのか、軍事知識の不足から単純に思い込んでいるのか定かでないが、金正恩は2013年3月の労働党中央委員会で並進路線を宣言してから、核攻撃能力があるかのように喧伝してきた。情報が統制された北朝鮮国内では、国民はそれを鵜呑みにし、金正恩の求心力を高める効用があった。 しかし、国際社会では、初歩的な核爆弾を保有したが、運搬能力がなく、実戦力になっていないと見抜かれている。 「実戦化は早くて4年後」が韓国の判断であるが、幹部クラスの脱北者などの証言を加えて量的質的に圧倒的な北朝鮮情報を有しており、それが最も正確であろう。 焦った金委員長は今年に入ってミサイルを乱射しているが、空中爆発などの失敗を捕捉され、逆効果となった。幻のミサイルとして一部で過大評価されていたムスダンは実戦レベルに至っていないことが明らかとなった。 金正恩の非現実的な並進路線は国際的な孤立を招いてきた。頼みとする中国までが今年3月に国連安保理制裁決議に同調して事実上、破綻に直面し、金正恩政権の責任問題と処遇が問われる事態となっている。 その最中の、金正恩にとっては起死回生のSLBM発射成功であるが、大勢に変わりはあるまい。 金正恩なりにTHAAD問題での韓中対立、南シナ海問題や尖閣問題での日中対立、大統領選で揺れる米国の状況を読んで、日韓中3国の矛盾を刺激し、漁夫の利を得る算段をしたのであろう。 しかし、外交経験ゼロの悲しさで、6回の首脳会談を重ねた朴槿恵大統領・習近平主席の信頼関係を見誤り、さらに自分の首を締める結果となっている。 |








