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「飲んでるかい?」
「飲んでるわ、白ワインをね」
女は、安心して不機嫌さをあらわにし、さらに声をひそめて毒づいた。
「シャンパンの出ない披露宴なんて、泡の出ないシャンパンみたいなものね。今時、まが抜けているわよ」
「まあ、二人とも再婚だから、はしゃぎすぎをいましめてるんじゃないの」
男はそうとりなし、手にしていたビールのグラスをほしてから、さらりといった。
「帰り、久しぶりに少しシャンパンを飲まないか」
やがて披露宴が終わり、二人は同じホテルの地下にあるこのバーにやってきた。
「シャンパンにするだろ?」
男は当然のようにいった。
「なんだか、今の気分にシャンパンは眩しすぎるわ」
神経が尖っていた女は、ただ男の言葉に逆らってみたいだけだった。それを察してかどうか、「じゃ、ぼくにまかせて」と彼が注文したのが、このシャンパンと黒ビールのカクテルだった。
「なんだか、独身でいることが悪いことみたい」
女の二杯目のブラック・ベルベットも、残り少なくなっている。
「そうじゃないさ。みんな、君のことが気になってきくんだよ。そういわれたからって、君は傷ついたわけじゃないだろ?」
「もちろんよ。今の生活が気に入っているし、結婚したいって、切実に思ったことなんか一度もないんですもの」
それなのに、なぜあんなに神経がいら立ったのか。出口のない今の恋に、少し疲れているのかしら。
女はゆっくりと、柔らかいベルベットの酒を空にした。
「君がそのつもりになれば、明日にでも結婚できる女だってわかってるから、みんな平気できくんだよ」
男も酒のグラスを空にした。
「ところで、あなたはなぜ結婚しないの?」
「なぜって……」
「あなたなら、いくらでもお嫁さんのきてがあるでしょうに」
女はお世辞でなく言った。
「そういえばわたしにも、あなたは一度もプロポーズしなかったわね。別れる時も、あっさりすぎるくらいあっさりしてたし」
「あっさりなんかしてなかったさ。ただ、さっきのシャンパンのせりふじゃないけど、当時の君は眩しすぎたんだよ。ふられても仕方ないって、あきらめがついたのさ」
女は、いつものへらず口が返せなかった。
二人の前へ、新しいブラック・ベルベットが置かれた。男も女も、無言で三杯目のグラスを持ち上げる。
「ぼくが結婚しないのは……」
男はいったん言葉を切り、グラスの酒半分ほどを一気にのどに流しこんでから、前を向いたままぽつりと言った。
「君が、まだ独身でいるからさ」
その男の言葉が、優しいブラック・ベルベットと一緒になって、女の胸にしっとりとしみこんでいく。
byオキ・シロー
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素敵ですね。。
そんなふうに言われてみたいです。。
もう結婚しちゃってますが。
2010/4/11(日) 午後 11:07
lightsonemasterさん、はじめまして♪
あしあとから、きました。
短編小説早く次が読みたいと思いました。
お気に入りブログに登録させて頂きました。
楽しみにしています♪ by 一夢
2010/5/22(土) 午後 9:20 [ karasa ]