河信基の深読み

読者各位様:本「河信基の深読み」は順次、北朝鮮投資開発戦略研究所(2019年4月〜所長・河信基)の公式HPへ移行して参ります。

日朝関係

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 安倍首相が職務放棄したのを受け、自民党の新総裁選が熱を帯びているが、拉致問題の混乱を収拾し、日朝正常化を促進するには、新総裁・首相は、安倍政権の中核を担っていた麻生自民党幹事長よりも、福田康夫氏の方が相応しい。

 朝鮮中央テレビは昨夕、安倍辞任を簡単に伝え、論評は控えたが、恐らく同じことを考えているであろう。
 2002年の日朝ピョンヤン宣言は現在もかろうじて生き残っているが、それを本来の軌道に戻すには、扇動的な安倍拉致外交を止揚することが不可欠であり、これまでの経緯からして、福田氏が適任であるからである。
 
 日朝ピョンヤン宣言に対する第一の背信行為は、02年10月に「2〜3週間の一時帰国」を条件に帰国した蓮池薫氏ら5人を日本側が戻さなかったことにある。北朝鮮側は「約束違反だ」と抗議し、交渉は中断した。

 北朝鮮との交渉に当たった田中均・外務省アジア大洋州局長(当時)は約束は守るべきだと主張し、福田官房長官も同調したが、小泉首相と訪朝した安部官房副長官は「そんな約束は当初からなかった」と言い張り、世論や拉致被害者家族会の要望を盾に押し切った。
 安倍氏が世論扇動のために嘘を付いたのは明らかで、拉致被害者の曽我ひとみさんは日本政府が5人を帰国させない方針を決めた後、テレビで「家族は一緒の方がいい。帰ってくるといったのに(約束を)破ってしまった」と揺れる心情を吐露していた。
 岡田克也・民主党幹事長(当時)は03年1月19日のNHK番組で「(5人を北朝鮮に戻さないと)政府が決める必要はなかった。そのことで北朝鮮は態度を硬化させた」と、日本政府の対応を批判したのは正しい。
 
 報復主義的な“拉致フィーバー”に火が付くのはこの頃からで、安倍氏が“対北朝鮮強硬派”として脚光を浴び、03年9月に自民党幹事長に抜擢された。同年11月の総選挙のために小泉首相が安倍氏の「人気」を利用したのであった。
 04年4月に福田氏が国民年金保険料未払問題で辞任した後は、小泉後継レースで有利な立場に立つ。
 反対に、福田、田中氏は「売国奴」の代名詞かのようにメディアで糾弾される。重村智計、櫻井よしこ氏らがその急先鋒であった。
 
 第二の背信行為は横田めぐみの遺骨関係問題だが、これも、安倍氏のポスト小泉を狙う政治的野心と不可分であった。
 04年5月の小泉再訪朝で蓮池氏らの子供たちが帰国し、横田めぐみさんの「遺骨」も日本側の強い要望で引き渡された。ところが、同年12月に細田官房長官が鑑定の結果、「横田めぐみさんの遺骨は他人のものと判明した」と発表する。
 だが、鑑定を担当した吉井帝京大講師が英科学誌『ネイチャー』に「サンプルが汚染されていた可能性がある」と語り、細田発表を事実上、否定した。
 
 「遺骨」を高熱処理した北朝鮮の杜撰な対応も問題だが、いまさら遺骨を捏造する必要はなく、細田発表は世論を意識した政治的判断であったことは間違いない。
 それを裏付けるように、鑑定書は公開されず、北朝鮮側には要約しか渡されていない。吉井氏らも科捜研医科長に栄転して匿われ、未だに姿を隠したままである。

 その背後にいたのが自民党拉致対策本部長をしていた安倍幹事長代理であったことも間違いない。同年秋の参院選敗北で幹事長代理に降格され、挽回の機会をうかがっていた。
 世論は細田発表で北朝鮮の“捏造”に激昂し、反射的に、制裁を声高に主張する安倍氏の名声は高まり、翌年10月に内閣官房長官に再度抜擢され、小泉後継の立場を固める。

 その延長線上で誕生した安倍政権はまさに“拉致フィーバー”の産物であり、衆愚政治の典型とも言える。
 その背景にあったのは、米ネオコン主導の「反テロ戦争」であり、ネオコンは「拉致問題への支援」を約束し、反テロ戦線に日本を引き込もうと画策したのである。
 従って、朝米対話でそれが破綻するのは必然的帰結であり、実際、安倍氏はシドニーでブッシュ大統領に「責任を負う」と言質を取られ(8日)、記者会見で「職を賭す」と追い詰められ(9日)、帰国後、麻生幹事長に辞意を伝え(10日)、辞意を表明し(12日)、翌日病院に駆け込む。

 急展開した辞任劇の謎を解くキーワードは、北朝鮮へのテロ支援国家指定解除問題である。
 安倍氏は解除延長の条件にテロ特措法延長をブッシュ大統領に約束させられ、帰国して不可能なことを思い知り、遁走したのである。

 そのパロディーじみた安倍拉致外交の一翼を担ってきたのが、麻生外相→幹事長であった。
 日朝関係正常化には日朝ピョンヤン宣言の原点に立ち戻る必要があり、麻生氏には難しいだろう。
 それに比べ、手を汚していない福田氏は北朝鮮と話しやすいと言える。

 19日から開催される6か国協議では、無能力化のロードマップが正式に描かれ、米国が同時履行的にテロ支援国家指定解除や敵国通商法適用解除に動くことになる。
 日本外交が置き去りにされないためにも、早期に非安倍拉致外交に切り替える必要がある。 

 安倍首相が昨日突然辞意を表明し、その理由に関心が集まっているが、8日のブッシュ大統領との会談で、テロ特措法延長に「責任を負う」と言質を取られ、行き詰まった挙句の職務放棄というのが真相だろう。
 北朝鮮も安倍退陣をある程度読んでいたようで、労働新聞は10日付の論評「亡兆の日本政局」で、民主党の攻勢で安倍氏が窮地に陥っているとし、初めて小沢氏に言及した。
 http://www.kcna.co.jp/calendar/2007/09/09-11/2007-0910-007.html

 安倍首相は国会で与野党の代表質問が始まる直前の12日午前、麻生自民党幹事長らに辞任の意向を伝え、午後2時からの記者会見で正式に表明した。
 本人が挙げる辞任の理由は相変らず曖昧で矛盾し、「小沢氏が党首会談に応じなかった」と責任転嫁を図るなど、最後まで「甘やかされた子供」(仏公共ラジオ局フランス・アンフォ12日)であった。
 
 私もテレビで観ていたが、最も印象に残ったのは「局面打開」という言葉を繰り返していたことだ。7回にも上ったそうだが、思い浮かべるものがあったのだろう。
 後で某局が、祖父の岸信介元首相が1960年の安保条約改定強行後に「局面打開」と辞任表明した場面を流したのを観て、安倍氏のこだわりが理解できた。
 しかし、父の宿願であった首相の座を射止めた安倍氏は、尊敬する祖父を超えることは出来なかった。
 
 屈折した親米のDNAを受け継ぐ安倍氏は直前まで、ブッシュ大統領に約束したインド洋での自衛艦給油活動継続のために、テロ特措法に代わる新法案の強行採決や民主党との大連立を必死に模索していた。
 麻生自民党幹事長は12日、安倍首相が施政演説を終えた10日夕の自民党役員会後に辞意を聞かされ、慰留して来たと述べたが、駄々っ子のあやしでもあるまい。その間、幕裏で新法案採決や民主党との大連立を画策したが、いずれも不調に終わった。
 先が見えなくなってついに逃亡、となったとみられる。
 
 前代未聞の茶番劇の背景には、北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除問題がある。
 私は「『拉致敗戦』はどうして防げなかったのか、その責任は誰がとるのか(上)」で以下のように書いた。
 「APEC首脳会合が開催されるシドニーには安倍首相も飛んで、小泉首相以来の“お友達”であるブッシュ大統領に再び(テロ支援国家指定解除を遅らせるように)『配慮』を求めるであろうが、逆に、11月に期限が切れるテロ対策特別措置法延長で言質を取られるのがおちであろう。
 しかし、野党が反対し、国民の過半数が反対しているテロ特措法延長は事実上、難しい。
 安倍首相がそれも読めず、延長に言質を取られたとしたら、一国のリーダーとしての資質は限りなくゼロに等しい。内閣退陣に追い込まれ、対米関係とともに、対北関係も動き出すことになろう」

 その後の展開は指摘した通りになった。
 安倍首相はブッシュ大統領との会談で、テロ特措法延長は「対外公約であり、責任を取る」と言質を取られた。その見返りにブッシュ大統領から「日本の拉致問題に関するセンシティビティ(敏感性)は十分理解。拉致問題を忘れることは決してない」と配慮を示されたが、高い買い物となった。
 http://www.sankei.co.jp/seiji/shusho/070908/shs070908001.htm

 翌9日夕の内外記者会見でその点を突っ込まれ、「職を賭していく。職責にしがみつくということはない」と進退に言及せざるをえなくなった。
 この時点で、命運は尽きたと言うべきである。

 安倍氏のキャッチコピーは「ぶれない外交」だが、その実態は一本調子のパフォーマンス外交で、柔軟性がなく、変化する状況に適応できない。
 米朝対話の進展に期待するAPECで拉致問題はほとんど無視された。あらゆる外交の場で訴え、「対北朝鮮国際包囲網」を築くとしてきた安倍外交の破綻である。
 それを読めず、ブッシュ大統領の友情にしがみついた坊ちゃん的甘さが安倍氏の命取りになったと言える。

 安倍氏は辞任の記者会見で、「シドニーでは『テロとの戦い』、国際社会から期待され、高い評価をされている活動を中断することがあってはならない、何としても継続していかなければならないと言った。そのために一身をなげうつ覚悟で、全力で努力すべきだと考えてきた」としながら、「私が辞することで局面を転換する方がむしろ良いだろうと判断した」と辞任の理由を語った。
 http://www.sankei.co.jp/seiji/shusho/070912/shs070912013.htm

 振り付けなしに自分の言葉で語った数少ない記者会見であった。それだけに、身勝手で論理的整合性はなくとも、心情は良く出ている。
 国内で不評の安倍氏は、国際社会の「高い評価」を受けていると考えた国際貢献問題を政局につなげて局面挽回を図る政治的賭けに出たのだが、自爆したということである。

 拉致で首相になった安倍氏にとって、「テロとの戦い」は心情的には「現在進行形のテロである拉致」を行う北朝鮮との戦いである。
 しかし、ブッシュ大統領の「テロとの戦い」が国内でむしろテロの危険性を増したと批判されているように、安倍首相の「テロとの戦い」も何ら具体的な成果を挙げることが出来ず、頼みの米国からも見捨てられ、事実上「拉致敗戦」に直面している。
 その意味で、辞任は敗戦に責任を取ったとも解釈できる。

 北朝鮮は現時点ではまだ安倍辞任に沈黙しているが、安倍退陣はある程度予測していた。
 前回の日朝国交正常化会議で日本側が「過去の清算」に応じたことを評価をし、協議継続に応じながらも、日本側が提案した拉致被害者の「再調査」を留保したのも、日本の政局を見極めたいとの判断があったとみられる。

 前掲論評は「テロ特措法延長問題で安倍勢力は米国を利用して民主党を圧迫する戦術を使っているが、通りそうもない。小沢民主党代表は在日米大使を呼びつけて、反対の意志を曲げなかった。米国の目をうかがうことはないということだ」と日本の政局を分析した。
 安倍政権を北朝鮮は「対米追随で、話し合っても意味がない」と批判して来たのは知る人ぞ知ることだが、反対に、小沢氏に対しては日本の政局のキーパーソンと注目し、対米自主性があると評価しているのが目新しい。
 非安倍政権になれば、北朝鮮は現実的に協議が出来ると判断して積極的に応じ、「再調査」も受け入れると見られる。

 ウランバートルで行われた日朝国交正常化作業部会で、日本側が拉致被害者の再調査や「よど号」ハイジャック犯3人の引き渡しなどを求めたのは肯定的に評価できる。
 事実上、「横田めぐみら8人生存を前提にする」とのパフォーマンス的な安倍拉致外交を転換させ、現実主義的に問題解決に取り組もうとする姿勢を示したと解釈できるからだ。

 北朝鮮代表の宋日昊日朝国交正常化交渉担当大使も「雰囲気は今までの接触の中で一番良かった」と評価している。
 安倍政権のレームダック化など不確実要因もあるが、6か国協議の5作業部会の中で唯一停滞していた日朝国交正常化作業部会が、ようやく全体の流れに合わせて本来の軌道に乗り始めたと言えよう。

 すでに指摘したように、核問題解決を急ぐ米朝にとって、安倍政権が「最重要課題」とこだわる拉致問題は場違いの議論、いわば阻害要因であり、その解決のシナリオはすでに出来上がっている。
 拉致被害者の再調査や「よど号」ハイジャック犯3人の引き渡しはそのシナリオの一部と言えるが、日本側が「実質的な議論が必要」(美根慶樹・日朝国交正常化交渉担当大使)と自ら切り出したことで、日朝間に必要以上の対立と不信を醸し出してきた拉致問題は解決へと動き始めた。 

 安倍政権登場で圧力・制裁の強硬路線に偏った日本側の軟化は、「過去の清算」から協議を始めるとした点に象徴的に現れている。宋大使が先月29日、安倍首相が「不幸な過去の清算をして、日朝国交正常化を行っていく」と発言したことを「初めて過去の清算に言及した。個人的に評価する」と述べたのは、それを意味する。
 日朝ピョンヤン宣言には「両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立する」とあるから、当然のことなのだが、安倍首相は一時の勢いにまかせて拉致問題を指す「懸案事項を解決」を前面に押し出した。ボルトンら米ネオコンの力を借りて北朝鮮を追い詰めようとしたのだが、その短慮が、結果的にネオコン没落とともに日本を孤立させ、拉致問題解決をも遅らせのである。
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/n_korea_02/sengen.html

 3月のハノイでの日朝部会と順番を入れ替え、初日は植民地支配への謝罪・賠償を意味する「過去の清算」について約3時間半協議した。
 日本側は双方が請求権を放棄した「経済協力による一括解決方式」を提案したが、北朝鮮側は朝鮮人強制連行や従軍慰安婦など個別の賠償も必要と主張した。予測した通り朝鮮総連への一連の捜査や朝鮮総連中央本部問題に言及したが、北朝鮮はそれを朝鮮人強制連行への補償問題と位置づけている。
 日本側の経済協力方式は日韓交渉方式を準用したものだが、北朝鮮はそれを「売国的」と非難した経緯があり、易々と応じることはできまい。
 本質的には拉致問題よりも険しい関門だが、「積極的な側面があると思っている」(美根大使)、「過去の清算について進展があった」(金哲虎・外務省副局長)と日朝ともに評価し、歩み寄っている。
 この問題は日韓条約方式への不満が根強く残っている韓国も注目しており、日本側が過去の反省をいかに誠意をもって示すかに掛かっていよう。

 2日目は拉致問題に当てられ、美根大使は「すべての生存者の帰国、真相究明、犯罪者の引き渡しを求める」との基本的立場を表明しながらも、拉致被害者に関する再調査を求めた。
 「北朝鮮の核問題をめぐり米朝が歩み寄りを見せる中、日本政府内にも『基本方針は維持しつつ、柔軟な姿勢を見せ、事態の打開を図る必要がある』との声が出ている」と報じられるが、その背後には、後述のような、米国のテロ支援国家指定解除が迫っている切羽づまった事情が隠されている。 
 http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4200/news/20070905i202.htm

 しかし、「北朝鮮側は『日朝関係は悪化しており、さらなる措置を取る状況にない』と主張、被害者の再調査実施に否定的な考えを示した」(読売)という。
 北朝鮮側は「拉致は解決済み」との表現は使わず、柔軟な姿勢を見せていたから、すんなり応じてもよさそうなものだが、何故か?

 北朝鮮側は、「日本とは見解の差が残っており、これをいかに縮めるか議論する」(金哲虎・外務省アジア局副局長)としており、被害者再調査に反対しているわけではない。
 昨年2月の日朝実務協議で北朝鮮側はすでに再調査に応じる意向を示し、専門家による横田めぐみの「遺骨」再鑑定を申し入れている。日本側も応じるかに見えたが、安倍官房長官が「北朝鮮ペースになる」として協議そのものを打ち切った。
 その再調査を北朝鮮側が作業部会で継続協議すると留保したのは、日本側の真意を見極めたい狙いがあるとみられる。

 恐らく、非安倍政権ならすんなりと応じていたであろう。
 北朝鮮は安倍首相を信用しておらず、交渉の相手とすることにはためらいがある。蓮池薫氏ら5人の拉致被害者の一時帰国の約束を破り、横田めぐみの「遺骨」を偽者と断定しながら鑑定書も見せず、「遺骨」返還にも応じてこなかったのは、「拉致問題を政治的に利用しているため」と認識しているからだ。
 日本側の要求に安易に応じると、安倍政権を浮揚させる“成果”を与えるだけになりかねないとの、流動的な日本政局を踏まえた判断もあったとみられる。 

 日本側が求めたよど号犯引き渡しについても、「日本政府とよど号関係者が協議する問題だ。そのための場所を用意する準備がある」(金副局長)と賛成しながら、巧みに留保条件を付けている。
 
 要するに、北朝鮮は今回、とりあえず日朝国交正常化作業部会の形を整えたということである。
 米国との間でテロ支援国指定解除が進んでおり、日本への配慮を求める米国に対して「拉致問題の進展」があったとのアリバイ作りを行ったわけである。
 とりわけ、テロ支援国家指定継続の根拠となっているよど号犯問題について、北朝鮮として前向きな姿勢を見せる必要があった。

 それを受けて今月中旬の6か国協議などを経て、北朝鮮をテロ支援国家指定から解除する問題が核無能力化との抱き合わせで進んでいくことは間違いあるまい。
 家族会、「救う会」を数少ない支持基盤とする安倍首相としては動きにくい面があろうが、時間はそれほど残されていないことを知るべきである。

 日本側の誤算は、米朝協議が進展する中、米国はそれまで一方的に日本から聞かされていた拉致情報を北朝鮮から直接、入手することが可能になったことにある。
 米国側は安倍政権が求める「拉致問題の解決」は定義が不明であり、北朝鮮が「死んだ人間を生かして返せと難癖をつけ、政治的に利用している」と批判するのは合理的根拠がなくもないと思っている。現に、ヒル次官補は6月の電撃訪朝を前後して、佐々江外務省アジア大洋州局長に「横田めぐみの遺骨を北朝鮮に返し、米国が再鑑定する」案を打ち明けている。
 日本側は官邸が頑固なので返答を留保したままであったが、その間にも米朝間では解決のシナリオが着々と練られていたということである。

 6か国協議に限ってみれば、一人異端の動きをする日本に対して事実上の包囲網が形成されつつある。
 「日本側は拉致問題での行動を促すため、北朝鮮への水害支援を経済制裁の例外として実施することを検討している」(朝日)とするが、そのような姑息な考え方では、局面を打開するのは難しい。
 北朝鮮側が「日朝関係は悪化しており、新たな措置を取る雰囲気にはない」とするのは、技術的な問題以前に、日本側の敵対的な姿勢を問題視しているからである。
 「国交正常化には拉致問題の解決が不可欠だ」(美根大使)といった独善的な狭い視点ではなく、米朝のように、中長期的な国益を見据えた国交正常化へと努力する中で、「過去の清算」とバランスを取りながら問題解決に当たる以外に道はないように思える。

 それは安倍拉致外交の放棄を意味するから、安倍首相の手では難しいかもしれない。

 「日朝作業部会、初日に国交正常化問題を議論…拉致は2日目」と今朝の読売新聞が報じたが、昨日指摘した「北朝鮮問題を政権浮揚力にしたい安倍首相が、北朝鮮側に大幅な譲歩を示している」が裏付けられた形だ。「政府筋が30日、明らかにした」そうだが、隠せなくなったということである。
 第2回日朝国交正常化作業部会は、制裁・圧力に偏った安倍拉致外交の終わりの始まりとなろう。

 読売記事は以下の通り。
 「9月5、6の両日にモンゴル・ウランバートルで行う第2回日朝国交正常化作業部会では、初日に『過去の清算』を含む国交正常化問題、2日目に拉致問題を議論することで合意していることが分かった。
 政府筋が30日、明らかにした。日本政府には、経済協力など北朝鮮が求める『過去の清算』に関する議論を優先することで拉致問題での譲歩を引き出す狙いがある。」
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070831i401.htm?from=main4

 解析すると、植民地支配の謝罪と賠償を意味する「過去の清算」に重点が置かれ、その分、拉致問題の比重が軽くなる。
 つまり、国交正常化問題を論じながら、拉致問題も解決するということで、安倍過激路線を廃し、対話優先のピョンヤン宣言の本来の趣旨に立ち戻ることになる。
 「『過去の清算』に関する議論を優先することで拉致問題での譲歩を引き出す」と言葉は勇ましいが、現実的には、「解決済」を「再調査」へと押し戻す程度のことしか選択肢は残されていない。北朝鮮側はすでに横田めぐみの「遺骨」の再鑑定案を出している。

 朝米対話を追い風にする北朝鮮と、逆風にする安倍政権の交渉力は明らかに逆転している。
 日本側が内閣改造を理由に第2回作業部会の延期を申し出て、北朝鮮側が了承したことがそれを物語るが、そこには少なくとも二つの要因が働いている。
 一つは、その前の9月1、2日に開かれる第二回米朝国交正常化作業部会の進展に合わせること、もう一つは、内閣改造である。

 ヒル国務次官補は29日、第二回米朝国交正常化作業部会ではテロ支援国家指定解除が議題となることを明らかにしたが、放射化学研究所(再処理施設)などの無能力化とテロ支援国家指定解除がリンクされてロードマップが策定されるとみられる。
 米国が日本の頭越しにテロ支援国家指定解除をするようなことになると、米国に依存して拉致問題解決を目指した安倍外交は完全に置き去りにされ、破綻する。
 その前に北朝鮮と交渉している形をつくり、米朝を牽制したいが、3月の第一回作業部会のように北朝鮮側からそっけなく扱われたらそれまでである。
 何とか本格的な協議に持ち込んで、存在感を取り戻さねばならない。その間にあわよくば、小泉前首相の二度の電撃訪朝に倣った劇的な政権浮揚効果を期待したいところだ。
 
 他方の北朝鮮は、米国への手前もあって日本との作業部会開催に同意したものの、蓮池薫氏ら拉致被害者5人の「一時帰国の約束」を破った安倍首相を全く信頼していない。
 日朝外務省担当官が瀋陽で第二回作業部会開催で合意した28日の翌日にも、内閣機関紙『民主朝鮮』は「政治奸上輩の苦し紛れの醜態」との論評で「安倍は侵略戦争を反省していない」と、安倍首相が先のインド訪問でパール判事の遺族に会ったことを辛らつに名指し批判している。
 http://www.kcna.co.jp/calendar/2007/08/08-30/2007-0829-006.html

 宋日昊大使が安倍発言を「初めて過去の清算に言及した。個人的に評価する」と述べたことと一見して矛盾するが、27日の内閣改造で安倍色が薄まったことを見届けてのことである。
 25日に瀋陽に入った宋大使は日本側のカウンターパートナーと協議し、内閣改造後の28日に合意に至ったが、同日の安倍発言で日本側の路線転換の意図を確認したのであろう。
 “安生政権”の下で、麻生外相→幹事長を事実上の保証人と理解したとみられる。

 町村新外相は「拉致問題の進展を定義する意味はない。曖昧な部分も大切だ」(読売新聞30日)と述べ、安倍首相が設定した対北エネルギー支援のハードルをいとも簡単に放棄した。
 重油95万トンのエネルギー支援に日本も加わるということで、米韓中ロと歩調を合わせ、6か国協議での孤立を避けたいとの思惑が透けて見える。
 同時にそれは、外交問題での安倍首相の発言力が、地球温暖化などに限定されつつあることをうかがわせる。
 
 しかし、北朝鮮は弱体化した安倍政権の足元を見て、とことん揺さぶってこよう。
 28日に町村新外相は水害への人道支援を口にしたが、それだけで北朝鮮が日本側が期待する形で応じてくるとは考えにくい。
 
 日朝ピョンヤン宣言が採択された02年のレベルに日朝関係を戻さないと、話は前に進みにくい。
 日本独自の制裁解除問題に加え、朝鮮総連本部の土地建物問題に関しても北朝鮮は激しく反発しており、本格協議に入るためにはその辺はクリアする必要があろう。

 北朝鮮の朝日国交正常化交渉担当大使は29日、前日に安倍首相が「不幸な過去の清算をして、日朝国交正常化を行っていく」と発言したことに敏感に反応し、「初めて過去の清算に言及した。個人的に評価する」と述べた。
 北朝鮮問題を政権浮揚力にしたい安倍首相が、北朝鮮側に大幅な譲歩を示している状況が読み取れる。
 日本のメディアは「宋大使の発言が『拉致問題は解決済み』とする従来の立場の変化を示唆したものかどうかは不明」と報じるが、本筋からずれている。
 
 米朝対話をベースに6か国協議が進展する中、外務省を中心に日本政府内では、「置き去りにされる」との不安が日増しに強まっている。「置き去り」ということになれば、日本外交は取り返すことのできない打撃を負うことになるから、事態打開を図ることは当然とも言える。
 「拉致問題解決が最優先」とこだわる安倍首相も参院選惨敗で求心力が低下し、路線を転換せざるを得なくなっている。
 
 宋日昊(ソン・イルホ)大使は25日に中国の瀋陽に入り、日本側と6国協議日朝作業部会第2回会合の日程を調整していた。月内開催の予定であったが、日本側が内閣改造などの国内政局を理由に9月初めの開催を再提案し、28日に9月5、6日にモンゴルの首都・ウランバートルで開催することで合意した。
 北朝鮮は安倍首相を名指し非難する厳しい姿勢を取り、日朝作業部会開催にも消極的であった。合意前日の27日にも、朝鮮中央通信は「愚かな処身術ー『拉致問題』の『国際化』」との論評で「死んだ人間を生かして戻せと、常識外の難癖をつけている」と批判している。
 北朝鮮側が日本側の提案を受け入れたのは、それなりの条件が提示されたからとみられる。
 http://www.kcna.co.jp/calendar/2007/08/08-27/2007-0827-007.html

 そのシグナルが、過去の清算に言及した安倍発言である。
 前回の日朝作業部会は3月にハノイで持たれたが、日本側が拉致被害者・家族の早期帰還などを求めたことに北朝鮮が「拉致は解決済み」と反論、さらに「過去の清算」を要求して決裂し、次回日程も決められなかった。
 「過去の清算」は北朝鮮側が安倍政権に突きつけた踏み絵であったが、それを飲んだということになる。

 自民党幹事長に移った麻生外相は参院選中に「経済界の重鎮たちはみんな日本はこのままだと北朝鮮への経済進出に乗り遅れると言っている。安倍さんに言っても、それだけは聞いてくれない。日朝国交正常化が最大の安全保障だ」と語っていたが、選挙敗北を受けて安倍氏は姿勢を軟化させたのであろう。
 無視を決め込んでいた北朝鮮の水害に対しても町村信孝新外相は28日、「災害のひどさを考えるなら、すべて拉致問題とくっつけて考えるべきなのか。今、急きょ検討しているところだ。答えは早く出した方がいい」と語ったのも、その脈絡である。
 http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT3S28029%2028082007&g=P3&d=20070829
 
 しかし、これは日本国民に「北朝鮮に屈した」と受け取られかねず、安倍首相にとっては大きな賭けである。
 外務省が瀋陽での接触を秘密としているのは、そのためである。

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