河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

日本人拉致問題

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横田夫妻とキム・ウンギョンさんとの極秘対面が、さる10日から14日までウランバートルで実現した。劇的と騒がれているが、果たしてそうであろうか。
祖父母と孫が会うという当たり前の事に、モンゴル大統領の助けまで借りて、日朝の外務当局が秘密接触を繰り返した。冷静に考えれば、エイリアンでもあるまいにと、滑稽な感すらある。

安倍首相は「重要な一歩」と自画自賛するが、重要なのはこれからである。
過去にも何度か似た局面があったが、同じ失敗を繰り返すようでは、無能と後世、嘲笑されよう。

早くも日朝相互の間ではしょうもない腹の探りあいが始まっているが、小を成さざる者は大も成さず。隗より始めよとの格言もある。
せっかく多大の外交努力と費用、時間を投じて実現させた横田夫妻と孫の対面を、一過性のものと終わらせてしまうようでは、あまりに能が無さすぎる。
人道主義の原点、大義に則り、対面を定例化し、双方が自由に日朝を往来できるようにするべきであろう。小さな第一歩が相互の不信を解き、理解を深める輪を広げていこう。

横田夫妻と孫の対面に反対してきた人々は、めぐみさんをはじめとする8人の死亡が既成事実化されると主張するが、憶測、邪推の類でしかない。
そこには少なからず、反北朝鮮の政治的な思惑が込められていることもその間、明らかになっている。

韓国が日朝接近を阻止しようと横やりを入れてくるとの声も聞こえてきそうだが、杞憂である。
朴槿恵政権は南北離散家族再会や対北人道支援を進めている。核問題を疎かにしない限り、朝鮮半島信頼プロセスの原則論からしても、日朝の人道交流に口を挟むことはあるまい。

現時点で無論、北朝鮮が自由往来に応じるとの保証はない。02年の蓮池薫氏ら5人の一時帰国の約束を破った安倍氏に対して不信感を募らせており、ウンギョンさんの訪日には警戒感を抱こう。
しかし、外交的経済的な理由から対日関係改善に力を入れており、日本側の交渉能力次第である。

北朝鮮は表向き、拉致問題は解決済との立場をとるが、08年に福田政権と再調査で合意した時点で柔軟姿勢に転換している。同合意は福田政権が短命に終わり、宙に浮いたが、無効とは考えていない。横田夫妻との対面に応じたのもそのためである。
再調査の見返りに日本側は日朝間往来、航空チャーター便規制緩和を約束していたが、それを実行に移せば事態は大きく動く。

横田夫妻と孫の自由往来はその第一歩となりうる。
安倍首相は「北朝鮮という国は外交的な工作を大変巧みに行う。善意をうまく利用される危険性がある」と19日の参院予算委で答弁しているが、どうしてどうして、自身も北朝鮮の善意を利用してきた前科がある。
ここは、自ら動いて度量を示す時である。
昨日の横田夫妻の会見は、心の底に響くものがあった。
夫妻が初めて会った孫のウンギョンさんと曾孫に「奇跡だ。家系を感じた」と語る姿に、自然と目頭が熱くなった。切っても切れない血の繋がりというものであろう。

改めて思うのは、なぜ対面が十余年も遅れたのかということである。
ここに、拉致問題の全面解決を妨げる要因が潜んでいる。

その責任の第1は言うまでもなく、拉致問題を引き起こした北朝鮮当局にある。
金正日国防委員長が拉致問題を認め、謝罪したものの、被害者家族が求める全容解明に非協力的であった。

その象徴が、横田めぐみさんの遺骨として日本側に引き渡したものから、「第三者のDNAが発見」された事である。それを境に日朝政府が対立し、拉致問題が膠着状態に陥る。
遺骨が本物であったなら、事態は全く反対の展開をした可能性があっただけに、北朝鮮側の不誠実で杜撰きわまる対応は責められるべきである。

しかし、当時の小泉政権も、非合理的で感情的な対応で事態を必要以上に混乱させたとの謗りを免れない。
細田官房長官は、「遺骨は他人のものであった」と断定する鑑定結果を公表したが、英科学誌ネイチャーが吉井鑑定人へのインタビューを基に非科学的と批判したように、政治的な思惑を秘めた乱暴なものであった。
「第三者のDNAが発見」されたことが、イコール「他人のもの」とはならない。吉井鑑定人は「遺骨に触れた第三者のDNAである可能性がある」と明確に述べている。つまり、科学的には「第三者のDNA発見」が確認された事実であり、遺骨は第三者のもの、めぐみさん本人、である可能性は全く同率なのである。

「第三者のDNAが発見」の解釈の違いが日朝対立へと発展したが、小泉政権が政権浮揚のポピュリズム的な思惑から、必要以上に北朝鮮との対立感情を煽った事は否めない。
その中心的な役割を担い、対北朝鮮強硬派として名を上げ、後に首相ポストまで射止めたのが安倍官房副長官であった。

こうした経緯から、解決途上で感情的にこじれた拉致問題を全面的に解決するのは一見、極めて難しいように思える。
だが、冷静に考えれば、それほど難しいことではない。感情論を排し、科学的な真相解明を優先させる事である。

08年に福田政権が北朝鮮と合意した共同調査は、そうした問題意識を日朝当局が共有した結果であった。
実は、私もその橋渡し役の真似をしたが、福田首相が短命に終わり、霧散した。

今回、横田夫妻は家族会、「救う会」に事前に知らせず、モンゴルでウンギョンさんと面会した。無用な対立感情を排し、被害者の目線に立った人道主義の原点から問題解決を図るには、それしかなかったと言える。
政治的な思惑を排し、自由に会えるようにすることが、日朝当局双方の最低限の責務と言うべきである。

今後、共同調査が重要なポイントとなるが、過去の教訓を踏まえ、国連など第三者の参加を求めて客観性、科学性を保証する事が必要不可欠である。
ネックとなった横田めぐみさんの遺骨とされるものに対し、科学的な再鑑定を、経験豊富なフランスの研究機関に委託するのも有効な手立てとなろう。
飯島内閣参与が昨日電撃的に訪朝したが、隠れサプライズは横田夫妻訪朝の地均しであろう。
安倍首相訪朝説もあるが、現時点では双方にかなりの政治的なリスクを伴う。

飯島訪朝が安倍首相の意向を受けたものであるのは間違いない。
『証言・北朝鮮ビジネス裏外交』に詳しく書いたが、福田官房長官の下にいた安倍官房副長官が上司を出し抜いて首相のポストを射止めたのは、拉致問題の全面解決を押し出して横田夫妻の支持を得て、国民の注目を浴びたからであった。

しかし、程なく行き詰まって首相職を放り出し、横田夫妻の不信を買った。
安倍氏は再登板した今年初め、横田夫妻らと会って拉致問題解決を再度誓ったが、今年上半期に具体的な成果を出してほしいと期限を切られている。
飯島訪朝はギリギリのタイミングであった。

参院選対策が安倍氏の頭にあることは言うまでもなかろう。
円安株高のミニバブルで支持率は高嶺に張り付いているが、いつ反転するかわからない。
肝心の景気は回復せずインフレが忍び寄り、日本経済の生命線である貿易は赤字額が史上最悪を更新し、991兆円を超えた債務危機が再燃する気配だ。
加えて、従軍慰安婦や歴史認識問題で韓国、中国ばかりか、米国議会やマスコミでも批判の声が高まっている。
拉致問題で首相になった味が忘れられない安倍氏は再度、その神通力にすがろうとしているとみられる。

他方の北朝鮮は、「五人の一時帰国の約束」を破った安倍氏の背信行為を非難するが、小泉元首相への言及は避けている。日朝ピョンヤン宣言は今も有効であるとのメッセージを込めたものである。
小泉元首相の腹心であった飯島氏とは通じるものがあり、今回の訪朝受け入れとなった。
3月の休戦協定破棄、核全面戦争宣言により逆に韓米の強力な封じ込め圧力に遭って動きが取れなくなっている折、日本との対話再開で国際的な制裁圧力に風穴を開けたいとの思惑がある。

双方の思惑が一致して飯島内閣参与の電撃訪朝となったが、前途多難である。
図らずも日朝共に東アジアで孤立している。北朝鮮非核化で相互連携を強める韓国、米国、中国の頭越しに動くのは自ずと限界があろう。

そうした閉塞状況を破るインパクトがあるのが、横田夫妻のサプライズ訪朝である。
朝日友好が双方の利益と東アジアの安定と平和に資することは二言を待たない。横田夫妻のサプライズ訪朝が膠着した拉致問題前進の突破口となり、日朝友好の気運を高めることは間違いなかろう。

とは言え、日朝関係はもはやそれだけでは動かなくなっている。それだけに、地道な努力の積み重ねが求められる。
民主党政権末期に動き出した拉致被害者再調査、北朝鮮で敗戦後に亡くなった日本人の遺骨収集や墓参問題、不当に差別されている高校無償化など在日朝鮮人の処遇問題を含めた多面的な対話のチャンネルをつくり、一歩一歩進めて行くしかなかろう。
総選挙の結果を見据え、北朝鮮が野田前政権と進めていた日朝外務省局長級協議を来春に開催するように申し入れたが、安倍政権は態度を保留している。
「拉致問題解決は自分の使命」と家族会との会談で言っておきながら、消極的に過ぎないか。

相手を必要以上に警戒するあまり、好機を逸するようでは、口先だけで何の成果も挙げられなかった五年前の再現となりかねない。
日本側は対話の窓は開いていると主張してきたが、外交的な方便ではなく、真実味があるのか具体的に問われている。

日朝外務省局長級協議は11月15日からウランバートルで開催され、翌日の衆院解散を踏まえてソン・イルホ朝日国交正常化交渉担当大使は拉致問題の協議に応じた。協議終了後の18日に日本人記者団にそれを明かし、「拉致問題は解決済」との言葉は使わなかった。
その際、ソン大使は「何をもって拉致問題の解決と言うのか」と日本側に明快な定義を求めている。

北朝鮮はその時点で自民党の総選挙勝利を見越し、安倍政権誕生を念頭に建設的な提案をしたと読むべきである。
08年の再調査合意は福田政権が倒れて事実上流れ、民主党政権も安定しなかった。コロコロ変わる日本の政治に手を焼いていた北朝鮮は、安定政権を望んでいた。その意味では安倍政権は仕切り直しに格好というわけである。
北朝鮮は日本の政局絡みのダラダラした交渉にうんざりし、いい加減に決着をつけたいと本音で思っている。

安倍政権はこの好機を逃すと、五年前の再現となることを知るべきである。
中国、韓国、ロシアといずれも歴史認識と領土問題で対立し、今さら北朝鮮問題で支援を求めても効果は期待出来ない。
制裁と言っても見せしめに在日朝鮮人をいじめるくらいだが、国際社会から民族弾圧と非難されるのがおちである。

また、家族会からは「2、3年と言わず、来年前半に結果を出してほしい」と明確に期限を切られており、以前のように勇ましい言葉だけで誤魔化すことは許されない。

北朝鮮との協議を実質的に進展させるためには、何よりも、何をもって拉致問題の解決と言うのか、拉致問題の定義を明確にすべきである。
ブッシユ元政権からも日本の求めることは情緒的感情的で、よくわからないと再三クレームをつけられ、ギクシャクした経緯がある。
中国、韓国、ロシアでは、北朝鮮への植民地支配の謝罪、賠償を曖昧にするために拉致問題を利用しているとの批判が高まっている。

そうした疑念を晴らし、拉致問題を最終的に解決するために、安倍氏は拉致問題の解決とは何なのか、国際社会が納得する説明をする責務がある。
目標が定まらずして、解決なるものはあり得ない。自ら障害を作ってはならないことは言うまでもなかろう。
安倍氏が首相復帰早々の昨日正午、拉致被害者家族会メンバーと会ったが、横田夫妻などから突き刺すような厳しい視線が向けられている様子がテレビ画面に映された。
家族会の飯塚代表は会談後、テレビカメラに向かって「2、3年と言わず、来年前半に結果を出してほしい」とはっきりと注文を付けたが、五年前に何の成果も出さずに政権を放り投げた経緯があるだけに、家族会としての率直な思いであろう。

安倍氏としては思惑が外れた形だ。
「もう一度総理に就いたのは拉致問題を解決しなければならないとの使命感があるためだ。私の政権で解決したい」と述べた。
だが、家族会は明確に期限を切った。人気取りや政権浮揚に利用されたことへの警戒感があるだけに、当然である。

安倍氏は新年前半にも結果を出さねば厳しい批判に晒されることを覚悟しなければならないが、現実的にはかなり難しい。
五年前はまだ韓国、中国の協力をそれなりに得られたが、歴史認識や領土問題で対立する現在、対話のチャンネルさえない。
逆に、北朝鮮への植民地支配への謝罪、賠償をおろそかにし、拉致問題に偏っているとの批判が韓国、中国で高まっており、安倍外交の前途は多難である。

日本側が主張する拉致被害者のコンセプトが情緒的で曖昧なことも、外国では問題になっている。
中国からは、日本は拉致被害者返還に協力してほしいと言うが、どれも噂話の類いで証拠を示さないから協力しようがないと苦情が出ているのが実情だ。

民主党政権下で、敗戦直後に北朝鮮で亡くなった日本人の遺骨発掘や墓参の道が開け、拉致問題を含めた日朝外務省局長級協議開催で合意をみた。
安倍氏は圧力、制裁に力点を置くと述べていることから、それすらなくなり、日朝関係は後退し、拉致問題解決はさらに遠のく危険性がある。

経済回復、原発問題と難問山積の中、安倍氏は昔のモードで拉致問題で支持率を上げ、参院選に臨むシナリオを描いているが、反対に足をとられる可能性が高い。
拙書『証言「北」ビジネス裏外交』(講談社)で明確にしたように、安倍氏は「蓮池薫氏ら五人の一時帰国の約束」を破るなど北朝鮮から全く信用されていない。

あえて安倍氏に起死回生の秘策を明かすならば、横田夫妻の声に謙虚に耳を傾け、夫妻が望むめぐみさんの一人娘、通称キム・ヘギョンさんとの面会を実現することである。
やり方次第で、拉致問題解決と日朝対立の転換点となろう。それは八方塞がりの日本外交の福音ともなろう。
五年で成長した証を見せる時である。

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