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凶悪犯罪が続発し、被害者は厳罰を!と報復を叫び、治安悪化に怯える人々は喝采を送り、裁判所は厳罰を下し、他方で政府が罰則強化に動き、法相は「死刑の自動化」まで口にし始めた。
それでも犯罪は一向に減らず・・・悪循環に陥り、殺伐とした気分にさせられる昨今の世相だが、全く別の声が隣国から聞こえてきた。
日本ではほとんど無視された犯罪世界死刑廃止デーの10日、市民団体の死刑廃止国宣布式準備委員会がソウルのプレスセンターで、東北アジアで最初の死刑廃止国宣言式を行った。
死刑囚の運命が分かれたのは1997年12月30日、保守系の金泳三政権時代に、23人が不運にも?刑場の露と消えた。その後、民主化運動の流れを受け継ぐ野党の金大中政権が誕生して、死刑は中断、人権派弁護士として民主化運動の一翼を担った盧武鉉大統領も金政権の政策を継承した。
国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは過去10年間、死刑執行をしなかった国を「事実上の死刑廃止国家」と分類しているが、今年12月29日に韓国はその仲間入りをする。その前日、改めてソウル市庁前広場で死刑廃止国宣布祝賀行事が開かれる予定だ。
宣言式では、金前大統領が「私も80年に死刑を宣告された。我々の人権運動史上、今日は最も意味のある日だ。人権先進国の仲間入りを果たした」と演説した。金前大統領は1980年の光州民主化運動を裏で操ったとして軍事政権に死刑を宣告されたが、国際的圧力で執行は停止された。
採択された宣言文は、「死刑制度は生命権を国家が侵害する反人権的な刑罰であり、刑罰が持つ教化機能を全面的に否定する。犯罪発生に対する社会の責任を犯罪者に転嫁する卑劣な行為」と訴えたが、日本社会にはどう響くのだろうか。
宣言式には韓国の人権運動家や宗教家ら約300人とともに、日本からも死刑廃止論者らが参加した。その一人、安田好弘弁護士は記者会見で「日本は死刑大国になろうとしている。韓国での死刑廃止実現は大きな希望だ」と語った。
安田弁護士は日本社会では孤立気味。山口県光市の母子殺害事件の被告弁護団長として、まず死刑ありきに反対し、真相究明の立場から弁論を張り、世間からつるし上げられている。タレントの橋下徹弁護士がテレビ番組で懲戒請求を呼びかけると、日本弁護士連合会に懲戒請求が殺到した。
東北アジアで最も早く民主主義が定着した国としては遺憾なことだが、今の日本では、犯罪者の人権を省みる余裕は失われつつある。
何しろ現職の鳩山邦夫法相が「法務大臣が署名をしなくても死刑執行できる方法を考えるべきだ。ベルトコンベヤーって言っちゃいけないが、乱数表か分からないが、客観性のある何かで事柄が自動的に進んでいけば、次は誰かという議論にはならない」と、まるで死刑囚を屠殺場の牛か馬かのようにみなす暴言を口にする。
「人の尊厳」への自覚が皆無だ。人間を乱暴に囚人と非囚人に分類し効率的に処理しようとするのは、ユダヤ人をベルトコンベヤーに乗せるように大量虐殺したナチス、捕虜に人体実験をした悪魔の関東軍731部隊に通じる発想だ。
亀井静香代議士が「人間の資格が無い」と批判したのは当然だが、本人はこれと言った陳謝も無く、法相を平然と続けている。
悲しいことだが、人間としての連帯感、絆が欠けている。世襲の坊ちゃん政治家によくある世間知らず苦労知らずなため、発想が貧困で、人間を単純化して考えるのだろうか。
人の命を奪うのは許しがたい大罪だが、好きで悪人になる者はいまい。成長の過程で本人にはどうしようもない親子・友人などの人間関係、経済苦などで悪魔に魂を売ってしまうケースが多い。
犯罪の社会的原因まで踏み込まないと、犯罪はなくならないし、罪人も更正しない。厳罰で脅せば済むといったものではない。
同じグローバリーゼーションの波に洗われながら、韓国は人権・個性尊重のリベラリズムで乗り切ろうとし、日本は国家意識を強調する保守化の方向に切って交わそうとする。
その違いが、死刑廃止問題に微妙に影を投げている。韓国は国連人権理事会の理事国として、第62回国連総会で死刑執行モラトリアムを求める決議案に賛成し、国内法整備を世界に訴えた。
とは言え、韓国も正式に法律で死刑廃止を決めたわけではない。「死刑制度廃止に向けた特別法」が国会議員175人の署名・発議で国会に提出されているが、採決はまだだ。
伝統的に、韓国人は日本人以上に国家意識が旺盛で、報復主義的である。進歩主義の金大中ー盧武鉉政権はそうした国民気質を変えようと努力してきたが、保守系の野党候補が大統領選挙で勝利すれば、再び死刑が執行される可能性がある。
国籍や民族を問わない保守層独特の性向も、無視できない。富裕層が多い彼らは、富の偏在が犯罪の温床となることを認めたがらない。犯罪者は既得権益や秩序を脅かす憎むべき敵であり、「ベルトコンベヤー」で処分すべきモノでしかなくなる。
日本で生活重視の民主党が政権をとれば、韓国とは逆に、死刑廃止へと向かうのではないか。
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