河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

ウリ式市場経済に向かう北朝鮮社会

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 朝鮮中央通信は19日、金正日総書記が新製鉄システムを完成させたソンジン(城津)製鋼連合企業所を現地指導し、国産の石炭を製鉄に利用する新製鉄技術「チュチェ(主体)鉄」確立を「第三次核実験よりも偉大な勝利」と激賞した。
 北朝鮮が無尽蔵の鉄鉱石と石炭を活用した鉄鋼製品を国際市場に送り出すことが出来れば、「強盛強国建設」のスローガンも現実性を帯びてくる。

 同通信によると、「金総書記は鋼鉄職場、チュチェ鉄職場、精錬職場などを長時間にわたって視察し、良質のチュチェ鉄が川の水のように流れ出るのを見ながら、チュチェ鉄による鋼鉄生産方法を完全に成功させ、生産量を高めていることに満足を表した」。
 さらに、「城津の労働階級が自分の力と技術でチュチェ鉄製鋼法を完成させたのは冶金工業発展で特記すべき歴史的な快挙であり、第三次核実験よりも偉大な勝利であると述べ、チュチェ鉄の主要生産工程である酸素溶融炉と精錬炉に金日成勲章を授与した」という。
 http://www.kcna.co.jp/calendar/2009/12/12-19/2009-1219-014.html

 『証言北ビジネス裏外交』で詳しく述べたように、世界有数の茂山鉄鉱山を擁する北朝鮮製鉄の最大の弱点は、高炉の燃料として不可欠のコークス炭が国内で産せず、中国などから輸入してきたことであった。社会主義経済圏崩壊と外貨不足の中でコークス輸入が止まり、高炉の稼働率は大幅に低下した。
 そのため国内で無尽蔵に産する無煙炭と褐炭による銑鉄生産方法、つまり、チュチェ鉄の確立に力を入れてきた。

 朝鮮中央通信は「完成」と伝えているが、それが事実なら、今後数年内に北朝鮮は鉄鋼輸出国に変わり、韓国、日本のライバルになる可能性がある。
 金総書記は「第三次核実験以上の勝利」と独特のレトリックで評価しているが、気持ちは理解できる。2012年に向けた「強盛大国建設路線」への道筋が見えてきたのであろう。

 韓国銀行は昨年の北朝鮮の経済成長率は3・7%と推定した。
 今年はどうか。北朝鮮が4月20日〜9月16日まで総力を挙げた増産運動「150日戦闘」の総括で「工業生産は前年の同じ期間に比べ1.2倍成長し、数百の工場が操業、再建」「鋼鉄、圧延鋼材などの鉄生産が数倍に激増」「プッチョン火力発電所連合企業所電力生産1・4倍」「石炭生産1・5倍。1200余の予備採炭場新設」「貨物輸送計画18%増」「工作機械26%増」「発電機14%増」「電動機22%増」「変圧器20%増」「セメント生産1・4倍」「1000余の工場、鉱山が年間計画を超過達成」などと成果を伝えている。
 水増しもあろうが、鉱工業部門は再建軌道に乗りつつあるとみられる。チュチェ鉄確立でそれに弾みがつこう。

 農業は依然として不振だが、工業部門は成長軌道に回帰しつつあるのは間違いない。
 それを見越し、豊富な地下資源に目をつけた米、フランスなどの企業が急接近している。

 他方、日本のメディアは「北朝鮮経済危機」と否定的な側面ばかりを伝え、「北はベアリングも作れない」などと出鱈目なことを喧伝している何とか学院大教授もいる。
 そうしたいい加減なイメージで北朝鮮を見ていると、外交も経済も誤る。
 昨日も下着などを中国経由で北朝鮮に輸出した日本企業が捜索を受け、某局が自公政権時代のノリでさも悪いことかのように報じていたが、そろそろ異常事態を正常化すべき段階に来ている。

 朝鮮中央通信は16日、金正日総書記が北朝鮮初の自由貿易地帯である東北部の羅先(ラソン)市を現地指導し、「重要な対外貿易基地の一つとして発展させるように、党と行政事業が特別な関心を向けるべきだ」と指示したことを伝えた。
 1991年12月に自由貿易地帯に指定された同市を金総書記が訪れたのは初めてのことで、中国、ロシア国境に近く、“黄金の三角地帯”と言われる同地域を対外貿易の拠点として発展させる目的があると読める。

 朝鮮中央通信によると、金総書記は羅先テフン貿易会社の水産物総合加工場などを視察した後、「対外活動を積極的に行い、対外市場を引き続き広げていかなければならない」と指示した。
 また、「対外貿易で信用第一主義原則を遵守することが重要である」として、輸出規律厳守、質向上の必要性を強調し、「貨物輸送を円滑にするために鉄道と海上輸送分野で運搬対策を綿密に立てなければならない」と述べた。
 現地指導には、ホン・ヒョン咸鏡北道党責任書記とギム・ギナム労働党秘書、キム・キョンヒ党軽工業部長、張成沢・党行政部長が同行した。
 http://www.kcna.co.jp/calendar/2009/12/12-16/2009-1216-021.html

 北朝鮮は先月30日の電撃的なデノミで地下金融資産を回収し、経済再建の切り札とされる鉱工業部門の新規国家プロジェクトに投入する金融改革を断行した。
 その一方で、中国東北三省とロシアを結ぶ鉄道の要衝であり、東海岸切っての不凍港である羅先市を自由貿易地帯として本格開発することで、微成長を続けてきた経済全般に弾みをつけようとしていると見られる。

 不動産関連法の整備などもその一環と見られる。
 朝鮮中央通信は16日、最高人民会議常任委員会は、不動産管理法、物資消費基準法、総合設備輸入法などを制定したと報道した。
 それによると、不動産管理法は「不動産の登録と実写、利用、使用料納付で提起されて諸問題が規定された」。北朝鮮は06年に不動産価格を決め使用料を徴収し、郡、区単位で土地や建物の面積などの測量を実施したが、細部は不明であった。
  
 また、物質消費基準法については「材料消費量の基準制定と適用範囲を明らかになってした」とする。慢性的な物資不足の下で物価を抑制する狙いがあるようだ。
 総合設備輸入法は少ない外貨の有効利用のために工場、学校、病院、放送局などへの輸入品の優先順位を決めようとするものであろう。
 
 こうした措置について韓国では「北朝鮮内部に広がっている市場経済を抑制し、計画経済に戻る試み」との見方があるが、即断は禁物である。
 欧州で唯一国交のないフランスが代表部設置を求めているが、北朝鮮がそれに応じれば対外開放がまた一歩前進する。羅先はシベリア鉄道でパリと繋がっており、モノとヒトの流れがこのルートで増える可能性がある。
 『証言 北ビジネス裏外交』で指摘したように、市場経済の浸透は後戻りの出来ない段階に来ており、紆余曲折はあっても前に進むしかない。

 北朝鮮のデノミについて日本のマスコミは「混乱」に重点を置いて報じるが、一面的で、今の北朝鮮の全体像が捉え切れていない。
 02年発券の新札が含まれているように、事は02年の7・1措置の時点で予測され、準備された側面があった。

 私が04年の『金正日の後継者は在日の息子―日本のメディアが報じない北朝鮮高度成長論』で「市場経済化は試行錯誤を重ねるだろう」と書いたように、今回のデノミは経済再建のための金融改革の一環として断行されたのである。
 市場経済に通じた内閣経済研究所の経済ブレーンが計画立案に参画したのは間違いあるまい。

 政治主導の電撃的な措置であり、行政が対応できず一部住民が抗議するなど現場で混乱が起きたことは事実である。
 北当局は11月30日頃に有線放送で旧貨幣100ウォンを新貨1ウォンと交換するよう呼びかけたが、周知徹底されず、12月6日までの期限は一週間ほど延長されたようだ。交換額上限についても1人あたり10万ウォン(2300円)、15万ウォン説が飛び交い、「300万ウォンまでは銀行預金できるが、現金化できない」「商店や食堂などは価格が定められず、臨時休業」といった話も伝わってくる。
 外貨は外貨ショップ以外では使えないとしながら、実際には、韓国からの旅行者が利用する羊角島ホテルなどのホテルや街のレストラン、土産物売り場でユーロ、ドル、元などが使われている。

 しかし、日韓の一部で期待される暴動の可能性は低い。
 ピョンヤンでの一ヶ月の生活費は一世帯4万ウォン前後とされ、現金資産が10万ウォンに満たない大多数の市民の生活に直接的な影響はなく、むしろインフレ抑制や過度の蓄財・汚職摘発を歓迎する声もある。

 日本のマスコミのピントが外れているのは、過去4回のデノミとの区別が出来ていないためである。NHKのニュースは「市場」を「いちば」と読んでいたが、「しじょう」がより正確である。
 今回のデノミは7・1措置以降に誕生した市場と個人商をターゲットにしている点が決定的に異なる。

 トンジュと言われる富裕層が有するチャンドン(個人保有通貨)は10万ウォンから300万ウォンとみられる。為替レートでは10万ウォンは2300円にしかならないが、購買力平価換算すると十数万円に該当しよう。300万ウォンは千数百万円になる。ピョンヤンの高級マンションに手が届く額である。
 彼らは多くをタンス貯金し、不動産投機などに資金を投じるが、そうした地下経済の貨幣量が大幅に増え、実際に流通する通貨量を圧迫し始めたため、通貨引き締めの必要が生じたものと思われる。
 例えば、国営工場が資金不足で原資材を十分に購入できないといった事態も生まれている。

 北朝鮮は年末に向けての「100日間戦闘」の最中にある。農業は肥料不足などから十分な成果が上がらないが、鉱工業はかなり持ち直し、上昇気流に乗りつつある。製鉄・冶金、機械、肥料などで工場の拡充新設プランも目白押しである。
 労働新聞が総力戦を呼びかけているように、地下経済から資金を回収して生産現場に回す狙いが今回の金融改革にはあったと見るべきであろう。旧通貨廃棄と新通貨発券でインフレを心配することなく財源を捻出できるメリットがある。

 外為の二重構造打破も目的の一つと思われる。
7・1措置当時は1ドル当2.16ウォンだったものが、現在は正規で150ウォン台、闇市場では3000ウォンを上下している。
 また、元が過度に国内で流通し、中国経済の影響力が強まっている。貿易仲介商の購買力を低下させることで、中国商品輸入抑制と国内産業育成の二兎を追ったわけである。

 しかし、今回の金融改革は7・1措置後の市場経済化の動きを萎縮させかねない諸刃の剣でもある。
 「通貨偶像化が社会主義の経済関係を蝕む」(季刊「経済研究」・科学百科事典出版社)と市場を否定的に見る傾向が根強く残り、リーマン・ショック後の資本主義経済の混乱がそれを後押ししている。
 今後の展開から目が離せなくなった。

 北朝鮮がこの時点まで公式発表をしていないことが、今回の金融改革の重要な狙いを浮き上がらせる。
 少なからぬ労働党や軍幹部が賄賂や公金着服で不正蓄財しているとの報告に金正日総書記が激怒し、鶴の一声で電撃的な改革措置が取られたという情報があるが、一連の経過を見るとうなずける面が多々ある。

 『証言「北」ビジネス裏外交』などで明らかにしたように、02年の7・1措置以降、北朝鮮では市場が全国に急拡大し、ヒト、モノの流通活発化で経済は活性化され、市場から新興富裕層が続々誕生した。
 また、海外で働く貿易関係者や労働者は「忠実な資金」を上納すると、残りは個人保有できる。

 そうした個人保有の資金は日本なら銀行などに預けたり株投資に振り向けられて金融市場に出回るが、北朝鮮では資本主義的な銀行が抑制され、証券取引所もない。
 政府は「貯金所」への預金を奨励するが、金利が低く、支払保証もない。前回の1992年の金融改革では個人の交換上限額が定められ、貯金所の貯金の超過分は没収されてしまった。

 そのため貯金所は全く信用を失い、「トンジュ」(金持ち)の「チャンドン」(小遣い=個人保有貨幣)はタンス貯金に回った。その結果、地下金融市場が形成され、ピョンヤンの高級マンションなどの不動産投機となって現れている。
 北朝鮮政府としては、インフレ抑制とともに、地下資金の透明化が政策的な課題として浮上してきたのである。

 そこで出て来たのが、金総書記の鶴の一声である。
 エリート層の不正蓄財清算を大義名分に一挙に諸課題を解決しようとの北朝鮮式金融改革の断行である。
 直前まで秘密にしたのは、党・政・軍幹部も対象だからであったためと読める。

 北朝鮮の17年ぶりの金融改革を単なるデノミと考えるようでは、02年の7・1措置以後の北朝鮮の変化が見えていないと言わざるを得ない。
 04年の『金正日の後継者は在日の息子―知られざる北朝鮮高度成長論』や昨年暮の『証言』で繰り返し指摘したように、それは配給経済と決別し、個人の商活動を認める市場経済化に道を開く「静かな革命」とでも言うべきものであった。

 7・1措置は北朝鮮初のインフレ政策と言っても過言ではない。
 その後貨幣価値の下落が続き、極端なインフレが北朝鮮社会を襲ったが、他面において経済活動が刺激され、上向いた事実は看過すべきでない。

 市民は初の体験に戸惑い、混乱が起きたが、慣れるにしたがって市場での商活動が活発化し、市場の全国的な拡大で大規模なモノ、ヒトの移動が起こり、経済が活性化された。
 金を持って市場に行けば高級肉やブランド米から携帯や液晶テレビまで何でも手に入る状況が出現したのである。

 韓国銀行の推計でも北朝鮮経済が97年を底に1%〜3%台の成長を続けていることが確認されている。
 日米などの経済制裁強化がマイナス要因として一定の影響を与えたが、それも今ではほとんど吸収されてしまった。

 しかし、極端なインフレは食糧など生活必需品価格の暴騰を引き起こし、市民生活を直撃した。
 貧富の格差が生まれ、持たざる人々が飢え困窮するという資本主義的な現象が社会に亀裂と緊張をもたらしている。

 その一方で、現地に取材できない致命的な欠陥を有する日本のマスコミが全く見逃していることだが、不動産価格騰貴など新興富裕層が経済活動に少なからぬ影響を与えるようになった。
 例えば、ピョンヤンでは最高級マンションの建設が盛んだが、その価格が1,2年の間に倍以上に急騰とソウルや東京の一等地顔負けのバブル景気である。投機目的の売買も少なくないとの情報もあり、政府の住宅政策にも混乱が生じている。
 
 事ここに至って、北朝鮮当局もインフレ抑制へと舵を切る必要に迫られた。
 今回の金融改革の最大の狙いの一つは、まさにそこにあったと言えよう。

 なお、ネット上で一部に「北朝鮮の新興成金を代弁している河信基氏」との批判があるが、「極右論客」と同じ類の誤解と指摘しておく。
 私は常に弱者の立場に立つ正義の味方である。


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