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北朝鮮が韓国に首脳会談を打診しているとの情報を耳にした。意表を突いて正面突破を図ろうとする金正恩第1書記の事だから満更有り得ない話ではないが、信頼プロセスを重視する朴槿恵大統領が唐突な申込にそう易々と応じるだろうか。
一部に流れている安倍電撃訪朝説の類いと聞き流していたのだが、朴槿恵大統領がハーグの核サミット参加に合わせて応じたドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネの25日付インタビュー記事での発言を読んで、有り得ると思い直した。 同記事で朴大統領は「南北首脳会談が開催される場合は、北の核問題解決が議題に取り上げられるべきである。関心を集めるのではなく、内容のある会談にならなければならない」と強調している。 北側からその種の提案が有ったことを想定して語っていると、文脈上読める。 朴大統領は同記事で、オバマ大統領を交え三者会談が行われる予定の安倍首相に対しても歴史認識で厳しい注文をつけながら、北朝鮮核問題で韓日米が提携を強める必要性を指摘している。 歴史認識問題を後回しにして韓米日首脳会談に敢えて応じたのは、北朝鮮情勢と南北統一問題が重大局面に差し掛かりつつあるとの認識があるのであろう。 日本では変則的に実現した日韓首脳会談にばかり話題が集まり見逃されているが、3国首脳会談では北朝鮮核問題解決に3国が提携を強めることと同時に、中国の役割の重要性が確認されている。 米日と中国のバランスを取りながら独自の統一政策を進める朴大統領の意向が、色濃く反映されたとみられる。 安倍首相が会談後の記者会見で「北朝鮮の核、経済の並進路線は失敗」と踏み込んだ発言をした。その一方で日朝局長協議に前向きの姿勢を意向を表明したが、拉致問題で突出せず、核・ミサイル問題と適切にリンケージさせるということであろう。 と言うのも、朴大統領はハーグ到着後、直ちに習近平主席との4回目の首脳会談に臨んだ。 予定をオーバーした会談で習主席は、「朴槿恵大統領の信頼構築プロセスを高く評価する。自主的平和的に統一されなければならないと」と、首脳会談で初めて朝鮮統一問題に言及した。 張成沢を粛清した金正恩政権に愛想をつかし見限るとの見方が中国内部からも出ているが、習主席は北朝鮮に権力の空白が生じ、混乱状態に陥ることは望んでいない。 目指すのは北朝鮮を非核化、改革開放へと軟着陸させることであり、6ヵ国協議もその文脈上にある。 朴槿恵大統領は習主席に理解を示し、6ヵ国協議に柔軟に応じようとしている。オバマ大統領は高濃度ウラン濃縮中断など北朝鮮が具体的な非核行動を取ることを6ヵ国協議再開の条件としているが、朴大統領はハードルをやや下げようとしているように見える。 その代償に、北朝鮮が韓国との交渉で核廃棄に応じるように求めているのである。南北首脳会談はその延長線上に位置付けられていると読める。 労働新聞など北朝鮮メデイアの論調にも、韓国の経済支援に活路を見いだすしかないとの焦りが滲んでいる。一見強気であるが、内情の厳しさは隠せない。 独自の政治的な思惑から核問題は米国とのみ協議すると固執してきたが、オバマ政権は核問題に加えて人権問題にも比重を置きはじめ、一向に制裁圧力を緩めようとしない。 その間にも石油・食糧など戦略物資確保に不可欠な外貨不足が深刻化し、経済破綻と国民窮乏化が進み、社会的、政治的な緊張は高まる一方である。 今年に入って南北高官協議を呼び掛け、金剛山観光再開をしきりに訴えていることに苦しい本音が垣間見える。 最近になってミサイルを連射し、韓米日首脳会談の最中にノドンミサイルを放って揺さぶりをかけてきたが、交渉能力を高めようとする北一流のパフォーマンスであろう。 過去二回の南北首脳会談前にも南北軍船の小競り合いがあったが、その再来と考えれば理解しやすい。 朴槿恵大統領は核サミット後にドイツを国賓訪問し、旧東独首相らから東西ドイツ統一の経験談を聞き、28日にドレスデンで統一ドクトリンを発表する予定とされる。 2000年に金大中大統領がベルリンで統一ドクトリンを発表し、3か月後に金正日国防委員長と会談した。 それに倣い朴大統領は、核放棄さえすれば対北大規模経済支援を行うと、首脳会談を念頭に金正恩第1書記に呼び掛けるものと思われる。 |
南北関係・統一論
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北朝鮮警備艇一隻が24日深夜から翌25日未明にかけて韓国西海岸のヨンピョン島近くの領海を4キロ侵犯したが、韓国側の警告を受け、引き返した。
22日から25日にかけて南北離散家族再会事業が行われ、24日から韓米合同軍事演習が開始された最中のことだけに北朝鮮側の狙いが注目されているが、単純なブラフに過ぎまい。 金正恩政権としては、国防委「重大提案」などで韓米合同軍事演習の中止を繰り返し求めてきた経緯があるだけに、傍観しているようでは国民に示しがつかない。 とは言え、対抗手段には限りがある。離散家族再会事業中断をちらつかせたが、韓国側に一蹴され、万策尽きたというところだろう。 折しも北朝鮮地域に口蹄疫が蔓延したことから、朴槿恵政権が支援を申し出て、北側の体面を立てた。 それを受け、金政権が形ばかりの示威行動で矛を納めたということである。 これを見ると、北側の要請で急遽開始された南北高官級協議がそこそこ機能していると評価できる。 その役割が今後の南北関係を占う試金石となる。 朴槿恵大統領は執権一周年の25日の会議で、高官級協議を通して南北離散家族再会事業を定例化する意向を明らかにしたが、その先に南北統一も見据えている。 「東西ドイツに負けない準備をして、南北国民全てが幸せになるようにしなければならない。そのためには北の資源、産業、企業、メンタリティーにいたるまでその実情を知っておかねばならない」と強調し、各界を網羅する統一準備委員会発足を促した。 南北対話ムードの高まりを受け、韓国では対北投資計画が現代やポスコなど大企業も含めてめじろ押しである。 その内容は朝中ロ国境地帯に馬山を真似た自由貿易地帯を創設するなど、朴正煕の開発独裁時代の方式が参考にされている。北朝鮮の一人当GNP は1300ドル程度、1970年代の韓国のレベルであり、独裁体制も近似しているから、格好のモデルになるというわけである。 その具体化は無論、金正恩第1書記が核廃棄を決断することが大前提であるが、それほど遠い先のことではあるまい。 北朝鮮の体制が曲がり角に来ていることは疑いの余地がない。 金第1書記は25日、第8回思想活動家大会で演説し、自己を中心とする「唯一指導体制確立」と「現代版派閥の一掃」を訴えたが、行間に、張成沢粛清の余波で揺れている苦しい内情が読める。 核建設は韓米の、挑発には核先制攻撃も辞さないとする新抑止戦略で押さえ込まれ、経済は貿易の9割を依存する中国との不和で窒息状況にある。 仮に、中国が北朝鮮との貿易を遮断したら北朝鮮は忽ち干上がってしまうし、北朝鮮との1200キロの国境を開放したら脱北者が激増し、北朝鮮は国家の体をなさなくなる。 並進路線は事実上、破綻し、政権維持を優先させねばならない状況にまで追い詰められている。 主客観的な状況は、金政権が頼れるのは同族の朴槿恵政権しかないことを物語る。 朴槿恵政権としても、金政権崩壊が北朝鮮の混乱、内戦状態に陥り、韓国が巻き込まれることは避けねばならない。 金政権を核放棄・改革開放へと誘導するソフトランディングが得策となる。 世界10位圏のGNP に4000億ドルの外貨を有する経済大国となった韓国が、GNP 比40分の1にしかならない北朝鮮産業化にテコ入れするのはそれほど難しいことではなく、インパクトのある韓国経済浮揚策にもなる。 そのモデルとして浮かび上がるのが、東西ドイツ方式である。 これまで南北関係は政権が交代する度に政策が変わり、対立を繰り返してきた。 南北が国家として相互承認し、国同士の条約を取り決めれば、そうしたことはなくなる。 また、韓国による対北経済支援も、北朝鮮の国債を購入する方式を併用すれば、第三国の不信を買うことはなく、透明性確保や腐敗防止にも有効である。 その場合、北朝鮮には常に旧東独のような吸収統一の影が付きまとうが、建国の理念である自由、平等社会実現に奏功すれば、新たな展望が開ける。 北朝鮮次第である。 |
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南北離散家族再会が20日から25日までの予定で金剛山で始まった。
3年4ヶ月ぶりのことであるが、24日からは金正恩第1書記が神経を尖らせる韓米合同軍事演習が予定通りに始まる。北朝鮮が軍事演習を中止させようと揺さぶりをかける可能性がある。 また、水面下で求めている食糧・肥料支援と絡めて新手の「対話攻勢」に出てくることも想定される。 そこに通低するのは、核問題を棚上げにして南北対話を進め、何とかして経済支援を引き出そうとする戦術であるが、その手の核隠しは成功しそうにない。 米ソ冷戦終了で韓国から撤収した核搭載のB 52、B 2が再び加わる韓米合同軍事演習は金政権が核戦力強化を公然化した挑発的な並進路線への対抗措置であり、核開発に流用される経済支援はあり得ないからである。 北朝鮮は、核は米国に対抗するものであり、同族の韓国には使用しないから無関係と主張するが、韓国側は全く信用していない。 何よりも、金正恩政権には姑息な核隠しをしている余裕がなくなっている。 経済危機は深刻度を増し、張成沢粛清で噴出した国内の政治的な混乱も高官クラスの脱北が相次ぐように全く収まっていない。 核開発が経済建設を阻害し、政治的社会的な緊張を高めている現実を直視しなければ、北朝鮮に未来はない。 北朝鮮は、国家戦略を根本的に再構築しなければならない大きな曲がり角に差し掛かっている。 ソ連消滅と共に米国が北朝鮮と敵対する理由もなくなり、北朝鮮が核開発にこだわる動機は、専ら南北分断と内的に関わっている。 すなわち、核は韓国への優位を保ち、労働党の綱領にある革命統一を実現する最終兵器という位置付けである。経済力で大きく水をあけられ、通常兵器で劣勢に立たされているだけに、核への依存度を強めるしかない。 しかし、それは見果てぬ夢である。 国際社会から日々孤立を深め、内部の葛藤と対立を激化させ、国家としての北朝鮮の存立そのものを危うくしている。 北朝鮮当局自身が吸収統一の影に怯えているのが現実であり、核に代わる戦略的な安全保障装置を考えねばならない。 それが東西ドイツに類した南北相互承認である。 北朝鮮為政者は核と共に南への領土的な野心を放棄する代わりに、現在の領土は保全できる。 金正恩政権の一貫性の欠けた高官級協議呼び掛けの底流に、そうした思惑が渦巻いている。 そうした目的意識を明確に有した張成沢一派は粛清されたが、客観的な状況が変わらない以上、改革意識そのものは不断に芽生え、成長していくしかない。 時代錯誤の革命統一イデオロギーに執着する保守強硬派との対立、葛藤が遠からず再燃し、決して一枚岩とは思えない金正恩第1書記と 崔龍海総政治局長との亀裂も深まるであろう。 他方の韓国保守派にも、金正恩政権承認に反対する対北強硬派が存在する。 だが、朴正煕大統領は1970年代にクロス承認を提唱した経緯があり、父親の果たせなかった夢の総仕上げに使命感を燃やす朴槿恵大統領は、忍耐強く北との信頼構築プロセスを進めていくと思われる。 相互承認は無論、暫定的なものであり、南北の経済的社会的な均質化を促し、将来の統一の基盤作りに資するものである。 私はかつて「ナショナリズムを超える南北問題と統一論試論」(2009年「南北の和解協力10年」お茶の水書房刊所収)で、南北には分断以後の世代を中心に北朝鮮ナショナリズム、韓国ナショナリズムが生成し、相互をライバル視している新たなパラダイムを指摘し、その止揚の必要性を説いた。 現に、北朝鮮は自身を金日成民族と称し、金日成=金正日主義一色化を喧伝しており、韓国とは価値観が水と油のように異なる。 これだけを見ても、南北は相互を異質なものと認めあい、一定期間、主権尊重と内政不干渉に基づいて交流を深めなければ、決して一つにはなれないことが分かろう。 |
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金正恩第1書記にとっては衝撃的であった。
昨年暮の金正日死去二周忌式典で涙ぐむなど張成沢粛清直後に垣間見せた情緒不安定を呼び起こす不安と苦悩に苛まれていることであろう。 国連北朝鮮人権委員会がジュネーブで17日、北朝鮮当局による広範囲で組織的な人権侵害に関する証言を記録した400ページの報告書を公表し、政治犯収容所での数十万人規模の拷問、処刑、餓死などを挙げて「人道に対する罪」と断罪、北朝鮮政府の責任者訴追のため国際刑事裁判所(ICC )に付託することを勧告した。 元オーストラリア最高裁判事のカービー委員長は記者会見で、金第1書記に報告書と「あなたも訴追されかねない」との書簡を送ったことを明らかにした。 ジュネーブの北朝鮮代表部は「人権問題は存在しない」と否定したが、国連人権委員会が昨年3月に設置した北朝鮮人権調査委員会はソウル、東京、ロンドンなどでの公聴会、240人以上の脱北者への聞き取り調査に基づいて最終報告者をまとめた。 北朝鮮が現地調査を拒絶している以上、国際社会の厳しい指弾は免れまい。 金第1書記には、昨年暮の張成沢国防副委員長粛清が決定的に不利に作用している。 秘密警察である国家安全保衛部が張成沢を拷問、裁判、処刑する過程が朝鮮中央テレビなどの北朝鮮メディアで公開され、北朝鮮一般住民には地域の有線放送で繰り返し衆知徹底された。張に連なる多くの人々もこれ見よがしに同様の虐待を受けている。 政治的に未熟な金第1書は、自分を子供扱いする手練手管の叔父への反発と怒りにかられるまま、徹底的な報復を加えて自己の権勢を誇示し、権力基盤を固めようとしたのであるが、短慮に過ぎた。 逆に、国際社会に恐怖政治の実態を自ら知らしめてしまったのである。 北朝鮮はICC に未加盟なため、付託には国連安全保障理事会での決議が必要であるが、拒否権を有する中国の動きは微妙である。 中国外務省の華報道官はICC 付託に反対しながら、拒否権発動には「仮定の質問には答えられない」と言葉を濁した。 訪中したケリー国務長官は会談した習近平主席が北朝鮮への追加制裁に言及したと明かしたが、懸案の核廃棄問題で金正恩政権が譲歩してくるかどうかを見極めながら包括的に判断するのが中国の思惑であろう。 過去、バシル・スーダン大統領がダルフールでの虐殺の罪を訴追され、ICC から逮捕状が出されたが、金第1書記が同様の立場に置かれる可能性もある。 中国が拒否権を発動しても、国連総会で決議すれば、旧ユーゴスラビア国際法廷のような特別法廷が設置されるからである。 南北高官級協議で相互誹謗中傷中止を強く求めるなど、愛用のスマホで海外の自己の評判に神経質なほど気を遣う金第1書記にとって、第二のバシルになるほど屈辱的なことはあるまい。 それが色々なルートで北朝鮮国内に知れわたると、三代続く「白頭の血統」の権威を傷つけ、強権で何とか支えている脆弱な金正恩政権の基盤を洗い流す。それが金第1書記が最も恐れることである。 核に人権問題まで加わって国際社会から孤立し、四面楚歌の金正恩政権にとって、南北高官級協議は千載一遇のチャンスである。 事実上、最後の命綱となると言っても過言ではない。 |
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韓国と北朝鮮が14日の高官級協議で離散家族再会事業の予定通りの実施、相互誹謗中傷中止、南北対話継続の三点で合意し、南北同時に発表した。
1972年に朴正煕政権と金日成政権の間で電撃的に調印された南北共同声明を彷彿させるが、今回の特徴は、金正恩政権が積極的かつ前向きな姿勢を見せていることにある。 朝鮮中央通信は同日、「元東淵労働党統一戦線部副部長を団長とする国防委員会代表団が、金奎顕青瓦台(国家安保室)1次長兼(国家安全保障会議)事務次長を代表とする代表団一行と会談」し、三項目で合意と速報した。 労働党姉妹紙の朝鮮新報は翌日、「(北朝鮮の)最高指導部の決心が南北対話の場で初めて実を結んだ」と伝え、国防委が全面に出たことを強調した。金正恩第1書記が直接関与したことは間違いあるまい。 朴槿恵大統領もソチ五輪訪問をキャンセルして対応に当たっており、南北トップの対話が代理を通して実現したと、とりあえず評価できる。 事の発端は、北朝鮮国防委員会が先月16日に「重大提案」をしたことにある。「北国防委が核問題を韓国に提案した意味」(1月23日)で「路線修正を臭わせる新提案」と指摘したが、間違ってはなかったようである。 金第1書記の決心がいかなるものか、現時点ではまだ定かでないが、想像することはそれほど難しくない。政権が置かれた厳しい内外条件を考えれば、自ずと選択肢は限られてくるからである。 若く経験不足の金第1書記に、冷静な判断力と指導力が有るか否かに掛かっている。 先の朝鮮中央通信報道をよく見ると、対南政策の根幹に関わる核心的な規準を修正する注目すべき記述がみられる。 韓国大統領官邸の青瓦台を交渉相手として強烈に意識していることである。(国家安保室)(国家安全保障会議)と韓国を意味する国家を括弧付で表現しているが、括弧がとれるまでもう一歩である。 過去の南北対話で北朝鮮は、労働党統一戦線部やその傘下の祖国平和統一委員会などの非国家機関が全面に出て、国家機関である統一部などが窓口になった韓国側とのバランスが取れていなかった。 朝鮮民主主義人民共和国だけを正統国家と位置付け、大韓民国を不法団体、米国の「傀儡」とみなし、あくまでも統一戦線の工作対象と位置付けていたからである。 だが、それが非合理的な虚構でしかない現実に、ドイツ文化圏のスイスで小中高時代を過ごした金第1書記は、次第に気付きつつあると読める。 つまり、金第1書記が国防委と青瓦台の対話、国家機関同士の正式な交渉として高官級協議をとらえているということである。 |







