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北朝鮮のデノミについて日本のマスコミは「混乱」に重点を置いて報じるが、一面的で、今の北朝鮮の全体像が捉え切れていない。
02年発券の新札が含まれているように、事は02年の7・1措置の時点で予測され、準備された側面があった。
私が04年の『金正日の後継者は在日の息子―日本のメディアが報じない北朝鮮高度成長論』で「市場経済化は試行錯誤を重ねるだろう」と書いたように、今回のデノミは経済再建のための金融改革の一環として断行されたのである。
市場経済に通じた内閣経済研究所の経済ブレーンが計画立案に参画したのは間違いあるまい。
政治主導の電撃的な措置であり、行政が対応できず一部住民が抗議するなど現場で混乱が起きたことは事実である。
北当局は11月30日頃に有線放送で旧貨幣100ウォンを新貨1ウォンと交換するよう呼びかけたが、周知徹底されず、12月6日までの期限は一週間ほど延長されたようだ。交換額上限についても1人あたり10万ウォン(2300円)、15万ウォン説が飛び交い、「300万ウォンまでは銀行預金できるが、現金化できない」「商店や食堂などは価格が定められず、臨時休業」といった話も伝わってくる。
外貨は外貨ショップ以外では使えないとしながら、実際には、韓国からの旅行者が利用する羊角島ホテルなどのホテルや街のレストラン、土産物売り場でユーロ、ドル、元などが使われている。
しかし、日韓の一部で期待される暴動の可能性は低い。
ピョンヤンでの一ヶ月の生活費は一世帯4万ウォン前後とされ、現金資産が10万ウォンに満たない大多数の市民の生活に直接的な影響はなく、むしろインフレ抑制や過度の蓄財・汚職摘発を歓迎する声もある。
日本のマスコミのピントが外れているのは、過去4回のデノミとの区別が出来ていないためである。NHKのニュースは「市場」を「いちば」と読んでいたが、「しじょう」がより正確である。
今回のデノミは7・1措置以降に誕生した市場と個人商をターゲットにしている点が決定的に異なる。
トンジュと言われる富裕層が有するチャンドン(個人保有通貨)は10万ウォンから300万ウォンとみられる。為替レートでは10万ウォンは2300円にしかならないが、購買力平価換算すると十数万円に該当しよう。300万ウォンは千数百万円になる。ピョンヤンの高級マンションに手が届く額である。
彼らは多くをタンス貯金し、不動産投機などに資金を投じるが、そうした地下経済の貨幣量が大幅に増え、実際に流通する通貨量を圧迫し始めたため、通貨引き締めの必要が生じたものと思われる。
例えば、国営工場が資金不足で原資材を十分に購入できないといった事態も生まれている。
北朝鮮は年末に向けての「100日間戦闘」の最中にある。農業は肥料不足などから十分な成果が上がらないが、鉱工業はかなり持ち直し、上昇気流に乗りつつある。製鉄・冶金、機械、肥料などで工場の拡充新設プランも目白押しである。
労働新聞が総力戦を呼びかけているように、地下経済から資金を回収して生産現場に回す狙いが今回の金融改革にはあったと見るべきであろう。旧通貨廃棄と新通貨発券でインフレを心配することなく財源を捻出できるメリットがある。
外為の二重構造打破も目的の一つと思われる。
7・1措置当時は1ドル当2.16ウォンだったものが、現在は正規で150ウォン台、闇市場では3000ウォンを上下している。
また、元が過度に国内で流通し、中国経済の影響力が強まっている。貿易仲介商の購買力を低下させることで、中国商品輸入抑制と国内産業育成の二兎を追ったわけである。
しかし、今回の金融改革は7・1措置後の市場経済化の動きを萎縮させかねない諸刃の剣でもある。
「通貨偶像化が社会主義の経済関係を蝕む」(季刊「経済研究」・科学百科事典出版社)と市場を否定的に見る傾向が根強く残り、リーマン・ショック後の資本主義経済の混乱がそれを後押ししている。
今後の展開から目が離せなくなった。
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