|
「クリントン長官と拉致家族会との面会を調整している」(河村官房長官)と、あいも変わらぬ家族会頼みをみても、麻生政権の無策無能ぶりが分かろう。
テロ支援国家指定解除を巡って生じた日米間の亀裂修復は、麻生首相が今月中旬に訪日するクリントン国務長官と、いかに建設的な話し合いが出来るかに掛かっているのだが、状況の変化がまるで理解できていないのである。
昨年10月、麻生首相は「ブッシュ大統領は拉致問題を忘れていないから、北朝鮮に対するテロ指定解除はない」とミスジャッジして浜松まで出かけ、ブッシュ大統領からの最後通告の電話を後援会の宴席で受け取るというゼンダイミブン(前代未聞)の大失態を犯した。
それから学ばず、失敗を抱えた旧モードで対応すると、「やはり話すだけ無駄だ」と日本パッシングもしくはナッシングを自ら加速させることになろう。
麻生首相は対話重視→テロ指定解除の流れを理解できず、ブッシュ政権前期のネオコン流強硬路線にこだわっているように見える。実際、本人や周囲のブレーンには、「一方的に解除した」「日本を無視した」と、いまだに反発がくすぶっている。
オバマ大統領=クリントン国務長官は、「北朝鮮と対話をしなかったことが核実験を招いた」と独善的なネオコン路線を批判し、クリントン政権時代からの対話重視路線を明確にしている。
麻生政権はそれをいたずらに刺激し、そうでなくとも通商問題などの火種を抱えた日米の亀裂を、ぼやから火事へと燃え上がらせてしまう危険性がある。
安倍首相=麻生外相当時のジャパニーズ・ネオコン路線は安倍首相の政権投げ出しで事実上、破綻したが、後見人である最大派閥の森派、その顧問である安倍元首相の支援なくては政権を維持できない弱小派閥の麻生首相は、その呪縛から逃れられない宿命にある。
胸から例のブルーリボンバッジを離さないのは、そのためである。支持率急落の中、安倍首相実現の原動力となった“拉致人気”の再燃に、一縷の希望を託しているのであろう。
自分を強硬派に演出して当て込む“拉致人気”の再燃は、見果てぬ夢となろう。
景気無策、国民給付金、道路、郵政、雇用等々、ころころ変わる麻生発言に日本国民は呆れ、怒っている。口先だけで、拉致問題を票集めに利用する使い古されたシナリオに乗せられるほど、お人好しではあるまい。
9日発表のNHK世論調査で麻生内閣支持率は18%とさらに低下し、その理由として「政策に期待できない」が半数近くを占めたが、とりわけ外交政策の貧困は目を覆うものがある。
「外交を得意とする」と麻生首相を庇うマスコミもあるが、麻生外交の実態は、内政に劣らず官僚依存体質であり、しかも麻生外相時代で時計の針が止まってしまっている。
安倍、麻生ラインを支えた谷内前外務次官を急遽政府代表に任命し、オバマ新政権との交渉に当たらせたことが、それを端的に物語る。
先の施政方針演説も大半が官僚の作文の棒読みであり、外相時代に谷内次官に入れ知恵され、インド、オーストラリアに袖にされて霧散した日本版価値外交=「自由と繁栄の弧」を繰り返しているのを見ても、教訓を得るとか進歩というものがない。
クリントン国務長官に拉致被害者家族を合わせる案も、谷内ラインから出た苦肉の策だろうが、外交ではなく警察的な視点から北朝鮮との対決を続け、感情論や人情論で米国の支持を繋ぎ止めたいとする旧態依然とした姑息な発想である。
日本外務省はいまや、脳死が言いすぎなら、思考停止状態である。
北朝鮮との交渉チャンネルを持たず、外交の真髄を異なる価値観相互の交渉とするなら、外交機関としての機能を全く果たしていない。
『証言』にあるように、以前は吉田毅のような民間チャンネルを活用する知恵と余力があったが、国民受けを意識した制裁・圧力パフォーマンスに偏った安倍政権時代から、北朝鮮に対しては自閉症、米国に対しては依存症を患っている。
外務省は今や外交機関というよりも、実際にしていることは警察の下請けに近い。
先月、斉木アジア大洋州局長が訪韓したが、拉致被害者の田口八重子に日本語を教えたと証言している大韓航空機爆破事件の犯人・金賢姫の訪日と田口八重子の家族との面会を韓国政府に求めた。
狙いは見え見えだ。金賢姫を使ったセンセーショナルな仕立てで国内の反北朝鮮感情を刺激し、拉致問題解決のために何かしているとのアリバイ作りである。
案の定、韓国から体よく断られ、北朝鮮からもまるで相手にされない。
北朝鮮核問題、アフガン問題という明確な外交課題を持って東アジアを歴訪するクリントン国務長官に、場違いな話題を持ち出して水を差すようなことになれば、米国からも無視されることになりかねない。
政権交代で外交を政治の手に取り戻し、リセットするしかあるまい。
|