河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

ウリ式市場経済に向かう北朝鮮社会

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14日の南北実務協議で開城工団の正常化で合意した。
単なる再開ではなく、再発防止を文書にして確約し、発展的な正常化の出発点に据えたのは歓迎できる。
双方が互いに歩みよった結果であるが、文書を誠実に履行し、南北関係発展に繋げられるかが今後の課題である。

共同文書は五項目合意の第1に「通行制限や労働者撤収などによる中断が再発しないよう、情勢の影響を受けずに運営する」と明示した。
これが北朝鮮が4月3日以降一方的な強行措置で工団操業を中断させたことを指すことは明らかであり、金正恩政権がそれを認めたことは、再発防止策として有効である。

韓国側が再発防止の主体を「双方」として金正恩政権の責任を必要以上に追求しない柔軟性を見せたことは、朴槿恵大統領の韓半島信頼プロセスの幅を示すものであり、今後の展開に期待を持たせる。
それに対しては韓国内に生ぬるい、甘やかすなとの批判の声もあるが、総じて評価する声が多い。

今後の課題はやはり一にも二にも金正恩政権が合意を遵守することである。
何かの見返りを求めて政治的に利用し、同様な事態が再発するような事があれば、開城工団はなくなるものと心得る必要がある。

今さら綺麗事を言っても始まらない。
金正恩政権がギリギリのタイミングで再発防止に同意したのは、経済が困窮し、工団再開による韓国の支援が欲しかったからである。

2月の核実験と核・経済並進路線による過激な対決路線により海外の制裁圧力が一段と強まり、食糧、原油などの戦略資源を海外に頼る北朝鮮経済は立ち行かなくなっている。

今年上半期の対中輸出は15・9億ドルと前年比マイナス14%と激減した。食糧がマイナス64%と落ち込み、6月の原油輸入は0であった。
中国の金融制裁と外貨枯渇で買えなくなっているのである。
対中輸出は13・6億ドルと6%増えたが、貿易赤字は2・2億ドル。前年の5・5億ドルより減ったとは言え、対中累積債務は巨額である。
中国は支援的な信用供与を中止し、現金決済に切り替えているとみられる。

再言するまでもなく、中国は核放棄の実行を迫って圧力をかけているのである。
こうした状況下で、金正恩政権としては韓国に頼るしかなくなっている。

核保有に威信をかけた金正恩第1書記としては、いきなりの核放棄は政権の存亡に関わる。
朴槿恵大統領は北の政治的な不安定化は得策でないと判断し、対話を通して信頼を積み上げ、核廃棄・改革開放へと誘導しようとしているとみられる。

金正恩政権もしたたかに巻き返しを図ろうが、状況は極めて厳しい。
韓国世論はいつになく金政権に厳しい目を向けており、朴槿恵大統領の忍耐にも自ずと限度があることを知らねばならない。
韓国経済にとって開城工団は南北の和解や統一を踏まえた長期的な投資としてはメリットがあるが、中短期的には造成費用、電気、水道の負担など大幅な持ち出しである。北の40倍という経済規模からして、北朝鮮が外貨獲得源と切実に感じているほどのメリットは全くない。

金政権は今後、核放棄と改革開放に向かって、言葉ではなく、具体的な行動で真正性が一々検証されることになる。
核一つで劣勢が挽回できるなどと考えるのは、国民を疲弊させるだけの無謀な博打である。
6・15共同宣言も北朝鮮の非核化が前提になっており、それなくしては絵に描いた餅でしかないことを知らなければならない。

開城操業再開は、そのための第一歩である。
合意文書にあるように国際的な協約や取り決めを守って信用回復に努めなければならない。
それを大きく立ち後れた経済再建に繋げる事ができるか、そこに一重に金正恩政権の未来がかかっている。
14日に開城工団の正常化に関する第7回南北実務協議が行われる。
南北が正常化合意に至るとしたら、これが事実上、最後のチャンスになる。

もし、協議が決裂したら、次はない。
韓国当局は法的な精算手続きを開始し、総額約300億円の入居企業への保険金支払いが始まり、公団への電気、水道供給が止められ、事実上の閉鎖が決まる。

そのことは北朝鮮も十分に理解しているはずである。
韓国側への回答をさんざん遅らせ、8日、韓国当局が109社への保険金支払い手続きを開始する一時間前に同意のファックスを送っているからである。

しかも、祖国平和統一委員会スポークスマン特別談話は「委任により」と金正恩第1書記の直接指示によることを示唆している。
韓国側は統一部主管だが、朴槿恵大統領の直接の指示を受けていることは言うまでもない。
つまり、南北最高指導者が実務協議の形を借りて開城工団再開を協議することになる。

開城工団の政治的経済的な位置と役割からして当然のことであり、南北は体面にこだわらず、工団再開に向けて知恵を出してもらいたい。

焦点は、やはり再発防止措置である。
同じ事が今後とも繰り返されるようなら、公団を再開する意味がない。

世界が見ていたように、問題の発端は北朝鮮側が入居企業の経営者や管理者の入境を突然制限し、北朝鮮労働者5万3000人を引き揚げたことに始まる。
北朝鮮側は、最高尊厳を侮辱したなどの政治的な挑発を南側が行ったから悪いと主張するが、公団の運営規則とは全く関わりないことである。

北朝鮮内部の政治感情を外部の韓国側に押し付ける独善が通じるはずもない。
北朝鮮は外部の資本誘致を求めているが、そのようなことを繰り返すと、まともな外資は寄り付かないだろう。

その意味で、特別談話が「いかなる政治的な影響も受けないようにする」と再発防止に言及したことは評価される。
過去、開城工団は南北の政治・軍事的な対立を乗り越えて運営されており、その知恵を明確に南北合意として文書で確認する必要があろう。

韓国側も再発防止措置に北が応じたことでよしとすべきである。
いたずらに謝罪にこだわると、北朝鮮内部にあらぬ政治問題を引き起こし、必要以上に事態を複雑にしかねない。

北朝鮮が核開発放棄を明確にしていない中で、朴槿恵政権が開城工団操業再開に応じることには、韓国国内にも反対論が強い。
実際、ネット上では金正恩政権の横暴を批判する声が圧倒的であり、再開賛成派は少数にとどまる。
また、米国など国際社会も現状での再開には批判的である。
朴槿恵大統領としてはある程度のリスクは覚悟の上で、持論の南北信頼構築プロセスを進めるということになろう。

他方、金正恩政権がギリギリのタイミングで譲歩の姿勢を見せたのは、無謀な核・経済建設並進路線で経済が深刻な事態に陥り、韓国の経済協力を求めざるをえない実情がある。
それはそれで現実的な判断と評価できるが、自ずと限界がある。

核放棄問題を棚上げにして南北対話を進めるのは、金正恩政権に対して一段と厳しい目を向ける韓国世論の動向からも不可能である。
そもそも北朝鮮が強調する6・15共同宣言は金大中・金正日が非核化を約した上で交わした協約であり、核開発を進めながらそれを求めるのは道理に合わない。
韓国からさらなる経済協力を得るには、核放棄を行動で示し、韓国世論の理解を得なければならないことを知らなければならない。
韓国国家情報院は24日、国会に07年の南北首脳会談議事録を提出したが、その中で盧武鉉大統領が金正日国防委員長に「日本は朝日国交正常化に際して100億ドルで解決したいと考えているようだ」と伝え、「10兆ウォンにもならない額だ。5年以内に準備できる」と述べていた事が明らかになった。
ノ・ムヒョン大統領は韓国単独で十分に北朝鮮経済再建は可能との自信を示したのである。

北朝鮮が今も履行を強く求める二つの首脳会談で交わされた南北経済協力案、すなわち、6・15合意と10・4合意は、世界有数の経済大国に成長した韓国の実力に裏付けられている。
その構図は現在も何ら変わることはない。
韓国経済の四〇分の一で、済州島程度のGNP の北朝鮮経済浮揚はそれほど難しくない。ポスコ一社だけでインドに100億ドル近い投資をして総合製鉄コンビナートを建設している。同規模の総合製鉄基地を南浦か清津に造るだけで北朝鮮経済は一新するだろう。

しかし、二つの南北首脳合意は1992年の南北非核化宣言など一連の協定に基づいている。
北朝鮮が同宣言を一方的に破棄し、核兵器開発を公然と進めている以上、国際法上は失効したも同然である。
つまり、北朝鮮が核廃棄をしない限り、韓国の経済協力を得ることは不可能となる。

公開された機密文書からは、もう一つ北朝鮮の重大な欠陥が見えてくる。
金正日委員長は「開城工団は市場経済を北に広める」と述べ、外資導入に臆病であったことである。
今年4月に北朝鮮が開城工団の労働者を撤収し、工団を閉鎖に追い込んだ背景には、市場経済へのアレルギーがあったことがうかがわれる。

しかし、それでは北朝鮮経済再建は永遠に夢である。
北朝鮮は中国国境の黄金坪島に敷地面積において開城工団を上回る工業団地を中国の全面支援で造成中である。
開城工団閉鎖を見ている中国企業は慎重にならざるをえないが、何年後に仮に進出したとしても、開城工団以上に貪欲に利潤を追及しようとするであろう。
それを保護する中国政府と北朝鮮政府の間に新たな紛争が勃発する可能性もある。

北朝鮮はいわゆる並進路線で軍事に偏重した第1次7ヵ年計画(1961年〜1970年)を最後に、中長期的な経済計画を立てられないでいる。不利な経済統計も隠された。
「先建設後統一」を標榜して外資導入輸出振興に資源を選択、集中した朴正煕政権との経済競争に押され始めた頃のことである。

まともに経済計画を立てられないのだから、経済が発展するわけがない。
原因は色々あるが、軍事優先の非合理的な経済運営システムと資本、技術の不足が大きい。

経済改革が必須であったが、市場経済社会を知らない金正日委員長にはそもそも荷の重い課題であった。
その意味でスイスで生活した経験のある金正恩第1書記には新たなリーダーシップが期待されたのだが、核武装にずれてしまったのは甚だ残念である。

だが、今からでも遅くない。核廃棄を約して韓国と和解し、政治的な野心を封印して素直に経済協力を求めるべきである。
そうして半世紀ぶりの5ヵ年計画を立て、再出発を図るのが北朝鮮国民のためにベストの選択となる。

教育が普及して人材があまりあり、資源も豊かであり、経済が発展しない方が不思議である。
まず一人あたりGNP 1000ドルで国民にテレビ、冷蔵庫、洗濯機を行き渡らせ、次はマイカーの4000ドル台を目指す。
そうすれば、国を捨てる脱北者は放っておいても激減し、政治も安定しよう。
金正恩第1書記が先月6月28日に「新経済管理改善措置(6・28措置)」を内部指示したが、先代が2002年7月1日に出した7・1措置を大きく前進させたと評価できる。
先代には体験したことがない市場経済への恐怖症があったが、スイスで普通の少年として暮らした息子は、むしろメリットを多く感じている。
市場経済導入に向けた改革開放政策の第一歩となろう。

その1は、企業や農場の権限を拡大し、製品の販売権を与える。私企業的な独立採算制強化である。
その2は、集団農場の作業単位を5分の1、家族単位の4〜6人に縮小し、土地の処分権を拡大する。個人農への準備である。

すでにケソン(改善)が合言葉になっている。
中国との爆発的な貿易拡大、今年末の大統領選以降の韓国との交流拡大を見込んでいる。
労働党書記局が中心となってまとめた6・28措置から目を離せない。
金第1書記は遠からず李雪主夫人同伴で訪中し、大型商談をまとめるとみられる。

 金正日委員長が渇望する外資誘致の秘法は一つ、北に投資して儲かった企業を出すことである。
 金委員長が中ロを駆けずり回り百万言投資を求めるよりも、儲け話一つで投資家は雲霞のように集まってくる。
 リスクが高すぎる。過去に投資した企業はことごとく失敗しているとのマイナスイメージを払拭することが必要である。

 その稀有のモデルケースとなりうるのが、開城工団に進出した韓国企業であり、ピョンヤンで携帯やホテルを手掛けているオラスコムである。
 これらの企業はそこそこ利益をあげつつある。さらに儲けさせ、そのパイから北朝鮮が利益を得るシステムを作り上げることである。
 その噂が広がれば自ずと外資が進出してこよう。

 逆に言えば、それがない限り、何十、何百の法律を作ったところで信用されない。
 さらに言えば、法律は投資環境の整備であり、違反行為を想定し、第三者機関の裁定と賠償措置、そのための手続きがないと実効性がない。
 つまり、法律とは言えないただの宣言文でしかない。
 これまでの北朝鮮の投資関連の法律にはそれが欠けている本質的な弱点があり、その是正が急務であることも指摘しておく。

 なお、南北将官級軍事会談北朝鮮代表は8日、韓国側の反体制ビラ散布に反発し、「和解と協力か、あるいは物理的対決かという分かれ道で、賢明な選択をするべきだ」と中止を求める通知文を送った。「(韓国側の)妄動は、これ以上容認できない状況に至った」とし、物理的対応を示唆した。
 こうした過激な反応は対北投資をさらに萎縮させる。

 南北相互承認すれば他国にビラをまいて内政干渉することもなくなるし、物理的対応で恫喝しながら和解、協力を求める矛盾した行為をする必要もない。
 いい加減に大人になるべきである。

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