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人材派遣会社と聞くと、いつか見た長良川の鵜飼を思い出す。
夜空に煌々と明かりをともし、鵜を巧みに操る鵜飼の姿は勇壮で、ロマンチックだったが、せっかく呑んだ魚を全て吐き出される鵜は哀れであった。
今は地域のかけがえのない伝統文化となったが、もともとは生業であり、鵜が漁師の犠牲になるのは仕方のないことだろう。
しかし、自分が生きるために他人を犠牲にする現代の鵜飼には名分が欠ける、と言うよりも、反倫理的ではないか。
最近流行の人材派遣会社は、紹介料だけでなく、その後も賃金の何割かを受け取っていると言う。
派遣される人はスタッフと呼ばれるらしいが、そのスタッフにはいくらピンハネされるのか知らされない。
50%にも達すると言う情報もあるが、これでは、かつて暴力団が資金源にしていた手配師顔負けである。
昨晩の日テレのZEROが、ネットカフェで1年も寝泊りしている29歳大卒女性の日雇い派遣の実態を紹介していた。ろくに眠れず、一日一食、サプリで栄養補給しながら、その日暮をしている姿は、痛ましい、の一言に尽きる。
こうしたホームレス予備軍が若い世代に急増しているのが、格差社会・日本の実情である。
派遣会社がなければその女性は生きていけないから感謝すべきだ、と言う見方もあるかもしれないが、あまりに想像力と他への思いやりに欠ける。
本来ならハローワークが就業を斡旋し、生活の安定に努めるところだが、今では民間に丸投げされ、放置状態だ。企業も手安く労働力を確保できる人材派遣会社に斡旋を求めるから、ハローワークは段々と片隅に追いやられている。
「人並みに努力してきたつもりなのに、何でこんなことになってしまったのか」と消え入りそうな声で嘆く29歳大卒女性は、運が悪かったのでも、自分の努力が足りなかったのでもなく、人災と言える。
今やその数3万社にも及び、飛ぶ鳥を落とす勢いの人材派遣会社。そのトップランナーで、政府の規制緩和・・・何とかの審議委員をしている奥谷某は、「労働者に休日は必要ない。過労死は本人の責任・・・」と公言している。
一時代前は非合法であった手配師が、規制緩和を隠れ蓑にさらなるピンハネをぬけぬけと訴えていることに、資本主義の退廃と堕落がある。
マックス・ウェバーは「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」で、額に汗して働くプロテスタントが資本主義を勃興させたと喝破した。
それが健全な資本主義であり、他人を二重に搾取する手配師などは資本主義の倫理と精神に反する。それゆえに違法であったのだが、規制緩和と称して合法化された時点から、堕落は始まった。
今では大企業が、リストラに続く妙案として競って人材派遣会社を作り、労働コストのダウンを図っている。偽装請負いも似たようなものである。
企業の増収増益が続いているが、そうした非倫理的な労働コスト削減に支えられた見掛けの好景気であるため、実体経済はよくならず、庶民生活の向上に結びついていない。
銀行が高利金融で暴利を稼ぎ、会社乗っ取りが名を変えたいわゆるM&Aの横行とともに、現代資本主義の倫理的衰退はブレーキが利かなくなってきた。
その背後にはファンドと衣替えした国際金融資本があるが、何も作らず、額に汗しないものが富を貪る現代資本主義はいよいよ墓穴を掘り始めた。
対外債務が世界一の米国、対内債務が世界一の日本と、いずれも借金漬けの日米がリードする歪んだ国際経済システムが、これからも続くと考える方がおかしいのである。
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