河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

金正恩政権の深層分析

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23日の労働新聞一面に大きく、金正恩国防委員会第1書記が党中央軍事委員会拡大会議を開き、「歴史的な演説」をしたと写真(上)入りで報じた。
「昨年、人民軍に重大な偏向が生じた」と言うから、ただ事ではない。これだけでは何の事か外部からは分かりにくいが、各部隊の政治委員を含む会議参加者には事前に個人名が通知され、思想総和(総括)が行われていた。

粛清の対象となったのは、昨年11月以来姿を見せない馬園春・国防委員会設計局長と辺仁善・人民軍副総参謀長兼作戦局長らとみられる。
馬局長はピョンヤンの順安空港国際線ターミナルビルの新築工事で「民族性を発揮できなかった」と労働新聞紙上で批判されてから、公式の場から消えている。
辺作戦局長は中国とのコネクションがある軍装備調達責任者の交代を金第1書記に命じられ、「対中関係が難しくなる」と諫言したことが逆鱗に触れたと伝えられる。
いずれも他愛のない問題であるが、金第1書記は自分の沽券に関わると問題視して核心級の幹部をいとも簡単に更迭し、軍幹部内部に不満と動揺が広がった。

それを鎮めるために召集されたのが拡大会議であるが、事態はかなり深刻である。まだ正面切って反旗を翻す動きは見られないが、幹部たちの間では面従腹背、ことなかれ形式主義などが蔓延している。
その打破のために、金第1書記は「米帝と必ずまみえる戦争の遂行方式と作戦戦術的問題」を提示し、「万端の戦闘動員態勢をとる戦時環境確立」を訴えたが、本音は無論、対外的緊張を煽り、内部を固めることにある。

2013年3月の同会議で核・経済建設を同時に進める「並進路線」を採択して正面突破を図ろうとして以来、繰り返されてきた事である。
マンネリ化し、具体的な成果が一向に見えない事に、人民軍内には疲労感と倦怠感、金第1書記への不信感が鬱積している。

金第1書記には決まったパターンがある。対米対韓強硬スローガンを打ち上げ、大規模軍事演習を実施し、一定期間過ぎると、「米国の戦争策動を阻止、破綻させた」、「大勝利」と国民にアピールする。
しかし、韓米側の制裁圧力は強まるばかりで、全ては徒労に終わっている。
得意になって訓練の模様を写真やテレビニュースで誇示し、韓国、米国を圧迫した気になっているが、その実、開発途上のミサイルや、旧式化した戦闘機、艦船、大砲の性能全てを読まれている。
軍事オタクの域を出ない金第1書記の作戦、指揮能力まで丸裸にされている。

仮に金第1書記の思惑通りに軍の組織再編が行われたとしても、一時的に金第1書記の求心力は高まるかもしれないが、長くは続かないだろう。
肝心の戦闘能力は、中枢部から専門性の高い指揮官が排除され、媚を売る政治軍人に占められ、低下していく。
つまり、外部の敵に備える軍隊ではなく、反体制派を取り締まる治安部隊化が一段と進行していくだろう。

軍には思い付きで急に戦闘訓練を指示される一方、場違いの建設現場にしばしば動員され、人海戦術で過酷な労働に従事しながら食糧も満足に手当てされないことに、不満が渦巻いている。
金第1書記に忠実たろうとする一部軍幹部たちは、内部の不満に目を光らせながら、国民監視の損な役割まで担わされる事になるわけである。

今年1月の朝米接触で北朝鮮は、米側に韓米軍事演習の縮小を打診している。
中止を強硬に求めている公式立場と異なるが、金第1書記が、体制維持の保証を最優先させ、懸案の核・ミサイル問題で譲歩する意向を持っている可能性を示唆する。

金正恩体制の行き詰りは、もはや覆い隠せない段階に来ている。
軍事委員会拡大会議に先立つ18日の労働党中央政治局拡大会議(下写真)で金第1書記は「歴史的な結論」を行い、不正腐敗の根絶などを強調し、叔父の張成沢国防委員会副委員長らを「現代版宗派」と改めて非難、粛清の正当性を訴えたが、最大の後見人を失った後遺症はあまりに大きい。

「金正日同志の遺訓貫徹」を全員に誓わせる決定書を採択しているのは、それだけ政治局内部の動揺が大きいことを示唆する。
社会主義憲法を「金日成―金正日憲法」と変えた事を強調するなど金正日の権威をことさら称揚するのは、それに依存する自身の権威が揺らいでいることへの危機感があるからである。
金正日の遺訓とは金正恩を後継者と言い残したとされる遺訓集を指すが、金己男書記が発表したメモの真贋が疑われているとの情報もある。
米国務省のサキ報道官は21日、「脅迫的言葉使いと空虚な提案は無意味である」と述べ、北朝鮮が9日に「韓米合同軍事演習を中止すれば核実験を臨時に中止する」と提案したことに応じるつもりがないことを明確にした。同時に、19日のシンガポール非公式接触でリ・ヨンホ外務次官がボスワース前特別代表に示した「前提条件なしの6ヵ国協議再開」にも応じないとした。
北朝鮮側が具体的な非核化行動を先に示さない限り、朝米対話はありえないことを再度確認したと言える。

オバマ大統領は20日の一般教書演説で、残る2年間にキューバとの国交正常化交渉とイラン核問題解決に力を入れ、外交遺産として残す意思を明らかにしたが、北朝鮮問題への言及はなかった。
北朝鮮自身が非核化へと変わる信頼ある言動を取らない限り、北朝鮮問題は現状凍結ということである。

韓国でも、金正恩第1書記の対話提案はコロコロ変わり、その都度相手側に責任を転嫁すると信頼を失っているが、直接の発端は一昨年2013年初めの弟3回核実験と核・経済建設並進路線公表後の一連の過激な言動である。
同年3月26日の北朝鮮最高司令部声明は米韓側が合同軍事演習中止等の要求を受け入れなければ、「米本土などを全面攻撃する1号戦闘勤務体制に突入する」と突き付けた。

それが受け入れないと見るや、3日後の朝鮮中央通信は「金正恩最高司令官が緊急作戦会議を召集し、重大決心を固めた。米本土や韓国等を核攻撃する戦略ロケット軍の打撃計画を最終批准」と、今にも核戦争を仕掛けるかのような常軌を逸したことを伝えた。
労働新聞等に、米本土への攻撃作戦地図を背景に金第1書記が軍幹部に指示を出している写真が大きく掲載された記憶は今も新しい。

仮に米国がそれをまともに受け取っていたら、北朝鮮はすでに世界地図から消えていただろう。
無鉄砲な若い指導者が国内向けに権威を誇示し、虚勢を張っているだけと受け流されたから、無事に済んだようなものである。
しかし、失った代償は大きい。

言葉に信用性がなくなったのが、一つ。
二つ目は、暴発する可能性があるとして徹底的な軍事的な締め付けが始まったのである。
その年10月に韓米国防相間で北朝鮮の挑発には核先制攻撃を含む3段階の報復行動を取るとの新抑止戦略が採択された。このようなことはかつてなかった。

さらに、新抑止戦略に基づいて韓米合同軍事演習がグレードアップされた。2015年に予定された韓国軍への戦時作戦統制権返還は延期され、今年1月2日にはソウル北方に展開する米第2師団を中心に韓米連合師団が発足した。
そればかりではない。昨年暮に「北朝鮮の核・ミサイルの脅威に関する韓米日情報共有約定」が締結され、日米MDのみならず、ヨーロッパ方面も含む全世界のMD網が北朝鮮に向けられることになったのである。

客観的には、北朝鮮の初期的な核戦略と核超大国の米国のそれは、天と地ほどの違いがある。
思い込みの強い金書記は軍幹部にたぶらかされているのか、引っ込みがつかなくなったのか、今年の新年の辞でも「核抑止力を強化」と依然として強気な発言を繰り返しているが、北朝鮮国民を未曾有の災禍に巻き込むリスクを高めていることを知らねばならない。

『インタビュー』でのサイバー攻撃問題でオバマ大統領は「安全保障上の脅威」として直ちに報復措置を取ったが、これは金正恩政権に重大な教訓を残している。
以前も指摘したが、北朝鮮の核・ミサイルが米国の安全保障上の脅威と見なされた時、強烈なリアクションが起きるだろう。北朝鮮に対してほとんど無関心であった米世論もイスラム国と同列に見なし、急速に強硬意見に傾いている。

金第1書記は脅せば要求が通ると考えているようであるが、火遊びが通じる相手ではない。
強盛大国などと昂らず、あるがままの北朝鮮を知らねばならないのは、金第1書記である。
そこから身の丈にあった現実的、合理的な外交なり、内政が出てくる。
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写真は昨年暮に信川博物館を「現地指導」した時の金正恩第1書記である。金己男党書記に何事か指示しているポーズであるが、よく見ると左手に煙草を挟んでいる。
煙草をプカプカふかしながら館内を見回り、気が向くまま口にしたことを労働党宣伝煽動部長を兼ねる金書記が、ことさら神妙な表情を装いながらメモっている。
労働新聞一面に掲載されたこの写真を見て、北朝鮮国民はどう思うだろうか。

80代の党重鎮である金書記を人とも思わない金正恩第1書記の傍若無人さに止まるところを知らない権勢を感じて、恐れおののき、一段と「忠情」を固めるかもしれない。
おそらくそれが狙いであろう。

指示したのは他でもない金己男書記である。北朝鮮のイデオロギーを統括し、金正恩を中心とする「唯一指導体系」確立に労働新聞をはじめとする全ての宣伝機関を総動員する立場にある。傾く北朝鮮の体制維持の為には、一にも二にも金正恩を中心に団結するしかないと腹を括っている。
発案者は頭の一部だけ見える妹の与正とみられる。党中央副部長と報じられたが、無軌道であった父親の癖を権威の象徴と曲解し、そのまま真似たのである。
北朝鮮メデイアに金正恩がニコニコ笑顔を浮かべ、周囲が一緒に笑うポーズが頻繁に登場するようになったのも、27歳の彼女の“斬新な”アイデアを取り入れたイメージ戦略であろう。

しかし、腹の中で違和感なり不快感を覚える北朝鮮国民は少なくなかろう。
年長者の前での喫煙を控えるのが朝鮮の美風と言われてきたことに反するからだけではない。
私も訪れたことがあるが、信川博物館は朝鮮戦争で侵攻してきた米軍により女子供を含む多数が建物に閉じ込められて焼殺されたり、虐殺されたとされる。金正恩の背後の数字は犠牲者の数である。「米帝に3万5383人が虐殺された」とある。
その犠牲者を悼むべき神聖な場で大っぴらに喫煙し、自己を誇示する感覚が問題なのである。

江東精密機械工場への現地指導を報じる今日の労働新聞一面でも、右手に煙草を挟みながら、自分の父親の年輩の党や工場幹部を引き連れている姿が誇らしげに紹介されている。
韓国人には、大韓航空副社長のナッツ・リターン事件を連想させ、祖父や親の後光で権勢を振るう傲慢不遜な世襲三世と反発を引き起こすことであろう。

ジュネーブのインターナショナルスクールで学んだ、成績は並でおとなしかった凡庸な青年が「絶世の偉人」云々と持ち上げられるギャップが、度を越した誇張と虚勢となるのだが、不幸なことに金正恩当人も自己暗示にかかってしまい、国政にも良からぬ影響を及ぼしている。
全ての政策が自分の権威の拠り所である先々代、先代のコピーとなり、異なった内外状況に無理に当て嵌めようとするため自ら破綻を招いている。

朝鮮半島の三世問題

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過渡期の現象であろうが、北朝鮮でも、韓国でも、三世の“活躍”が目につく。
北朝鮮では先代の3周忌を終えた金正恩第1書記が強引というか、ユニークな統治スタイルを出しつつあり、韓国でも大韓航空の「ナッツ・リターン事件」など財閥三世が何かと物議を醸している。
30代が中心であるが、解放後に身を起こした偉大な一代目の業績を受け継ごうと背伸びし、経歴、性格、思考方式など驚くほど共通点が多い。
良くも悪くも、民族性が表れていると言うべきであろう。

金正恩第1書記は今年、世界で最も有名になった人物の一人である。彼を暗殺するコメデイー映画「インタビュー」を制作したソニーピクチャーズ・エンターメントに対するサイバー攻撃事件は、北朝鮮?どこにあるの?という人々の関心まで引き付け、皮肉なことに商品価値が格段に高まった。
脅迫に屈して一度中止になった映画上映の動きが広まり、ネット配信が決まった。グーグルやマイクロソフトが配信権を獲て、アップル、アマゾンが独占する市場に切り込む場外戦まで引き起こしている。

一番ばつが悪そうなのが、「最高尊厳を害する」と同映画上映を阻止しようとした自意識過剰な金正恩である。
コメデイー映画にリアリテイーを付与する役割を果たさせられたばかりか、オバマ大統領からサイバー攻撃の主犯と名指しされ、報復まで受けるはめになってしまった。泣き面に蜂であろう。

私は日課のように労働新聞などを読むが、21日頃から遮断、復旧を繰り返した。
北朝鮮のサーバーは中国を経由しており、米国が報復した可能性が高い。
以前から企業秘密ハッカー問題で米国と衝突している中国がどこまで関与したか不明であるが、王毅外相が協力を示唆しており、米中間で協議されていることは間違いあるまい。

核問題、国連での北朝鮮人権非難決議に加え、ハッカー問題でテロ支援国家再指定のリスクまで抱えてしまった北朝鮮は、ソニー攻撃には加わっていないと冤罪を主張し始めたが、弁明になっていない。
ソニーピクチャーズサイバー攻撃事件直後の7日に国防委員会政策局が「不正義の行為は正義の対応を誘発する法」なる声明を発表し、事件との関与を否定しながら、「罪悪の墓に埋葬する正義の反米共助を世界に訴えてきた。我々の支持者、同調者の行為であることは明らかだ。米国への核洗礼まで布告した我々の報復はその程度で終わらない」云々と新たな攻撃まで予告している。
攻撃を教唆したと認めたも同然であり、実行犯が誰であれ、北朝鮮の関与は明白である。刑法では教唆が主犯とされることが珍しくなく、北朝鮮はもう少し国際法律常識を踏まえて発言する必要がある。

いずれにしても、32歳の若い指導者が短慮から後先考えず突っ走り、結果、裏目に出て、周囲が尻拭いに慌てているわけである。
そうしたケースが核・経済並進路線、馬息嶺スキー場など一連の不採算娯楽施設建設など至るところに現れ、経済破綻に拍車をかけている。
知見も経験も不足していながら、分不相応の権限を与えられた者が犯しがちな典型的な例と言えよう。

韓国でもナッツ・リターン事件以来、財閥三世の素行に光が当てられている。
ナッツを袋ごと出したと怒り狂い、乗務員に大声で罵声を浴びせ、飛行機まで引き返させた韓進グループ三世女性副社長の常軌を逸した行動は、逆に世論の糾弾を浴び、刑事被告人に転落する顛末となった。
類似の行動が陰で頻発に起きていると各紙誌が競って伝えている。財閥三世特有の特権的な選民意識をひけらかし、やたら鼻っ柱が強い。人から意見されたり、批判されるのを嫌い、気に入らないとグループ企業の重役クラスであろうと所構わず声を荒らげて叱責し、父親に訴えて報復的な降格人事をする。
暴行事件を起こし、揉み消す例も少なくない。実績を積もうと無理な事業に手を出し、会社に損害を与えるケースもある。
生活は派手で、年2億円近く法人カードで豪遊するものもいる等々、問題行動は枚挙にいとまがない。

成長過程を覗くと、彼ら彼女らの多くが中学から国際中学などに入り、米国のIBリーグ大学に留学し、MBAを取得して箔を付けようとする。
国内の激しい受験競争に勝てず、財力がものを言う米国の大学を選んでいる側面もあるようだが、青少年時からの特別扱いが尊大な三世文化を生んでいるとみられる。

興味深い現象であるが、三世が幅を利かすのは親の意向が届く企業内に限られ、政界ではほとんど意味をなさない。
科挙の伝統であろう。二世、三世政治家は朴槿恵大統領以外は数えるほどしかいない。金永三、金大中元大統領ら著名政治家の血縁であっても、ソウル大や高麗大など名門大の学閥が主流の政界、官界に付け入る余地はない。
この点は、金正恩を筆頭に三代世襲政治家・官僚が蔓延る北朝鮮、自民党の政治家の6割が世襲の日本とも決定的に異なる。

先代の金正日は長男の正男以下の子供を北朝鮮国内の学校に通わせず、スイスに留学させている。
本人は金日成大学があるから十分だと東独留学を1ヶ月足らずで切り上げたエピソードを誇っており、妙な言行不一致だが、正妻の子でないことを隠す狙いがあったとみられる。

金正恩と韓国財閥三世の言動には共通した点が多々みられる。
血統偏重の朝鮮文化の宿業と思われるが、個人が才能を発揮するチャンスを阻害する私物化の弊害が目につく。
大きな歴史の転換期に差し掛かった今、いかに超克するか重い課題ではある。

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1年前の今日、張成沢国防委員会副委員長が秘密警察の国家安全保衛部特別軍事法廷で死刑を宣告され、処刑された。
冒頭の写真は、少し前まで北朝鮮の最高実力者であった張が拷問され、反党反革命分子に仕立てあげられた顛末を如実に物語っている。
権力闘争が激しかったことの証左であり、金正恩政権の現位相を示唆している。

張成沢勢力を排除した金正恩政権について韓国には「安定している」とする見方もあるが、皮相的に過ぎる。
金ファミリーが分裂して権威を喪失し、唯一の同盟国・中国を失ったダメージは回復不能なまでに大きい。支柱を失った建物を外装工事で粉飾した状態、と思えば分かりやすいだろう。

張成沢粛清の先頭に立った崔龍海の不安定な立場がそれを象徴している。
日本のマスコミは崔を張に代わってナンバー2、金正恩の後見人になったと報じるが、水面上の氷山しか見えていない。

張系列の崔が張成沢・金敬姫夫妻の押しで2012年4月、党書記から空席であった軍総政治局長・党政治局常務委員に押し込まれ、先軍政治の主役であった李英浩総参謀長らを排除した事は前回指摘したが、崔は増長する。
軍総政治局長は特殊な地位である。金日成時代は人民武力部長の下に置かれていたが、金正日時代になって大物の趙明禄次帥が長く座った事で人民武力部長より上位となり、党常務委員を兼ねるナンバー2の実力者となった。
趙が2010年に死去してから2年間も空席にされたのは、趙に代わる人物を探せなかったからである。

その座に推された崔龍海は奢り、兄貴分の張成沢との関係が怪しくなる。最高権力機関とされる国防委員会での崔の地位は委員に止められ、副委員長の張の下にあったことが両者の確執を生んでいく。
改革開放路線、核開発路線を巡って金己男書記ら重鎮、組織指導部古参幹部らと張成沢一派との対立が深まる中、崔龍海は張と袂を別つのである。

張粛清で名目上、金正恩に次ぐ第二人者になった崔はさらに増長し、人民武力部長や総参謀長らを頻繁に入れ換え、生産現場に矢継ぎ早に軍を投入する強引な指導から軍内の反発を招く。
2014年4月の第13期第1回最高人民会議で念願の国防委副委員長に選出されるが、翌月、総政治局長を解任され、黄柄瑞組織指導部第1副部長と入れ替わる。9月の第2回最高人民会議で国防委副委員長も解任される。
党書記に戻されるが、国家体育指導委員長に任命されており、勤労団体担当の閑職であったと見られる。実際、労働新聞でたまに名前が出る際には金己男、崔泰福書記らの次と精彩を欠いていた。

ところが、10月29日の朝鮮中央通信が党常務委員の肩書で紹介し、翌月、18日に金第1書記の特使としてモスクワに飛び、プーチン大統領と会談する。
この慌ただしい動きが金正恩政権の不安定さを端的に物語るが、一体、何があったのか?

第1に、支配層を含めた北朝鮮国民の中で体制への忠誠心が急速に失われ、金正恩政権が求心力を失っていることを物語る。
昨年10月に金正恩に絶対的な忠誠を誓う10大原則が改正されたが、その直後の張粛清で10大原則の大前提である金ファミリーの分裂が露になり、その権威が根底から揺らいでしまった。
その分、力による恐怖政治に傾き、張成沢一派への粛清が再強化され、8月以降、50余人の高級幹部が家族共々処刑もしくは強制収容所送りとなっている。

韓国の脱北者団体の対北ビラ散布に「最高尊厳を冒涜」と過敏になっているのも、北朝鮮国民の動揺を恐れているためである。
特に、国連の人権決議に対して極度に神経質になり、今日付の労働新聞論評は「核抑制力で対抗する」と重ねて強調しているが、核で体制を支えなければならないところまで追い詰められている事を物語る。

こわもての崔龍海が再登場したのも、黄柄瑞総政治局長では抑えが利かなくなったためと読める。
黄はもともと金敬姫に近い人物であり、粛清の範囲拡大には慎重であった。金元弘国家安全保衛部長と対立しているとの情報もある。
崔が粛清に積極的なのは自分に禍が及ばないようにとの保身が働いている側面もあろうが、いずれにしても、金正日の最側近として金正日時代を支えた張成沢粛清が多くの人材喪失と体制の弱体化を来していることは間違いない。

第2に、唯一の同盟国である中国との関係悪化で経済的、外交的、軍事的な孤立が危機的な段階に陥っている。
これについては何度も指摘したので省略する。王洪光中国軍元中将が「中国の根本的利益を損ねている。国民の支持を得られない国家は崩壊する。中国は救うことが出来ない」(環球時報12月1日)と述べているが、習近平主席の考えと大きな違いはなかろう。

崔龍海が急遽訪ロしたのは、国連人権決議での反対票を要請すると共に、中国に代わる経済支援獲得が狙いである。
だが、したたかなプーチン大統領に足元を見透かされており、薮蛇になる可能性が高い。
ロシアが韓国を北朝鮮鉄道近代化や羅津港からの石炭輸送プロジェクトに引き込もうとしているのは、北朝鮮のソフトランデイングの青写真に沿っていると私は見ている。

そろそろ結論であるが、崔龍海の地位がエレベーターのように上がり下がりしているのは、本人の意思ではなく、別にスイッチを切り替える実勢がいるからである。
長期留学組の悲しさで国内人脈が皆無で固有の地盤がない金正恩第1書記は、それに事後承認を与える存在でしかない。
馬息嶺スキー場に続いて、その近辺の江原道洗浦の丘陵地帯で現在進めている大規模牧場は金第1書記が発案したと喧伝されているが、青少年時代を過ごしたスイスを思い浮かべたのであろう。発想は青年らしく面白いが、北朝鮮の実情が全く分かっていない。

党組織指導部と宣伝扇動部を握る実勢は、金正恩に妹の与正を付けて、金正日―金敬姫ラインの再来を狙うが、北朝鮮が置かれた状況はそれを許すほど甘くはない。
私が何度も指摘しているように、北朝鮮を真に助けてくれるのは、無論、米国ではなく、中国でもロシアでもなく、韓国の朴槿恵政権しかいない。
朴槿恵大統領への罵詈雑言はそれだけ期待するものがあるからであり、変則的なラブコールと思えば理解しやすい。

核という刺を抜いた南北協力こそが、厳冬に空腹を抱えて震えている北朝鮮国民を救う道である。

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