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安倍氏は拉致問題で名を売るまではどちらかと言うと地味な政治家で、自民党社会保険制度プロジェクトチームなどで活躍していた厚生族であった。
コムスンとの緊密な仲など改めて安倍氏の政治経歴に照明を当てているうちに、小泉前首相との意外な?接点が浮かび上がってきた。
小泉前首相も、3度厚生大臣を務め、厚生行政に深くかかわってきた厚生族である。
それが一匹狼を政治の表舞台に押し上げる原動力になるとは、本人も夢にも思っていなかったであろう。援護行政を通して、特定郵便局長OB会や日本医師連盟などに並ぶ自民党の有力支持団体である日本遺族会(11万自民党員)とよしみを結び、橋本龍太郎氏と争った自民党総裁選で告示4日後の4月15日夜、日本遺族会幹部に電話をかけ、「私が総裁になったら必ず8月15日に靖国神社を参拝します」と支持を訴え、勝利を確実にした。
韓国、中国と喧嘩をしながら靖国参拝を続けたのをみても、いかに義理に感じていたかがわかろうというものだ。
その思い込みの強さなくして、一介の陣笠議員だった安倍氏を首相にまで引き立てる最後のサプライズはなかったであろう。
私は小泉首相が何故、実績や政治経験の足りない安倍氏を後継者にしたのか、今ひとつ理解しかねていた。対話の小泉首相に対して圧力を分担させた拉致パフォーマンスで国民的支持を得たとはいっても、安倍政権誕生後の支持率急落が物語るように、支持率は気まぐれである。
何か他にあるだろうと頭の隅に宿っていた疑問が、解けた。
厚生省は、医療・保健・社会保障を管轄する表向きのやわらかい看板とは裏腹に、戦前の治安機関であった内務省から分離されたように、治安・思想取締りをしてきた戦前の母斑がつきまとう。後にそこから労働省が分離され、再度統合された現在の厚労省は保守的性向を受け継ぐ。
靖国参拝、朝鮮人強制や従軍慰安婦連行否定など、いずれも戦前管轄してきた問題であるため、時として極端な保守的な立場をとる。
同時に、年金や各種保険など莫大な資産を管理するため、利権の臭いがともなう。
それを嗅ぎつけて集まってきた厚生族は利権にも敏い。
大蔵族でもあった小泉氏は、GNPの2倍超の膨大な累積赤字で財政が破綻に直面し、歳出のカットは避けられないことを熟知ていた。
政治家が最も関心を寄せる利権構造でみると、公共事業費、郵便貯金、年金などの適正運用、無駄の大幅削減は不可欠である。
自民党の派閥力学でみると、公共事業や郵便貯金利権を握る旧田中派=橋本派=津島派と、年金など厚生利権に食い込んだ旧福田派=森派との衝突は避けられなかった。
このように視点を変えてみると、小泉首相が啖呵を切った「自民党をぶっ壊す」は、橋本派をぶっ壊巣という意味になり、「聖域なき構造改革、財政再建」は橋本派の利権を切り崩し、森派の利権を守る、と解釈できよう。
小泉首相はそれを実行したことで一区切りとし、政権を退くが、その「改革」を受け継ぐものは自ずと森派の厚生族ということになる。その意味で、安倍氏が引き継ぐことは必然性があったと言えよう。
安倍首相の、隠れた最大の課題は、実は、社会保険庁改革関連法案を通して、社会保険庁を民営化し、年金行政の破綻や責任問題に蓋をし、同時に、自派の利権を守ることであったろう。
郵政民営化で財政赤字の穴埋めに使われた郵便貯金問題が、闇に葬られたのと同じ方式である。
ところが、その前に「宙に浮いた年金記録」5000万件が噴出し、その目論見は外れてしまう。
「1年で解決する」と空証文を出し、年金時効撤廃特例法案まで持ち出して強行採決をした異常な慌てぶりが、それを端的に物語っている。
コムスンまで重なった不運を安倍首相は嘆いているであろうが、身から出た錆、は言い過ぎにしても、出るべくして出る問題であったことは間違いない。
小泉=安倍政権下で企業業績が上向き経済が回復してきたというが、実態は、多くが労働基準法のザル法化によるリストラ、派遣、偽装請負い、賃金カットの結果である。肝心の製造業が落ちこみ、潤っているのはファンド、高利金融、そして、人材派遣など非生産部門だ。だから、庶民には全く実感がない。
コムスンは、そうした矛盾の一端を人々の目にさらしたということである。
「宙に浮いた年金」問題の「1年以内の解決」は参院選対策のプロパガンダで、不可能である。
BDA問題よりも遥かに難しい技術的問題があることに加え、政府はひた隠しているが、一説に5000万件の浮いた年金手当て分だけで20兆円ともされる財源の問題がある。
払えないとは口が曲がっても言えないから、政府与党内にはぞろ「年金支給年齢を65歳から70歳に引き上げる」との主張が出始めた。何でもありの安倍内閣であるから、参院選さえ何とかしのげば国民の理解を得られたと拡大解釈し、男性の平均寿命を超える80歳支給特例法案を強行採決することで事実上のチャラに、というシナリオも全くありえない話ではない。
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