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さる2日に青森県の津軽半島西海岸の佐井村に北朝鮮船籍と見られる漁船が漂流し、船内から4遺体が発見された。先月にも漂流した2漁船から10人の遺体が発見されている。
いずれも長さ15メートル、幅2メートル程度の貧弱な木造船であるが、船体に人民軍と記されたハングル文字が認められており、北朝鮮人民軍所属の漁船であることは間違いない。 日本の常識では軍と漁船は結び付かないが、現在の金正恩体制下の北朝鮮ではごく普通のことで、ほとんどの漁船が軍の管理下にある。 最近、連続的に北朝鮮の漂流漁船が発見されるのは理由がある。 朝鮮中央通信が4日、「東海(日本海)漁場で冬期漁労戦」と伝えたように、北朝鮮東海岸の沖合では、元山、新浦などの人民軍水産事業所がトロール船、加工船を中心にあらゆる漁船を総動員した「集団漁労戦」を連日連夜、不眠不休で繰り広げている。 漂流した漁船はそれに動員された漁船の一部に他ならない。 金正恩国防第1委員長は水産事業にとりわけ熱心で、水産事業所に頻繁に足を運び、先月25日付労働新聞も「549軍部隊管下15号水産事業所を現地指導」と伝えた。労働党や軍幹部を引き連れた現地指導では「短い期間に飛躍的に漁獲生産量を上げねばならない」と生産を督励している。 同紙は「毎日数百トンの漁獲高」と成果を報じるが、過大なノルマを課せられた軍所属の漁民が貧弱な木造船で無理をし、挙げ句に漂流、が日本を騒がせている漂流事件の真相である。 金正恩政権発足後にこの種の事件が激増しているのも、理由がある。 「漁労戦」について北朝鮮メデイアは人民軍兵士や人民に魚を食させるためと表向き伝えるが、実態は、大半が中国に輸出され、外貨稼ぎに向けられている。 北朝鮮貿易の9割を占める対中貿易は毎年10億ドル前後の赤字であり、水産資源輸出は海外への人力輸出等と共に貴重な外貨獲得源になっている。 軍による水産独占は金日成時代にはなかった現象である。当時は協同農場同様に協同漁業組合があり、漁民が自主的に管理していた。 ソ連・東欧社会主義圏崩壊の激浪を防ぐ為の軍事優先が事実上の軍事独裁である先軍政治となり、軍事産業偏重による経済の衰退を招き、人民生活を窮乏化している。 1970年代までアジアでは日本に次ぐ一人当国民所得1000ドルを誇っていた北朝鮮が、現在、ミャンマーより下の最貧国にまで落ち込んでいる。 IMFは2020年までに一人当GDPで韓国が日本を上回ると予測しており、南北格差はもはや決定的である。 外貨稼ぎの輸出優先で、農民が米を食べられず、漁民が魚を満足に食べられないのが今の北朝鮮である。漂流漁船は今後とも増えこそすれ、減ることはあるまい。日本に流れ着くのは一部に過ぎない。 金正恩政権は第7回党大会に向け大増産運動を呼び掛けているが、軍事偏重の非合理的な経済はもはや限界であり、国民を疲弊させるだけである。 各地の農場では収穫物の分配を巡る争いが絶えず、金正恩国防委員長暗殺未遂事件まで取りざたされている。その真偽は定かでないが、何があっても不思議ではない。 第2のアサド政権化が憂慮される危機的な状況である。 手遅れになる前に、核放棄で韓国から協力を取り付け、改革開放へと舵を切るのが賢明であろう。それが「千里馬の国」と称えられたかつての輝きを取り戻す道である。 |
金正恩政権の深層分析
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最後の抗日パルチザンの李乙雪元帥が7日に死去し、直ちに金正恩国防委第1委員長をトップとする国葬委員会が構成され、171人の名簿が発表されたが、ナンバー3とされる崔龍海書記の名が抜けていた。
その訳について諸説紛分であるが、失脚であることは間違いあるまい。 金委員長の弔問団にも姿を見せていない。国葬委員名簿にやはり名が見えなかった朴道春書記が随行していることから、崔龍海の政治生命は断たれようとしていると読むのが妥当である。その後もピョンヤンのテレビが報じる金正恩の過去の現地指導場面に崔龍海が登場するが、張成沢粛清直後にもあったことで、単なる技術的な問題とみられる。 崔龍海失脚は、結果論ではなく、私は張成沢粛清直後から当ブログで再三予測していたように、来るべきものが来たと言うべきである。 結論から言えば、崔龍海が張成成に代わるナンバー2の軍総政治局長として押し進めた核・経済建設並進路線が破綻し、責任を取らされたということである。 1ヶ月前の劉雲山・中国共産党政治局常務委員のピャンヤン訪問によって事実上、決まった。前回エントリーした『金正恩訪中→第7回党大会のシナリオを読む』で明かした核廃棄・改革開放シナリオにとって、反中派の崔龍海はもはや障害でしかない。 本日付の労働新聞は長大な社説「党第7回大会を前例のない組織的成果で輝かしく迎えよう」を掲載したが、これまで枕詞のように繰り返し強調した核・経済並進路線について一言も言及していない。 思想的組織的な整理作業に入っているとみられる。 事態は無論、金正恩第1委員長の思い付きで動くといった単純な話ではない。 崔龍海書記に代わって金正恩を動かしている実勢は、誰か? 葬儀委員名簿をよく見ると、あるグループが浮かんでくる。金己男、崔泰福書記ら金日成時代からの古参党幹部である。 特に金己男書記は、訪朝した劉雲山政治局常務委員が金正恩委員長と並んで閲兵式を観閲している間、側にピタリとついて何やら説明していたのは記憶に新しい。 崔龍海書記も劉常務委員との会談に臨んだが、形だけのものであった。その1ヶ月前の9月3日の北京での抗日戦争勝利70周年記念式典に金委員長の名代として参加したが、首席段右端に案内されるなど中国側の受けがよくない。 中国との関係改善で閉塞状況を打破しようとする金己男書記と崔龍海書記との対立が頂点に達し、崔排除で一件落着したということであろう。 韓国で一時、金己男粛清説が飛び交ったのは、イデオロギー部門を牛耳る老練な金書記を中心とする労働党実勢の役割がよく見えていないからとみられる。 金己男、崔泰福書記をはじめとする古参党幹部たちには、金正日亡き後に独断専行化した張成沢は鼻につく存在であった。だが、中国との関係強化で経済再建を果たそうとしたロードマップは無視できない。 それにようやく気付いたということであろう。 |
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朝鮮労働党中央委員会政治局は30日、36年ぶりとなる第7回労働党大会を「2016年5月初めに開く」との決定書を発表した。
それに合わせるように、「金正恩第1書記が来年上半期に中国を訪問し、習近平主席と会談する方向で中朝間で調整していると30日、複数の外交関係者が明らかにした」と毎日新聞が北京特派員発として今日の朝刊で報じた。 十分に予測されたことであり、私が「北朝鮮ロケット発射延期と調整段階に入った朝中関係」(10月7日)で指摘した事がいよいよ可視化していると言えよう。 折しもソウルでは明日から韓中首脳会談、韓日中三国首脳会談、韓中首脳会談が連続開催されるが、無論、それとも連動している。 毎日新聞は「党大会前 成果アピールへ」と訪中の目的を伝えるが、事はそう単純ではない。 党政治局決定書が「一心団結」や経済建設を党大会の意義として強調するが、核については一言も言及していないことは、決して偶然ではない。 劉雲山中国共産党政治局常務委員訪朝と前後して北朝鮮は、それまで繰り返し示唆していた核・弾道ミサイル実験の動きをピタリと止めている。「北朝鮮ロケット発射延期と調整段階に入った朝中関係」で指摘したように、劉訪朝に先だって一定の合意が成立していたからに他ならない。 劉訪朝で私が注目したのは、私が以前から張成沢粛清後の金正恩を支えるキーパーソンと指摘している金己男書記が劉の横にピッタリと寄り添い、金日成広場での軍事パレードを見下ろしていた事である。 今の北朝鮮首脳で中国首脳とさしで話し合えるのは、中国語にも通じた最古参幹部の金書記ぐらいしかない。崔龍海書記は相手にされず、金正恩第1書記はまだ外交は経験不足で、荷が重い。 金己男、崔泰福書記ら金日成時代から三代仕える老幹部たちが必死になって、一連の無謀な粛清で内部が激しく動揺する金正恩政権を支えている構図が読み取れる。 90前後の老幹部らが今第一に考えているのは金正恩政権の安定化であり、そのための絶対条件である中国との関係修復を自分等の目が黒いうちに是が非でも成し遂げておこうということであろう。 中国共産党は前年暮の中国外事工作領導小組で北朝鮮の緩衝地帯としての役割を再評価し、核廃棄問題を経済協力と絡めて金正恩政権を改革開放へとソフトランデイングさせる方針を確認したという。 それは朴槿恵・習近平主席との会談で既に確認済であり、韓日中首脳会談後に発表される共同宣言にも反映されると思われる。 金正恩訪中での朝中首脳会談では核廃棄と経済協力を抱き合わせた合意が発表されることになろう。 それを受けて金正恩第1書記は第7回党大会を開催し、久々に経済再建の長期経済計画を発表するとみられる。 金正日が後継者として公に登場した第6回党大会の目玉は10大展望目標であった。北朝鮮経済を飛躍的に発展させると銘打った同計画は完全に失敗し、韓国との経済格差がGDP比で50倍〜60倍開く原因となった。 金正恩第1書記は同じように薔薇色の未来図を示すであろうが、失敗は許されない。今年の北朝鮮の食糧生産は落ち込み、100万トン前後の食糧が不足する。ピョンヤンにはカラフルな生活必需品が溢れているといっても、大半が中国産である。老朽化と長年の電気不足で基幹産業は壊滅状態であり、5万人の海外労働者の年間20億ドルの仕送りで辛うじて維持している経済はもう後がない。 北朝鮮のシリア化が現実化しているが、韓国、中国、米国、日本、ロシアいずれもそのような事態を望んでいない。北朝鮮を政治的軍事的な緩衝地帯とし、経済開発に力点を置くことで基本的に一致している。 金正恩政権の安定化もそのシナリオには含まれる。金第1書記が気まぐれを起こさない限り、事態はそのシナリオに沿って動くであろう。 米中が南沙諸島問題で軍事衝突するかのように大騒ぎするメデイアがあるが、それ以外の問題で米中の関係は良好であり、特に北朝鮮非核化問題では一致する。南沙問題は一種のデキレースであり、いわば「米中新型大国関係」構築の地均しである。 新刊の『二人のプリンスと中国共産党 張作霖の直系孫が語る天皇裕仁、張学良、習近平』で明かしたように、現代は新たなパラダイムの下で動いている。そして、それは必然性を帯びているのである。 |
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北朝鮮労働党創建70周年を3日後に控えた現時点で銀河4号発射の兆候はない。
金正恩政権はロケット打ち上げを「強盛国家」建設の最大の成果とすべく喧伝してきただけに意外の感を内外に与えているが、5年ぶりに劉雲山常務委員を団長とする大型の中国共産党代表団長が同行事に参加することと密接な関係がある。 北朝鮮ウオッチサイトのジョンズ・ホプキンズ大の「38ノース」は先月末、北朝鮮西海岸の東倉里発射場の衛星写真を掲載しながら、ロケット発射準備の動きはないと伝えた。 その後も韓国はピョンヤン郊外の生産工場からロケットが運搬される兆候がないことを衛星などで確認しており、事実上、打ち上げ延期もしくは中止が決まった。 同ロケットに関しては韓国、米国、日本などが国連決議違反の弾道ミサイルと断定し、打ち上げ中止と制裁強化の動きを強めていた。 中国、ロシアも基本的にそれと歩調を合わせ、北朝鮮に核・弾道ミサイル放棄を取り決めた6ヵ国協議への復帰を求めていた。 それに対して「宇宙開発は自主的な権利」と激しく反発し、労働新聞などで繰り返し発射を示唆していた北朝鮮が音無の構えに豹変したのは、中国の姿勢が想像以上に厳しいことを知ったからである。 さる9月3日の北京での「抗日戦争勝利70周年記念式典」のメイン行事の閲兵式に北朝鮮代表として崔龍海労働党書記が参加したが、天安門楼上首席壇の右端に案内された。 中央には韓国の朴槿恵大統領やロシアのプーチン大統領が習近平主席と共にいただけに、「血盟」と言われた金正日時代までの朝中関係を見てきた者にとっては衝撃的な構図であった。金正恩委員長が参加したとしても、多少中央に寄る程度で、大きな違いはなかったであろう。 崔は予定を繰り上げて当日、帰国したが、内心の動揺をうかがわせる。 それはそのまま金委員長をはじめとする北朝鮮指導部に伝えられ、対中関係再構築の必要性が議論されたと読める。 北朝鮮貿易の9割を占め、食糧、石油などの戦略物資を依存している中国との関係維持は死活的な問題であり、当然とも言えよう。 劉の訪朝は表向きは崔訪中への返礼の形を取っているが、その目的はギクシャクしてきた朝中関係の再調整にある。中国が反対するロケット発射を控えることが大型訪朝団派遣の条件とされたのであろう。 両党の間で核・ミサイル問題を含めた関係修復の、突っ込んだ話し合いが行われることになろうが、その結果は金正恩政権の今後の政権運営に決定的な影響を与えずにはおかないだろう。 朝中関係が過去の「血盟」に復帰することはあり得ず、中国はあくまでも国際ルールに則った「正常な国家関係」を目指している。 ただ、北朝鮮が核・ミサイルを放棄すれば、代わって中国が「核の傘」を提供し、韓米同盟、日米同盟とのバランスを取る限りで旧同盟関係を復活させることは、1つの選択肢として考えられる。 金正恩政権が中国との関係改善と改革開放の方向に舵を切れば、資源が豊かなだけに、起死回生のチャンスとなろう。 逆に中国との話し合いがこじれ、孤立無援の唯我独尊的な自主路線に陥るようだと、前途は極めて厳しい。 |
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写真はその党中央軍事委の様子だが、大将クラスの軍幹部が畏まって起立して何事か報告し、金委員長がへいげいしている。翼賛化した場でことさら権威を誇示しているのだが、今回の人為的な緊張事態の本質が垣間見える。 今月4日に北朝鮮軍が非武装地帯の韓国側地域に地雷を埋設し、韓国軍兵士二人が重傷を負った。その報復措置として韓国側が対北朝鮮非難の拡声器放送を開始したが、北朝鮮側は武力行使を露骨にちらつかせながら、その中止を求めた。 その最中の20日、北朝鮮は午後3時過ぎと4時過ぎに拡声器を狙って高射砲など数発を発射した。 これに韓国軍が数十発の砲撃を加えると、北朝鮮は同日5時過ぎに軍のホットラインで「48時間以内に心理戦のための放送中止」を求め、入れられない場合は「軍事行動を開始する」と恫喝した。その一方で、金養建労働党統一戦線部長名で韓国青瓦台の金寛鎮国家安保室長宛に「現在の事態を収拾し、関係改善の出口を開く」として対話を呼び掛けた。 北朝鮮側は地雷敷設や砲撃を否定しているが、いずれも北朝鮮の仕業であることは100%間違いない。 動機も明確である。緊張を人為的に作り出し、準戦時体制で内部結束を図っているのである。 また、10月の労働党大会を控え、韓国を軍事的に威嚇して対話の場に引き出し、何らかの譲歩を得て実績を誇示する狙いもある。 しかし、朴槿恵大統領の強硬姿勢で思惑が狂っている。朴大統領は「先措置、後報告」の原則で、北朝鮮の挑発には一線指揮官の判断で倍返しの「断固とした対応」を求めている。 一部に緊張を高めるとの批判もあるが、焦りを強めている金正恩への抑止的、教育的な効果を発揮している事は否定できない。 金正恩には自分の力を誇張して相手を屈服させようとする誇大妄想的な行動パターンがある。 2013年3月の並進路線決定後、ワシントンを攻撃できるとの核戦力を誇示し、米国から譲歩を引き出そうとしたのが典型例である。 それが失敗して内外政策が行き詰まり、今回また同じことを繰り返している。 韓国側に拡声器放送中止を22日午後5時までの48時間と区切り、朝鮮中央通信が21日夜、「前線連合部隊は軍事行動の準備を完了した」と恫喝するように報じ、ノドンミサイルやスカッド部隊の活動をこれ見よがしにひけらかしているが、大きな賭けである。 金正恩はある意味で正直であり、臆病でもある。 地雷事件は脱北団体のビラ宣伝への報復であろうが、逆に拡声器放送を始められ、慌てている。 一連の宣伝に過剰反応しているのは、不安定化している北朝鮮社会が揺さぶられることを本人が恐れているからにほかならない。特に、拡声器放送で前線軍人が動揺することに危機感を募らせている。 準戦時体制はその現れであり、内部の引き締めに主たる狙いがある。 引っ込みがつかなくなり、あわよくば韓国の譲歩を引き出そうと軍事冒険的な賭けに出たのであるが、自分で自分の首を締めているところがある。 有能なブレーンを大量粛清した付けが回ってきている。 朴槿恵大統領は今だからこそ、米国、中国との戦略的な連携を一段と密にし、北朝鮮危機管理の実効性を期するべきである。 来月3日の訪中と10月の訪米の意義はそこにある。 |


